中島健人がHITOGOTOプロジェクトで見せる、飽くなき挑戦心と音楽への情熱 (2/3)

このイントロ、☆Taku Takahashiさんの家で一緒に作りました

──曲調に関してはどのような話し合いが行われたんでしょうか?

何曲か候補がある中で「この曲がいいね」って、僕の意見とスタッフさんの意見が合致したものを選びました。GEMNを除くと、個人としては今回初めてサブスクの“大海”に出るというタイミングだったので、「今サブスクの流行ってどういうものなんだろう?」ということから話しましたね。あと、今までの中島健人がグループでやっていた音楽とは違うものをやるんだとしたら、これはちょっと新鮮だなと思ったのがこの楽曲でした。

──トラックは3バージョンあって、いずれもダンサブルなサウンドですが、アレンジが大きく違っています。「ヒトゴト feat. Kento Nakajima」「ヒトゴト for ヌーヌー」はNas1raさんが作編曲を手がけていますが、「ヒトゴト for 黒川大樹」「ヒトゴト for 加賀見灯」は☆Taku Takahashiさん、「ヒトゴト for 西村親子」はMONJOEさんがリミックスを手がけたバージョンとなっています。☆Taku Takahashiさんとはもともとご親交があったそうですね(参照:中島健人・HITOGOTO楽曲の第3弾リリース、リミックスは☆Taku Takahashi)。

はい。でも、ディレクターは僕がもともとTakuさんと交流があることを知らなかったみたいなんです。Takuさんとは「いつか一緒に音楽の仕事しようね」という話をしたことはあるんですけど、手料理パスタを振る舞ってもらうだけの関係で。Takuさんの家に行って、作ってくれたパスタを食べて、僕の近況を報告するという。ただTakuさんは僕の心がでこぼこしてた時期に話を聞いてくれた方で、そのときにいろんな言葉をいただきました。今回ディレクターから「☆Taku Takahashiさんにお願いしようと思ってる」と聞いたときは「ええー!」って驚きましたね。

──TakuさんバージョンはオリジナルよりもEDM要素がもう少し強めで、ポップな感じがありますね。イントロに中島さんの声素材が使われているのも面白いです。

このイントロはTakuさんの家で一緒に作りました。Takuさんが作ったパスタを食べながら(笑)。「ここで今録ったケンティーのフレーズ、全部生かすからね」って言われて、実際にイントロにそれを使ってもらっています。あと、TakuさんからはBPMを上げるかどうかをすごく相談されましたね。「俺は上げたいんだけど、ケンティーは大丈夫? ディレクターとはディスカッション中なんだけど、ケンティーがいいなら俺は上げようと思う」って、先に僕に決を取ろうとしていて(笑)。「いいですよ、上げましょう!」って言って、結果テンポが速くなりました。振り付け中にダンサーチームと一緒にこのバージョンを聴いたときに、みんなすごくノッてくれて。クラブミュージックっぽさがありますよね。

──MONJOEさんのバージョンはUKガレージ感のある心地のいいビートが印象的です。MONJOEさんとは以前から知り合いだったんですか?

MONJOEさんとは前から一緒に音楽のお仕事をしていて。今MONJOEさんはいろんなアーティストさんに楽曲提供してますけど、僕は2年前から一緒にやっていましたよ!

──そうだったんですね。

僕が作ったトラックをMONJOEさんに渡したら、MONJOEさんがそれを激魔改造して。それに対して「いや、ここはこうしたほうがいい」「こっちがいいんじゃないか」というのを2人で話していましたね。ただ、今回はMONJOEさんとディレクターを信頼していたので、アレンジに対して僕が何かを言うことはなく、お任せしました。すごくいい仕上がりになったと思います。

中島健人

保田先生を演じたおかげで強くなれた

──どのバージョンもガラッと変わって聞こえるのは、トラックはもちろん、歌詞の影響も大きいのかなと思います。作詞の流れ的には最初に「ヒトゴト feat. Kento Nakajima」を完成させてから、ほかのバージョンも書いていったんでしょうか?

そうです。派生バージョンは1番のA'とBメロ、ラップの歌詞をそれぞれ変えていますね。

──ネットでの炎上や誹謗中傷を扱っているドラマと連動したこの曲では、5バージョンを通してSNS社会における葛藤や、生き抜いていくうえでのマインドが書かれています。どのバージョンも、アイドルとして情報社会の話題の中心にいる中島さんだからこそ書ける歌詞になっているなと。

ありがとうございます。最初にNas1raさんが仮歌で入れてくださっていたリリックがあって、そこにけっこうヒントがありました。その仮歌は、特にSNSに対して歌ったものだったわけではなかったんですけど、デモのタイトルが「理不尽」で。

