音楽ナタリー Power Push - ななみ×吉田尚記
対談&ソロインタビューで浮き彫りになる“歌うたい”の本質
フラっと来た人が留まる装置
吉田 僕はこれまでストリートライブを何度も観てきましたけど、いつの間にか来ていつの間にかいなくなる人がいっぱいいるんですよね。でも、路上でやる場合はそういう人たちが一番重要だと思っていて。
──それはなぜですか?
吉田 もちろん告知を知って来てくれる人も大事なんですけど、ストリートでやるなら偶然そこを通りかかった人にアピールしなきゃやる意味がないですから。今回のななみちゃんのライブだと「何やってんの?」って来た人にスタッフがヘッドフォンを渡すんですけど、渡されると返さなきゃいけない。それで返すって動作をするときに物販を買ったりしてる人がいるんです。
──ちゃんと1曲聴き終えないとヘッドフォンを返しづらいという人もいると思います。
ななみ 確かにそうかもしれないですね。
吉田 そうそう。だからフラっと来た人がその場に留まるんですよね。1曲は聴くし、意外と長くいる人も多かったし。最初は「騒音をどうにかしたい」ってところからスタートしたのかもしれないけど、ストリートライブと結びつけたことで思わぬ効果があるみたいだったから観ていて面白かったですね。
CDじゃ伝わらないリアルさ
──先ほどななみさんは「止められないライブがしたい」と言っていましたが、単純にライブハウスでの活動を増やしていけば止められることはなくなりますよね。ライブを止められるリスクを負いながらも、なぜ路上でライブをし続けるんですか?
ななみ ストリートライブって、私が今一番したくないことなんですよ。
吉田 え、したくないの?
ななみ ストリートライブって、ライブハウスでやるよりも傷付くことが多いんです。ライブハウスの場合は自分を観に来てくれる人がいるし、対バンの場合でも音楽好きが集まってるからブーイングが起こるようなことはまずないけど、路上だと何があるかわからない。私は弱い人間だから本音では路上でライブをしたくないし、毎回ライブをする前はドキドキして緊張してる。でもライブが終わったあと、苦手なことをがんばれた自分がすごく誇らしくなるんです。ライブハウスでやり続ければアーティストとしては成長するかもしれないけど、路上では人間として成長できると思ってるんです。自分のことをさっきまで知らなかったお客さんと会話して、自分で物販をして、そういう経験を通して自分が成長していくのかなって。
──ものすごくストイックな考え方ですね。
吉田 でも臆病者とか怖がりだからこそ人を引き付けることもあるから。臆病な人が高所からジャンプするからハラハラするわけだし。でもストリートライブを続けていくためにサイレントライブっていう手法でなんとかしようとしたっていうのがすごいんだよね。ほかの人たちはきっとあきらめてきたと思う。
ななみ 私もずっと、どうしようもないと思ってましたから。
吉田 実際にサイレントライブをやってみて、ヘッドフォンを通して曲を伝えるということが自分がやりたいこと、伝えたいことの邪魔になったりはしなかったの?
ななみ 邪魔にならなかったですね。
吉田 ヘッドフォンを通して聴くんだから、路上にアクリルの箱を用意して箱の中で演奏するより、ちゃんとしたレコーディングスタジオで録ったクオリティの高い音を流してもいいという考え方もできると思うんだよね。
ななみ そうかもしれないけど、せっかく足を運んでもらったなら、私のライブを聴いてほしいから。
吉田 そう。だからきっとヘッドフォン越しでも伝わることがあったと実感してると思うんだけど、あのライブで何が伝わったのかな?
ななみ 何が……。
吉田 その場でCDを再生して聴かせたのとは違う何かが伝わったと思うんだけど。
ななみ 「人間」っていう感じ。リアルさみたいなものかな。
吉田 CDで同じ曲を聴いてもリアルさは感じられない?
ななみ CDで作り込まれた音を聴いても、それはリアルじゃないと思うんです。全然いい環境じゃなくても私がギター1本で歌うっていうのは、リアルというか本当のことなんです。弾き語りだから余計な音はないけど、今回のライブだったらちょっとした吐息だったりとかそういう繊細なところまで、すべてのお客さんに届いたと思う。私が伝えたいことが、そのまま伝わったかはわからないけど、聴き手が好きに解釈して今ほしい感情を受け取ることはできるんだと思います。
100年残る曲を書くより、歌い続けたい
吉田 ストリートライブをしてるときに、予定してたセットリストを変えたりすることはある?
