音楽ナタリー Power Push - 「中島みゆきConcert 『一会(いちえ)』2015~2016 劇場版」特集
平原綾香がひも解く中島みゆき真の魅力
中島みゆきが2015年11月から2016年2月にかけて東京と大阪で開催したコンサートツアー「中島みゆき Concert 『一会(いちえ)』2015~2016」。このステージの模様が1月7日より東京・新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国の映画館で上映される。またコンサートのリハーサルに密着した劇場版限定、完全未公開の“リハーサルドキュメンタリー”の同時上映が決定したことも、本作の大きな見どころである。
音楽ナタリーでは本作の上映に先立ち、「一会」について深く掘り下げるべく平原綾香にインタビューを実施した。2015年に東京と大阪で開催された「中島みゆきRESPECT LIVE『歌縁』(うたえにし)」では「糸」をカバーし、そのときの音源を収録したライブCD「『歌縁』(うたえにし)- 中島みゆきRESPECT LIVE 2015 -」が11月に発売されたほか、1月にスタートする「中島みゆきリスペクトライブ2017 歌縁」にも参加が決まっている彼女。また、今年4月に発表したアルバム「LOVE」には自ら中島へ楽曲提供をオファーした「アリア-Air-」が収められている。
敬愛する中島の楽曲を歌い育てているという平原に、中島の魅力が詰まった「一会」について語ってもらった。
取材・文 / 大谷隆之
初めて「糸」を聴いて大号泣
──1月7日から全国公開される「中島みゆきConcert 『一会(いちえ)』2015~2016 劇場版」を先行してご覧になった率直な感想はいかがでしたか?
とにかく中島みゆきさんの歌と、まっすぐ向き合える映像作品だと感じました。なんだろう、ステージの全体像やライブの雰囲気もしっかり捉えつつ、みゆきさんが自分のすぐ近くで歌ってくれている感覚もあって。ファンにはたまらないですね。ただ、お家だとやっぱり集中しきれない瞬間もあるでしょう。その点、映画館というのは特別な場所なので……。
──作品の世界観にどっぷり入れますね。
そう! しかもそれを劇場の音響設備で、大きな音で体験できるのは今回の企画の魅力だと思います。この「一会」ツアーは、全体が「Sweet」「Bitter」「Sincerely Yours」の3部構成になっていて、とってもドラマチックなんですよね。セットリストもわりと初期の曲から最新アルバムの曲まで広く選ばれていて、1曲ごとにいろんな表情のみゆきさんと出会えるのもうれしい。すごいなと思うのは、それらが集まってまた新しいストーリーが紡がれていくんですよ。それこそ、“息もつかせぬ”という表現がぴったりくるような演出で。
──劇場版では楽しいMCをあえて省略し、曲と曲だけをスムーズにつなげているから余計にその印象が強まるのかもしれませんね。
そうだと思います。その意味では実際にこの「一会」のツアーに参加されたファンの方が見直しても新鮮に響くだろうし、新たな発見があると思う。
──ちなみに平原さんご自身はいつ、中島みゆきさんの音楽に目覚めたんですか?
子供の頃から耳にはしていたんですが、本当の意味で出会ったと言えるのは7年前かな。鶴岡八幡宮で毎年開かれている奉納ライブに出演させていただいた際(「鎌倉音楽祭 鶴舞2009」)、みゆきさんの「糸」という曲を中孝介さんとデュエットすることになったんです。そのとき私、初めて聴いて大号泣してしまって。
──心を一発でつかまれてしまった?
わしづかみでした! ああ、こんな深い世界があったんだなって。たぶん、デビューから数年がたって、自分が20代半ばに差しかかっていたというのも大きかった気がします。子供の頃って、何か嫌なことがあっても、ひと晩たっぷり寝れば忘れられたりするじゃないですか。でも大人になっていろんな経験を重ねていくと、人生は一筋縄じゃいかないんだなってことが身に染みてくる。
──そうですね。確かに。
どんなにがんばっても、いつも元気ではいられないんだなって(笑)。私ね、みゆきさんの歌に出会うまで自分は常にポジティブじゃなきゃいけないって思っていたんです。歌うときも詞を書くときも、人に弱みを見せちゃいけないんだって。でもみゆきさんの曲って、すっごく苦しいシチュエーションを歌っていても、なぜか気持ちが励まされたりするんです。心に寄り添ってくれて、悲しみが浄化されるというか……。
──例えば「糸」では、どの部分にグッときました?
曲全体が素晴らしいのですが、歌っていて特に泣いちゃうのは2番。(目を閉じて静かに歌いつつ)「♪なぜ生きてゆくのかを 迷った日の跡のささくれ」というところかなあ。これもやっぱり、大人だからこそわかる痛みの描写だと思うんです。だって小さい頃は、自分の人生に“ささくれ”ができるなんて想像できなかったから。それで親しい友達に、「中島みゆきさんの『糸』って歌、すごいね!」と話したら、「綾香、遅いよ!」って。で、その友達から「化粧」を薦めてもらって、聴いたらこれがまた大号泣(笑)。そこからどんどん、みゆきさんの魅力にはまっていきました。
当たり前で大切なことに気付かせてくれた
──悲しみや苦しみを歌うことで聴く人を逆説的に励ますというのは、中島みゆきさんの表現のエッセンスかもしれません。平原さん、「タクシードライバー」という1970年代の曲はお聴きになったことあります?
