音楽ナタリー Power Push - 中村一義
ジョン・レノンの享年を超えて完成させた“優しい”アルバム
中村一義がビクターエンタテインメント移籍後初となるニューアルバム「海賊盤」を3月2日にリリースした。2015年から16年にかけて開催されたライブツアー「RockでなしRockn'Roll」、地元・江戸川区での特別公演「エドガワQ」を共に駆け抜けたバンド“海賊”のメンバーと作り上げた待望の1枚だ。
2012年7月発売のアルバム「対音楽」で自身のキャリアを総括したという中村が、敬愛するジョン・レノンの享年となる40歳を超えて制作した「海賊盤」に込めた思いとは? 音楽ナタリーでは中村の地元である江戸川区小岩で取材を実施。ニューアルバムのジャケットに登場する愛犬・魂(ゴン)と共に小岩を散策する中村を写した撮り下ろしのビジュアルにも注目してほしい。
取材・文 / 和泉一代 撮影 / 上山陽介
自分は、まだ犬と暮らすことができない
──撮影でも大活躍だった愛犬・魂(ゴン)ですけど、中村さんと魂はどういった形で出会ったんですか?
2年半前ぐらいになるのかなあ。2013年の冬だったと思うんですけど、僕は商店街で飲み歩いたり、知らない町にブラブラ出かけるのが好きなんですね。それで町田にも何度か行ってたんですけど、町田にはいなたい商店街みたいなのがあって、その手前にペットショップがあるんですよ。その前を通ったときにパッと目をやったら、目が合っちゃったんですよ、こいつと(笑)。
──魂と。
ほかのワンちゃんは、すごく「キャンキャンキャンキャン」ってアピールしてくるんですけど、目が合ったくせに、こいつだけはムスっとしてて。合った目を、また伏せて(笑)。「ああ、こいつ、悲しいもん持ってんな」と思って、夫婦間で相談をして「連れていこうか」ってなったんです。それで「行くぞ」って言ったら、それまでムスってしてたのがブワッと笑顔になって(笑)。「こいつ、なんか持ってるか、ぶってるかどっちかだな」って。一緒に生活することでそれを見極めてやろうと思ったんですよね。まあ、何かしら縁を感じるものがあったんですよ。なので、即日連れてきたんです。
──犬を飼われるっていうところでいうと、僕は中村さんが2010年に刊行した自伝「魂の本 ~中村全録~」の中でおっしゃっていた、死んでしまったレオの話を思い出すんですよ。中村さんにとって「犬と暮らす」というのはけっこうつらい時期の思い出とリンクしちゃうんじゃないかなって思うんですけど。
そうですねえ……自分には無理なのかなって思ってましたね。「自分は、まだ犬と暮らすことができない」というか。僕は幼少期に親が離婚したりとかいろいろありましたけど、レオとの別れが一番つらかったですからね。別に親が離婚しようが何しようが、そんなのは屁のカッパだったんですけど(笑)。レオのことだけが心残りだったんですよね。
「ついに、そのときが来たんだ」と思った
──「魂の本」を読んでいない方のために、そこら辺をおさらいしておきたいんですけど、レオっていうのは……。
小学生のとき家にいた犬なんです。レオが家に来る前にはノンっていう犬がいたんですよ。でもノンは家から逃亡しちゃって、いくら探しても見つからなくて。僕の家はもう、母親と父親が毎晩大ゲンカしてたから「そんなんやってたら逃げるに決まってるだろ」とか思ってたんです。だからレオを飼うときに「ノンが行っちゃったのに、また飼うのかよ」「また同じように、どうせ逃げるぜ」っていうのがあって。散々それを忠告したんですけど、実際に家に来てみたら結局仲よくなったんです。それに両親が家にいないんで、レオと俺の2人だけの暮らしになって。周りの友達からも「中村と言えばレオ」って言われるぐらい、いつも一緒にいたんですよ。俺がフィギュアになったらレオが絶対付いてくるみたいな(笑)。
──セットになって(笑)。
それで1年半ぐらい、そんな生活をしてて。レオに何をあげていいのかわからないから、精一杯の小遣いで買った「うまい棒」10本分を2人で分け合って食べたりとか、犬小屋で一緒に寝たりとかしてましたね。ホント、一緒に生活してたんです。でもそんなある日、小学校に電話がかかってきて「お前の家の犬が轢かれた」って。レオ、家のすぐ近くで事故死しちゃったんですよね。それで「ほら見たことか、嫌な家庭からは逃げるんだ」って思ってしまって。
──そうだったんですね。
