「こんなに笑っているナノは初めて見た」
堀江 今回の曲は、ナノさんと僕とWEST GROUNDさんが6年間の「おひさしぶりです」を持ってきて作ったものなので……やっぱりその次の作品を作ってみたいんですよね。
ナノ やー、めちゃくちゃうれしい。
堀江 その先のもの、新しいものを作っていくとまた見えてくる部分があると思うので。
ナノ 確かに今回は「おひさしぶり」と今の手持ちの札を出し合った感じだったけど、ゼロから出し合えば、それぞれ今の一番いいカードでプレイできると思う。
堀江 うんうん。今回はおのおの「間違いない札」を出した感じで、それはそれで満足度の高いものになったけど、まだお互い出していないカードがあると思うので「これとこれの組み合わせもありなんじゃない?」という進め方ができる。
──あえて噛み合わなさそうなものをぶつけてみたり。
堀江 それも面白いでしょうね。
ナノ また一緒に堀江さんと曲を作れるのがうれしくて、今回はその思いだけでレコーディング中もずっとニヤニヤしてたし(笑)、ひさしぶりにWEST GROUND以外の人に向けて歌っている感覚があって。自分はいつも「クリエイターさんが納得するものを」と意識しながら歌ったり歌詞を考えたりするんですけど、WEST GROUNDとのやりとりはもう慣れているので、特に考え込むことはないんですよ。今回はひさびさに新鮮なワクワク感があって、ミュージックビデオ撮影のとき、スタッフにも「こんなに笑っているナノは初めて見た」って言われました(笑)。
──「この世界を変えて幸せになろうよ」という歌詞もいつにない感じで。
ナノ とことんキラキラに行っちゃおうと思って(笑)。今まで自分はわりとダークな世界観を重視して書いてきましたけど、ぶっちゃけると自分、どポジティブな人間なんですよ(笑)。素の自分が出た曲でもあるし、元気がもらえる曲だから、こういう自分も世に出していきたいなって。
──さらにポジティブに振り切った曲を堀江さんが作っても面白いかもしれないし、逆にとことんダークな曲を2人で作るとどうなるのかも興味があります。
ナノ 堀江くんのゴリゴリダークは聴いたことない。
堀江 そういう発注が来ないから……やってみたい気持ちはあります。
ナノ エモいやつとかね。いろいろ可能性はあると思います。
“ステージに立つ作家”ならではの新しい曲作りの観点
ナノ 堀江さんは今、PENGUIN RESEARCHとしてバンドでも活動されていますよね。クリエイターとしての自分とバンドマンとしての自分、その違いはありますか? やっぱり気持ちを切り替えないといけないのかなあとか。
堀江 バンドを始めた当初はそう思ってたんですけど、大きなくくりでは意外と一緒で。どういうことかと言うと、例えば今回だとナノさんという人に似合った服を作るように、ナノさんと「CONCEPTION」という作品に合う楽曲を作る。それはバンドも一緒で、PENGUIN RESEARCHというアーティスト、生田鷹司(Vo)というシンガーの生き様や人間性に合う服を着せようという感覚なんです。自分の曲を書いていると言うより、自分もそこに含まれてはいるけどあくまで「PENGUIN RESEARCHにふさわしいタイアップソング」を作っているような感じで。結局は違和感もないし、どっちもやってるほうが性に合ってるなと思います。アーティスト願望はもともとなくて、職人になりたいとずっと思ってるんですけど、PENGUIN RESEARCHは自分の内にあるものも含め「PENGUIN RESEARCHの曲」を作っているんだなと。
ナノ クリエイター気質ですよね。
堀江 うん。やっぱりそれが一番居心地がよくて。ライブではステージに立っているけど、ふとした瞬間に「なんで今俺はここにいるんだろう」って思うんですよ(笑)。バンド活動はバンド活動で面白いけど、自分はやっぱりもの作りの人なんだなって思いますね。
ナノ でもバンドをやることによって堀江さんの活動の幅も広がって、関われるお仕事も増えますよね。いちファンとして、堀江さんの作品に触れる機会が増えるのはうれしいですね。
堀江 確かに、バンド活動をしていなかったら知らなかったこともたくさんあって。それに、ステージで感じる熱気がどんなものなのかは、観客の立場からはわからないから、ステージに立って初めて「あ、人はこんなふうに曲を受け止めるんだ」という実感を味わえたり。
ナノ そう! ホントに。それはステージに立ってみないと気付かなかったところですね。曲の印象って、レコーディングをしたときとライブで歌ったときですごく変わるんですよ。「この曲ってこんなに盛り上がるの!?」と驚く曲もあれば、「この曲はライブ向きだな」と思って作った曲が、歌ってみたらそんなに気持ちよくなかったり。歌ってみてからセットリストをごっそり変えることもある。ライブで歌ってみないと曲への思いが自分でも理解できないところが正直ありますね。お客さんがいて成立するものだと思うんですよ、音楽って。
堀江 うん。「この曲ってそんなによかったの!?」って(笑)、ライブでやってみて初めて曲の本質を理解するというのはあります。
