音楽ナタリー Power Push - ななみ×吉田尚記

対談&ソロインタビューで浮き彫りになる“歌うたい”の本質

ななみがミニアルバム「Lovin' you あなたと繋がる6つの方法」をリリースした。メジャーデビューから丸1年が経ち、彼女の“第2章の幕開け”という謳い文句のもとに発表される今作には、人と人とのつながりをテーマに制作された6曲が収められている。

今作の発売を記念して音楽ナタリーでは、ななみとニッポン放送の吉田尚記アナウンサーとの対談を実施した。吉田は自身がMCを務めるニッポン放送「ミュ~コミ+プラス」にななみを2度ゲストとして招いているほか、9月に神奈川・桜木町駅前で行われた“サイレントストリートライブ”に足を運ぶなど、彼女の音楽活動に注目している人物。今回の特集では吉田との対談を通して、ななみが目指すアーティスト像の話題に迫った。

また特集後半にはななみへのソロインタビューも掲載しており、今作「Lovin' you あなたと繋がる6つの方法」の制作背景や、メジャーデビュー2年目を迎えた意気込みなどを語ってもらっている。

取材・文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 佐藤類

ななみ×吉田尚記 対談

度胸があるシンガー×目が笑ってない人

──吉田さんがななみさんを知ったのはいつ頃ですか?

吉田尚記 これまで僕の番組(ニッポン放送「ミュ~コミ+プラス」)に2回ゲストに来てもらってるんだけど、最初に番組に来てもらったときに知りました。だからちょうど1年くらい前。

ななみ 私がデビューした頃ですね。

吉田 最初に曲を聴かせてもらったときは、20代後半ぐらいの印象で。プロフィールを読ませてもらったら「え、こんな若いの!?」ってビックリしたのと、「暗黒時代」とか書いてあって経歴が壮絶だと思いましたね(笑)。ラジオでどこまで聞いていいのかなって。

ななみ 確かに最初はゆっくりとしゃべってくれた印象でした。

吉田 でもちょっと話してみて「あ、これはもう触れていい話なんだな」って気付いて。

ななみ 克服したというか、それを糧にしてデビューしましたから(笑)。

──ななみさんから見た吉田さんの第一印象はどうでした?

ななみ 最初にお会いしたときは“目が笑ってない人”だなって思ったんです。

吉田 えー(笑)。

ななみ

ななみ 当時はラジオの生放送に出るのも全然慣れてなかったから。やっぱり業界でいろんなことを経験されてる方なんだろうなって思ったんです。地元の大分のラジオパーソナリティさんとはお仕事をしたことがあったけど、やっぱり東京のパーソナリティさんは違うなと。

吉田 そうかなあ?

ななみ 「プロ感」っていうんですかね。「業界を生き抜いてきた人間の瞳だ!」と思いました。それで私は番組で歌ったんですよね。

吉田 アコースティックギターを持ってきてくれたからスタジオで歌ってもらって。すごく度胸あるなあと思って観てました。

ななみ リスナーの方がTwitterですぐ反応してくださるのが、すごく新鮮で。当時の私はそういう経験をしたことがなかったので、貴重な経験をしたな、楽しかったなって思ったのをすごく覚えています。それに今年の9月に番組に呼んでいただいたときの吉田さんは普通に目も笑っていたんです。だからそのとき「あ、すごく優しい方なんだな」って思って。

吉田 僕も人見知りだから、初対面のときは緊張してたんだろうなあ。

ラジオで強い歌

──番組に2回ゲストに来てもらって、吉田さんは彼女をどのようなアーティストだと感じましたか?

吉田 1年経っていい意味で変わってないところが魅力的だなと思いました。普通2回目になると、もうちょっと自分をアピールしたがるというか「私はこういうふうに見られたいんです」って主張してくる方が多いんですけど、彼女は前回と同じくただギターを持って現れただけで。

ななみ ふふふ(笑)。私はただ歌いに行っただけですから。それで9月のオンエアでは「Lovin' You」を弾き語りで歌わせてもらったんです。

──彼女の新曲はどうでしたか?

吉田尚記

吉田 ななみちゃんの歌はラジオでものすごく強いんですよ。なぜかと言うと、ラジオのリスナーってみんなで音楽を聴いていないから。だいたい1人で聴いてる。例えばコール&レスポンスがある曲をラジオでかけても空虚なんです。彼女の曲は1人で音楽に向き合ってる人に刺さるんですよね。

──それはリスナーからの反応でわかるんですか?

