仲村宗悟が1stアルバム「NATURAL」と4thシングル「壊れた世界の秒針は」を、自身の誕生日である7月28日に同時リリースした。

既発曲4曲と仲村が作詞作曲を手がけた新曲7曲で構成された「NATURAL」は、アルバムタイトルの通り、等身大であり自然体の仲村が表現された内容に。一方シングル「壊れた世界の秒針は」にはテレビ朝日系「NUMAnimation」枠のアニメ「RE-MAIN」のエンディング主題歌である表題曲と、アルバム未収録の新曲「XXX」「水槽の花」の計3曲が収められる。

音楽ナタリーではこの2作の発売を記念して仲村にインタビュー。新作の制作エピソードや10月より行われるツアーの意気込みを聞いた。

取材・文 / もりひでゆき　撮影 / つぼいひろこ

詞と曲の両方でアニメの世界観を表現

──まずは4thシングル「壊れた世界の秒針は」について聞かせてください。テレビアニメ「RE-MAIN」のエンディング主題歌として書き下ろされた表題曲は、仲村さんが作詞作曲を手がけています。

「JUMP」（2021年2月発売の3rdシングル。表題曲はテレビアニメ「スケートリーディング☆スターズ」のエンディング主題歌）のときに初めてタイアップ曲で作詞を担当させてもらったんですけど、今回は曲も自分で書いたものを使っていただけることになって、すごくありがたいなと思いました。アニメーションの世界を詞と曲の両方で自分なりにどう表現していくか、じっくり考えながら作っていきましたね。

──アニメからどんなものを受け取り、それをどう楽曲に落とし込んでいきましたか？

水球というスポーツを描いた作品なので、Aメロは水の中を漂っているようなイメージでメロディを作ってみました。アレンジも少し幻想的な雰囲気を出すようにして。水球はけっこう激しいスポーツなので、サビではそれを感じられる勢いをしっかり描き出しつつ、最後は再び静かになる流れを意識しました。具体的なアレンジに関しては、アレンジャーの村山☆潤さんといろいろ話しながら詰めていきました。

──歌詞ではどんなメッセージを伝えようと思いました？

自分で決めたことが脆くも崩れ去る瞬間って、人生の中でよくあると思うんです。でも、そのことに対して後悔をしたとしても、まっすぐに進めなかった自分自身のことを拒む必要はないと思うんです。それこそが「RE-MAIN」という作品から強く受け取った気持ちでもあったので、この曲ではそれをしっかりメッセージにしたかったんですよね。

──ラストに放たれる「これから先の景色は 自分次第だ」というフレーズにグッと心を持っていかれました。ボーカルのレコーディングはいかがでしたか？

けっこう難しかったですね。特にAメロの部分は弱くなりすぎても、ガーッと強くいきすぎても曲に合わなくなってしまうので、その塩梅を探るのに苦労して。もしかすると今までで一番悩んだAメロかも。

──サビはファルセットを効果的に織り交ぜた歌唱になっていますね。

サビをファルセットで始めるのがこの曲の1つのこだわりなんです。ただ、ファルセットから地声につなげる流れがだいぶ難しくて。うまくやらないとメロディがベタッと聴こえてしまうので、疾走感を壊さないで歌っていくことを特に大事にしながら歌いましたね。

──2曲目に収録される「XXX」は、楽しいサウンド感が印象的な仕上がりで。この曲も作詞作曲は仲村さんによるものです。

今回はシングル全体に“後悔”というテーマを設けたので、「XXX」にもそういう要素は込めてます。パッと聴くと明るい曲なんですけど、歌詞で表現したのは実は夢の中での出来事で。夢が楽しかったぶん、目覚めたときに「あー！」って後悔するような内容になってます。少しファンタジーのようなイメージのある曲にしたかったので、潤さんが入れてくれたシタールの音がばっちりハマりましたね。

──ボーカルも“陽”に振り切っている感じですよね。

1人のキャラクターになりきって歌っていて、今までのどの曲よりも色を付けた気がします。「ラララ」のコーラスも含めて、ちょっとクレイジーな雰囲気が出てますよね（笑）。「チャーリーとチョコレート工場」みたいな感じというか。

──3曲目の「水槽の花」はSACHIKO（ex. FRiP）さんが作詞作曲をされていますね。

ひさしぶりに提供曲を歌わせていただいたんですけど、自分からは出ないメロディや歌詞なので、歌うのはちょっと難しかったですね。でもすごく勉強にもなるし、楽しさもあるので、今後も提供してもらうことは定期的にやっていきたいなと思っています。

──この曲を選んだ決め手はなんだったんですか？

カッコつけてるわけではないのに、ものすごいパワーを感じさせてくれる曲だと思ったんですよ。それが一番の決め手ですね。クレジットを伏せた状態で選ばせてもらったんですけど、ふたを開けたらSACHIKOさんは僕と同い年で、しかも同じ沖縄出身だったという（笑）。そんな偶然も面白かったです。

──どこか文学的な匂いを感じさせる歌詞も素敵ですよね。

デモの段階では別の仮歌詞がついていましたけど、シングル全体としてのテーマがあったので、そこに合わせて書き直していただいたんですよ。情緒があって、繊細で。ほんとにきれいな詞だなと思いました。メロディも含めて、その世界観を体に染みこませるのに少し時間はかかったんですけど、SACHIKOさんの仮歌の印象がすごくカッコよかったので、それを受け継ぎながら自分なりの表現を加えて歌い切りましたね。