しかも、その日レオは小学校に一緒に行きたそうな顔をしてたんですよ。それを制止して僕は学校に行ったんで、思い出すとちょっと心苦しいですね。あのとき、学校で怒られても何してでもレオを連れて行けばよかったなあっていうのは、心残りとしてあって。だからまあ、大人になっても犬は無理かなあっていう、責任の重さみたいなのを必要以上に感じていた部分もあったんですよ。でも逆に言ったら犬との生活の末がゴールだと思う部分もある。レオがお兄ちゃんみたいに僕を育ててくれた、というところがありましたから。だからいつかは犬に恩を返して死んでいきたいなっていうのは思ってたんですよ。
──そして、それが魂だった。
町田でこいつと目が合っちゃったっていうのは、「ああ、こいつなんだ」っていうことなんだろうって。だから、魂と会った2年半前「ついに、そのときが来たんだ」と思ったんですよね。
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- ニューアルバム「海賊盤」 / 2016年3月2日発売 / Victor Entertainment
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 3780円 / VIZL-927
- 通常盤 [CD] / 3240円 / VICL-64514
CD収録曲
Side. A
- スカイライン
- アドワン
- MAD / MUD
- GTR.
- 世界は笑う
- 我燦々
Side. B
- こうでこうでこう
- 大海賊時代
- ビクターズ
- あれやこれや
- 魂の子守唄
ほか
初回限定盤DVD収録内容
- 「スカイライン」(Music Video)
- Documentary of 「海賊盤」収録
- DVD「金字塔完成記念日~エドガワQ 2015~」 / 2016年3月2日発売 / 5940円 / Victor Entertainment / VIBL-793
- DVD「金字塔完成記念日~エドガワQ 2015~」
収録内容
第1部
- 始まりとは
- 犬と猫
- 街の灯
- 天才とは
- 瞬間で
- 魔法を信じ続けるかい?
- どこにいる
- ここにいる
- まる・さんかく・しかく
- 天才たち
- いっせーのせっ!
- 謎
- いつか
- 永遠なるもの
- 犬と猫 再び
- シークレット(おまけ)
第2部
- グレゴリオ
- 君ノ声
- ジュビリー
- ショートホープ
- 1,2,3
- キャノンボール
- スカイライン
- ロックンロール
中村一義 Live Tour 2016
- 2016年4月15日(金)
- 埼玉県 HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
- 2016年4月17日(日)
- 茨城県 club SONIC mito
- 2016年4月22日(金)
- 宮城県 仙台MACANA
- 2016年4月28日(木)
- 愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2016年4月30日(土)
- 岡山県 IMAGE
- 2016年5月15日(日)
- 北海道 札幌KRAPS HALL
- 2016年5月20日(金)
- 大阪府 梅田CLUB QUATTRO
- 2016年5月22日(日)
- 福岡県 BEAT STATION
- 2016年5月31日(火)
- 東京都 赤坂BLITZ
中村一義(ナカムラカズヨシ)
1975年、東京都江戸川区出身のシンガーソングライター。1997年1月にシングル「犬と猫 / ここにいる」でデビューし「金字塔」「太陽」「ERA」というオリジナルアルバム3枚をリリースする。2001年「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2001」に出演した際のバンドメンバーが集結し、2002年にアルバム「100s」を発表。2004年には同メンバーでバンド・100sとしての活動を開始し、3枚のフルアルバムをリリースした。2012年2月に約10年ぶりとなるソロ名義での新作CD「運命 / ウソを暴け!」を、7月にアルバム「対音楽」を発表。同年12月にはデビュー15周年記念ライブ「博愛博 2012」を東京・日本武道館で実施した。2014年には盟友・町田昌弘(100s)とのトーク&弾き語りライブツアー「まちなかオンリー!2014」、自身初となる地元・江戸川区での特別公演「エドガワQ」、約12年振りとなるソロ名義のバンドライブツアー「RockでなしRockn'Roll」を開催。2016年3月にはビクターエンタテインメント移籍後初のアルバム「海賊盤」、ライブDVD「金字塔完成記念日~エドガワQ 2015~」を発売した。