音楽ナタリー Power Push - 中嶋ユキノ

浜田省吾が惚れ込んだキャリア13年の“新人” 満を持してメジャーへ

プロデューサー浜田省吾との制作作業

──3人でのディスカッションも含め、今回はじっくりと時間をかけて作られたと聞いています。

時間はかけさせていただきましたね。今回、音色にめちゃくちゃこだわりましたから。浜田さんはもともとドラムをやられていたので、スネアの音色1つとっても「それは違う」「もうちょっと柔らかい音で」とか、最後の最後まで徹底してこだわっていました。そういうところを間近で見れたのもすごく勉強になりましたね。

──特に時間をかけて制作した楽曲というと?

「Starting Over」ですね。私自身の思い入れが強すぎるっていうのもあるんですけど、テンポを決めるのにかなり時間がかかって。この曲はもともと、BPMが95っていうわりかしゆっくりなテンポだったんですけど、「これはテンポを速くしてロックにしたら絶対カッコよくなるよ。ライブの最後にやったら、みんながイエイってなるよ。どう?」って浜田さんがおっしゃって。でも私の中には95のイメージしかなかったんで、なかなか「はい」とは言えなくて。キーを変えずにテンポだけ変えられるアプリを使って、速くしたものを何度も何度も聴いたけど、どうしてもダメで(笑)。

スタッフ 移動の車の中でも浜田さんと2人でずっとやり取りしてるんですよ。「じゃ中嶋さん、とりあえず100で聴いてみよう」「うーん」「じゃ101」「うーん」「102」「うーん」みたいな(笑)。

──徐々にテンポを上げていく作戦(笑)。

中嶋ユキノ

で、BPMを108にして聴いてたときに浜田さんが「これって煩悩の数だからさ、いろんな邪念に負けず、あきらめない強さを持つっていうメッセージにもなるでしょ。だから108にしようよ」っておっしゃったんです。でも私は煩悩の数を知らなくて。「それってなんですか?」って言ったら、浜田さんが持ってた鉛筆をポロッと落とされて。それ以来、テンポの話はしばらくなくなったんですよね(笑)。

──あははは(笑)。でも収録されている曲を聴くと、テンポはだいぶ速めですよね。

そうなんです。そこから再び押されて、最終的には110になりました(笑)。だいぶ抵抗しちゃいましたけど、すごくいい仕上がりになったと思います!

──いいエピソードですねえ。今回のアルバムにはそんな浜田さんのオリジナル曲「夜はこれから」の中嶋ユキノバージョンや、浜田さんとのデュエット曲「時計の針」も収録されていますね。

「夜はこれから」はもともと、男性目線で書かれた楽曲なんですけど、「女性目線にしたらどうか」っていうアイデアを浜田さんからいただいて。すぐに歌詞も書いてくださったんです。オリジナルバージョンは浜田さんのツアーでずっと歌わせていただいていたので、歌詞が変わったものはすごく新鮮でしたね。女目線だとこんなに印象が変わるんだなあって。「時計の針」に関しては7年くらいずっと弾き語りで歌ってきた曲なので、まさかデュエットソングになるとは思ってませんでしたね。2人で歌うことになるので歌詞を書き直そうかっていう話もあったんですけど、ちゃんと物語として成立していたのでそのままにしました。浜田さんの低音が効いた声が入ったことで、より切なく生まれ変わったと思います。

「自分の音楽人生を一からやり直してるようだ」

──今回の制作を通して、“浜田プロデューサー”からどんなことを学びましたか?

私は自分の作る歌詞と曲に対して今まではあまり自信がなかったんですよ。でも浜田さんとの作業の中で、自分の作る楽曲の力みたいなものをちゃんと信じてあげることの大切さを学びましたね。あとは、人から言われることに耳を傾ける謙虚さを持つこと、かな。

──あははは(笑)。それ、浜田さんに言われたんですか?

いやいや、直接言われたわけではないですけど、制作を通して自分なりにそう感じました。いいと思うこと、悪いと思うこと、納得ができないことは自分が一番よくわかってるから、それを信じることは大事だけど、先輩方の提案を受け入れることでよくなった部分も本当にたくさんあるので頑固だけではダメだなって。総括すると、本当に楽しいレコーディングでした! 浜田さんも「自分の音楽人生を一からやり直してるようだ」っておっしゃってくれましたからね。すごくうれしかったです!

──メジャーデビュー作であり、これまでの活動の集大成的な意味もある本作が完成したことで、今後について見えてきたところはありますか?

まずは11月2日にワンマンライブが決まっています。バンドでやるのは9年ぶりくらいだし、バンドと一緒に自分もピアノを弾いて歌うのは生まれて初めてなので緊張しつつも、ものすごく楽しみですね。それをきっかけに、全国の皆さんにもこの作品を生で聴いていただけるようにがんばっていきたいなって思います。

──一度はあきらめかけたシンガーソングライターとして、改めて燃えている感じですか?

ここからまたもう一度、っていう感じです。まさかこの道をもう一度歩めることになるとは思っていなかったので、自分の歌を届けられる喜びと感謝の気持ちを忘れずに進んでいきたいですね。このアルバムのマスタリングをしている段階で、もうすでに次はどんなものを作ろうかなって考えちゃっていたので、これからが本当に楽しみです!

ニューアルバム「N.Y.」2016年8月31日発売 / 3000円 / SME Records / SECL-1973
「哀余る」
収録曲
  1. September Dream
  2. 雨降りフラレ
  3. 斜め45度
  4. そばにいるから
  5. 大好きって言えば良かった
  6. 朝がくれば
  7. 助手席
  8. ALL FOR ONE
  9. 月灯り
  10. 夜はこれから(N.Y.Version)
  11. 時計の針
  12. Starting Over
  13. アイシテルの言葉
ライブ情報

中嶋ユキノ Live “November 2016 in N.Y.”
2016年11月2日(水)東京都 クラブeX
OPEN 18:30 / START 19:00

中嶋ユキノ(ナカジマユキノ)

1984年生まれ、東京都出身のシンガーソングライター。2003年に音楽活動を始め、川嶋あい、水樹奈々、ももいろクローバーZなどのライブや、華原朋美、ポルノグラフィティ、久保田利伸らのレコーディングにコーラスとして参加する。並行して中森明菜、上戸彩、AAAなどへ歌詞を提供するなど作家としても活躍。2011年に「桜ひとひら」を配信リリースし、以降コンスタントに楽曲を配信する。2012年には配信楽曲を集めたアルバム「Dear...」を、2013年にはセルフプロデュースによる弾き語りアルバム「Starting Over」をリリース。2015年に浜田省吾のアルバム「Journey of a Songwriter ~ 旅するソングライター」に収録されている「夜はこれから」にコーラスで参加した縁で、浜田のツアーにも参加。2016年8月に浜田省吾プロデュースによるメジャーデビューアルバム「N.Y.」を発表した。