──ちなみにこの3曲はシングルと同時発売の1stアルバム「NATURAL」には収録されないんですよね。

そうなんですよ。なので、アニメ「RE-MAIN」とともに、この3曲はシングルでじっくり楽しんでいただけたらなと思います。

今の自分では書けないストレートな歌詞

──ではアルバムのお話へ。以前からフルアルバムの制作を熱望していた仲村さんですが、その内容についてはどんなものにしようと思っていましたか？

1枚目のアルバムという意味では、まだ仲村宗悟というアーティストにいろんなイメージがついてない状態じゃないかなと思ったんですよ。なので“素材”という意味を込めて、アルバムタイトルを「NATURAL」に決めました。で、それが必然的に全体のテーマにもなっていった感じでしたね。これまでリリースした全シングルの表題曲に加えて、今回は昔に作った曲も入れようってことになったので、声優になる前に生まれていた「僕なりのラブソング」と「あなたのこと」も収録させてもらってます。「あなたのこと」なんかは10年くらい前に書いたものなので、今の自分じゃ絶対書けないであろう超ストレートな歌詞になってます（笑）。

──となると今回のタイミングで作られたのは、インストの「feeling」を除くと、全部で4曲ってことですかね？

そうですね。実質的な制作期間は3カ月くらいだったので、4曲とは言え、曲作りはかなりキツかったですね。自分としては「めっちゃ書いたー！」って感じです（笑）。最初に書いたのはリード曲である「ナチュラル」だったんですけど、「ロックンロールにポップ＆ジャズ / ブルースはどうだろ」というフレーズがパッと出てきて。それが曲作りの方向性になったところはありましたね。ジャンルにこだわらず、今の自分の気持ちが入ったものを作ればいいなと。結果、「チョコレート」とか「わかってちょうだいね」とか、それぞれ全然違ったカラーの曲を、いろんな角度で作ることができましたね。聴く人によってはまとまりのないアルバムという印象になっちゃうかもだけど（笑）、でも通して聴いてもらえば絶対に仲村宗悟がどんな人間なのかわかってもらえると思います。

──「ナチュラル」はブラスセクションをフィーチャーした楽しさ満載の1曲ですね。

僕はアンニュイさやセクシーさを感じさせる曲も、ダークネスを感じさせる曲も好きなんです。でも「ナチュラル」にはそういった要素は一切入れないようにしようと思ったんですよね。とにかく楽しげな曲を書こうと思って。だからコード進行なんかも、ものすごくさわやか（笑）。ちなみにコレ、朝の情報番組「スッキリ」の7月度テーマソングで使っていただいていて！（参照：仲村宗悟新曲「ナチュラル」が「スッキリ」テーマソングに、配信リリース&MV公開も決定） 自分で言うのもアレですけど、朝にピッタリな仕上がりになってると思いますね。

──タイトル通り、ナチュラルで等身大な仲村さんの魅力が詰まったこの曲は、リスナーとの距離感をグッと縮めてくれるものでもありますよね。

まったくカッコつけてないですからね（笑）。Ａメロの歌詞で書きましたけど、僕はしょっちゅう家でアイス食ってるし、休日にはフリスビーやったりしてますから。ホントに普段の僕が詰まってる曲だと思います。

──サビではみんなでクラップやストンプをする光景が浮かんできます。

ライブでは絶対やりたい！この曲はみんなで楽しく歌ってるイメージをしながら音をたくさん重ねていきましたね。

──そういえば前回の取材時、お正月休み中に1曲作ったとおっしゃってましたけど、それは今回のアルバムに収録されているんですか？（参照：仲村宗悟「JUMP」インタビュー）

あー、そうでしたね。今年に入ってたくさん書き下ろしてるからちょっと記憶が定かじゃないけど……そのときできたのが「ナチュラル」だった気がする！

──おー！ 新年一発目にできた曲がアルバムのタイトル曲になったのはなんだか運命的ですね。そのほかで新たなトライができたと実感している曲ってあります？

それぞれの曲でいろんなことができた実感はあるんですけど、締めの「素敵な世界で」はかなり好きですね。自分としては裏の表題曲みたいな感覚もあるんですよ。こうしたほうがおしゃれになるだろうとか、こうしたらもっとカッコよくなるよなとか、そういったことをまったく考えないで書いた曲なので、今の自分の“ナチュラル”がすごく出ていると思うんですよね。

──サウンドもメッセージもすごく温かな印象ですよね。本当にハッピーなエンディングだと思います。

制作作業の後半に生まれた曲で、できた瞬間、絶対アルバムの最後の曲にしたいと思ってましたね。仮タイトルを「大団円」にしてたくらいなので（笑）。

──先ほどセクシーな曲も好きとおっしゃってましたけど、「チョコレート」はまさにそういった雰囲気を持つ楽曲ですよね。アルバムのいいアクセントになっていると思います。

潤さんにも「すごくセクシーだね。歌詞もいい」と言ってもらえました。この曲は、人間としてもアーティストとしてもいろんな経験をしてきた今だからこそ書けた気がしますね。そういう意味で、僕もすごく好きな1曲。これもまたある意味、ナチュラルな感覚で作れたものだと思います。