あくまでポップにしたかった
──ではここからは中島さんに、アルバム「green diary」について詳しくお伺いします。まずここ最近の活動のことについてお聞きしたいのですが、2020年はどのように過ごされていたんですか?
私はもともとインドアなタイプではあるんですけど、こういった状況の中、気持ち的にはけっこう落ち込んじゃいましたね。だから昨年の春頃は特に、SNSとかは正直全然更新できなかったです。落ち込んでいるというのを書くべき立場ではなくて、むしろエールを送ったり少しでも息抜きしてもらう材料を投げかけたりするべきなんじゃないかと思ったので。かといって安直に励ますこともできないし……。
──アーティストのように、発信をする立場の人は本当に難しいですよね。
もちろん真っ先に行動したり言葉をかけられたりする人は素晴らしいなと思うけど、自分は普段から様子を見るタイプなので、結果的に気持ちが沈んでしまって。それがちょうどアルバムの構想を練り始めた頃と重なっていたので、そのへんはもしかしたら作品にも影響が出ているかもしれないです。
──でも結果的にアルバムはとても軽やかな作品になっているというのがまた面白いですね。
そうですね。今回のアルバムは緑という自分のデビューのときから特別で切り離せないものにフォーカスしていて。緑というのはランカを象徴する色でもあるので、それをテーマに作品を作るって自分自身について語るということでもあると思うんですよ。ただ、「自分の感情をドロドロに吐露します」みたいなことはしたくなくて。あくまでポップにしたかったので、軽さが出ていると言われるとすごくうれしいです。
──曲の方向性を自分の中である程度イメージしたうえでアルバムの全体図を設計していったんですか?
「緑をテーマにしたい」というプレゼンをスタッフにしたんですけど、緑とひと言で言ってもいろんな緑があるだろうし、未熟さから豊かさまで幅広く表現できる色じゃないですか。だから1曲ずつ違う緑色を当てはめて、なおかつ「○○をしているときの私」というテーマを決めた状態で作家さんにお願いしようと提案しました。それで、私が書いてほしいと思っている作家さんと、スタッフさんが「ぜひこの人の歌を歌ってみてほしい」と推薦してくださった方をうまい具合にすり合わせていって。曲順もほぼ決めた状態でオファーしました。
──アルバムの特設サイトでは「recording diary」として、アルバム制作についてつづられた日記も公開されています。
私、文章を書くのが苦手というか恥ずかしくて、毎週締め切りに追われながら書いています(笑)。自己表現をするのが照れくさいタイプなので、けっこうなチャレンジですね(笑)。
「影でーす!」
──リード曲の「GREEN DIARY」は尾崎雄貴(BBHF)さんによる書き下ろしです。この曲の歌詞には昨今の世情も反映されているんでしょうか。
アルバム全体で具体的にそういったオファーをしたわけではなかったんですが、こういう状況下でアルバムを作ることになったというのも何か意味があるだろうと思って、曲に今の状況が自然と反映されるというところは避けたくなかったですね。
──全10曲の中でこれをリード曲にした理由は?
もともと尾崎さんにリード曲を書いてくださいというお願いをしていて、「GREEN DIARY」というタイトルも決めた状態でオファーさせていただいたんです。同世代で、なおかつ自分と同じくらいの年齢から活動を開始されている方なので、だからこそわかってもらえる喜びや葛藤があるかなと思ったんです。そういった部分を全面的に見せたかった。影の部分をチラチラ見せるんじゃなくて、「影でーす!」という感じで出したかったので(笑)、光も影もはっきりと感じられるこの曲をリード曲にできてうれしいです。
──清竜人さんの提供曲「ハイブリッド♡スターチス」は、どういうリクエストをしたんですか?