ななみ けっこう変えますね。即興で歌うこともありますし。例えば街がちょっとうるさくてイライラしたら、そういう曲を即興で歌ったりとか。
吉田 即興で歌うのは、そうしないと嘘っぽくなるから?
ななみ いや、ただ歌いたかったから。ファンの人に「なんて曲ですか?」って聞かれたりすることもあるんですけど「即興なので、タイトルとかはないです」って答えたり。たまに「録っとけばよかった」って思うこともあるんですけど、その場だけの曲を歌うのも“歌うたい”らしくていいかなって思ってます。
吉田 シンガーソングライターとか、ギター女子なんて言い方もあるけれど、その中で一番しっくりくるのが歌うたいなの?
ななみ うん。
吉田 歌うたいって表現がフィットするってことは、作品を作ることよりも歌うことのほうが好きなってことなのかな?
ななみ たぶん歌を歌って生きていくことが幸せなんです。ただその中で、曲を作ったりライブをしたり、メジャーデビューしたりっていう道があるだけで。私は誰もいないライブハウスで歌っていても幸せだと思うんです。私にとって生きることに音楽が自然と一緒にあって、それがないと生きていけない人間っていうだけですから。アーティストだから歌っているというわけじゃないんだと思います。
吉田 世の中には100年後に残ってるような名曲を作りたいっていう野望を持って活動しているアーティストもいると思うんだけど、ななみちゃんにとってはそういう名曲を生み出すことより、歌を歌って生きていくほうが大事ってこと?
ななみ うーん……。一番嫌なのが歌えなくなってしまうことだから。もちろん売れなくていいわけじゃないけど、歌い続けるっていうことのほうが大事なんです。売れるとか、100年残る曲を作るとかはその次にあることで。
吉田 ジョン・レノンみたいに世界中誰もが知ってるアーティストになるより、全然売れなかったけど死ぬまで楽しそうに活動し続けるシンガーみたいな存在でありたい?
ななみ そうですね。音楽と長く生きていたいんです。そのうち私の生き方に共感する人が自然と出てきてくれると思ってますし。
吉田 もし70歳とかになってアクリルの箱の中で、ギター弾いて歌ってたらすごくカッコいいと思うよ。
ななみ ありがとうございます(笑)。そうなれるように歌い続けたいです。
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- Contents Index
- ななみ×吉田尚記 対談
- ななみ ソロインタビュー
- ななみ ミニアルバム「Lovin' you あなたと繋がる6つの方法」 / 2015年11月11日発売 / 1800円 / CRCP-40436 / e-stretch RECORDS / 日本クラウン
- ななみ ミニアルバム「Lovin' you あなたと繋がる6つの方法」
収録曲
- Lovin' you
- CHASER
- ノイズ
- 孤独を埋める方法
- 花の色
- 僕らの糸
ななみ 2015 tour “あなたが、生きますように。”
- 2015年11月14日(土)
- 福岡県 イムズホール
- 2015年11月27日(金)
- 東京都 キリスト品川教会 グローリア・チャペル
- 2015年11月29日(日)
- 大阪府 Music Club JANUS
ななみ
1993年、大分県生まれ。学生時代から地元大分でライブの経験を積み、2013年1月に行われたヤマハグループ主催のコンテスト「The 6th Music Revolution JAPAN FINAL」でグランプリを受賞。NHK大分放送局のノンフィクション番組「ドキュメント 桃」の主題歌として書き下ろし曲「桜」がオンエアされるなど、大分で大きな注目を集めた。グランプリ受賞後は、全国22カ所を1人で回る弾き語りツアーを行い、着実にその知名度を上げていく。2014年10月、自身が“暗黒時代”と呼ぶ学生の頃の経験をモチーフにした楽曲「愛が叫んでる」をシングルリリースし、日本クラウンとヤマハが合同で設立したe-stretch RECORDSよりメジャーデビュー。2015年5月に1stアルバム「ななみ」を発表し、全国で73回のストリートライブを実施するツアー「~73 Street Mission 2015~」を成功させた。さらに同年11月、ミニアルバム「Lovin' you あなたと繋がる6つの方法」をリリース発表した。
吉田尚記(ヨシダヒサノリ)
ニッポン放送アナウンサー。1999年にニッポン放送に入社して以来、ニッポン放送の音楽番組「ミュ~コミ+プラス」をはじめ数多くの番組のパーソナリティを担当している。2012年には「第49回 ギャラクシー賞 ラジオ部門 DJパーソナリティ賞」を受賞。2015年1月には太田出版より著書「なぜ、この人と話をすると楽になるのか」を刊行した。