ナタリー PowerPush - 中塚武 meets 土岐麻子
旧友が初めて語り合う音楽のハナシ
心の中の“お父さん”を意識して行動してる
──特に気になったところ、引っかかったところは?
土岐 孤独感ですかね。随所に「孤独に一度焦点を当てた人なんだな」という匂いがあって。
中塚 ひとりぼっち感ね(笑)。
土岐 私自身、大地震を経験したあと「孤独」はなかなか抜け出せないテーマだったんですよ。ものを作る上でも、普段生活をする上でも。今までなんでこんなに孤独ってことを知らずに生きてこられたんだろうって。最終的に自分なりの結論には行き着いたんですけど、中塚さんにとっての「孤独感」ってどういうものなんだろうなって、歌詞を読みながら興味深く感じました。
中塚 今日「もし歌詞について話すことがあったらこういうふうに話そう」と思ってたことを全部言ってくれたみたい。僕はこのアルバムを作るときに「色恋沙汰を歌う前にカタを付けなきゃいけないことがある」と思ったんですね。音楽って基本は色恋沙汰だし、僕もそれが歌いたいんだけど、その前にカタを付けなきゃいけないことがいくつかあって。
──自身の中で5、6年の準備期間を経た最初のアルバムで、そこのカタを付けたいと考えたわけですね。
中塚 うん。「ラブソングでお茶を濁しちゃいけない」というか。まず自分が思っていることをキチンと出してから、あとはいろんな歌を歌って楽しめばいいんじゃないかなって。「宿題してから遊びに行きなさい!」みたいなね(笑)。
土岐 その何かをやる前に何かを片付けておくみたいな考え方、すごいですよね(笑)。中塚さんは自分の中にある「お父さん」的なものを意識して行動してる感じがする(笑)。
──「歌うんだったらお前、ちゃんと基礎からやんないとダメだぞ」みたいな(笑)。普通は大人になったらそういう束縛から離れる自由を謳歌するもんだと思うんですけど。
土岐 それで同じ間違いを繰り返してやっと気付くみたいな。だから私なんかはすごく遠回りして気付くんだけど、中塚さんは自分内お父さんの教えを守りながら最短距離で進んでる感じがします。
──それは非常にわかりやすい例えですね。中塚さんの特異性の正体が見えてきたような気がします。
中塚 そっか。なるほどね(笑)。
「試される瞬間」との向き合い方
──先ほど土岐さんがおっしゃったように、サウンド自体は管弦楽器のきらびやかなハッピーな印象だったりするんですけど、じっくり聴き込むとどこか寂しい感じも伝わってきて。
土岐 でも、ちゃんと孤独に対峙して受け入れたときって、きっと寂しくはないんですよ。寂しさも過程の中にはあるかもしれないけど、姿勢としてどっしりした強さを感じました。自分も孤独だけど、自分だけが孤独なんじゃない。そういう頼もしさを感じましたね。
中塚 うんうん。うれしい。今日は深酒だなあ(笑)。
土岐 中塚さん、ここ2年ぐらいTwitterですごく怒ってますよね(笑)。諦観もあるだろうけど、同時に諦めている人への怒りもあったりして。いつもツイートを眺めながら「あ、今こういうふうに考えてるんだ」って。だからアルバムがこういう内容になったのはなんとなくわかります。
──アーティストなどのいわゆるエンタメ業の方は、震災以降、自分はどういう姿勢を取るかということをかなりシビアに考えなければいけなくなりましたよね。今でも続いていますけど、そんな中でどういう表現をするのかを、ある意味試されてるような。
土岐 中塚さん、震災直後に書いた曲を無料配信しましたよね(参照:ナタリー - 中塚武が新曲「信じてる」無料配信&YouTubeフル公開)。あの曲を当時聴いたとき、きっと短い時間に何周も考えてあの明るい曲調になったんだろうなと思ったんですよ。「明るすぎる」って声もあったじゃないですか。
中塚 うん、すごくあった。
土岐 でも私は、この明るさはあと1、2年間ぐらい先を見越した上での明るさを書いた曲なんだと思ったんですよ。取った姿勢がポーズだった人はすぐメッキがはがれたと思うし。あのとき、好きな人と嫌いな人がパッと分かれませんでした?
