ナノ「Star light, Star bright」特集|ナノ×堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)|偶然の再会から生まれた新たなキラーチューン

ナノのニューシングル「Star light, Star bright」が11月21日にリリースされた。表題曲は現在放送中のテレビアニメ「CONCEPTION」のオープニングテーマで、作編曲ではナノのプロデューサーであるWEST GROUNDと堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)がタッグを組んだ。堀江は2012年12月にリリースされたナノの代表曲の1つ「No pain, No game」の作編曲を「塚本けむ」名義で手がけており、今回のシングルはおよそ6年ぶりのナノとのコラボレーションとなる。

ニコニコ動画への投稿で注目を集めたという共通のバックボーンを持つ2人だが、実はレコーディングでも顔を合わせたことがなかったという。音楽ナタリーでは今作の発売に合わせて対談をセッティング。お互いシャイな性格ながら、音楽を介して通じ合っていた2人は初対面で瞬時に打ち解け、6年間の空白を埋める対話が始まった。

取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 堀内彩香

「No pain, No game」から6年

──お二人は今回が2度目のコラボですけど、お会いするのは今日が初めてだとか。

ナノ そうなんです。6年の時を経てようやく。

堀江晶太(PENGUIN RESEARCH) 直接は1回も話してなかったもんね。

ナノ WEST GROUND(ナノのプロデューサー)がレコーディングにあまり人を呼ばないタイプなので。一緒に曲を作っている人と交わらないんです。

──2012年12月に発表された堀江さんとの初コラボ楽曲「No pain, No game」は、のちにナノさんを代表する1曲になりました。

ナノ 「No pain, No game」は初めて表に出られた曲と言うか、ナノという名前を世間に出してくれた曲なので、自分の中では完全にターニングポイントになっているんです。最初は「これは人間が歌える曲なのか?」と思いましたけど(笑)、一発で惚れちゃったんですよ。シングルとしていくつか候補がある中でも特にハードルの高い曲でしたけど、自分はもう「これがいい!」って押して押して。

左からナノ、堀江晶太。

──堀江さん自身もナノさんの歌唱力を踏まえて難度の高い曲を書こうと考えていたのでしょうか?

堀江 いやいや、当時は僕まだ20歳ぐらいですから、何もわかってなかったんですよ。今聴くと「あの曲、どこでブレス入れるんだろう」って。

ナノ 入れられないです(笑)。いつも窒息死しかけてます。

堀江 考えてなかったんですよ。人間は歌うとき息継ぎをするんですけど、僕にはその概念がなかったので、思い付いた中で一番いいメロディをつないで出しただけで。

──ナノさんがそのハードルを乗り越えたことで、すごくキャッチーな楽曲が完成しました。

ナノ

ナノ 本当にキャッチーだし、今も海外で歌うと一番盛り上がる、オンリーワンな曲です。確かに難しかったけど、ここでアーティストとしての色が決まったと思っていて。この曲に影響されて、WEST GROUNDはBPMが200を超える曲を書くようになって(笑)。「No pain, No game」はJ-POP、アニメソングにはなかなかない曲だったし、目立ったと思うんですよね。YouTubeのミュージックビデオの再生数が一気に伸びて、そこで初めて「自分はメジャーデビューしたんだな」と実感できました。

堀江 僕にとってはあの曲が初めてのアニメソングだったんですよ。アニソン的なルールもわかってなかったし、それがよかったというふしもある。WEST GROUNDさんからもアニソンだからどういう曲にしたいという発注もなくて……まあルールとしてワンコーラスは1分半というのは教えてもらいましたけど、あとは自由。「ナノに合うような感じで、堀江くんのいつも通りのロックで」という。

成果物だけを見てほしい

──当時、いろんなシンガーがいる中で、ナノさんという人を堀江さんはどう捉えていましたか?

