ナタリー PowerPush - nano.RIPE

きみコが明かす作詞への思い

高校時代からバンド活動をしていたきみコ(Vo, G)とササキジュン(G)を中心に、2004年から本格的に活動を始めたスリーピースバンドnano.RIPE。2010年のメジャーデビュー以前から年間100本に及ぶライブをこなし、きみコの存在感ある歌声と凄味さえ感じさせるバンドのパフォーマンスは一度観たら頭から離れないパワーを放つ。

ナタリー初登場の今回は、発売中の最新アルバム「プラスとマイナスのしくみ」と10月31日リリースのシングル「もしもの話」の制作秘話をきみコに直撃。インタビュー後半で、彼女が心の深部をさらけ出すように語ってくれた歌詞への思いにも注目してほしい。

取材・文 / 川倉由起子

三歩進んで三歩下がっても戻ってはいない

──約1年ぶりの2ndアルバム「プラスとマイナスのしくみ」は、いつ頃制作された曲が入ってるんですか?

1stアルバム(「星の夜の脈の音の」)はインディーズ時代の集大成というか、メジャー前のベストアルバム的な1枚だったんですけど、今回はその後に作った新曲が結構入ってますね。でもnano.RIPEは元々曲作りがすごく好きで、常にライブの合間とかに書き続けているので、たくさんあるストックの中から出した曲もあります。

──ストックから出すときに、セレクトの基準となるコンセプトは設けましたか?

簡単に言ってしまうと、純粋にいい曲を厳選しました。ぼくらは毎回そうなんですけど、特にコンセプトやテーマを掲げて曲を作ることはしないんです。というのも、nano.RIPEはずっと同じ1つのテーマをいろんな角度から見て歌ってるだけなので、「アルバムごとに違うテーマに……」ということにはならないんですよね。

──では、その“同じ1つのテーマ”とは一体なんでしょう?

それを特に歌いたくて書いたのがリード曲「ナンバーゼロ」なんです。まずササキジュンが曲を持ってきたときに1行目の歌詞がパッと頭に浮かんで。

──「3回転じゃ足りなくて4回転目に入る夜」の部分ですね。

はい。最初のメロディがすごく印象的で、そこから自然と降りてきたこの歌詞を元に全体を作り上げていきました。でも本当はこの1行が出てきたとき、自分でも意味がわからなかったんです(笑)。書いたのは自分なのに、なんの話だろう?って(笑)。でも、それしかハマらないってくらいメロディにうまくハマったので、そのまま書き続けました。

──ちなみに私は“3回失敗しても4回目にチャレンジする”という意味に捉えたんですけど……。

ええ、そういうプラス思考な解釈もあると思います。あとは“三日三晩悩む”って言葉があると思うんですけど、あたしはそんなふうに何度考えても答えが出ないってことが結構あって。だから、そうやって頭の中をぐるぐるしてるっていうイメージで捉えてもらってもいいのかなって。

──なるほど。で、そこから“nano.RIPEが一番伝えたかったこと”にはどうつながっていくのでしょうか?

ぼくらの曲って割と「がんばれ」とか「大丈夫」みたいな言葉をストレートに使ってるものはなくて。それはあたし自身もそういう曲が聴けるときと聴けないときが気分次第であるから、今の自分にはまだ歌えないと思ってるからなんですけど……。

──そうなんですね。

はい。でも、そうやって悩んだりもがいたりしてる中でも、ほんの少しでも希望が見えるような、自然と前を向いて「もう少しがんばってみよう」って思えるようなものを書きたいと思ってて。それに、「三歩進んで二歩下がる」ってよく言いますけど、あたしは三歩進んで三歩下がっちゃってもいいのかなと思うんです。それって結局は0ですけど、進もうとしなかった0と、1回行って戻ってきた0はまた違うのかなって。もし道が違ったと思って引き返しても、そこで得るものは必ずあるだろうし、戻ってはいないというか。そのあたりをうまく言葉にしていきたいと思ってるんです。

読む本がなくなると辞書を読む

──今ふと思ったんですけど、それって今作のタイトル「プラスとマイナスのしくみ」にもリンクしますよね。

そうなんです。タイトルはアルバムの完成後に付けたんですが、今回の収録曲では「ナンバーゼロ」が最後にできて、それをそのままタイトルにしようっていう話も出てたんですよ。でも、それだとこの曲だけが強くなりすぎちゃう気がしたので「ゼロ」にまつわる言葉をいろいろ探して。そこから「プラス」と「マイナス」が出てきて、進んでも戻ってもどこにいても、自分が自分であればいいっていう思いを込めてこれをタイトルにしたんです。

──アルバムのキャッチフレーズも「ぼくはぼくだ。紛れもなく、揺るぎもなく。」ですね。

はい。「ナンバーゼロ」はもちろんですが、アルバム全体にもそれは通じるのかなと思ったので。あたしがずっと歌ってきてるのは結局そういうことなのかなって。

──そのこれまで歌ってきたテーマは、歌詞を書き始めた頃から自覚していたことなんですか?

いや、全然してなかったです。でも例えば5~6年前に書いた曲を今聴いたり歌っても、違和感が全然ないってことに最近気が付いて。だから結局ずっと言いたいことは変わってないんです(笑)。

──では、そういう芯は変わらないとして、表現の言い回しやアプローチに変化はあったと思います?

