音楽ナタリー Power Push - 中村一義
ジョン・レノンの享年を超えて完成させた“優しい”アルバム
ジョン・レノンに敬意を払う
──「38歳で死ぬ」と思っていた中村さんが「海賊盤」を41歳でリリースするというのは、なかなか感慨深いものがありますね。ついに中村さんの敬愛するジョン・レノンの享年・40歳を超えたわけですけど、どうですか?
僕にとってはジョン・レノンの存在はすごく大きいですからね。40+1歳って感じです。よくも悪くもジョン・レノンの存在に囚われてた部分があったと思うんですよね。ホントに大尊敬してる人だから。あの人は物事に対して「カジュアルでいいんじゃない?」って言うようなラフな人ではあると思うんですけど、自分としてはそれでも縛られているというか……見られている感というか。そういう部分があったんです。でも逆に、大きな彼の存在が自分の中にありながらも、自由になれるところもあるし。だからまあ、楽しくいけたらいいなって思ってますけどね。
──僕は「海賊盤」を聴いて、すごく……これをご本人を前にして言うのも照れ臭いんですけど、とても優しいアルバムだな、と思ったんですね。中村さんって「永遠なるもの」で「愛が、全ての人達に、分けられてますように」っていう万人に向けた愛、それこそジョン・レノンの「Imagine」にも近い全方位的な愛を歌われたわけですけど。でも今回の「海賊盤」は、その優しさとも違う、もう1歩本質的というか、パーソナルに優しいなっていう気がしたんですよ。
ありがとうございます。
──それは「対音楽」からの4年間に魂と出会い、幼少期のトラウマが消え、海賊のメンバーと出会い、ジョン・レノンの年齢を超えたことを経験された中村さん自身の変化として、このアルバムに集約されているのかなあ、と僕は思ったんですよね。
そうですね。僕は曲を作るときは、自分の状況だったりとか、今目の前にいるメンツだったり、あと自分が尊敬してる人の人生とかを、1つひとつ確かめながら作るんです。魂のこともそうだし、海賊っていうメンバーもそうだし、ビクターさんとの縁もそうなんですけど、そういうことを思い浮かべながら作った結果、優しいアルバムに仕上がったのかもしれませんね。あとはジョン・レノンに敬意を払うという意味で「Double Fantasy」感が入っているアルバムになってると思います。
──40歳のときにジョン・レノン&オノ・ヨーコ名義でリリースされた、彼の最後のアルバムですね。ジョンがハウスハズバンド(専業主夫)時代を経て制作しているから、どこか優しさを感じるアルバムになっている。
そうですよね。僕にとってジョン・レノンは曲を作って、音楽をやっていくっていう、ホントのお手本を見せてくれた存在なので。僕もこの区切りのタイミングで同じように優しい作品を作れているというのは、すごく喜ばしいことだなと。「対音楽」までやり切れたが故にできたことなのかなって思いますけど。
──中村さんは「Double Fantasy」に入っている「Woman」がジョン・レノンの曲の中では一番好きだっていうのを「魂の本」の中でおっしゃってますけど。あの曲とか、もう究極に優しいというか、むしろ驚きの曲ですよね。「あのマッチョなジョン・レノンが女性讃歌を!」っていう。
そうですよね。そういう……ホント、やりすぎてるぐらいの優しさってもう、1つの狂気だなと思って。「Double Fantasy」にしても「ここまでショーン(・レノン)のこと歌う?」「ここまで女性女性って言う必要ある?」みたいな(笑)。でもふんわりした、お花畑みたいな優しさで終わっちゃうと聞き手に伝わらないのかもしれないですよね。
日常が一番ぶっ飛んでて、平凡で、不幸で、幸せで
──ニューアルバムに収められる「魂の子守唄」と、2005年にリリースされた100sのアルバム「OZ」収録の「ハルとフユ」という2曲を対比して聴くと、すごく中村さんの変化がわかりやすく見える気がするんです。どちらも自分の家族、一緒に暮らしている動物のことを歌っていて、アルバムのラストソングでもあり。しかも、どちらも「おやすみ」で終わっていて。
そうなんですよね。ただ「ハルとフユ」はホントの終わりなんです。夢の終わり。アルバムのラストソングなんで、夢から覚める瞬間の「おやすみ」だったりするんですけど。でも「魂の子守唄」の「おやすみ」っていうのはどっちかが死ぬまで何回も言う「おやすみ」のことで。僕と魂だけじゃなく、いつか別れは来る。だから「タームこそがホントにハッピーなことなんだよ」って言うための「おやすみ」かなあ、と思っていて。
──毎日続いていく日常の温かさみたいなことなんだろうなあ、と思って聴いていました。
うん、そうですね。日常って一番ぶっ飛んでて、平凡で、不幸で、幸せでっていう、いろんなことが詰まってますよね。そこで、どれだけお互いが一緒に旅をして、成長できるかだと思っていて。2曲目の「アドワン」も、某赤い帽子を被った男と、緑の帽子を被った男をテーマにしているんですけど。
