音楽ナタリー Power Push - 南波志帆
3年の修行期間を経て見つけた“ときめき”ワールド
南波志帆がおよそ3年4カ月ぶりとなるオリジナルアルバム「meets sparkjoy」を完成させた。矢野博康のプロデュースのもと15歳でアーティストデビューを果たした彼女は、2012年末に発売された2ndフルアルバム「乙女失格。」まで一貫して矢野のもとで音楽を作り続けてきたが、今作ではタワーレコード内に自らのレーベルを立ち上げ、THE CHARM PARKをはじめとする若きサウンドクリエイターを中心とした作家陣と共にアルバムを制作。これまでの音楽性を継承しながらも、新たな南波志帆サウンドを作り上げた。
音楽ナタリーでは3月上旬、アルバムを完成させた直後の南波に話を聞いた。この特集では南波への単独インタビューに加え、アルバムへの楽曲提供者でもあり、南波とは公私ともに親交の深い吉澤嘉代子との対談もあわせて掲載している。
取材・文・撮影 / 臼杵成晃
アルバムを作るために必要な修行期間
──オリジナルアルバムとしては、2012年12月発売の前作「乙女失格。」以来ですね。その間もナンバタタンやxxx of WONDERといったユニットでのリリースもあったし、ソロでもライブ活動は止まることなく続いています。
はい。
──その一方で、NHKワンセグ放送「ワンセグ☆ふぁんみ」のMCや(参照:南波志帆&ヒャダイン、NHKワンセグ新番組でMCタッグ)、NHK-FMの帯番組「ミュージックライン」のDJなど(参照:南波志帆がNHK-FM夜の顔に!帯番組「ミュージックライン」DJに抜擢)、抜群のトーク力を買われての仕事も増えて。
まさかの未来ですよね(笑)。
──このままトークの才能が広く受け入れられて、場合によってはマルチタレントのような道を歩む可能性もあるなと思っていたんです。ご自身としては、この数年間はどんな思いがあったのでしょうか。
私はやっぱり歌手として始まったし、結果を残したいのもそこなので、ずっとリリースをしたいという思いはありました。でも、ありがたいことに違う方面にも需要があるということで、いろんなことをやらせていただいていますけど、すべては自分の音楽を聴いてほしくてやっていることなので。だから3年以上リリースができなかったことは、口には出しませんでしたけど、つらかったですね。
──その間もライブは頻繁にやっていたけれども、新曲が増えない、というもどかしさが。
ライブは生ものなので、既存の曲でも歌っているうちに自分の中で新しい発見があったりして、曲が育っていく過程を自分なりにゆっくり楽しめたところもあるんです。とは言え、お客さんに対しては申し訳ない気持ちがありましたよね。やっぱり好きなアーティストの新曲が聴けるのはうれしいですし。ただ、自分で言うのもなんですけど、この3年でパフォーマンス力や歌唱力は上がったと思うので、この時間も無駄じゃなかった。ある意味修行期間というか、このアルバムを作るために必要な準備期間だったのかなって……アルバムが出せる今だからこそ、ポジティブに振り返ることができるんですけどね。
矢野博康からの“親離れ”
──晴れてアルバムのリリースが決定したわけですが、自分でレーベルまで立ち上げるというのは予想外な展開でした。これはどういう経緯で?
