ナタリー PowerPush - 中田裕二
ニューアダルトミュージックの伝道師に
温かい音のロックがやりたかった
──アルバムはディスコ一辺倒ではなく、非常に幅広いジャンルへのアプローチになっています。これは、「MIDNIGHT FLYER」という曲でポップに振り切ったからこそ、自由にいろんなことができるという感じが強かったからなんじゃないかと思うんですが。
そうですね。だから、前作とは違う自由さをつかめた気がしました。今回は自分の得意とする世界観をいろんなアプローチで表現するという。
──サウンドは多岐にわたっているわけですが、自分として「この曲は自分にとって新しいチャレンジになった」という手応えのあるものは?
「旅路」みたいな曲は、今、俺しかやってないんじゃないかと思いますね。これだけジジくさいようなものというか。雰囲気としてはThe Bandみたいな曲がやりたかったんです。
──「旅路」や「プリズム」や「マイ・フェイバリット」のように、アルバムでは土臭いロックのサウンドも追求していますが、このアプローチは、どういうふうにして生まれてきたんでしょう?
温かい音のロックがやりたかったんです。60年代や70年代の温かさを超えるものがないと思っていて。だから海外の人たちも、その頃のリバイバルをやっている。あの温かみがあるからこそ伝わる雰囲気やフィットする歌詞があると思うんです。
──例えるなら、ビデオカメラよりもフィルムの質感に近いような?
8mmとか16mmフィルムの世界ですよね。近いと思います。
──そういう感触を追求するのが中田裕二のアーティスト性だという考えはどういうところから生まれたんでしょう?
今の音楽って、温かみが足りないと思うんですね。激しくてとがっていて焦燥感があればロックというわけではないと思うんです。ロックって、僕は生き物としての“人間”を感じさせてくれるものだと思うので。
そろそろ怒りの感情も出したい
──アルバムには「アンビバレンス」や「ENEMY」のような激しい曲、アグレッシブな方向性もありますよね。ああいうアプローチが生まれたのは?
今回は怒りの感情もそろそろ出したいと思ったんです。かつてのバンド時代から苛立ちが原動力だったりしたんで、それをひさびさにやろうと思った。今やればバンド時代とは違うものになるし、OKだろうと。「ENEMY」は今の社会への批判みたいな歌なんですけれど、そういうものを歌いたくなったんですね。ロックを通ってきた者としては、そのアティチュードはなくせない部分でもあるし。
──でも、10代や20代のころの苛立ちと、30代になってからの怒りの感情って違う種類のものだと思うんです。そういう感じはしません?
そうですね。今は、もっとリアルな苛立ちだと思います。
──しかも、中田さんの場合はそういう怒りや苛立ちがあっても、シンプルでストレートに吐き出す形にならないわけですよね。簡単に答えの出ない、整理の付かなさに結び付くような感じがある。
特に最近の世の中は、答えを求めすぎるというか、急ぎすぎる風潮はありますよね。例えばネットが普及して、情報がたくさんあって、スピード感が増して、すぐに解決できると思いがちだけど、結局余計に答えが出ないということも多い。だから俺は歌の中で答えを出そうとは思ってないですね。音楽ってそういうもんじゃないかと思うんで。
──かつて中田さんが好きだった音楽もそうだった?
そうですね。CHAGE and ASKAとか安全地帯を聴いたときって、意味がわからなかったんです。でも、すごくその世界に惹かれてしまうものがあった。で、30歳を超えて、やっと意味がわかってくる。物事って、答えを出すまでにすごく時間がかかる。それを待つ力、耐える力が必要だなって思いはありますね。
──なので、実は僕、アルバム全体を聴いた感想は、シングルを聴いたときの感想と真逆だったんです。
というのは?
──「MIDNIGHT FLYER」を聴いたときは、AKB48みたいな今の時代のポップと不思議にリンクしてると思ったんですが、アルバム全体を聴いたら「やっぱりこの人は我流だ」と思いました。時代に関係なく我が道を行っている、って。
はははは!(笑)
──これは褒め言葉のつもりなんですけど(笑)。
ありがとうございます。僕にとってのポップは、時代の流行に関係ないものですからね。いつ聴いても、素直に「それ、いいね、わかるね」って思える価値がその中にあるかどうか。そういうところが大事だと思います。
- ニューアルバム「アンビヴァレンスの功罪」
- ニューアルバム「アンビヴァレンスの功罪」 / 2013年9月18日発売 / 3000円 / NIGHT FLIGHT/REN'DEZ-VOUS / NFCD-0002
収録曲
- TERMINAL
- MIDNIGHT FLYER(album mix)
- ENEMY
- 彼女のレインブーツ
- blue morning
- アンビバレンス
- プリズム
- マイ・フェイバリット
- HEROINE
- ユートピア
- 旅路
- サンライズ
中田裕二(なかだゆうじ)
1981年生まれ。熊本県出身。2000年に宮城県仙台にて椿屋四重奏を結成する。2003年のインディーズデビュー以降、2007年にはメジャーシーンへ進出。自身はボーカル&ギターを務め、歌謡曲をベースにした新たなロックサウンドで多くの音楽ファンを獲得したが、2011年1月に突然の解散。同年3月に新曲「ひかりのまち」を中田裕二名義で配信リリースし、本格的なソロ活動を開始する。11月に1stソロアルバム「ecole de romantisme」をリリース。2012年9月には2ndアルバム「MY LITTLE IMPERIAL」を、2013年9月には3rdアルバム「アンビヴァレンスの功罪」を発表。