音楽ナタリー Power Push - 中塚武
“6カ年計画”の果てに生まれたカオスな新境地
生身の肌触りも大事にしていきたい
──中塚さんの音楽に対する向き合い方が本当に変わったんだな、というのは曲を聴いててすごく感じます。歌詞についても、ナンセンスなものを追求しながらも、中塚さんが考えていることや見ているものがにじみ出ているような。例えば「ふれる」の「一万文字の言葉よりも 一度きりのやわらかな風が こころの奥にそっと ふれる、揺さぶる」というフレーズには、俗世間との向き合い方みたいなものが感じられる気がしたのですが。
最近は博識な人を見なくなったな、博識だったり学があったりすることが軽んじられてるなと感じるんです。今の時代、ググることで自分がすごい物知りになった気になっちゃうでしょう? ネットで検索すると最初の何ページかだけで理解したような気になるけど、それって本当なのかなって。身をもって体験してみると全然空気が違うとか、そういうことってライブなんかではひんぱんに起きますよね。そんな肌触りをちょっと大事にしていきたいなとは考えてます。
──なるほど。
そうなると、例えば「自分がデスクトップの中で作っている音楽は、生の演奏に対抗できるのか」って考えることもあって。自分は演奏家ではないから、対抗できるのは曲や音楽そのものだったりするけど、そんな自分が演奏家たちと渡り合っていく中で、生身の大切さを実感することはありますね。
──機械に頼った生活やネット社会への疑念を極端に突き詰めていくと、それこそ都会を離れて山ごもりするみたいな考え方もあると思うんですけど、中塚さんはそうはならないだろうなという感じもしますし。
ならないですね。
──極端に振り切りすぎないバランスみたいなものを感じるんですよね。それが中塚さんの本質としてあるのかなと。
僕、大学生のときにハードロックのバンドサークルにいたんですけど、みんな1年生のときは聖飢魔IIのカバーとかハードロック、ヘヴィメタルをやってるんですよ。でも2年生になるとルーツに帰っていくのか、ブルースとかやり始めて。3年生になると完全にブルースマンっぽい雰囲気になるのに、4年生になったらいきなり長い髪を切ってリクルートスーツで就職活動を始めるという(笑)。ルーツに帰っていく感覚も大事かもしれないけど、結局それを生業にまで持っていける人ってほとんどいないよなって思うんです。
──ああ、確かに。
マクロビオティックにハマってたはずの人が、10年ぐらいすると「今はやっぱり肉がキてて、あのお店の肉がヤバいんだよー」みたいな話をしてたりする(笑)。そういうふうに考えると、極論で生きてる人って逆に目先のことに踊らされてるように見えるんですよね。仙人みたいな生活してテレビに出てる人にも「本当に山ごもりしてる? コンビニとか行ってるんじゃないの?」とか思っちゃう。だいたい「仙人みたいな生活してます」ってメディアに出てる時点でもう違うから(笑)。そういうことは面白いとは思うけど、突き詰めることの限界も感じてますね。
ストイックにタガを外す人体実験
──今の「なんでもあり」なモードはまだ続きそうですか?
続くような気がしますね。「タガが外れたものを作る」って考えてアルバムを1枚作ったけど、そのタガの外れ具合が気持ちよくて。
──ストイックに6カ年計画を実行していた人とは思えない発言ですね。
ストイックにタガを外してるんです。電車でおっさんがケータイで大きな声でしゃべってたり、高校生が座り込んでたりしてもイラッとしない。「社会のルールとしてはおかしいかもしれないけど、この人のルールは違うんだ」みたいに考えていたら本当にタガが外れてきて。
──そこにいる自分はただの観察者なんですね。
そう。CNNを見てる感じですね。
──目に映るものすべてをザッピングしているような。しかし「ストイックにタガを外す」ってヤバいですね(笑)。人間としてのタガを外していく実験を自分でやっているという。
うん。そうすると自然と音楽からもタガが外れていくんですね。それでちょっと慣性がついちゃって、このままだとマズいところまで行きそうなんですけど(笑)。タガの締め方を忘れたというか、催眠術の解き方を習わずに自分でかけちゃったみたいな。
──6カ年計画にしろタガを外すことにしろ、中塚さんは何年かごとに自分の中で何かしらの実験をしているから面白いですよね。それが作品にモロに出たり、じんわり表れてたりするから、余計に面白い。
そうですね。でも面白いからおすすめですよ、人体実験(笑)。
収録曲
- JAPANESE BOY
- プリズム
- 律動(リズム)
- あの日、あのとき
- 初夏のメロディ
- ○の∞(album version)
- ふれる
- 苹果
- parkour
- ひとしずく
- ひねもすえそらごと
- からまるゆるまる
中塚武NEWアルバム「EYE」RELEASE PARTY ~目玉の飛び出す夜~
- 2016年4月21日(木)東京都 代官山UNIT
OPEN 18:00 / START 19:30 - 出演者
- 中塚武
- PERFORMANCE:Shumusic Saxphone Quartet
- DJ:高橋マサル(Swing Design) / Tetsuya.Nz(Charlie-Hz) / 勝矢和紙(渡る世間は音ばかり) / wallflower(Floor Extra)
- VJ:杉江宏憲 / 佐藤こずえ / and more
- STYLIST:森下紀子
- GOODS DESIGNER:倉田ゆりえ / TOSHIKO
- FOOD:東京カリ~番長 / "EAMO" MARO & SONS / エムケバブ / コズミックキッチン / 中西怪奇菓子工房。
中塚武(ナカツカタケシ)
1998年、自身が主宰するバンドQYPTHONE(キップソーン)でドイツのコンピレーションアルバム「SUSHI4004」に参加。国内外での活動を経て2004年にアルバム「JOY」でソロデビューを果たした。その後はCM音楽やテレビ&映画音楽、アーティストへの楽曲提供など活動の幅を広げ、2010年には自身のレーベル「Delicatessen Recordings」を設立。2014年4月にはソロ活動10周年を記念したベストアルバム「Swinger Song Writer -10th Anniversary Best-」を、同年11月にディズニー楽曲のカバーアルバム「Disney piano jazz “HAPPINESS” Deluxe Edition」をリリースした。2016年3月には約3年ぶりとなるオリジナルアルバム「EYE」を発表。4月21日にはこれを記念したリリースパーティを東京・代官山UNITで開催する。