音楽ナタリー Power Push - 中塚武
“6カ年計画”の果てに生まれたカオスな新境地
中塚武が7枚目のオリジナルアルバム「EYE」をリリースした。前作「Lyrics」から約3年ぶりとなるこの作品は前作のポップネスを踏襲しつつ、エレクトロニカやジャズなど幅広いジャンルのエッセンスを取り入れたサウンドで新たな世界を切り開いたアルバム。日本語の響きを重視した個性的な歌詞からも、“シンガーソングライター・中塚武”の進化を感じ取ることができる。
前作リリース時から、シンガーソングライターとしての自らのスタンスを確立すべく、数年がかりでの進化を計画していたという中塚。今回の作品にその成果はどのように反映されているのか、現在の彼が考えていることをじっくりと話してもらった。
取材 / 臼杵成晃 文 / 伊藤雅代 撮影 / 佐藤類
前作は「転職しました」という名刺代わり
──前回のオリジナルアルバム「Lyrics」をリリースした際には、音楽ナタリーで土岐麻子さんと対談していただきました(関連記事:中塚武「Lyrics」リリース記念対談 with 土岐麻子)。
そうですね、3年経ちました。
──そのときは「今後シンガーソングライターとしてやっていくには、小学校で言うと1年生から6年生ぐらいまでの準備期間は必要だろう」と、DJ活動を完全にストップして発声の研究などに費やす“6カ年計画”のお話をされていて。あれから3年経ってみていかがですか?
あの6カ年計画はやってよかったですね。僕にとって「Lyrics」は途中経過というか「転職しました」という名刺代わりみたいな作品だったんです。でまあ、そっちの会社にもようやく慣れてきて(笑)。そのあとビッグバンドとコラボレーションしたり(参照:アルバム「Big Band Back Beat」リリース記念対談 中塚武×須永辰緒)、ディズニーのカバーアルバムを出したり(参照:ディズニーカバーアルバム特集 中塚武インタビュー)して、ジャズミュージシャンの知り合いがすごく増えたんですよ。DJ系の活動とは全然違う活動が軌道に乗り始めて、バンドでのライブもやれるようになってきて。なのでいよいよ転職先でも、昔の自分の得意技であるクラブミュージックの要素を取り入れていこうかなと考えたんです。次のアルバムでは6カ年計画以前と以降の流れを融合してみようと、ライブをやりながら1年ぐらいかけて曲を増やしていきました。
──ジャズとクラブミュージックの融合と言っても、今作は一昔前のクラブジャズともまた違う進化をした新しい音楽になっていると感じます。今、海外のジャズシーンに面白い動きがありますけど、その影響もありますか?
最近のジャズの流れについては「Lyrics」を作っている頃からスタッフと話し合っていたんですよ。「もう2~3年したら、ちょうど今ニューヨークで流行っているものが日本に入ってくるだろう」って。ただその時点では、僕の作品としてフォローすることはできなかったんです。まだ6カ年計画の途中だったから(笑)。でも今回のアルバムも「ジャズのアルバム」を作ろうとしたわけじゃなく、ジャズのフォーマットを借りて好き勝手にやってるんですよ。
「なんでもあり」を大事に
──ジャズのサウンドをメインに置きつつ、枠にはとらわれないように。
そうです。なんでもありで。今回は自分の中で「なんでもあり」ってのをすごく大事にしているんです。ルールはなく、カオスで、バランスも取らずに。アルバムを作るときって、どうしてもバランスを考えがちですよね。「ここでこういう曲が来たから、流れがこうなって……」とか。そういうのは全部無視(笑)。でね、今回はスタッフからも「中塚くんの思う通り、何を作ってもいいよ。で、完成したら出すから」って言われていて。レコード会社の人の言葉とは思えないけど(笑)、それがすごく心強くて。じゃあ他人のこととか今のシーンとか、歴史的な意義とか全部無視して好き勝手に作ろうと思ったんです。
──でも結果的には、ちゃんとアルバム然としたアルバムになりましたね。
面白いもんですよね。僕が好き勝手にやっても、共同プロデュースをしてくれた石垣(健太郎)さんとか、マスタリングエンジニアの前田(康二)さんとか、みんながちゃんとまとめてくれたので。「なんとかなるんじゃん」って思いました(笑)。
──そこまで自由な発想でソロアルバムを作ったのは初めてですか?
初めてです。QYPTHONEの頃に近いような……QYPTHONEって1996年に結成して1998年に1stアルバムを出したんですけど、当時はちょうどハッピーチャーム(ハッピーチャームフールダンスミュージックと呼称されたクラブミュージックのムーブメント)が盛り上がってきた頃で、わりとなんでもありの空気だったんです。あの頃を思い出しましたね。やっぱり音楽とかモノを作る人って、好き勝手にやってないとダメだなと思いました。好き勝手にやってちょうどいいくらいなんだなって。
──中塚さんはそれこそ6カ年計画みたいに、何事も生真面目に取り組んでいくタイプだと思うんですけど、その中塚さんにしては新しい考え方ですよね。
そうですね。生真面目にカオスにしていきたい(笑)。
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収録曲
- JAPANESE BOY
- プリズム
- 律動(リズム)
- あの日、あのとき
- 初夏のメロディ
- ○の∞(album version)
- ふれる
- 苹果
- parkour
- ひとしずく
- ひねもすえそらごと
- からまるゆるまる
中塚武NEWアルバム「EYE」RELEASE PARTY ~目玉の飛び出す夜~
- 2016年4月21日(木)東京都 代官山UNIT
OPEN 18:00 / START 19:30 - 出演者
- 中塚武
- PERFORMANCE:Shumusic Saxphone Quartet
- DJ:高橋マサル(Swing Design) / Tetsuya.Nz(Charlie-Hz) / 勝矢和紙(渡る世間は音ばかり) / wallflower(Floor Extra)
- VJ:杉江宏憲 / 佐藤こずえ / and more
- STYLIST:森下紀子
- GOODS DESIGNER:倉田ゆりえ / TOSHIKO
- FOOD:東京カリ~番長 / "EAMO" MARO & SONS / エムケバブ / コズミックキッチン / 中西怪奇菓子工房。
中塚武(ナカツカタケシ)
1998年、自身が主宰するバンドQYPTHONE(キップソーン)でドイツのコンピレーションアルバム「SUSHI4004」に参加。国内外での活動を経て2004年にアルバム「JOY」でソロデビューを果たした。その後はCM音楽やテレビ&映画音楽、アーティストへの楽曲提供など活動の幅を広げ、2010年には自身のレーベル「Delicatessen Recordings」を設立。2014年4月にはソロ活動10周年を記念したベストアルバム「Swinger Song Writer -10th Anniversary Best-」を、同年11月にディズニー楽曲のカバーアルバム「Disney piano jazz “HAPPINESS” Deluxe Edition」をリリースした。2016年3月には約3年ぶりとなるオリジナルアルバム「EYE」を発表。4月21日にはこれを記念したリリースパーティを東京・代官山UNITで開催する。