堀江晶太

堀江 あの頃ニコニコ動画にいた歌い手さん、シンガーの中でもとりわけ実力が前に出ている人だなと思っていました。エンタメを重視している人、キャラクターを前面に出した人などいろんな個性がある中で、圧倒的に実力や音楽性にフォーカスを当てた人。本当に圧倒的だった。それは僕ら作り手側の共通認識だったと思います。

──シンガーとサウンドクリエイター、それぞれジャンルは違えど、同じニコ動シーンにいた人同士のシンパシーというのはあるのでしょうか?

ナノ 当時は顔出しをしていない人も多かったけど、中でも堀江くんは存在感がミステリアスで。自分もイメージを植え付けたくなかったから一切表には出なかったし、歌だけで勝負したかったから、そういう意味ではシンパシーを感じていたのかも。さっき堀江くんが言った、エンタメを重視したりキャラを前面に出したりする人じゃなく、やりたい音楽をやってる人だなって。

──考えてみると少し特殊なジャンルですよね。個を打ち消したところで表現する文化というのは、それまでのアーティストの在り方とは異なっているように思います。

堀江 そうですね。成果物だけを見てほしいみたいな。そんな感じだから、友達がいないんですよ。

ナノ いないいない(笑)。ゼロ。ホントに!

堀江 動画を投稿していた頃は横のつながりはまったくゼロで。近いシーンの人に会ってみても、相手から出てくるワードがわからない。同じ場所にいるはずなのに。今になって当時同じ場所にいた人たちと会うことはあるけど、ニコニコとは違うところでリンクしているので、「あのときのあの人かー」というのばっかりですね。

ナノ みんな横のつながりで絵やミックスをお願いしたりするんだけど、自分はつながりがゼロだから1人でコツコツやってました。ずっと「ショボい動画しか作れないなあ」と思いながらやっていて。オフ会みたいな集まりも苦手で行かなかったし、「このシーンに向いているのかわからないけど、とにかく歌いたい」という気持ちで続けていたら、運よくWEST GROUNDにピックアップされたんです。だからあまり苦しまずに早めにそこから抜け出せたのはよかった(笑)。

「No pain, No game」制作の裏側

──「No pain, No game」のときはそもそも何がきっかけで、WEST GROUNDさんから堀江さんにオファーがあったんですか?

堀江 突然、人づてに連絡が来たんです。それで会いに行ったら、めちゃめちゃイケイケな人がいて。それがWEST GROUNDさんの第一印象です。

ナノ (笑)。初対面だと不安になるオーラだよね。

左からナノ、堀江晶太。

堀江 それで「ナノの楽曲をお願いしたい」と言われたんだけど、イケイケな雰囲気に飲まれてすぐに「ああ、わかりました」って。もちろんナノさんのことは知っていたけど、そこから改めてそれまでの曲を全部チェックして……ハーフなわけではないんだよね?

ナノ はい。アメリカで生まれ育って、日本に来てから音楽活動を始めたんです。

堀江 そうか。歌っているのは日本語なんだけど、明らかに洋楽的なリズムを持った人だなという印象があったんです。1音の中で子音と母音をうまく分解していると言うか。発音したあとのリリースまで気にして歌っている人だなと思ったんです。そういう人にはリズムが立っている曲が合うんですよ。なのでまずは「パーカッシブな発音が似合う曲にしよう」と考えました。曲先で歌詞は僕ではなかったので、具体的にどういう言葉を当てはめるのか指定したわけじゃないけど「察してくれー」って。メロディに隙間を作っておいて、うまくハマればカッコよくなるという前提でデモを作りました。

──「No pain, No game」の作詞はナノさんご自身ですけど、直接お話ししていなかったということは、そのへんの意図に関する説明は……。

ナノ なかったです。作詞は曲によってかかる時間も違うけど、「No pain, No game」は当時としては異例の速さで歌詞が仕上がったんですよ。自分はあまり計算して作詞できるタイプではなくて、メロディを聴きながら言葉をはめていくような感じで、歌っていて気持ちいい言葉を直感で選んでいくんです。「No pain, No game」は気持ちいいメロディに合わせてどんどん言葉が浮かんできて、どちらかと言えば歌詞の内容よりはフィーリングで組み立てていきました。

