お前らの“ヤベエ”はそんなにヤバくねえだろ!
──今作では、楽曲「マジヤベエ!」のように若者らしい言葉遣いが使用されていたり、「Loser」のように四つ打ちのナンバーが用意されていたりと、フレッシュなアイデアやパワーが盛り込まれた作品にもなっています。これまで長渕さんはラップやレゲエ調の楽曲を制作したり、新鮮な要素を楽曲に盛り込んできました。そういったカルチャーや音楽は日頃から調べているんでしょうか。
特別調べてはいないけど、時代性を反映するように意識する。10代の感性は常に永遠だ。「お前らのことはわからねえよ。だからお前らの意識の中に飛び込んでいくぞ!」という姿勢でいつも挑む。アルバムに収録された「マジヤベエ!」も「お前らの“ヤベエ”と俺の“ヤベエ”の意味は違うんじゃねえのか?」という交信をしたかった。
──その時代ごとの10代に向けて語りかけていると。
「俺は“ヤベエ”って、こういうことだと思うんだけど? お前らの“ヤベエ”はそんなにヤバくねえだろ!」というふうに(笑)。「ざまあみろ!」っていう感覚にも近い。やっぱり若い連中はかわいいから、彼らの感覚と対話したい。僕の中に潜んでいる10代の感覚や感性がなくなったとき、僕は歌を書くことをやめる。
──長渕さんはラジオ番組「SCHOOL OF LOCK!」でも“炎の生活指導担当”として、10代の子供たちの相談に答えていました(参照:長渕先生が生電話で喝!「SCHOOL OF LOCK!」炎の生活指導)。こういった機会でも、長渕さんの中にある10代の感性が刺激されたのではないでしょうか?
彼らがマジで相談してきたらマジで返す。半端だったら半端で返す。悩みを聞いているとき、「コイツ本当にそんなことで悩んでんのかな? ちょっと待てよ」って感じることがある。そのときは自分の中にある感情のファイルを探して、10代の頃に感じたファクトを取り出す。例えば「おじいちゃんが死んだ」「友が死んだ」ということだったら、自分の中のファイルを紐解いていくと「めちゃくちゃ落ち込んでたな」「生きていくのが嫌だったな」とか、いろんな答えが出てくる。そういうふうに自分自身が少年時代に体験した事象と、相談した子の悩みが合致したとき、「わかるよ」ってなる。そこから話を進めていく。
──もしご自身が体験したことのないような相談を受けたときは?
そのときは「なんでそんなことで悩むのか、教えてくれよ」と素直に聞くと、「実はこういう理由で……」って詳しく教えてくれるから、また心の中のファイル探しをして、その悩みの内容と似たものを取り出してくる。
──悩みの内容を細かく聞いていって、ご自身の体験に当てはめるわけですね。
答えを出すというよりも、“答えは自分自身”っていう考え方が正しいかもしれない。自分が10代の頃に感じた感情を今の10代の子たちが泣いたり悩んでいることと当てはめて、今の俺だったらどういうふうに答えるべきか考える。「SCHOOL OF LOCK!」だと生活指導の先生ってことになってるけど(笑)。経験則の中で、僕の中の10代だったらどう叫ぶか、ということ。だから「お前そんなことで悩むんじゃねえよ!」ってすごく腹が立つことだってある。相手が直球でぶつかってきたら直球で答えることで、自分の中にある10代の感覚を研ぎすます。いつも本気だ。
LINEって一緒に話している感じがする
──ここ最近の活動で言うと、長渕さんは公式LINEアカウントでのコメント投稿も積極的に行われていますよね。レコーディングの様子を公開したり、犬のパオや鳥のポーなど新たな家族についても語っていました。
あの写真とテキストは全部僕が用意してる。もともとは富士山麓公演に向けてスタートしたものだったけれど、どんどんフォロワーが増えた。それで「フォロワー数が100万人以上を達成したら何か起きるんかな?」って思って、そこを目指して続けてる。
──投稿するタイミングはそのときの気分ですか?
