音楽ナタリー Power Push - 中田ヤスタカ
米津玄師とのコラボが示す、新たな活動への第一歩
CAPSULEの中田ヤスタカがソロ名義でのCD作品「NANIMONO EP / 何者(オリジナル・サウンドトラック)」をリリースした。この作品のDISC 1には米津玄師が作詞とボーカルを担当した、朝井リョウ原作映画「何者」の主題歌として書き下ろされた「NANIMONO (feat. 米津玄師)」、および同曲のリミックストラックを収録。DISC 2は中田が音楽を手がけた「何者」のサウンドトラックとなっている。
今回の「NANIMONO (feat. 米津玄師)」のように、中田が自身の楽曲でほかのアーティストと共作するのはこれまでのキャリアの中でも稀なケース。またDISC 2のサウンドトラックは、多くの人々がイメージするであろう中田のエレクトロサウンドとは対極にある、ピアノやギターの演奏をメインにしたシンプルな作品集に仕上げられている。今作でさまざまな新しい試みにチャレンジしているようにも見える中田だが、その真意はなんなのか。彼に話を聞いた。
取材・文 / 橋本尚平 撮影 / 笹原清明
今後は曲ごとにいろんなボーカリストと組んで作品を作るつもり
──中田さんが主題歌を担当することが決まった段階で、米津さんとの共作になることも決まっていたんですか?
それは最後のほうですね。サントラを作ってるうちに「主題歌のボーカリストは誰にしようか?」って話になって。僕からもいろいろ候補を考えたんですけど、初期の段階からスタッフの間で「例えば米津くんはどう?」って名前が挙がってて、すんなり決まった感じです。もともとは僕が歌詞を全部書いて、ボーカリストには歌ってもらうだけのつもりだったんですけど、この映画のリアルな話題に対して僕はどう書けばいいのかなって思って。映画の内容がSNSを題材にしてるし「こういうテーマは米津くんが得意そう」って話になって、作詞も任せちゃうことにしました。
──米津さんは映画のキャラクターの心情を忠実に歌詞にしてますよね。
僕は歌詞の内容とか全然気にしないんですよ。だから打ち合わせのときに「どういうのを書いてほしいですか? 逆に嫌な言葉はありますか?」って米津くんに聞かれても「リズムの雰囲気だけ大事にしてもらえれば」って答えてたんですけど、実際に上がってきた歌詞がすごく気持ちいい譜割りで。こういう歌詞を書くのはなかなか難しいんですけど、さすがにうまいなあって思いましたね。
──中田さんにしろ米津さんにしろ「他人の手を借りずに自分1人で全部やっちゃうタイプの人」という印象なので、こういう形でコラボレートするのは新鮮ですね。
このコラボ、別に映画のために組んだわけじゃないんです。今後、中田ヤスタカのソロ名義で、曲ごとにいろんなボーカリストと組んで作品を作る活動をしようと思ってたから、今回のはその一環ってことで。米津くんと一緒に曲を作ったのは映画があったからではあるんですけど、僕がそういう活動をやろうと思ったタイミングで映画の話をもらったので、別に企画ものというつもりじゃないんですよ。
──おお、そうなんですか。中田さんは昨年リリースされたTeddyLoidさんのアルバム「SILENT PLANET」にゲスト参加して共作していましたが(参考:TeddyLoid「SILENT PLANET」特集 TeddyLoid×中田ヤスタカ(CAPSULE)対談)、最近はほかのアーティストとコラボレートすることに中田さんの興味があるのでしょうか?
TeddyLoidのやつは例外ですね。TeddyLoidは僕の曲を子供の頃からすごく聴いてくれてた世代だから、一緒にやってみたら面白いかなと思ったんで。でも今回のは全然違う話です。僕は今、一緒にやるボーカリストを曲ごとに探して、自分個人のアーティスト活動として歌ものをやろうと考えてるんです。今まで中田ヤスタカ名義でリリースしたのはインストだけで、歌ものを作るのはプロデューサーとしてボーカリストに曲提供してるという立場がほとんどだったから。
──その活動はあくまでCAPSULEとは違う軸でやるつもりですか?
