ナタリー PowerPush - 中塚武 meets 土岐麻子
旧友が初めて語り合う音楽のハナシ
中塚武のおよそ3年ぶりとなるオリジナルアルバム「Lyrics」が完成した。これまではサウンドクリエイターとしての側面が強かった彼だが、本作では自らの詞曲を自らが歌う「シンガーソングライター」としての顔が大きくクローズアップされている。
ナタリー初登場となる今回の特集では彼の知られざる素顔に迫るべく、1990年代後半から同じフィールドで活躍する土岐麻子をゲストに招き対談をセッティング。同じ大学に通いアマチュア時代の様子まで知っている2人に、過去の話題から現在に至るまでを、リラックスムードで語り合ってもらった。
取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 上山陽介
笛を吹くガキ大将
──中塚さんの音楽はQYPTHONEでデビューした1990年代後半から聴いているのですが、中塚さんがどんな方なのかはぜんぜん知らなくて。僕にとってはずっと「謎の人」だったんですよ。
土岐麻子 私もです。
中塚武 えー?
──なので活動初期から同じシーンで活躍し、共演もしている土岐さんにも話を伺いつつ、その人となりにも触れていこうかと思っていたのですが……(笑)。
土岐 私も知りたいですね。
中塚 でも確かに僕ら知り合って長いけど、実のある話をしたことがないというか(笑)。
──ではせっかくですから、音楽的なルーツの話なども聞かせてもらえたらなと。中塚さんは主にキーボード、ピアノの演奏が主体ですが、音楽的なキャリアは笛からスタートしたという噂を聞きました(笑)。
中塚 僕、リコーダーめっちゃうまかったんですよ。学校の帰りに友達とゲーム音楽を吹きながら帰ったり。
土岐 いたいた、そういう小学生。
中塚 家の下の階に住んでる奴と仲良くて、そいつと「じゃあお前、上(のハーモニー)ね」って。ドラクエ(「ドラゴンクエスト」)とか2音なんですよ。2人いれば完コピできるから。
土岐 ハーメルンって呼ばれてませんでした?
中塚 呼ばれてたかも(笑)。僕ね、ガキ大将だったんですよ。ガキ大将が笛を吹いて帰ってるっていう(笑)。
単音楽器ならではのキャッチーさ
──笛も意外ですけど、ガキ大将も相当意外ですね(笑)。中塚さんはQYPTHONEとして登場した頃から、インディーズシーンの中にいながら、なんとなく上品なイメージがあって。音楽の素養はいわゆる英才教育なのかなと。
中塚 いやいや、ぜんぜん。
土岐 じゃあピアノは?
中塚 ぜんぜんやってない。
土岐 へえー。じゃあホント、笛だ。
中塚 そう。あの頃の笛が進化してった感じ。好きなゲームやアニメの曲をコピーして。アニメのオープニングとエンディングに合わせて吹くのが楽しみでしたね。録音機材とか持ってないから、週に1回きりなんですよ。合わせて吹けるの(笑)。
──毎週リアルタイムで(笑)。耳コピする能力はもともとあったんですか?
中塚 そのとき身に付いたんじゃないですかね(笑)。音楽の授業はぜんぜん好きじゃなくて。「真面目な曲を吹け」って言われてもぜんぜんできなかった。
土岐 真面目な曲ね。ふふふ(笑)。なんだろ、すごい納得しちゃいました。Cymbalsがインディーズの頃、中塚さんにはライブだけじゃなくレコーディングにもサポートで入ってもらってたんですよ。そのとき中塚さんが入れてくれるフレーズが私は好きだったんですけど、なんかね、発想が単音っぽいですよね?
中塚 うんうんうん。
土岐 かわいいというか、パッと耳をそっちに持っていかれてしまうようなキャッチーな音で。だから単音楽器……っていうのかな(笑)。単音で奏でる楽器から始まったというのを聞いてすごく納得しちゃいました。sasakure.UKさんみたいな少し下の世代でも、ゲーム音楽がベースにある人には共通するものがある気がします。単音の組み合わせというか、フレーズがポップなんですよね。
中塚 シンセだとガーンと和音押さえるとだいたい様になるでしょ? 僕あれが嫌いなんですよ。アマチュアバンドでキーボードだとなんとなく隙間を埋めるためにコードをファーンと入れがちなんだけど、あれが苦手で。しかも僕の好きなシンセはだいたいモノシンセなんですよ(笑)。そもそも和音が出せない。
土岐 そもそも笛と変わんない(笑)。
ドはね、こうか、こう!