──仮歌の段階でシニカルな雰囲気があったんですね。

その雰囲気を大いに参考にさせてもらいました。「ヒトゴト feat. Kento Nakajima」で言うと、例えばA'の「ありえないゲスト 気づけばディストーション」は、SNSで急に不気味なリプライがくることを歌っていて。そういうリプライがくると、僕は「望んでないゲストだな」と思うので、そういう表現をしてみたり。そのあとの「ヒトリボッチテンションが下がり」の「ヒトリボッチ」は、いろんな意味で入れてみたかったワードですね。結局誰しもひとりぼっちの時間があるし、物事に対して1人で考えないといけないときもある。スマホでSNSと向き合う時間も、1人でいるときのことが多いなとも思って。

──中島さんの価値観や、SNSに対して普段考えていることが反映されているんですね。

はい。歌詞のポイントは、サビの「指先が嘘を撫でる世だから」というところですね。そこはリスナーに伝えたい部分で、めちゃくちゃ入れたいフレーズだった。“スクロール病”と僕は呼んでるんですけど、今はみんなスマホ画面をスクロールすることをやめられない。そこでは真実だけじゃなくて、実は嘘も撫でているんですよね。でも、結局SNSで見る情報はしょせん“ヒトゴト”だから。そういう思いを「ヒトゴトでしょ 自分は自分らしく 笑ったもん勝ちでしょ」というサビのフレーズに込めています。

──中島さんはもともとこの歌詞のように何事も考えすぎず、うまくSNS社会を生きていけるタイプですか?

いや、全然そんなことないです。“他人事”というよりは、なんでも考え込んじゃうような“自分事”タイプでした。でも、ドラマの主人公の保田(理)先生から“他人事”という言葉をもらって。

──保田先生はネット炎上やSNSトラブル案件を解決していく弁護士でありながら、依頼人に対して「しょせん他人事じゃん?」というスタンスを一貫して取っています。でも、“他人事”という距離を取ることで、客観的な立場で依頼人に寄り添っていますよね。

今の自分には、保田先生のような考え方が必要なんです。保田先生を演じたおかげで、僕は強くなれた気がします。この1年いろんなことを経験して、その先で保田先生や、今自分が一緒に音楽制作をしてるチームと出会った。そういった自分を取り巻く環境の中で、今生成できる言葉を歌詞にした結果、「ヒトゴト」という曲になりました。これまでの自分の経験がなければ絶対にこの曲の歌詞は生まれてなかったと思います。

「ケンティー本当にいいの?」

──「ヒトゴト for ヌーヌー」バージョンは、第2話、3話に登場する兄妹アーティスト・ヌーヌーに向けた楽曲です。アーティストが受けた誹謗中傷をテーマにしたこの歌詞は、中島さんだからこそ書ける内容になっています。「アイドルはきっと 悲しみのフィクション?」や「反転のペンライトが キラリ騒ぎ 偽りの空に」など、印象深いフレーズが多いなと。

「『アイドルはきっと 悲しみのフィクション?』って、ケンティー本当にいいの?」とディレクターに一旦止められたんですけどね。

──よかったんですか?

「入れたいです」と言いました。「これは今、僕が思ってることだから」って。

──それは今までもずっと思っていたこと?

ずっとというわけではないんですけど、ここで爆発しました。アイドルも人間なんですよね。でも、みんなアイドルをフィクションのように扱って、それを“真実”だと捉えている。そういう状況に対して、「いや、それは違うよ」と言いたかった。フィクションを真実だと捉えている時点で悲しいよって。自分のキャラ的に、最も僕が書いてはいけない歌詞だったと思うんですけど。

──でも、アイドルのド真ん中のイメージがある中島さんが歌うことにちゃんと意味があると思いますよ。

そう言ってもらえたらうれしいです。けっこう博打だったので。「反転のペンライト」というフレーズは、僕がこの数カ月で学んだ言葉、「反転アンチ」からきています。ペンライトが反転して、自分の色じゃなくなった瞬間のことですね。

──なるほど。けっこう切り込んでますよね。

でも、これでもちゃんとディレクターが軌道修正してくれたんです。最初はもっとバッドエンドにしてたんですけど、「ケンティー、そこは最後に希望を残していこうよ」という提案を受けて書き直しました。

──「秘密を抱えながら 歓声を浴びてる」という一説も考えさせられます。

人間誰しも何かしらの秘密を抱えていますからね。例えば、去年の12月にグループで東京ドームに立ったときもそうだった。僕は1月に脱退発表することが決まっていたけど、歓声を浴びながら、精一杯ステージに立ってたから。もちろん、あのときは嘘偽りなく本当に幸せだった。ドームに立てることの美しさ、素晴らしさ、あのメンバーで立てたことの誇らしさがあった。でも、少なくとも秘密を抱えていたわけで。“前日に誰にも言えないことがあったけど、今日はアイドルとしてステージに立って、歓声を浴びている”ということもある。そういうのをただ歌詞にしましたね。