──ことロックを作る作家さんにとっては、その経験の違いは大きいかもしれませんね。
堀江 作家をやってるだけでは持ち得なかった曲作りのインプットができていると思います。明らかに1要素増えていて、「これがステージでどう響くか、どうメッセージとして伝わるか」まで考えて書けるようになった。出会える人が増えるのも大きいですね。作曲家だと発注してくれるディレクターと、レコーディング現場のエンジニアやミュージシャンぐらいしか触れ合う機会はなくて。バンドをやることは、作家としてもメリットは多いですね。バンドをやってなかったら「この場面ではこの業種の人がこんな苦労をしているのか」と気付けなかったこともあって。昔は理不尽だと思っていたことも、理由を知れば納得できることはすごく多い。
ナノ 願望としては、堀江さんとは曲作りだけじゃなく、ステージでも一緒にできないかなって……。
堀江 そうそう、やりたいんですよね。
ナノ 自分はあまりステージで誰かとタッグを組むことがないから、できることなら一緒に「Star light, Star bright」や「No pain, No game」を演奏してみたいです。
- ナノ「Star light, Star bright」
- 2018年11月21日発売 / FlyingDog
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ナノ盤 [CD]
1404円 / VTCL-35291 -
アニメ盤 [CD]
1404円 / VTCL-35292
- ナノ盤 収録曲
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- Star light, Star bright[作詞:ナノ / 作・編曲:WEST GROUND、堀江晶太]
- Blue Jay[作詞・作曲:ナノ / 編曲:中西航介、WEST GROUND]
- Star light, Star bright Instrumental ver.
- Blue Jay Instrumental ver.
- アニメ盤 収録曲
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- Star light, Star bright
- Artificial Hero[作詞:ナノ / 作・編曲:WEST GROUND]
- Star light, Star bright Instrumental ver.
- Artificial Hero Instrumental ver.
- ナノ
- アメリカ・ニューヨーク州出身、7月12日生まれ。卓越した歌唱力を持ち、日本語と英語を使い分けるバイリンガルシンガー。2010年よりYouTubeやニコニコ動画などの動画サイトに、洋楽やVOCALOIDのカバー楽曲の投稿を始め、国内外問わず多くの音楽、アニメユーザーの支持を集める。2012年3月にアルバム「nanoir」でデビューを果たし、1年後の2013年3月には東京・新木場STUDIO COUSTで初のワンマンライブ「Remember your color.」を大成功のうちに収めた。同年5月にはドイツ・デュッセルドルフで行われたジャパニーズカルチャーコンベンション「DoKomi」に招待され、初の海外公演を体験。以降は海外でのライブも積極的に行っている。デビュー5周年を迎えた2017年は2枚のシングルと1枚のオリジナルアルバムのリリース、全国ツアー、初のサイン会など精力的に活動した。2018年5月にはアニバーサリーイヤーの締めくくりとなるオーケストラとのコラボレーションコンサート「ナノ 5th Anniversary Concert ~Symphony of Stars~」を東京・東京芸術劇場コンサートホールで開催。また4月に東京・シアター1010で上演された舞台「大正浪漫探偵譚-六つのマリア像-」では主題歌を担当した。8月にはテレビアニメ「かくりよの宿飯」のオープニングテーマとなった「ウツシヨノユメ」、11月にはテレビアニメ「CONCEPTION」のオープニングテーマ「Star light, Star bright」と立て続けにシングルをリリース。
- 堀江晶太(ホリエショウタ)
- 5月31日生まれ、岐阜県出身。10代の頃より作編曲家として活動し、上京後に音楽制作会社に入社する。2011年にボカロP・kemuとして、イラストレーターのハツ子、動画クリエイターのke-sanβ、アドバイザーのスズムからなるKEMU VOXXを結成し、動画共有サイトに楽曲を投稿。いずれも大きな反響を呼ぶ。2013年に独立して以降は、LiSA、ベイビーレイズJAPAN、茅原実里、田所あずさらに楽曲を提供。アレンジャー、コンポーザーとしての地位を確立させる。PENGUIN RESEARCHのベーシストとして、2016年1月にシングル「ジョーカーに宜しく」でメジャーデビューし、バンドマンとしても精力的に活動中。PENGUIN RESEARCHは2018年9月にシングル「WILD BLUE / 少年の僕へ」を発表した。