ナタリー PowerPush - 中塚武 meets 土岐麻子
旧友が初めて語り合う音楽のハナシ
「恋とマシンガン」をカバーした理由
──この中塚さん個人の思いが詰まったアルバムに、フリッパーズ・ギターの「恋とマシンガン」のカバーが含まれるのは、すごく意外な感じがありました。これはどのような意図で?
中塚 去年あるイベントでポリスターのスタッフさんと再会して。そこからトントン拍子にアルバム制作の話になったんですけど、すごく運命めいた縁を感じたんですね。いつも節目節目でポリスターだなと思って。それも記念に残しとくか、みたいな感じもありつつ(笑)。フリッパーズと言えばポリスターということで。あとこの歌詞がね、絶対自分では書けない内容なので、こういうのがひとつポンと、スイカに塩じゃないですけど、対比で入っているのも陰影が付いていいかなと。
──それがあくまでボーナストラック的な扱いではなく、最後から2番目に入っていて、ラストは非常に私小説的な「終わりは始まり」で締めくくられるというのがまた特徴的で。
中塚 ボーナストラックにするなら入れなくていいんですよ。アルバム前半は歌詞もどぎついけど、聴き進めるうちにだんだん慣れてくると思うんですよ。慣れきったところに「恋とマシンガン」が来て、最後の最後に「終わりは始まり」でこのアルバムがどんなものなのか、思い出させるというか。
──まんまと術中にハマりました(笑)。
土岐 私はグッときちゃいましたね。フリッパーズ・ギターを聴いてた頃って、若くてなんでもできるような気がしてたし(笑)、徹夜で遊んだり、あんまり悩みがなかったっていうか。そういうひたすら若くて楽しかったときのことをどうしても思い出すので。当時はこの曲がすごく自分と一体化したものだったけど、自分も世の中も当時とはすっかり変わってしまったんだな、とアルバムの流れで聴くとしんみり考えちゃって。
中塚 「恋とマシンガン」って、やっぱ僕らの世代のテーマ曲みたいなものなんですよね。僕らはそれで育ったけど、これからも音楽は続けていくし、普通に生活は続いていくし。「渋谷系」って懐古趣味と一緒の聖域みたいなことになってるでしょ? その懐かしさをここでバッサリ切ってしまおうと。その先のことは受け継ぎますよ、という思いもあるんですよね。笛でファンクやってたクセに(笑)。
隣にいるやつぐらいは、ほっこりさせられるんじゃないかな
──こうして「Lyrics」というアルバムが完成しましたけど、「自分はこういう形で音楽を続けていくんだ」というところまでをふまえての、この6カ年計画だったということですか?
中塚 そうですね。一生音楽をやっていく上で、僕の場合それまでの「サウンドクリエイター / プロデューサー / DJ」という立場ではちょっと、音楽家としての強度が弱いなと思ったんです。それを最初に感じたのは新潟県中越地震のとき。山古志村が取り残されたでしょ。あのとき「もし自分が取り残されたら、電気がないと何もできない。それって音楽家なのかな?」って思ったんですよ。「兄ちゃん音楽やってんだったらなんか歌ってくれよ」って頼まれたとして「ちょっと電気が通ってないんで……」じゃどうしようもないなって(笑)。それがまず「全部1人でできるようにならないと」と思ったきっかけだったんですね。今回こうやってひとつの作品としてまとまったけど、これがスタート地点。やっとこれで音楽家として、隣にいるやつぐらいは、ほっこりさせられるんじゃないかなって自信が付きました。
土岐 なるほどー。
中塚 これで一生音楽を続けても、僕の中のお父さんは許してくれるんじゃないかなと(笑)。
──音楽家としての覚悟が詰まったアルバム。
中塚 覚悟はありますねー。だってDJとかやめると、フライヤーの告知なんかから名前がどんどん消えていくでしょ。そうすると、いわゆるサウンドクリエイター系の人だからどうしても「終わった感」が出るんですよ、すごく(笑)。「自分は何年か先を見据えてこっちに進むんだ」って自分を言い聞かせるのも大変だったりして。やっとこうして形になったので、少しラクになったかな。もうちょい音楽に没頭できる気がしましたね。
──ソロとしては、10年でようやくたどり着いたと。
中塚 そうですね。数えで10年(笑)。
──お2人の関係性も変わってきますよね。今までは「プロデューサーと歌手」だったのが……。
土岐 ……ライバル?