中塚 分かれたね。ガッツリ分かれた。よーくわかったよね。いざというときこういう人なんだ、みたいな(笑)。惚れ直す人と100年の恋が冷める人と。試される瞬間でしたね。
──日本人がそうそう考えることがなかった「試される瞬間」が急に来た、みたいな感じは確かにありました。
中塚 あの曲を出したとき、本当に大変な状況の人は聴けないタイミングだったでしょ。要するにこれが聴ける人は本当にヤバいわけではない人だと思ったんです。そういう人たちがヤバそうな顔をしてるのがすごいヤだったの。大丈夫なんだったら「もうちょい元気にしとこうよ、お前らが沈んでてどうすんの」って思ったんです。自分も含めてね。「心しかショックを受けてないやつ、しっかりしろ」みたいな。被災地じゃないところからニュースを観て心配している、その部屋が散らかってるやつはどうなんだっていう(笑)。まずは自分がしっかりしようぜと。
土岐 あはは(笑)。でもホントにその通りで。ワガママに聞こえるかもしれないけど「自分の中にしか世界はないんだな」って思いました。大きな出来事だけど「まずは半径1mのことを考えろ」って言われた気がしたし、そこがブレてたら何も考えられないなって。このアルバムはすごく意見を発しているようですごく内省的な、内なる思いを歌った曲ばかりですよね。そこがいいなって。安っぽい言い方をすると、共感しました(笑)。
中塚 あははは(笑)、うれしい。
──そんな内省的な「怒り」がポップスとして成立しているのは、中塚さんらしさですよね。
土岐 ね。たぶん「この歌詞が付く曲を選びなさい」ってクイズがあったとしたら、絶対結びつかない(笑)。
- 中塚武 ニューアルバム「Lyrics」 / 2013年2月6日発売 / 2800円 / Delicatessen Recordings/P.S.C. / UVCA-3016
- 中塚武 ニューアルバム「Lyrics」
収録曲
- 冷たい情熱
- 虹を見たかい
- 愛の光、孤独の影
- 涙に濡れた夢のかけら
- 月を見上げてた
- すばらしき世界
- 白い砂のテーマ
- ひとえ、ふたえ。
- むかしの写真
- トキノキセキ
- 恋とマシンガン
- 終わりは始まり
中塚武10th Anniversary Live
2013年6月23日(日)
東京都 Shibuya O-WEST
<出演者>
中塚武 / and more
※詳細は後日発表
土岐麻子 ワンマンライブ
2013年6月25日(火)
大阪府 大阪BIG CAT
2013年6月30日(日)
東京都 日本青年館
※詳細は2月8日(金)にオフィシャルサイトおよびFacebookにて発表
中塚武(なかつかたけし)
1998年、自身が主宰するバンドQYPTHONE(キップソーン)でドイツのコンピレーションアルバム「SUSHI4004」に参加。国内外での活動を経て2004年にアルバム「JOY」でソロデビューを果たした。その後はCM音楽やテレビ&映画音楽、アーティストへの楽曲提供など活動の幅を広げ、2010年には自身のレーベル「Delicatessen Recordings」を設立。2011年にはレーベルオフィシャルサイト内にて新曲を定期的に無料配信する「TAKESHI LAB」をスタートさせた。2013年2月6日には約3年ぶりのオリジナルアルバム「Lyrics」をリリース。
土岐麻子(ときあさこ)
1976年東京生まれ。1997年にCymbalsのリードボーカルとして、インディーズから2枚のミニアルバムを発表する。1999年にはメジャーデビューを果たし、数々の名作を生み出すも、2004年1月のライブをもってバンドは惜しまれつつ解散。同年2月には実父にして日本屈指のサックス奏者・土岐英史との共同プロデュースで初のソロアルバム「STANDARDS ~土岐麻子ジャズを歌う~」をリリースし、ソロ活動をスタートさせた。2011年12月に初のオールタイムベストアルバム「BEST! 2004-2011」をリリース。2012年10月には邦楽アーティストのカバー集「CASSETTEFUL DAYS ~Japanese Pops Covers~」を発表した。