中島健人がHITOGOTOプロジェクトで見せる、飽くなき挑戦心と音楽への情熱

今年4月に新たな道へと足を踏み出した中島健人が、音楽シーンをにぎわせている。その第一歩となったのは、誰も予想だにしていなかったキタニタツヤとのユニットGEMNの結成。アニメ「【推しの子】」第2期のオープニング主題歌「ファタール」は大きな話題を呼び、ミュージックビデオは3000万再生を超えている。そしてそこから間を空けることなく、中島は次なる一石を投じるのだった。

7月に中島は自身の主演ドラマ「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」の主題歌を歌唱することを発表した。しかし、これは“主演ドラマの主題歌を担当する”というシンプルな話ではない。中島は今回、自身の名義ではなく、音楽プロジェクト・HITOGOTOとして歌唱と作詞を担っている。HITOGOTOとはいったい何なのか。謎に包まれたままドラマはスタートし、3話が放送されたところで、HITOGOTOとは劇中に登場するそれぞれのキャラクターやエピソードに対してメッセージを込めて歌詞を書き下ろす“成長/変異型の主題歌”プロジェクトであるとことが明かされた。

主題歌はネット炎上や誹謗中傷などのSNSトラブルを題材にしたドラマとリンクする内容に。第1話からオンエアされていた「ヒトゴト feat. Kento Nakajima」、そしてアーティストへの誹謗中傷にフィーチャーした「ヒトゴト for ヌーヌー」、デジタルタトゥーに苦しむ人への思いがつづられた「ヒトゴト for 黒川大樹」、過去のネット炎上のトラウマに悩みながらも前へと進んでいくヒロインへのメッセージが込められた「ヒトゴト for 加賀見灯」、誹謗中傷の加害者となった中学生とその親に向けられた「ヒトゴト for 西村親子」の計5バージョンが用意された。トラックに関しても、第5話からは☆Taku Takahashi(m-flo)、MONJOEによるリミックスバージョンが使用されており、まさに変異型の主題歌プロジェクトとなっている。

音楽ナタリーでは、自由な感性で大胆に新しい道を歩いていく中島にインタビュー。その中で見えてきたのは、止まらない彼のクリエイティブ精神と、今後の未来への大きな可能性だった。

取材・文 / 中川麻梨花撮影 / YURIE PEPE

自分の拳でしっかりと戦えるフェーズに突入した

──新しい道に踏み出してからのこの半年間、キタニタツヤさんとのユニット・GEMNでの活動だったり、今回のHITOGOTOプロジェクトであったり、どんどん面白いことに挑戦されているように見えます。中島さんご本人としては、この半年振り返ってみて、どういう期間でしたか?

とにかく必死ですね。新しいスタートを切って、いかに今のチームといいものを作れるかという。とにかくクリエイティブに時間を割いて、脇目も振らず、猪突猛進してきた5カ月でした。来年の2月28日に公開される映画「知らないカノジョ」や、ドラマ「しょせん他人事ですから~とある弁護士の本音の仕事~」の撮影がありつつ、GEMNをはじめ、音楽活動のほうも動いていて。かつファンクラブで販売するファッションアイテムのデザインなどもやっているので、今は自分の地図が一気に広がったような感じです。

──中島さんは芸歴16年ですが、音楽活動においてこの半年間で新鮮に感じたことはありますか?

新しいことだらけですね。まず、初めて楽曲のコンセプトを企画書でいただくようになって。これまで映画の仕事の企画書は自分で書くことも多くて、目にすることもあったけど、音楽的な企画書はあまり読む機会がなかったので新鮮です。「今この年代でこういう楽曲が流行ってるから、新曲はこの方向性でいってみない?」って、企画書をもとに説明していただけるのがすごくうれしい。企画書って、ラブレターだと思うから。それを見たことで自分の考えも形成できたし、「今、音楽業界の空気ってこんな感じなんだ」と空気も読めるようになりました。あんまり浮世離れしすぎるのも違うし、“風”の読み方を教えていただいている最中ですね。

中島健人

──新しい道に踏み出すことを決めたとき、これからも音楽活動をやっていきたいという思いはご自身の中に当然あったんですよね?