今回のアルバムは、31歳のときにしか作れない作品にしたかったんですよ。「ハイブリッド♡スターチス」に関しては、「もう恋とかいいかなー」と思ってる同世代の子が、次の日に目がハートマークになっているみたいな(笑)、そういう大人のかわいさを曲にしてほしいなと。レコーディングが終わったあとに「最近自分が作った中でもかなり思い入れのある曲になりました。ありがとうございます」と言っていただいて、うれしかったですね。
──この曲は今あまりないフェードアウトで終わりますが、なぜか懐かしさを感じるカーブのフェードアウトなんですよね(笑)。
そうなんです! 私大好きなんですよ、フェードアウト(笑)。盛り上がるアウトロでフェードアウトすると気持ちが上がりますよね。最近こういうフェードアウトする曲ってあまりないので、うれしかった。この曲の肝です(笑)。
──「粒マスタードのマーチ」を手がけた宮川弾さんとはひさびさのタッグですね。
そうですね。今まで弾さんに書いていただいた曲は瑞々しいイメージの曲が多かったんですけど、せっかく少し大人になったことだし、大人の自分から見た世界を弾さんの優しい切り取り方で曲にしてもらえたらなと思ってお願いしました。このコロナ禍の中でみんなすごくがんばっているというか、肩に力が入っていると思うんですけど、そういう人たちをフラットに肯定してほしくて。
──「粒マスタードのマーチ」の次にいきなりエッジのきいたシンセサウンドの「窓際のジェラシー」が飛び込んでくるのもいいですよね。いきなり場面が切り替わる感じで。
「粒マスタードのマーチ」までは大人らしく淡々と生きていこうと思っていたけど、「窓際のジェラシー」では「あの子はいいな」という感情を表に出してしまう。その感情の起伏をRAM RIDERさんがすごくポップに仕上げてくれて、かわいい曲になりました。
歌う場所はどんな形でも生み出せる
──tofubeatsさんについては以前のインタビューで、ブックオフやハードオフで中古CDを掘っていた“同士”だというお話もされてましたね(参照:中島愛「ラブリー・タイム・トラベル」インタビュー)。
そうですね(笑)。打ち合わせをしたときに「中島さんが『レコードを入れられる蔵を持っている人と結婚したい』と話してたのが忘れられなくて、ずっと蔵のこと考えていて」と言われて(笑)。それが今回提供してくださった「ドライブ」の歌詞にも反映されているんだと思います。この歌詞、とても美しいですよね。最初に聴いたときは泣いちゃいましたもん。テーマとしては、心に張った藻のようなものを表現したかったので、そういう虚しさもとても上手に曲にしてくれて、歌い手としてうれしかったです。
──ラストの「All Green」はなかなかストレートなメッセージが込められた楽曲です。
「All Green」というタイトルは、ロケットなどが発進するときの「異常なし」というGOサインを意味しているんですよ。自分はもともと葉山(拓亮)さんの大ファンだったので、憧れの人に「君はこれからも進め」と言われたら間違いなく進めるなと思って、そういうストレートなメッセージをぜひ私にください!という思いでオファーしました。
──アルバム全体を振り返ってみていかがですか? かなりの自信作?
リスナーとして自分が今一番聴きたいCDができました。これ以上うれしいことはないですよね。既発のシングル曲含め、同じ質量と重さで10曲成立しているのが本当に気持ちよくて。一旦全部出し切ったというか、器がきれいに空になって、これからまた注いでいくことになるのかなと思います。
──なるほど。ポジティブな意味で一旦空っぽになったと。
そうですね。復帰第1弾になった「ワタシノセカイ」というシングルをリリースしてからの4年間は、「復帰していることを知ってもらわなきゃ」ということが一番の目的になっていて、とにかく「私はここにいます!」というのを途切れず言おうとしていたんですよ。今はそのミッションを1回クリアできたかな。なので、これからは自分のペースを守ってみてもいいのかなって。もしそれで思うようにいかなかったとしても、もともと歌手としてそこまでだったんだと思うんです。でもきっと、自分が歌を好きでいる限り、歌う場所はどんな形でも自分で生み出していけるんだと思います。