中塚 でも今までだって音楽の話なんか一切しなかったじゃん(笑)。あの頃出会った人たちはみんな「同期」って感じで、あんまり音楽を通してどうこうみたいなノリじゃないよね。
土岐 うん。「この人どんなのがルーツなんだろう」ってときどき思うことはあったけど、今日初めて「こういう人なんだー」って(笑)。話してみると面白いですねえ。
中塚 今度、逆に土岐ちゃん掘り下げましょうよ(笑)。
ライブはいろんなやり方を試したい
──6月には、数え10年の節目となるスペシャルライブが予定されていますが、ライブに対する姿勢も昔とは変わってきたりしていますか?
中塚 さっき言ったように、究極は電気のないところでも1人でやれる弾き語りだと思うんですけど、ライブはそれだけが最終形態じゃないので、いろんなやり方を試したいとは思ってますね。1人で成り立ってて初めて肉付けができるんだとは思いますけどね。スポンジがおいしくて初めて生クリームやフルーツが乗せられるような感じで。6月はビッグバンドでやります。
土岐 自分でもピアノを弾きながら?
──このアルバムをライブで表現するなら、いっそ中塚さんはキーボードからも離れてハンドマイクで歌ってみるのもいいんじゃないかと思いますけど。
土岐 こういう、九ちゃん(坂本九)みたいな感じでね(笑)。
中塚 ははは(笑)。ピアノは弾いたり弾かなかったりするかも。ライブは楽しみなんですけど……アレンジを全部1からビッグバンド用に作り直すから大変なんですよ。ちょっとねえ、考えただけで気が遠くなる(笑)。
- 中塚武 ニューアルバム「Lyrics」 / 2013年2月6日発売 / 2800円 / Delicatessen Recordings/P.S.C. / UVCA-3016
- 中塚武 ニューアルバム「Lyrics」
収録曲
- 冷たい情熱
- 虹を見たかい
- 愛の光、孤独の影
- 涙に濡れた夢のかけら
- 月を見上げてた
- すばらしき世界
- 白い砂のテーマ
- ひとえ、ふたえ。
- むかしの写真
- トキノキセキ
- 恋とマシンガン
- 終わりは始まり
中塚武10th Anniversary Live
2013年6月23日(日)
東京都 Shibuya O-WEST
<出演者>
中塚武 / and more
※詳細は後日発表
土岐麻子 ワンマンライブ
2013年6月25日(火)
大阪府 大阪BIG CAT
2013年6月30日(日)
東京都 日本青年館
※詳細は2月8日(金)にオフィシャルサイトおよびFacebookにて発表
中塚武(なかつかたけし)
1998年、自身が主宰するバンドQYPTHONE(キップソーン)でドイツのコンピレーションアルバム「SUSHI4004」に参加。国内外での活動を経て2004年にアルバム「JOY」でソロデビューを果たした。その後はCM音楽やテレビ&映画音楽、アーティストへの楽曲提供など活動の幅を広げ、2010年には自身のレーベル「Delicatessen Recordings」を設立。2011年にはレーベルオフィシャルサイト内にて新曲を定期的に無料配信する「TAKESHI LAB」をスタートさせた。2013年2月6日には約3年ぶりのオリジナルアルバム「Lyrics」をリリース。
土岐麻子(ときあさこ)
1976年東京生まれ。1997年にCymbalsのリードボーカルとして、インディーズから2枚のミニアルバムを発表する。1999年にはメジャーデビューを果たし、数々の名作を生み出すも、2004年1月のライブをもってバンドは惜しまれつつ解散。同年2月には実父にして日本屈指のサックス奏者・土岐英史との共同プロデュースで初のソロアルバム「STANDARDS ~土岐麻子ジャズを歌う~」をリリースし、ソロ活動をスタートさせた。2011年12月に初のオールタイムベストアルバム「BEST! 2004-2011」をリリース。2012年10月には邦楽アーティストのカバー集「CASSETTEFUL DAYS ~Japanese Pops Covers~」を発表した。