ナタリー PowerPush - 中村一義
ベートーベンと二人三脚 10年ぶりソロ始動
わかりにくくていいと思ってる
──そもそも「ウソを暴け!」の「ウソ」をカタカナで書いているところも気になります。
それはあえてそうしたんです(笑)。
──で、歌詞カードを読むと漢字で「嘘」と書いてある箇所もあるし。
その、カタカナと漢字で使い分けてるんです、意味を。
──そういうことですよね。
カタカナの「ウソ」は巷で溢れてるような「ウソつくんじゃねえよ(笑)」とか言ってるときの嘘で、漢字の「嘘」は心からの嘘として書いてる。そういう表現は100sではなかなかなかったかもしれないですね。
──若干わかりにくいですよね(笑)。
(笑)。なんていうか、自分の中に語りかける言葉とそれを口に出して人に言うときの言葉って、ニュアンスが違ったりして。そこのわかりにくさなんです。で、わかりにくくていいと思ってるし、わかってもらうためだけに音楽をやっているわけではないですから。それだったら「わかりあいたい」くらい欲張りたいですし。
──中村さんは一貫してわかりにくさを恐れないですよね。多分デビューの頃にそれはもっと顕著で、他者なんてものは意識の外にあって、自分のために自分のことを歌うという姿勢が中村さんの原点だったと思うんです。
そうですね。まず自分を知らないと人ともかかわりあえないと思ってたんで。
──でも今の中村さんはちゃんと他者の存在を知って、他者とかかわって、自分の思いを伝えようとしている。それなのにこのわかりにくさっていうのは?
まあ、本音っていうのはなかなかわかりにくいものというか、本音っていうかその周りかな。本音にたどり着くまでに「こいつ何言ってんだ?」みたいな会話があったりするじゃないですか。誰かと話してて「1時間喋ったけど、重要な話は3分くらいだったよな」みたいな。その「1時間が持つリアル / ファンタジー」、そして「その中の3分間が持つリアル / ファンタジー」が好きなんでしょうね。時間は皆に平等にあったとしてもその時間の感じ取り方は人それぞれですから。だから「わかりにくさ」とは異質なものに直面したときの表現なわけであって、だとしたら「わかりにくさ」として受け取られるものはブラッシュアップしていけば表現としての個性につながると思うんです。例えば自分にとっての岡本太郎さんの作品のように。
強い言葉でいびつさを突き抜けたい
──本音の周りにあるものも味わいつつ、やっぱり本音を伝えたいという思いはありますよね。
うん、難癖つけたり言い訳したりして「今こうだからこの程度しかできない」とかいうのはイヤだなと思って。いびつでもわかりにくくても、ちゃんと自分で言うって決めたことをはっきり言いたいんです。
──いびつだっていう自覚はあるんですね。
15年やってきてると、それはねえ(笑)。
──そこなんですよね。自分の部屋の中で自分のことだけを歌ってるのも、他人とバンドをやって多くの人に伝えていこうっていうのも、どちらもそれぞれに完結していて矛盾はないと思うんです。でも今の中村さんの表現っていうのは、その両方をやろうとしているみたいに見えて。
はっきり強い言葉で歌って、いびつさや混沌を突き抜けるっていうのが今やってることなんだと思います。僕の表現はどの時代だっていびつだったんですよ。部屋にこもってたのもいびつだし、そんなやつがバンド組むっていうのもいびつだし。だからこそ今回、その混沌に対して何を言うかっていうのはすごい考えました。
──中村さんは、今の音楽シーンみたいなものがあるとして、そこで自分の音楽がどういうふうに聴かれて、受け入れられていると思いますか?
うーん、どうかな。やっぱ「ジャンルレスだ」って思われてるんじゃないですかね。それは異質っていうのも含めて。
──異質だっていう自覚もあるわけですね。
ありますね。どこかのジャンルの中で頭角を現すとかそういうことは全く考えたことがないんで。だから、究極的に言うと僕の異質さイコール、僕の個性なんじゃないですかね。
CD収録曲
- 運命(Takkyu Ishino Remix)Remixed by Takkyu Ishino
- 希望(やけのはら Remix)Remixed by やけのはら
- キャノンボール(EVOL REMIX)Remixed by NAKAKO
- 1,2,3(FPM HyperSociety Mix)Remixed by FPM
- ジュビリー(you & me mix)Remixed by DE DE MOUSE
- 犬と猫(SOKABE RE-EDIT)Remixed by 曽我部恵一
中村一義(なかむらかずよし)
1975年、東京都江戸川区出身のシンガーソングライター。作詞、作曲、アレンジ、すべての演奏を1人で行う制作スタイルをとり、1997年1月に「犬と猫 / ここにいる」でデビュー。その後「金字塔」「太陽」「ERA」というオリジナルアルバム3枚をリリース。2001年「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2001」に出演した際のバンドメンバーが集結し、2002年にアルバム「100s」を発表。その後2004年には同メンバーでバンド・100sとしての活動を開始し、3枚のフルアルバムをリリースした。2011年4月にはそれまでの活動を総括するベストアルバム「最高宝」とコンプリートボックスセット「魂の箱」をリリース。2012年2月に約10年ぶりとなるソロ名義での新作「運命 / ウソを暴け!」を発表した。