──じゃあ、もともとキーボードがやりたかったわけではないと。
中塚 色気付いて「さあバンドやろう」と思ったとき、笛じゃ参加できないから(笑)。最初サックスがいいなと思ったんですよ。笛の親玉はサックスかなと(笑)。そんで10万円貯めて楽器屋に行ったんだけど、サックスって安くても20万ぐらいするんですね。だけどもうバンド始める気でいるから、とりあえず「10万で買える楽器ください」って言ったらカシオトーンが出てきて。
──完っ全に成り行きですね(笑)。
中塚 あと我が家には「未成年のうちに1人1つだけ高価なものを買ってもらえる」っていうよくわかんない決まり事があって。兄貴はでっかいステレオコンポを買ってもらったりして。んで、僕はパソコンを買ってもらったんですよ。本当はそれでゲームが作りたかったんだけど、そこまではのめり込めなくて。プログラムの練習段階で、音を自動で鳴らすのはけっこう簡単なんですよ。プログラムで音を組んで、それに合わせて笛を吹いて「うわ楽しい! なにこれ!」って(笑)。
土岐 下の階の子がいなくても大丈夫(笑)。
中塚 そっちが先だったから、カシオトーンを買ったときは最初どこが「ド」の音かもわからなかったんですよ。鍵盤を眺めて「なんで、ところどころ黒がないんだろう?」って。それはいまだにわかんないですけど。
──ミとファ、シとドの間になぜ黒い鍵盤がないのか。
土岐 あれ、笛でドってどんな押さえ方でしたっけ?
中塚 ドはね、こうか、こう!(きれいな指さばきで1オクターブ差を表現)
- 中塚武 ニューアルバム「Lyrics」 / 2013年2月6日発売 / 2800円 / Delicatessen Recordings/P.S.C. / UVCA-3016
- 中塚武 ニューアルバム「Lyrics」
収録曲
- 冷たい情熱
- 虹を見たかい
- 愛の光、孤独の影
- 涙に濡れた夢のかけら
- 月を見上げてた
- すばらしき世界
- 白い砂のテーマ
- ひとえ、ふたえ。
- むかしの写真
- トキノキセキ
- 恋とマシンガン
- 終わりは始まり
中塚武10th Anniversary Live
2013年6月23日(日)
東京都 Shibuya O-WEST
<出演者>
中塚武 / and more
※詳細は後日発表
土岐麻子 ワンマンライブ
2013年6月25日(火)
大阪府 大阪BIG CAT
2013年6月30日(日)
東京都 日本青年館
※詳細は2月8日(金)にオフィシャルサイトおよびFacebookにて発表
中塚武(なかつかたけし)
1998年、自身が主宰するバンドQYPTHONE(キップソーン)でドイツのコンピレーションアルバム「SUSHI4004」に参加。国内外での活動を経て2004年にアルバム「JOY」でソロデビューを果たした。その後はCM音楽やテレビ&映画音楽、アーティストへの楽曲提供など活動の幅を広げ、2010年には自身のレーベル「Delicatessen Recordings」を設立。2011年にはレーベルオフィシャルサイト内にて新曲を定期的に無料配信する「TAKESHI LAB」をスタートさせた。2013年2月6日には約3年ぶりのオリジナルアルバム「Lyrics」をリリース。
土岐麻子(ときあさこ)
1976年東京生まれ。1997年にCymbalsのリードボーカルとして、インディーズから2枚のミニアルバムを発表する。1999年にはメジャーデビューを果たし、数々の名作を生み出すも、2004年1月のライブをもってバンドは惜しまれつつ解散。同年2月には実父にして日本屈指のサックス奏者・土岐英史との共同プロデュースで初のソロアルバム「STANDARDS ~土岐麻子ジャズを歌う~」をリリースし、ソロ活動をスタートさせた。2011年12月に初のオールタイムベストアルバム「BEST! 2004-2011」をリリース。2012年10月には邦楽アーティストのカバー集「CASSETTEFUL DAYS ~Japanese Pops Covers~」を発表した。