「乙女失格。」の頃を振り返ると、あのときはどこか純粋に音楽を楽しめなくなっていたんです。厳しい世界なので結果をシビアに求められるのは当たり前ですけど、求められることに必死で応えようとしているうちに本質がわからなくなってきて。まだ10代だったこともあると思いますけど、自分の物差しもしっかりしてなくて、よくわからなくなっちゃってたんですよね。アルバムを作りたいけど、3年前と同じじゃつまらないし、今の私だからこそできる音楽の発信の仕方があるんじゃないかなって考えたときに、自分としっかり向き合いながら楽しく音楽を発信するには、自分でレーベルを立ち上げるのがいいんじゃないかと思いまして。
──なるほど。でも思い切った発想ですよね。
レーベルを立ち上げた人のお話を伺う機会もあって、それゆえの難しさがあるということもわかってたんですけど、私はすごく人に恵まれていて、協力してくださる皆さんが周りにたくさんいるので、今の私ならできるんじゃないかなって。
──新しい環境での一手となると、やはり過去との比較についても考えたんじゃないかと思いますが、デビュー時からプロデュースを手がけていた矢野博康さんの手を離れたことは1つ大きなトピックですね。
そうですね。これまでは「南波志帆=矢野博康」というところがあったと思うので。
──僕は矢野さんが作る音楽のファンでもあるので、正直なところ矢野さんから離れて大丈夫なのかな、という心配もあったんです。そこは南波さんにとっても大きな賭けだったんじゃないかなと思いますが、結論から言うと今回のアルバムは賭けに勝った作品だなという感想です。
ああ、うれしいです。よかったあ。
──トーレ・ヨハンソンや持田香織(Every Little Thing)さんといった際立った作家もいながら、THE CHARM PARKをはじめとする南波さんと同世代のアーティストが素晴らしいセンスを見せていることが大きな収穫なのかなと。この作家陣の人選はどのようにして決めていったんですか?
主なところはタワーレコードの行(達也)さんと、デビュー当時の作品でお世話になっていた谷口周平さんに入っていただきました。自分のレーベルだからこそ、自分の信頼している方々にお願いをして、そこでまずは「チーム南波」を作って決めました。矢野さんは私にイチから音楽を教えてくれた父のような存在なので、矢野さんから離れるというのは確かに大きな賭けだったんですけど……。
──本当に親離れのような感覚ですよね。
寂しさもあったんですけど、成長した私を矢野さんに見せつけたいという気持ちもあったので、今回は離れてみるという選択をしました。矢野さんが中心となって作ってくれたこれまでの作品にもシティポップ的な匂いがあったと思うんですけど、今また私たちの世代にもシティポップ的な流れが来ていて。自分が求めている音楽を作っている若いミュージシャンがたくさん出てきている今なら、同世代だからこそできる音楽があるんじゃないかなと思ったんです。
──今までの作品には、どこか「大人に囲まれて作り上げられた無垢な少女像」とでも言うべきものが根底にあったと思うんですね。音楽的な要素は地続きながら、今作はそこが大きく違っている点で。先日スタートしたライブシリーズ「sparkjoy hour」でも(参照:南波志帆レーベルライブでNegicco、吉澤嘉代子と「Bless You, Girls!」)バックを務めるバンドは同世代の人ばかりで、文字通り“バックバンド”を引き連れて先導しているような印象でした。
もう成人もしましたし、いつまでも子供じゃいられないですからね(笑)。
まさかのトーレ・ヨハンソン、作詞家としての持田香織&tofubeats
──とは言えトーレという人選は若い人のアイデアではないと思いますけど。
トーレさんはマネージャーのアイデアです。いつかチャンスがあれば曲を書いてもらいたいという思いはあったんですけど、なにせ神みたいな人なので(笑)、実際にオファーを受けてくれるのかどうかわからなかったんですけど、まさかのOKをいただいて。しかも頼んだのは1曲なのに2曲書いてもらえるっていう。
──ボーカルのレコーディングはスウェーデンで?