吉田 わかります。まずTwitterなどの反響が多いですし、コメントの内容も違うんですよ。アイドルの方の新曲だと、批評性のあるコメントが多いんですよ。「この曲はこういうときに聴いたらいいよね」みたいな。

ななみ みんなプロデューサーみたいなこと言いますよね。

吉田 うん。でもななみちゃんの曲が流れたときはもっと主観的な感想が多いんです。「泣きました」とか、単純に「すごかった」「よかった」みたいな。そういう単純な反応が出てくるほうが、曲がちゃんと届いてると思うんですよね。

ヘッドフォンだからこそ心に近づける

──2回目のオンエアのときは、ななみさんが9月に神奈川・桜木町駅前で開催した“サイレントストリートライブ”のお話もしていましたよね(参照:ストリートライブの騒音問題を解決!ななみがアクリル箱の中で“サイレントライブ”)。

吉田 そう。番組の収録のときはライブをやる前だったんだけど、アクリルの箱の中に入ってストリートライブをやるなんて、これまで聞いたことなかったから興味津々で。そもそもどういう経緯があってこういう企画が生まれたの?

ななみ 私、ずーっと路上ライブをやり続けてるんですけど、警察の方に止められてしまうことが多いんです。それとライブを「うるさい」っておっしゃる方もいますし。だから、誰にも止められないライブをしたいなって思ったんです。

吉田 あ、今でも警察に止められちゃうんだ。本当にゲリラでやってるんだね。

ななみ そうなんです。それで「うるさい」って言われるんだったら「無音でやります」という、半ば開き直りみたいなことなんですけど(笑)。実際にアメリカのクラブではイヤフォンやヘッドフォンで楽しむサイレントライブがあるらしいから、それを真似してみたらどうだろうって話になったのが最初ですね。

吉田 でもストリートでサイレントライブをやったのは、たぶんななみちゃんが初めてだよね。すごいと思う。

──吉田さんは実際にサイレントストリートライブを観に行ったんですよね?

吉田 どうしても観たくて、仕事の合間に駆け付けたんです。そうしたら桜木町の駅前で、人だかりがあるのに無音。近付いてみたら、ヘッドフォンをしてる人がアクリルの箱の中でギターを奏でている人を観ていて「傍から観たら変だけど、なんかすごいぞ」って思った。

ななみ 普段ライブハウスでのMCって前のほうにいる人にしか届いてない感じがするんですけど、ヘッドフォンを付けてもらうと後ろにいる人も反応してくれるんです。すべての人の耳元で囁いているようなものですからね。

吉田 外から観ると何も起きてないのに、突然お客さんが笑い始めたりするんだよね。ヘッドフォンだからみんなにダイレクトに届いてる感じがした。

ななみ もしかしたらヘッドフォンって、聴き手の心に入っていくことができる道具なのかなって思ったんです。例えば電車の中とかでヘッドフォン付けて自分の世界に入り込むじゃないですか。自分の中だけの世界が気軽に作れる道具だから、それを使うことで私がみんなの心に近づくことができた。

ななみ 2015 tour “あなたが、生きますように。”
2015年11月14日(土)
福岡県 イムズホール
2015年11月27日(金)
東京都 キリスト品川教会 グローリア・チャペル
2015年11月29日(日)
大阪府 Music Club JANUS
ななみ

ななみ

1993年、大分県生まれ。学生時代から地元大分でライブの経験を積み、2013年1月に行われたヤマハグループ主催のコンテスト「The 6th Music Revolution JAPAN FINAL」でグランプリを受賞。NHK大分放送局のノンフィクション番組「ドキュメント 桃」の主題歌として書き下ろし曲「桜」がオンエアされるなど、大分で大きな注目を集めた。グランプリ受賞後は、全国22カ所を1人で回る弾き語りツアーを行い、着実にその知名度を上げていく。2014年10月、自身が“暗黒時代”と呼ぶ学生の頃の経験をモチーフにした楽曲「愛が叫んでる」をシングルリリースし、日本クラウンとヤマハが合同で設立したe-stretch RECORDSよりメジャーデビュー。2015年5月に1stアルバム「ななみ」を発表し、全国で73回のストリートライブを実施するツアー「~73 Street Mission 2015~」を成功させた。さらに同年11月、ミニアルバム「Lovin' you あなたと繋がる6つの方法」をリリース発表した。

吉田尚記(ヨシダヒサノリ)

ニッポン放送アナウンサー。1999年にニッポン放送に入社して以来、ニッポン放送の音楽番組「ミュ~コミ+プラス」をはじめ数多くの番組のパーソナリティを担当している。2012年には「第49回 ギャラクシー賞 ラジオ部門 DJパーソナリティ賞」を受賞。2015年1月には太田出版より著書「なぜ、この人と話をすると楽になるのか」を刊行した。