もちろん。グループを卒業するときに「役者1本でやるのかな?」という声もSNSでは多かったんですけど、自分としてはもっと音楽に向き合ってみたかったんです。そもそも新しいアイドルの形を見つけたいという思いがあって、今まで誰も挑戦してこなかったことを自分はやっていくつもりだった。そのためには歌詞やメロディ、編曲、すべてにおいて自分から湧き出るものを曲に投影したいという気持ちが強くあって。だから、自分の拳でしっかりと戦えるフェーズに突入したという感覚があります。

──これまでも中島さんはかなり積極的に作詞作曲をされてきましたよね。

でも、僕はDTMに関してはけっこう新参者なんですよ。Logicをいじり始めたのは2022年ぐらい。会員制サイト(「FAMILY CLUB web」)に「KenTeaTime」というブログがあって、当時はSNSやYouTubeのアカウントがなかったから、自分が何かを直接発信できる場所がそこしかなかったんです。その場所に音楽をアップしたかったら、著作権に引っかからない音楽を自分で作るしかなくて。ただ、自分には技術もナレッジもない。とりあえずGarageBandやLogicをちょっといじってみるけど、全然やり方がわからない。そんな矢先にトラックメイカーの方と知り合う機会があって、その人が「ちょっと見学に来る?」と家に呼んでくださったんです。

──自宅スタジオ的な?

はい。結局その日はDTMのやり方はほとんどわからなかったんですけどね(笑)。「2拍目と4拍目にスネアが入っていればなんでもいいよ。それでいけるから」というアドバイスをもらって。ただ、スタジオに1日いたら、外国人の方が仮歌を録りに来たりするんですよ。僕はトラックメイカーの方が仮歌を録りながらLogicを使っている様子をずっとそばで見ていて。「こんな感じだから」と言われたので、「真似してみます」って、その次の日から初めてLogicにちゃんと向き合い出しました。それが自分で曲を作ってみようと思ったきっかけの1つでしたね。

──刺激を受けたんですね。

あと、韓国のアイドルの方々の存在にも触発されました。韓国にはクリエイティブに深く携わりながら活動されている方が多いんです。それで自分で初めてレコーディングスタジオを借りて作ったのが、会員制サイトで発表した「Celeste」という曲。まず、「スタジオ代ってこんなに高いの!?」って驚いて(笑)。自分でオリジナル曲を作ると、こんなにも大変なんだなということがよくわかりました。今まで自分は与えられた環境で、作品に対してライトな関わり方をしていたのかもしれない、ということも痛感しました。もちろん深くクリエイティブに携わっていた楽曲もあるんですけど。ただ、自分の中で「このままでいいのかな?」と思い始めて。それでそのあと、僕はなんと自費でミュージックビデオを作り始めるというヤバいフェーズに突入するんですよ。

エネルギー源は反骨精神でした

──事務所に所属しながら、自費でMVまで作るのは珍しいケースだと思うのですが、いったい何が中島さんのクリエイティブ精神をそこまで突き動かしたんでしょうか? 音楽が好きという思い?

うーん……たぶん、自分の中にある悔しさや悲しさを表現したいと思っていたんですよね。一度自分の力でイチから作り出してみたかった。インスタで発表した「Jasmine Tea」や「ROSSO」のようなラブソングを書くのももちろん好きですけど、少なくとも最近の自分のエネルギー源は反骨精神でした。僕はずっとくすぶりにくすぶってきて。アイデアを全解放できない自分にもどかしさを感じていた部分があったんです。僕は音楽活動をしていくうえで、自分のアイデアを全解放できる環境で、歯車の合うチームと一緒に戦っていくべきだって。今はその道の半ばだけど、ちゃんと自分の力が発揮できているし、いい時間の流れを過ごせている気がします。

──確かにHITOGOTOプロジェクトから生まれた5バージョンの主題歌を聴いていても、まさに全解放というか、中島さんのクリエイティブ精神が爆発しているように見えます。

だとしたらうれしいです。本当に今、人生で一番のがんばりどきだと思います。もちろん長くがんばって活動していきたいという気持ちはあるけど、やっぱり僕は“今”を生きたい。その時々に思いつく音楽やアイデアを形にしたい。後悔してきたことがあるから。あのときこう言えばよかったとか、そういう思いを20代で経験してきたので、そういうのはもうしたくない。もう創作にもどかしさはいらないと思っています。あと、僕はゼロからイチを生み出すことももちろん好きなんですが、もともとあるものに味付けをするのもけっこう好きなんですよね。コライトすることも好きだし。中島健人の果汁100%じゃなくてもいい。アスパルテームが入っていても面白いという考え方でいます。そもそも自分に対して、“人造人間”というイメージがあるので。

──そのイメージはずっと持ってるものなんですか?