──某ブラザーズですね(笑)。
そうです(笑)。そのゲームをやってる側も兄弟っていう設定の曲なんですよ。兄弟が「Aボタンがいいか、Bボタンがいいか」ってことを言って、クリアを目指してるっていう歌。そういう感じで、どの曲の主人公も成長というか、達成に向かってる歌詞になっているんですよね。それで最後に、どパーソナルな「魂の子守唄」が来る。「僕たちはこうですけどね」というエンドロールっていうか、スタッフクレジット的な曲になっているんです。
──中村さんがこういうモードに入られたっていうことは、じゃあ次はもっと楽しみだなって思いました。
どんどん海賊たちが集まってきてくれるんで。どこまで増やせるか、やってみようかなって。でも相変わらず僕は自分のやりたいことを思い立ったときにやっちゃうと思いますけどね(笑)。
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- ニューアルバム「海賊盤」 / 2016年3月2日発売 / Victor Entertainment
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3780円 / VIZL-927
- 通常盤 [CD] / 3240円 / VICL-64514
CD収録曲
Side. A
- スカイライン
- アドワン
- MAD / MUD
- GTR.
- 世界は笑う
- 我燦々
Side. B
- こうでこうでこう
- 大海賊時代
- ビクターズ
- あれやこれや
- 魂の子守唄
ほか
初回限定盤DVD収録内容
- 「スカイライン」(Music Video)
- Documentary of 「海賊盤」収録
- DVD「金字塔完成記念日~エドガワQ 2015~」 / 2016年3月2日発売 / 5940円 / Victor Entertainment / VIBL-793
- DVD「金字塔完成記念日~エドガワQ 2015~」
収録内容
第1部
- 始まりとは
- 犬と猫
- 街の灯
- 天才とは
- 瞬間で
- 魔法を信じ続けるかい?
- どこにいる
- ここにいる
- まる・さんかく・しかく
- 天才たち
- いっせーのせっ!
- 謎
- いつか
- 永遠なるもの
- 犬と猫 再び
- シークレット(おまけ)
第2部
- グレゴリオ
- 君ノ声
- ジュビリー
- ショートホープ
- 1,2,3
- キャノンボール
- スカイライン
- ロックンロール
中村一義 Live Tour 2016
- 2016年4月15日(金)
- 埼玉県 HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
- 2016年4月17日(日)
- 茨城県 club SONIC mito
- 2016年4月22日(金)
- 宮城県 仙台MACANA
- 2016年4月28日(木)
- 愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2016年4月30日(土)
- 岡山県 IMAGE
- 2016年5月15日(日)
- 北海道 札幌KRAPS HALL
- 2016年5月20日(金)
- 大阪府 梅田CLUB QUATTRO
- 2016年5月22日(日)
- 福岡県 BEAT STATION
- 2016年5月31日(火)
- 東京都 赤坂BLITZ
中村一義(ナカムラカズヨシ)
1975年、東京都江戸川区出身のシンガーソングライター。1997年1月にシングル「犬と猫 / ここにいる」でデビューし「金字塔」「太陽」「ERA」というオリジナルアルバム3枚をリリースする。2001年「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2001」に出演した際のバンドメンバーが集結し、2002年にアルバム「100s」を発表。2004年には同メンバーでバンド・100sとしての活動を開始し、3枚のフルアルバムをリリースした。2012年2月に約10年ぶりとなるソロ名義での新作CD「運命 / ウソを暴け!」を、7月にアルバム「対音楽」を発表。同年12月にはデビュー15周年記念ライブ「博愛博 2012」を東京・日本武道館で実施した。2014年には盟友・町田昌弘(100s)とのトーク&弾き語りライブツアー「まちなかオンリー!2014」、自身初となる地元・江戸川区での特別公演「エドガワQ」、約12年振りとなるソロ名義のバンドツアー「RockでなしRockn'Roll」を開催。2016年3月にはビクターエンタテインメント移籍後初のアルバム「海賊盤」、ライブDVD「金字塔完成記念日~エドガワQ 2015~」を発売した。