CAPSULEって実質、フィーチャリングボーカルをこしじま(としこ)さんに固定した僕のソロ活動なので、要はこしじまさんが歌わずにCAPSULEをやると中田ヤスタカ名義になるって感じです。今後インストやフィーチャリングボーカル曲は全部中田ヤスタカ名義でリリースしようと思ってるので、これからCAPSULEの曲はこしじまさんのボーカルの割合が増えるというか、もうそういう曲しかやらないかもしれない。CAPSULEに関して僕のことを「こしじまさんを総合プロデュースしてる人」って勘違いしてる人がいるけど、その勘違いに近い状態になると思います、これからは。「CAPSULEでもっと歌ものを聴きたい」って言ってる人にとってはうれしいかもしれないですね。
中田ヤスタカ名義で作品をリリースする理由
──コラボの話とも関係があるんじゃないかと思いますが、今回のシングルにはダニー・L・ハールさん、TeddyLoidさん、banvoxさんによるリミックスも収録されていますよね。中田さんの曲がほかのアーティストにリミックスされる公式音源は非常に少ないので、「きっと中田さんは自分の曲に他人の手が入るのがあまり好きじゃないのかな?」と思っていました。
もしこれが「米津くんのニューシングルを僕がプロデュースする」っていう話だったらリミックスは入れないです。でも今回のはあくまでも僕のソロ作品で、米津くんはゲストボーカル、リミキサーも全員ゲスト。そういう考えです。
──どうして自分名義の作品ならOKなんですか?
海外にはダンスミュージックしか歌ってないボーカリストがけっこういて、いろんなDJに曲をもらって歌ってるんですけど、日本にはダンスミュージックしか歌わないボーカリストってあんまりいないんですよね。普段ポップスとかを歌ってるアーティストに楽曲提供すると、僕はその人に合わせて曲を作らなきゃいけなくなってくるんですけど、自分名義の曲だったらそんなことは気にしなくていいし、プロデュースの立場だったら作れない曲が作れるようになるんです。歌う側も、自分の名義じゃなければ普段歌ってないジャンルを歌うことがアリになったりするし。
──お互い自由度が増えるわけですね。
人の名前で曲を作ると、その人のことをいろいろ考えなきゃいけなくなっちゃうんですよ。新人だったらある程度自由にやれるからいいんですけど、もうすでにキャリアがある人の場合は特に。だから自分の名前で作品を出したいんですよ。
──皆さんのリミックスを聴いてみて、どうでした?
いいと思いました。リミックスの面白さって、いかにリミキサーの色が出るかだと思うんですけど、どれもみんなの曲の個性がそのまま出てる感じに仕上がっててよかったです。昔、僕がm-floの「Lotta Love」のリミックスをやらせてもらったときに、自分の音をいろんな人に聴いてもらうチャンスだから「CAPSULEの曲みたいにしよう」って意識して作ったんです。今度は僕が逆の立場になって、みんなに同じことができればいいなっていう気持ちもありますね。
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- 「NANIMONO EP / 何者(オリジナル・サウンドトラック)」
- 2016年10月5日発売 / [CD2枚組] / 2160円 / Warner Music Japan / unBORDE / WPCL-12472~3
DISC 1 NANIMONO EP
- NANIMONO (feat. 米津玄師)
- NANIMONO (feat. 米津玄師) -extended mix-
- NANIMONO (feat. 米津玄師) -Danny L Harle remix-
- NANIMONO (feat. 米津玄師) -TeddyLoid remix-
- NANIMONO (feat. 米津玄師) -banvox remix-
DISC 2 何者(オリジナル・サウンドトラック)
- 就活スタート
- 3人の出会い
- 拓人の想い
- 就活対策本部結成
- 何者のテーマ
- ギンジとのやりとり
- ルームシェア
- 瑞月のお母さんの話
- 何者~モンタージュ~
- グルディス
- 光太郎の本音
- 何者劇場
- 拓人と瑞月
中田ヤスタカ(ナカタヤスタカ)
音楽家 / DJ / プロデューサー。2001年に自身のユニットCAPSULEにてデビュー。CAPSULEの活動やDJ活動と並行し、Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅのサウンドプロデュース、さまざまなアーティストへの楽曲提供を行っており、マデオン、ポーター・ロビンソン、ソフィー(PC Music)といった海外アーティストも「強くインスパイアされたアーティスト」として中田ヤスタカの名を挙げている。また「LIAR GAME」シリーズの劇伴や、「ONE PIECE FILM Z」オープニングテーマ、「スター・トレック イントゥ・ダークネス」挿入曲、「アップルシード アルファ」テーマ曲など映画関連の音楽制作も多数。国際的なセレモニーへの楽曲提供や、北陸新幹線金沢駅の新幹線発車メロディなどパブリックな作品も手がけている。2016年10月には、朝井リョウ原作映画「何者」の主題歌として書き下ろされた米津玄師とのコラボ曲「NANIMONO (feat. 米津玄師)」を含むCD2枚組作品「NANIMONO EP / 何者(オリジナル・サウンドトラック)」をリリースした。