アイドルを目指したときに1回、人造人間になったというか。腹を決めて自分をブランディングして、「今日この日から自分は人格をすべて変えていこう」という日があったんです。それが中学時代に受けた事務所のオーディションの日だった。オーディション前日とそれ以降で、僕の性格はまったく違うんです。

──意図的に変えたんですね。

変えてみてどうなるかは賭けでしたけど。ただ、今はもう人格を変えているような感覚はないです。オーディションの直後は「昨日までの自分が本当の自分だったかはわからないけど、もしそうだったとしたら、今日からの僕は嘘をついてるな」という感覚が続いてたけど、その嘘すらも今は“本当”になった気がして。嘘が始まりでも、ちゃんと“今の自分”になった気がしています。

中島健人

ぜひ背負わせてください

──HITOGOTOは中島さんが主演を務めるテレ東系ドラマ「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」の主題歌プロジェクトです。今回は“成長/変異型の主題歌”という形を取っていて、主題歌が「ヒトゴト feat. Kento Nakajima」「ヒトゴト for ヌーヌー」「ヒトゴト for 黒川大樹」「ヒトゴト for 加賀見灯」「ヒトゴト for 西村親子」の5バージョンがあります。中島さんとNas1raさんの共作という形で、ドラマのキャラクターやエピソードに対して5バージョンの歌詞を書き下ろしていますが、これはどういうふうに始動したプロジェクトなんでしょうか?

まず「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」というドラマに主演することと、その主題歌を担当させていただく話があって。でも、主題歌がどういう形になるのかはわからなかったんです。テレビ東京さんサイドは「中島さんの考える形で大丈夫です」とおっしゃってくださって。それで今の音楽制作チームと同じテーブルに向き合えたのが5月末でしたね。

──ドラマの放送がスタートしたのは7月中旬なので、なかなかすごいスピード感です。

大変でした(笑)。国分寺のカフェで音楽チームのスタッフ陣と話し合ったのをよく覚えています。そこでディレクターから“成長/変異型の主題歌”という形をご提案いただいて。エピソードごとに歌詞とトラックを変える。歌詞に関しても「今後リリックを制作していくだろうから、その最初のステップとして、ここでまずトライしてみない?」と言ってもらえて。今までも作詞自体はやってきたんですけど、表題曲の歌詞を書いたことって実はないんですよ。自分としては前々からやってみたいなという気持ちがあったので、今回トライをしてみないかと言われて、「ぜひ背負わせてください」って。「僕、そういうの大好きだから。やりましょうよ」と言いました。

──5パターンの歌詞をなかなか痺れるタイム感で書かなければいけない状況だったかと思いますが、中島さんとしては即決だったんですね。

確かに毎週歌詞を書いて、週に1回レコーディングして、みたいなスケジュールは大変でした。でも、前みたいにスタジオを自費で借りるわけじゃないから、「それなら大丈夫だ!」って(笑)。それに、音楽的な作業に追われるのはけっこう好きなんですよね。最初はマネジメントのスタッフから「今は忙しい時期だし、主題歌の制作もタイトなスケジュールだから、作詞家さんに委ねる形でもいいんじゃない?」と言われたんですが、あんまりそういう気にもなれなくて。今回はHITOGOTOというプロジェクトであって、中島健人名義ではないけど、それでもソロアーティスト活動の“エピソード0”として、ちゃんと自分の言葉を投影したいと思って、1回フルフォーマットで「ヒトゴト feat. Kento Nakajima」の歌詞を書きました。

──どういった形でNas1raさんと共作したのかなと思っていたんですが、一旦中島さんのほうで書いたんですね。

ただ、最初に書いた僕の歌詞はちょっとあまりにも皮肉と風刺が詰まりすぎていたみたいで。僕が経験してきたことというか、反骨精神の部分をだいぶ出しすぎて、“他人事”ではなく“自分事”みたいな感じになってしまってたんですね。でもNas1raさんとディレクターが手を入れてくれて、その結果、僕の今のエネルギーを正しい形で出せたと思います。