多少は「これ、新しいな」っていうものもあると思いますね。具体的に挙げるとなると難しいんですけど……。ちなみに言葉に関していうと、あたし、普段から辞書がすごく好きで。本も普通に好きなんですけど、読むものがなくなると辞書を読み始めるんです(笑)。

──えっ、なぜ辞書を?(笑)

読む度に、まだまだ知らない言葉がこんなにあるんだなって思って。難しい言葉を使うのがあまり好きではないんですが、簡単だけどすごく深い言葉をまだまだ知って、歌詞に活かしていきたいって気持ちもあるんですよね。出先のときは携帯の辞書で調べたりもしますけど、辞書はあの重みや紙の触り心地も好き。なんとなく辞書をパッと開いて新しい言葉に出会うっていうのも、携帯辞書ではできないことですから。

「サクゴエ」はバンド初のツービート

──アルバムの他の楽曲にも目を向けると、私はラストナンバーの「架空線」が印象的でした。これも美しい言葉で紡がれた1曲ですね。

実は最初、「ナンバーゼロ」ではなくミディアムバラードの「架空線」をアルバムの中心にしようという話もあったんです。でもやっぱりこのアルバムで初めてnano.RIPEを知る人もいるだろうし、そういう人に対してはこれだと少し方向性が違うのかなって。nano.RIPEはやっぱりロックバンドだし、ライブバンドなので、そこを全面的に押し出したいなら「ナンバーゼロ」だなということになったんです。

──「架空線」という言葉は何を指しているのでしょう?

これは辞書を引くと「電線」という意味なんです。以前、たまたま工事現場で「架空線注意」という看板を見て、すごくきれいな言葉だなと思って頭に残っていて。いつかそれをモチーフにした歌を書きたいと思っていましたね。

──普段から気になった言葉を書き留めておいたり、頭に残しているんですね。

はい。極力はそうしたいと思ってます。

──ところで、今作はサウンド面でも新たな試みが多いと聞きました。

挑戦はいろいろしてますね。例えば「サクゴエ」は初のツービートなんですけど、メンバーの間でツービートの話が出たこともないくらいnano.RIPEにはない要素だと今まで思ってたんです(笑)。でも、シングル「リアルワールド」を作ったときに、これはnano.RIPEではあり得えないだろうって思ったものが予想以上に好評で。イントロがパッパッパラー♪で始まるんですけど、それがリスナーにもすんなり受け入れてもらえたことがきっかけになって、自分たちの枠をここからここまでって勝手に決めるのがもったいないと考えるようになったんです。

──ちなみに「サクゴエ」もササキさんの楽曲ですよね。

はい。彼がこの曲を持ってきたときは、デモからツービートの打ち込みが入ってて。最初は「サビはやっぱりエイトビートがいいんじゃない?」とか言ってたんですけど、とりあえず1回ツービートでやってみようってことで合わせたら「あれ? いいんじゃない?」って(笑)。

──そんなニューアルバムの手応えはいかがですか?

最初は「1stを超えなければ……」って、少しプレッシャーも感じてたんです。でもその後の1年で経験したことが本当に濃かったし、新たな挑戦もあったし。1stを超えるとかではなく、全く別モノを作ればいいんだって徐々に思えてきて。それを今回のアルバムに詰め込めば、1stに負けないものが作れるんじゃないかと思ったんです。出来上がりを聴いてもすごく自信のあるものになったし、「この1年間のnano.RIPEが全部詰まってます!」って自信を持って言える1枚になりましたね。

ニューアルバム「プラスとマイナスのしくみ」 / 2012年10月3日発売 / Lantis
ニューアルバム「プラスとマイナスのしくみ」初回限定盤 [CD+DVD] 3500円 / LACA-35237
ニューアルバム「プラスとマイナスのしくみ」通常盤 [CD] 3000円 / LACA-15237
CD収録曲
  1. うつくしい世界
  2. ぼくなりのおとぎ話
  3. 絵空事
  4. アドバルーン
  5. アンサーソング
  6. ナンバーゼロ
  7. よすが
  8. ゆきのせい
  9. ページの中で
  10. リアルワールド
  11. サクゴエ
  12. かえりみち
  13. グッバイ
  14. 架空線
DVD収録内容
  1. ナンバーゼロ (music video)
  2. Making of “ナンバーゼロ”
  3. アドバルーン(nano.RIPE TOUR 2012“ループホールの向こう側” Live at SHINJUKU BLAZE)
  4. 月影とブランコ(nano.RIPE TOUR 2012“ループホールの向こう側” Live at SHINJUKU BLAZE)
  5. 15秒(nano.RIPE TOUR 2012 “ループホールの向こう側” Live at SHINJUKU BLAZE)
  6. バーチャルボーイ (nano.RIPE TOUR 2012 “ループホールの向こう側”Live at SHINJUKU BLAZE)
  7. 面影ワープ(nano.RIPE TOUR 2012“ループホールの向こう側” Live at SHINJUKU BLAZE)
nano.RIPE 「もしもの話」short ver.
nano.RIPE(なのらいぷ)

nano.RIPE

きみコ(Vo, G)、ササキジュン(G)、アベノブユキ(B)によるスリーピースバンド。2004年にきみコとササキジュンを中心に結成された。自主制作で2枚のシングルとアルバムをそれぞれ発表。2008年にはアルバム「空飛ぶクツ」をインディーズからリリースした。2010年7月にアニメ「花咲くいろは」のイメージソングとなった「パトリシア」を表題曲として収録したシングルでメジャーデビュー。翌2011年には、「パトリシア」を含む5枚のシングル曲を収録したメジャー1stアルバム「星の夜の脈の音の」を発売。2012年10月に2ndアルバム「プラスとマイナスのしくみ」、アニメ「バクマン。」のために書き下ろした「もしもの話」を含むニューシングルを発表。12月からは5都市6公演を回るツアーをスタートさせる。