違うんです。聞いてくださいよ! 初めはスウェーデンでレコーディングする予定だったんです。初めての海外でウキウキしてパスポートも取って「大きいスーツケース買わなきゃなー、向こうは寒いのかなー」ってはしゃいでたら(笑)、最終的に話が流れちゃって。結局ボーカルだけこっちで録ったんですけど、ミックスはスウェーデンでやってもらいました。デモの仮歌はスウェーデン語で独特なニュアンスだったから、メロディを自分のものにするのに苦戦しました。歌詞を付けてくださった方々も苦労したみたいで。
──トーレの書き下ろしが2曲あるというのも大きなトピックですけど、その歌詞を書くのが持田香織さんとtofubeatsさんというのも意外な人選でした。
持田さんは私の声の印象と、同じ猫好きというところから「necco」の歌詞のイメージを膨らませてくれたそうです。猫好きもオファーを受けてくださった理由の1つらしくて(笑)。猫好き同士だからこそわかり合えるものもあるんですよ。持田さんからのお話しもあり、「necco」は私を見守ってくれている猫たちが語りかけるようなイメージで歌いました。
──そしてもう1つのトーレ曲「トラベル」では、トラックメーカーであるトーフさんを作詞家として起用するという。
私、トーフさんが作るトラックはもちろん好きなんですけど、トーフさんの書く歌詞が特に好きなんです。ロマンチックでナイーブな歌詞を書かれる方なので。
──確かに、作詞家としてのトーフさんにもすごく作家性がありますよね。作詞家としての魅力に焦点を当てるというのは、ある意味南波さんの采配力、プロデュース能力ですね。THE CHARM PARKやブルー・ペパーズといったアーティストを起用したり、総合的に“目利き”としても優れたアルバムだと思います。特にTHE CHARM PARKはアルバム全体をつかさどるキーパーソンですよね。
チャームさんと出会えたからこそできたアルバムだと思います。サウンドプロデューサーとして入ってもらって、トーレの2曲と最後の「Antique」以外はボーカルディレクションもチャームさんで。
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- 南波志帆 ニューアルバム「meets sparkjoy」 / 2016年4月6日発売 / 3024円 / sparkjoy records / SPJR-001
- 南波志帆 ニューアルバム「meets sparkjoy」
- TOWER RECORDS ONLINE
- Amazon.co.jp
収録曲
- Good Morning Sunshine
[作詞:fifi leger / 作・編曲:THE CHARM PARK]
- 夢じゃない。
[作詞:fifi leger / 作・編曲:THE CHARM PARK]
- necco
[作詞:持田香織 / 作曲:Tore Johansson、Martin Gjerstad、Susanne Johansson / 編曲:Tore Johansson]
- コバルトブルー
[作詞・作曲:ブルー・ペパーズ / 編曲:the sparkjoy band]
- Coffee Break
[作詞:THE CHARM PARK、fifi leger / 作・編曲:THE CHARM PARK、URU]
- ミモザ
[作詞:佐川ちとせ / 作曲:sugar me / 編曲:the sparkjoy band]
- おとぎ話のように
[作詞・作曲:吉澤嘉代子 / 編曲:the sparkjoy band]
- トラベル
[作詞:tofubeats / 作曲:Tore Johansson、Martin Gjerstad、Vilma Johansson]
- にじいろの街で
[作詞:fifi leger / 作・編曲:THE CHARM PARK]
- Adieu Tristesse
[作詞:fifi leger / 作・編曲:THE CHARM PARK]
- Antique
[作詞・作曲・編曲:市川和則]
南波志帆(ナンバシホ)
1993年6月14日生まれ。福岡県出身。2008年11月、矢野博康プロデュースによる1stミニアルバム「はじめまして、私。」でLD&Kよりデビューを果たす。2010年6月にはメジャー第1弾ミニアルバム「ごめんね、私。」、2011年7月20日には初のフルアルバム「水色ジェネレーション」、2012年12月には2ndフルアルバム「乙女失格。」をリリース。透明感のある歌声と独特の存在感が話題を呼び、幅広い層から支持を集める。2014年2月にはタルトタタンとのユニット・ナンバタタン、同年6月には5人組クリエイターユニット・xxx of WONDERの一員としてそれぞれCD作品を発表。2016年1月には新たな活動拠点として、タワーレコード内に自身が主宰するレーベル「sparkjoy records」を設立した。4月には同レーベル第1弾作品となる自身のオリジナルアルバム「meets sparkjoy」をリリース。7月には大阪、福岡、東京の3都市を回るワンマンツアー「THE NANBA SHOW 『meets sparkjoy』 tour 2016☆」を開催する。