ナタリー PowerPush - 中田裕二
歌謡曲の輝きを俺が受け継ぐ
暑苦しい声してんなと思う
──もうひとつ、中田さんが追求している“歌謡曲感”の大きなキーポイントは、やっぱり歌声にあると思うんです。中田さんは自分の声というものをどう捉えてますか?
そうだなあ。暑苦しい声してんなと、聴きながら思ったりしますね(笑)。「もっと爽やかに歌えんもんかな」とか。どうしてもこぶしを効かせたり、吐息を混じらせたりとかしちゃうんですよ。やっぱり、書いてる曲の世界観がそうなんで、おのずとそういうふうに歌が演じてしまうっていうか。最近の男性ボーカルって、そんなにくどい歌い方しないじゃないですか? 僕が聴いてきた昭和の歌謡曲はみんなくどかったんですよ。ヴィジュアル系にしてもそういうところはあって。だから、やっぱそのへんの影響もあるんだと思います。今のボーカリストの歌い方って、ノンビブラートでまっすぐだし、キャラクターを声に乗せることをちょっと嫌がってる節があって。
──わかります、その感覚。例えばよく「伸びやかな歌声」っていう形容詞を使うことがあるんですけれど、中田さんの声は伸びやかではない。
そうなんですよね。伸びやかではないと思います(笑)。どこか喉に引っかかるような感じもあるし。飲み込みづらいっていうか。透明感のある歌声にも憧れたりはするんですけど、まあでも、透明感のある世界を歌いたいかっていうとそうでもないし。
ロックがヤンキーのものからオタクのものに
──伸びやかで透明感のある声って、美しい一方でセクシャルな匂いはないですよね。中田さんは、声に宿るエロさとか色気とかを追求している気がするんです。どうでしょうか?
まさにそうです(笑)。自分が好きなボーカリストもやっぱみんなセクシャルですからね。だから今の時代って、そのへんが嫌がられてるのかもなって思う。中性的ですよね、みんなね。エロスみたいなものを歌う人がいなくなっちゃったっていうか。時代の流れ的に、理由もわからなくもないんですけども。
──時代の流れというと?
まあ、草食系男子が増えた、みたいなことですよね。あと極端な言い方をすると、ロックがヤンキーのものからオタクのものになってしまっているっていう。
──なるほど。それは鋭いかも。
そういう気がしてるんですよ。ヤンキーが良い、オタクが悪いっていう問題ではなくて、今、ロックを必要としている層が変わってきたような気がしてて。それこそ90年代にヴィジュアル系聴いてた子たちは、みんなヤンキーでしたから。でも、今は違う。そのへんの勢力図が完全に変わったなっていう気がしますね。
自分の立ち位置、向かうべきところはどこか考えた
──これまで話してきたとおり、このアルバムはメロディもコードも、サウンドも、歌い方も、なんとなくの“歌謡っぽさ”じゃなくて、その本質を徹底的に追求した作品だと思うんです。例え時流に背を向けてもそれをやり切る、という。
ありがとうございます。まさにそうです。
──そういうものを作ろうという意識は今回特に強かったわけですよね。
そうですね。昔からあるんですけど、今回はそれが如実に出たと思います。
──その理由はなんだったと思いますか?
ソロになって最初は手探りだったんですよ。前作は自分のスタイルをどこに持っていったらいいのかもあんまりわからずに、素の自分のまんまで作ったアルバムだったんですよね。裸の中田裕二というか。で、それを出してツアーを回っていくうちに、自分の立ち位置とか、自分の向かうべきところはどこかとか、自然と考え出した。で、考えたり悩んだりして、やっぱり俺は歌謡ベースでサウンドにこだわりながらやっていくっていうスタイルが基本にあるんだなって開き直れたんです。まあ、1人になって、自分の作りたいものに没頭できる環境になったのも大きいですけどね。
──ツアーはかなり凄腕のミュージシャンと回ってましたよね。影響を受けたことってありました?
それは大きかったです。音楽観が変わるくらいの影響を受けたというか、自分の今まで見てたものがいかに狭い範囲だったかっていうのを感じましたね。30代後半から40代が中心のメンバーだったんですけど、やっぱりCDがめちゃくちゃ売れてる時代から仕事をしてる人たちなんで、ほんとの意味でのポップスだったりロックだったりがわかってるんですよね。そういう人たちと一緒にやると、本質っていうか、大事にしなきゃいけない部分がどこなのかがわかる。「あ、ここはそんなに力を入れるところじゃないんだな」とか「力を入れるべきところはもっとこっちのほうなんだな」とか。
──力を入れる部分と力を入れなくていい部分というと?
そもそも自分は、細かくリズムが合ってないと嫌なタイプだったんですよ。だからバンド時代もメンバーにはかなり苦労させてたんですけど。で、今のロックって、そういうのが多いんです。エディットが前提で、キメを入れるようなものが多い。でも自分の好きな古い音楽って、リズムがピッタリ合ってるやつがあんまりなくて、その人が持ってるグルーヴなんですよ。タイミングを合わせすぎても、逆に面白さが削がれるし、人間味を感じなくなってくる。今回ツアーを回ったメンバーもそういうことを知ってる人たちだったというのが大きいですね。だから、このアルバムで俺はベースを弾いたんですけど、それだけ聴くとかなりズレてたりするんです。でも全体だとそれが味として出ていたりする。
ニューアルバム「」/ 2012年月日発売 /
CD収録曲
- MY LITTLE IMPERIAL
- DANCE IN FLAMES
- デイジー
- FUTEKI
- 灰の夢
- ノスタルジア
- UNDO
- 春雷
- 話をしないか
- 女神のインテリジェンス
- セレナーデ
- 静寂のホリゾント
- つかずはなれず
中田裕二(なかだゆうじ)
1981年生まれ。熊本県出身。2000年に宮城県仙台にて椿屋四重奏を結成する。2003年のインディーズデビュー以降、2007年にはメジャーシーンへ進出。自身はボーカル&ギターを務め、歌謡曲をベースにした新たなロックサウンドで多くの音楽ファンを獲得したが、2011年1月に突然の解散発表。同年3月に新曲「ひかりのまち」を中田裕二名義で配信リリースし、本格的なソロ活動を開始する。11月に1stソロアルバム「ecole de romantisme」をリリース。2012年9月には2ndアルバム「MY LITTLE IMPERIAL」を発売する。