中山美穂像をもっと壊して
──先にお話しいただいた3曲のほか、このアルバムにはセルフカバーも4曲収められています。「ただ泣きたくなるの」、「You're My Only Shinin'Star」、「C」、「色・ホワイトブレンド」とカバー曲の年代はさまざまですが、選曲はどのように?
中山 すごく悩みました。今歌うならこの曲かな、この曲はどうかな……とちょっとずつ決めていって。
──「ただ泣きたくなるの」は1994年にヒットして「NHK紅白歌合戦」でも歌われた、皆さんご存知のバラードです。アレンジは大胆に変わりましたね。
高田 ここ数年、曲をアレンジするときは曲の構造やコード進行に一切手をつけず、いかに自分のサウンドにできるかを心がけているんです。そのセオリーに従って第1稿を美穂さんに送ったんですが、「そうじゃなくて普段の中山美穂像をもっと壊してほしい」と言われて、ご本人がそう言うんだったら僕もアレンジで遊べるぞと腕が鳴りました。今のR&Bやヒップホップに近い方向で作っていった結果、アルバムのカラーを左右する重要な曲になった気がします。
──長年親しまれているヒット曲だからこそ、原曲が背負っているファンや中山さん自身の思いも大きいと思うんですよ。それを本人が「壊したい」と考えたというのは興味深いですね。
中山 アルバム全体を通して少女性や少年性を表現したかったんですけど、実際歌うのは超大人という。そのバランスがいい感じになったらいいなと思ってカバーしました。
──「You're My Only Shinin'Star」も同じく中山さんを代表するバラードの1つだと思いますが、こちらはいかがでしたか?
中山 この曲は毎年密かにレコーディングしていたんですよ。じゃあ今年はどうなるんだろうって。
高田 「You're My Only Shinin'Star」は収録曲の中で最後にアレンジしたんです。その頃にはアルバム全体のイメージがはっきりしていたので、そこにどう落とし込めるかというのを意識して。さすがに僕も知っている曲だったので、やりすぎない程度にアレンジしました。
──「C」は1985年に発表されたデビュー曲です。デビュー当時のことは覚えていますか?
中山 はっきり覚えてます。6月21日がデビュー日だったんですけど、その日を境に人生が変わったというか。「C」は今までで一番多く歌った曲かもしれません。デパートの屋上でも歌いましたし……こうして何十年も経って歌えるなんて思ってもみませんでした。今回は35周年を記念したアルバムになるし、デビュー曲は歌っておきたかったんです。
──作詞は松本隆さん、作曲は筒美京平さんという80年代歌謡曲のゴールデンコンビですね。高田さんにとっては、このレジェンドの仕事をどう料理するかという。
高田 正直、一番アレンジに迷った曲ですね。美穂さんがデビューするよりももっと前からあった歌謡曲のコード進行だし、しかも擬似転調みたいなものが2回ぐらいあって、その和音の使い方が絶妙なんです。そうやって紐解いていく過程で、思い切ってテンポを落としてストリングスを入れようかなとか、もう少しラテン歌謡っぽくできないかなとか試行錯誤してできあがりました。美穂さんのボーカルが合わさって完成したときにすごく意味があるものが作れたなって。筒美京平さんの曲もさることながら、松本隆さんの歌詞の強さというか、何年経っても消えない言葉というのはあるんだなと勉強になりました。
──「色・ホワイトブレンド」は、実験的な要素が多いアルバムの中である意味唯一のホッとする場面というか。もともとのポップな要素が生かされた、ライトに楽しめる仕上がりですね。
高田 そうですね。最初の打ち合わせで「何かやりたい曲ありますか?」と聞かれたとき、僕からは真っ先に「色・ホワイトブレンド」を挙げました。もともとすごく好きな曲で、これ幸いとばかりにやりたいことをやらせてもらった感じですね。
ストリートシンガーになる覚悟
──実際に完成したアルバムを聴いてみていかがですか?
中山 アルバムができたことがただただうれしいですね。できないと思ってたから(笑)。
一同 (笑)。
中山 私の音楽を望んでくれているわずかなファンの人にやっと届けられるなという気持ちです。今後の音楽活動につながるものになればいいなと思っています。これが最後のチャンスだと思っているので、ちょっとでも売れてくれないと。
高田 制作中に美穂さんが「このアルバムが売れなかったらストリートシンガーになる」って言い出して(笑)。その言葉に意気込みを感じたというか、忙しい中でもスタジオに来て真剣に音楽と向き合っている美穂さんの姿を目の当たりにして、僕らもその熱意をちゃんと受け止めないとアルバムとして成り立たないなと思いました。
──アルバムのリリース後はどんな活動がありますか?
中山 来年の誕生日3月1日に中野サンプラザホールでライブをやります。みんなが聴きたい曲を全部やりたいのですが、さすがに全部はできないので選曲にすごく悩んでいます。
──ヒット曲はもちろんですけど、クラブミュージックに接近していた90年代のアルバム曲も、この新作に連なる流れとしてぜひ入れていただきたいところです。
中山 ちょうど昔の作品を聴き返していて、その時期の曲もけっこう選ぶかもしれません。きっと喜んでもらえるものになると思います。
ライブ情報
- MIHO NAKAYAMA BIRTHDAY CONCERT
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2020年3月1日(日)東京都 中野サンプラザホール