ナタリー PowerPush - 中塚武
スウィングするソングライターの10年史
中塚武のソロ活動10周年を記念したベストアルバム「Swinger Song Writer -10th Anniversary Best-」が発表された。さまざまなタイプのアーティストへの楽曲提供やCM音楽、ドラマの劇伴などでサウンドクリエイターとして高い評価を集める中塚だが、彼は自ら歌を歌うシンガーソングライター。インタビューでは彼が強いこだわりと努力のもと、10年かけて作り上げてきた自身のスタイルについて詳しく語ってもらった。
取材・文 / 松永良平 撮影 / 佐藤類
「Your Voice」が僕のプロトタイプ
──中塚武としてソロ名義で活動を開始されて、ちょうど10年。音楽制作自体も、自分自身で歌う方向に変わっていった節目でのベスト盤でもあります。
そうですね。シンガーソングライターだったのにパソコンで打ち込みを覚えてクラブ系に手を出す人はけっこういるんですけど、僕みたいなのは逆パターンというか。でも今後そういう人たちはどんどん増えてくると思います。今はパソコンでボカロ曲を作ってるけど、やがて歌を自分で歌い出す。その先鞭みたいな感じになっていたのかなと思います。
──シンガーソングライターとしての歌モノからCM曲や劇伴まで、今まで手がけていたいろんなタイプの音楽が無理なく収まっていて。
10年前の曲を聴くと自分では「ああ、こういうことを考えて作ってたな」とかいろいろ思うんですが、その頃に作った曲が、去年から今年にかけて急に別の形でまた世に出るような機会もあったりして、面白いタイミングでしたよね。
──2006年に作った「Your Voice」が、アニメ「きんいろモザイク」のエンディングテーマとして去年カバーされたんですよね。
「Your Voice」は当時、僕の中では絶対に代表作にしようと思って作った曲だったんですよ。3枚目のアルバム「GIRLS & BOYS」(2006年10月発売)を出すときに、土岐(麻子)ちゃんに電話して「何か一緒にやろうよ」って持ちかけたら「やりたいやりたい」って返事をもらって、それから作った曲だったんです。あのアルバムは、当時全盛だった“feat. ~”というやり方はもうナシにすると自分で決めて作った作品でした。スタジオに来て、こっちの指定で歌ってもらって「おつかれさまでした」で終わりじゃなくて、ちゃんと曲を作るところから一緒にやる“コラボ”でやっていくと決めたんです。「Your Voice」は僕の中での“コラボ”としては最初のものだし、管や弦のアレンジも、今もずっと一緒にやってもらってる人たちだし、あの曲が僕の最初のフォーマットというか、プロトタイプになったんだと思ってますね。
“ /(スラッシュ)”に抗ってきた
──自分にとってキーになった曲が、10周年のタイミングに合わせて意外な形でよみがえるというのも、なんらかの巡り合わせを感じますよね。
そうですね。しかも「Your Voice」は僕の中では“ポップス”として作ったんですが、時代が変わって、今アニメであの曲を使ってる人たちは“ジャズ”と呼ぶんだなと思って、そこも面白かったですね。
──海外でも、ロバート・グラスパー周辺を筆頭に、“ジャズ”っていうジャンルの更新が行われてる時代ですからね。従来の、テーマがあって、ソロの応酬があって、ハードバップで、という感覚では、もうとっくに計り切れなくなっている感覚があって。
だから、アニメの人たちがこういう曲を“ジャズ”って呼んでくれると僕はすごくやりやすいんです。これからは作って自分で「ジャズです」って言っちゃえばいいんだって楽になりましたね。
──型があって定義されるんではなく、言っちゃえばいいんだと。
そうなんです。あんまりジャンルのことは考えず、自分にとって面白くて、自分にとって新しいものだけをやっていれば、レッテルはみんなが後付けで貼ってくれる。こうやって曲が輪廻したりもするし、「思ったより適当でいいんだ」って思えるようになったんです。僕みたいな出自だと「バンド / サウンドクリエイター / DJ / プロデューサー」とか、みんな“ / (スラッシュ)”を付けて全部紹介される感じになりがちじゃないですか(笑)。僕はそういういわゆるクラブ系クリエイターみたいな印象に対して抗ってきたタイプだったんです。だから、レコード会社からしたら扱いにくい(笑)。こうやって10年の括りで聴くと、クラブ系でトータライズされてない感じだし、面白いなと思いましたね。
CD収録曲
- Kiss & Ride
- Your Voice(sings with 土岐麻子)
- Countdown to the End of Time
- Cafe Bleu(pour un oui ou pour un non) with Clementine
- 冷たい情熱
- Magic Colors
- Girls & Boys
- The Sweetest Time
- On and On
- SEXY VOICE AND ROBO
- Aguas de Agosto
- 虹を見たかい
- キミの笑顔
- Cherie!
- Black Screen
- Love Wing
- 北の国から
- 〇の∞(ゼロの無限)(※新曲)
DVD収録内容
- On and On (Music Video)
- Black Screen (Music Video)
- 冷たい情熱 (Music Video)
中塚武(ナカツカタケシ)
1998年、自身が主宰するバンドQYPTHONE(キップソーン)でドイツのコンピレーションアルバム「SUSHI4004」に参加。国内外での活動を経て2004年にアルバム「JOY」でソロデビューを果たした。その後はCM音楽やテレビ&映画音楽、アーティストへの楽曲提供など活動の幅を広げ、2010年には自身のレーベル「Delicatessen Recordings」を設立。2011年にはレーベルオフィシャルサイト内にて新曲を定期的に無料配信する「TAKESHI LAB」をスタートさせた。2014年4月にはソロ活動10周年を記念したベストアルバム「Swinger Song Writer -10th Anniversary Best-」をリリース。