堀江 歌詞ができて歌が上がってきたとき、めちゃくちゃうれしかったのを覚えてますね。音符で表現されていない部分、メロディとメロディの隙間にちゃんとニュアンスが入っていて、そこが完璧にハマっていたので。

ナノ ああ、よかったです。

堀江 リズムの悪い歌詞がはまっていたら、きっとまったく別の印象になっていたと思うんですよ。一度も会っていなかったし、直接打ち合わせはしなかったけど、大事な部分がリンクできていてよかったなと思います。

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偶然の邂逅

ナノ「Star light, Star bright」
2018年11月21日発売 / FlyingDog
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ナノ盤 収録曲
  1. Star light, Star bright[作詞:ナノ / 作・編曲:WEST GROUND、堀江晶太]
  2. Blue Jay[作詞・作曲:ナノ / 編曲:中西航介、WEST GROUND]
  3. Star light, Star bright Instrumental ver.
  4. Blue Jay Instrumental ver.
アニメ盤 収録曲
  1. Star light, Star bright
  2. Artificial Hero[作詞:ナノ / 作・編曲:WEST GROUND]
  3. Star light, Star bright Instrumental ver.
  4. Artificial Hero Instrumental ver.
ナノ
ナノ
アメリカ・ニューヨーク州出身、7月12日生まれ。卓越した歌唱力を持ち、日本語と英語を使い分けるバイリンガルシンガー。2010年よりYouTubeやニコニコ動画などの動画サイトに、洋楽やVOCALOIDのカバー楽曲の投稿を始め、国内外問わず多くの音楽、アニメユーザーの支持を集める。2012年3月にアルバム「nanoir」でデビューを果たし、1年後の2013年3月には東京・新木場STUDIO COUSTで初のワンマンライブ「Remember your color.」を大成功のうちに収めた。同年5月にはドイツ・デュッセルドルフで行われたジャパニーズカルチャーコンベンション「DoKomi」に招待され、初の海外公演を体験。以降は海外でのライブも積極的に行っている。デビュー5周年を迎えた2017年は2枚のシングルと1枚のオリジナルアルバムのリリース、全国ツアー、初のサイン会など精力的に活動した。2018年5月にはアニバーサリーイヤーの締めくくりとなるオーケストラとのコラボレーションコンサート「ナノ 5th Anniversary Concert ~Symphony of Stars~」を東京・東京芸術劇場コンサートホールで開催。また4月に東京・シアター1010で上演された舞台「大正浪漫探偵譚-六つのマリア像-」では主題歌を担当した。8月にはテレビアニメ「かくりよの宿飯」のオープニングテーマとなった「ウツシヨノユメ」、11月にはテレビアニメ「CONCEPTION」のオープニングテーマ「Star light, Star bright」と立て続けにシングルをリリース。
堀江晶太(ホリエショウタ)
5月31日生まれ、岐阜県出身。10代の頃より作編曲家として活動し、上京後に音楽制作会社に入社する。2011年にボカロP・kemuとして、イラストレーターのハツ子、動画クリエイターのke-sanβ、アドバイザーのスズムからなるKEMU VOXXを結成し、動画共有サイトに楽曲を投稿。いずれも大きな反響を呼ぶ。2013年に独立して以降は、LiSA、ベイビーレイズJAPAN、茅原実里、田所あずさらに楽曲を提供。アレンジャー、コンポーザーとしての地位を確立させる。PENGUIN RESEARCHのベーシストとして、2016年1月にシングル「ジョーカーに宜しく」でメジャーデビューし、バンドマンとしても精力的に活動中。PENGUIN RESEARCHは2018年9月にシングル「WILD BLUE / 少年の僕へ」を発表した。