ナタリー PowerPush - 中田裕二

椿屋四重奏解散を経て本格始動 1stソロアルバムついに完成

完璧なファンタジーも、完全な日常も、どっちもいらない

──アルバムの「école de romantisme」=ロマン派というタイトルはいつ出てきたものなんでしょう? そういうコンセプトが最初からありました?

中田裕二

コンセプトはそんなにハッキリとはなかったです。バンド時代に、毎回コンセプトありきでアルバムを作っていたし、今回はそういうやり方をしなくていいかなって思いました。ただ出てくる曲をまとめるという形で。でも結局、書いた時期もあるので、どうしても一貫性は出てくる。その一貫性ってなんだろうな?と考えたら、そこには人間に対してロマンを見出したいという気持ちがすごくあると思って。「自分って、○○派で言うならロマン派ですかね!?」って(笑)。ダサいけどいいなあって思ったんですよ。今ロマンって言ってもなかなかリアリティはないかもしれないですけど、恋人と夜景を見ながら「キレイだね」って言うようなものじゃなくて、俺は人間の日常におけるいろんな事象に起こるロマンを歌にしていきたいと思うんですよ。そこにリアリティを感じるし、歌にはそういう要素が必要なんじゃないかと思って。完璧なファンタジーも、完全な日常も、どっちもいらないと思ったんです。今も、日本全体が現実と向き合わされている。その現実の中に小さいながらも夢を見出していくことで、いろんなことがプラスになっていくんじゃないかという気持ちがあって。

──非日常の楽しい体験をして日常に帰ってくる、というんじゃなくて。

そうそう。そうなんです。なだらかに日常に還元できるというか。俺の音楽はそういう役割を果たすものであってほしいですね。

そろそろ体温を感じる表現に踏み入ってもいいかなと思って

──曲ごとにも訊いていこうと思うんですけれども。まず端的に思ったのは、コード感がオシャレ(笑)。

はははは(笑)。

──「sunday monday」はまさにそういう曲ですよね。アルバムの頭にこれだけメロウでジャジーな曲を選んだというのは?

時代が時代だし、「ソロデビューしました! わーい!」みたいなテンションでもなくて。ゆっくりと開けていくような、ゆっくりスタートしていくようなイメージの曲がいいなと思って。それがリアリティがあるなと。恋人同士の風景から始まるんですけれども。あと、年齢的にも20代のロックバンド期は終わったので、そういう見せ方もいいかなと思って。

──きらびやかな感じ、ゴージャスな印象よりも、日常に近い印象があります。

そうですね。例えば、「毛布の中で黙ってる 君を見てた」とか、ここまで体温を感じる歌詞というのは今まで避けてたんです。もう少し距離感が欲しかった。でも、そろそろそういう表現に踏み入ってもいいかなと思って。

──ソロとして再出発したということは、椿屋四重奏のボーカリストとしてではなく改めて自分自身にどういう歌が似合うのか考えざるを得ないわけですよね。

はい。俺が歌ったときにまるで説得力がない歌は、似合ってないと思うんですよ。何かしらの意味を感じられるものは、似合ってると思うんです。100%自分でそれがわかるわけじゃないですけどね。ただ、その感覚があるからこういうアルバムを作れたんだと思います。

「虹の階段」は、チャゲアスでいう「YAH YAH YAH」みたいな感じ(笑)

──「ベール」はリード曲という位置付けですね。

どれがリード曲でもよかったんですよ。「ベール」が最初に形になってたので、これになっただけなんです。これは曲調的にも中田節というか歌謡曲っぽいところがあるし、一番わかりやすく俺のコマーシャルをしてくれる曲かなと思って。

──僕はこの曲が一番“ロマン派”な曲だと思いました。

あ、ほんとですか?

──ロマンという言葉には「手に入らないものを希求する」という意味合いもあって。この曲はまさにそれですよね。そういう狂おしさって、自分が歌うとすごく説得力あるものになるという感覚はあります?

好きなんですよね。こういう曲だと一瞬でできるんですよ(笑)。「うれしい」でも「悲しい」でもない曖昧な部分を美しく描くというか、その感覚が出せてこそ日本人かなという気持ちもあって。「ベール」みたいな曲が自分の軸になってるのかなって思います。

中田裕二

──「虹の階段」も先行配信でリリースされていますよね。この曲はアルバムの中でも一番アッパーな曲ですけれども、どういうものができたという感触ですか?

明るい曲書いちゃったなあ!っていう(笑)。なんか、書けたんですよね。バンド時代だったら、こういう曲はあまり書けなかったんです。自分でもこういう曲が歌いたかったんでしょうね。他人事みたいな言い方ですけど(笑)。だから、できた当初は扱いに困っていて、俺がこういう曲を歌っても大丈夫かなって思ったんです。でもイベントで歌ってみたら、すごく良かったんですよ。こういう曲をライブで歌いたかった。

──なるほど。

このアルバムって、自分のキャリアを通して初めて前向きなアルバムになったなって思うんです。「虹の階段」はそのきっかけになった曲ですね。自分の中にも元々こういう部分があったけど、バンドをやってた頃には出し方がわからなかったんですよね。こういう曲を作れたことによって、その部分が伝えられる気がします。

──振り幅でいうと、「虹の階段」がアルバムの中の一番ポジティブな側ですよね。

そうですね。チャゲアスでいう「YAH YAH YAH」みたいな(笑)。

──その一方で、「迷宮」はダークサイドだと思うんですけれども。

はい。これは社会への不満って言うと陳腐な言い方ですけれども、そういうものを書いた曲で。震災が起きてからいろいろと嫌な面も出てきたと思うんです。今の時代って、まさに迷宮だなって。情報を知れば知る程迷うし、自分の立ち位置すらもわからなくなる。だったら何も見なくていい。こういうことはずっと前から歌ってるんですけれども。あと、曲としてはプログレがやりたかったというのもあります(笑)。

──この曲と「虹の階段」と、両方が必要だったわけですよね。

そうですね。両方を揃えることで、浮き彫りになるリアリティがあると思うんで。

ニューアルバム「école de romantisme」 / 2011年11月23日発売 / 3000円(税込) / Warner Music Japan / WPCL-11011

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収録曲
  1. sunday monday
  2. リバースのカード
  3. LOST GENERATION SOUL SINGER
  4. 迷宮
  5. バルコニー
  6. 記憶の部屋
  7. ベール
  8. 白日
  9. 虹の階段
  10. endless
  11. ご機嫌いかが
中田裕二(なかだゆうじ)

1981年生まれ。熊本県出身。2000年に宮城県仙台にて椿屋四重奏を結成する。2003年のインディーズデビュー以降、2007年にはメジャーシーンへ進出。自身はボーカル&ギターを務め、歌謡曲をベースにした新たなロックサウンドで多くの音楽ファンを獲得した。2011年1月の突然の解散発表は大きな反響を呼んだ。同年、東日本大震災直後の3月に、被災地や被災者に向けた新曲「ひかりのまち」を中田裕二名義で配信リリース。その後6月から8月にかけてカバー曲を中心に「歌」に特化したプロジェクト「SONG COMPOSITE」の全国ツアーを行い、これを機に本格的なソロ活動に入る。