それはまだ聴いていないですね……。
──孤独な魂を抱えた主人公が、深夜に酔っ払ってタクシーを拾ったら、運転手さんがけっこう苦労人っぽくて。泣いてる理由は何も聞かずに、ひたすら天気とプロ野球の話ばかり繰り返してる、という曲なんですけど。
うわー、もう、そのシチュエーションを聞いただけでウルッときちゃうな。
──以前テレビでマツコ・デラックスさんが、悲しいときはこの曲を聴くんだと話していたのを、今ふと思い出しました(笑)。
ぜひ聴いてみます。でもほんと、そういうことだと思うな。みゆきさんの詞の世界って単に悲しいだけじゃなく、泣きながら笑ってるとか、その逆だったり。喜怒哀楽の感情が複雑に入り混じってるんです。だから初めて「糸」を聴いたとき、あんなに泣けたんだと思う。たとえ悲しい感情であっても、それを物語にして届けることで、聴く人を勇気付けることもあるんだなって。私にとって中島みゆきさんは、そういう当たり前で大切なことに気付かせてくださったアーティストです。
──その後、歌手・平原綾香にとって「糸」は大切なレパートリーになりましたか?
はい。「歌縁(うたえにし)」というみゆきさんのリスペクトライブでもカバーさせていただいたし、一昨年のツアーでもずっと歌わせていただきました。自分でも驚くのは、そうやって回数を重ねていっても、初めて聴いたときの感覚を覚えてるんですよね。胸を締め付けられる感覚が、ステージごとによみがえる。で、そのたびにメロディと歌詞の力で心が癒されていく感じがします。
──へええ、それはすごい。
ツアーの初期には、歌いながら泣きそうになってしまったこともけっこうあったんです。でもだんだん涙とは違う、より深い感情も自分の中に生まれてきたりして。「ああ、こうやって聴く人を励まし、同時に歌ってる人にも勇気を与えて、次の一歩を踏み出させてくれるのが本当の名曲なんだな」って。ツアーを通して実感しました。
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「中島みゆきConcert 『一会(いちえ)』2015~2016 劇場版」2017年1月7日東京・新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
2017年1月7日東京・新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー。劇場版限定、完全未公開の“リハーサルドキュメンタリー”も同時上映。
全国のHMVでは「中島みゆきConcert 『一会(いちえ)』2015~2016 劇場版」のB1サイズポスターを先着でプレゼントするキャンペーンを1月15日まで実施中。詳細はキャンペーン公式サイトで確認を。
- ライブBlu-ray / DVD「中島みゆきConcert 『一会(いちえ)』2015~2016」 / 2016年11月16日発売 / YAMAHA MUSIC COMMUNICATIONS
- Blu-ray Disc / 8640円 / YCXW-10010
- DVD / 7560円 / YCBW-10068
収録内容
- もう桟橋に灯りは点らない
- やまねこ
- ピアニシモ
- 六花
- 樹高千丈 落葉帰根
- 旅人のうた
- あなた恋していないでしょ
- ライカM4
- MEGAMI
- ベッドルーム
- 空がある限り
- 友情
- 阿檀の木の下で
- 命の別名
- Why & No
- 流星
- 麦の唄
- 浅い眠り
- 夜行
- ジョークにしないか
- ライブアルバム「中島みゆき Concert『一会』(いちえ)2015~2016‐LIVE SELECTION‐」
- 2016年11月16日発売 / YAMAHA MUSIC COMMUNICATIONS / CD / 3000円 / YCCW-10284
収録曲
- やまねこ
- 六花
- 樹高千丈 落葉帰根
- 旅人のうた
- ライカM4
- MEGAMI
- 空がある限り
- 命の別名
- Why & No
- 流星
- 麦の唄
- 浅い眠り
中島みゆき(ナカジマミユキ)
1975年にシングル「アザミ嬢のララバイ」で歌手デビュー。続く2ndシングル「時代」で世界歌謡祭グランプリを受賞する。その後も「わかれうた」「悪女」「誘惑」など数々のヒット曲を産み出し続ける一方で、1979年から1987年までニッポン放送「オールナイトニッポン」のパーソナリティを担当。ラジオでのハイテンションなトークと楽曲イメージとのギャップにより人気に輪をかけた。1989年には脚本・作詞・作曲・歌・主演のすべてを中島が務める舞台「夜会」をスタートさせ、2016年11、12月には第19回となる「夜会VOL.19 橋の下のアルカディア」を開催した。2013年より劇場上映されるようになった「夜会」に続き、2017年にはコンサート映像「一会」もスクリーンに登場する。
- NAKAJIMA MIYUKI OFFICIAL SITE
- YAMAHA MUSIC COMMUNICATIONS CO., LTD. | 中島みゆき
- miyuki_staff (@miyuki_staff) | Twitter
- 中島みゆきの記事まとめ
平原綾香(ヒラハラアヤカ)
1984年東京生まれ。音楽大学在学中の2003年12月に、シングル「Jupiter」でメジャーデビューを果たす。この曲がジワジワとチャート上位に食い込み、結果ミリオンヒットを記録。2004年のオリコン年間シングルチャートのトップ3入りを果たした。その後もフジテレビ系ドラマ「優しい時間」の主題歌「明日」や、NHKのトリノオリンピック放送テーマソング「誓い」などをリリースし、2009年に発表したクラシック曲のカバーアルバム「my Classics!」は「第51回輝く!レコード大賞」で優秀アルバム賞を獲得した。2016年4月には中島みゆきをはじめ、財津和夫、尾崎亜美、玉置浩二、徳永英明、岡本真夜らからの提供曲を収めた9枚目のオリジナルアルバム「LOVE」を発売、同年5月より本作を携えた全国ツアー全36公演を完遂した。2017年1月には「中島みゆきリスペクトライブ2017 歌縁」に出演するほか、5月27日より自身の全国ツアー「平原綾香 CONCERTTOUR 2017」(仮)の開催も決定。また7~8月に帝国劇場で上演されるブロードウェイミュージカル「ビューティフル」ではキャロル・キング役で主演を務める。