そうだね。だからやらないときは全然やらない(笑)。
──それがまた、生活感が出ていいんですよね。
そうそう。Twitterとかで僕の投稿を見た奴がリアクションすると、スタッフが教えてくれる。それで「そいつに返信しようぜ!」ってスタッフに提案したり(笑)。なんか一緒に話している感じがして楽しい。
「何が『乾杯』だよ!」
──最近ではテレビ番組への露出も増えましたね。先日は「音楽の日」に出演されました(参照:長渕剛「音楽の日」出演決定、新曲初披露&「とんぼ」歌唱)。
「音楽の日」では「Black Train」と過去の曲を演奏したんだけど、「とんぼ」はアコギとドラムの2人編成で披露したんです。ベースとエレキギターなしで、すごいロックっぽい感じにしてみました。
──あの日はピアノとボーカルのみの「STAY DREAM」も披露されましたね。昨年「FNS歌謡祭」に出演されたときは「乾杯」を演奏しましたが、イントロの前に即興的な演奏と歌唱が追加され、これまでとは大きく異なるアレンジが施されていました(参照:「FNS歌謡祭」長渕剛が初登場、コラボ36タイトル明らかに)。番組放送前に行われたツアー「THANK YOU ACOUSTIC TOUR 2016 FOR FANCLUB MEMBERS」内での「乾杯」もアレンジ版となっていました(参照:長渕剛、咆哮!新たな決意示したツアー東京編バースデーライブ)。30年以上演奏してきた楽曲に、あそこまで異なるアレンジを施したのはなぜだったんでしょう?
あの新しいアレンジは「THANK YOU ACOUSTIC TOUR」での公演を通して生まれた。歌は発表されたあとは好きになってくれた人のもの。もう僕のものではない。それにヒット曲を歌いに全国を巡業していくっていうのは、僕自身の生き方とは違う。常にトライ&エラーを繰り返して新しいものを作り、その新しい曲が新しい時代で戦えるかどうかを考える。それがあるからこそ、旧譜も輝く。今が輝いていないと意味がない。それが僕なりの落とし前の付け方だと思っている。「順子」って知ってる?
──1980年に7インチシングルで発表された曲ですね。
あの曲も、今ではまったく歌っていない。僕自身変化していくからあの頃と同じように歌えないし、もう歌いたくない。レコード会社やプロダクションは、やれ歌えって言うけど、「ザ・ベストテン」で歌ったきりであとは封印した。「巡恋歌」もデビューから何年か経ったあと、「違う!」と思ってアレンジを変えた。
──だからこそ、「乾杯」もあそこまで大きな変化を遂げたと。
壊すべき。「乾杯」を発表してから何十年も経って、今と当時とでは国民性も時代性もまったく違う。しきりに結婚式の定番みたいに歌われてきたけど、もともとは個人的に祝いたい人のために作った曲だから、僕としては「何が『乾杯』だよ!」って。だから今歌うのなら現在の時代感や思いを込めて、リスナーに対して「本当に『乾杯』でいいのか?」という問いかけが必要になる。コードを変えたり不協和音を入れたくなったりする。ところが「FNS歌謡祭」に出演したあと、みんなに「昔の『乾杯』のほうがよかったよ!」って言われちゃって(笑)。そりゃそうだな。人々の心の中には、当時の思い出と共にあの曲があるんだから。でも見事にバズったし、論議も生まれたので「よーし、よかった!」って(笑)。それでいいんだ。「作家としてのわがまま」って自覚しつつ、やっぱり作り手としては新しいものにトライしていくべき。
──長渕さんは40年近く活動を続け、今も積極的に新たなことにチャレンジし続けています。デビュー当時、ここまで長く活動するとご自身で予想していましたか?
いやいや。いくつまで活動するなんて一切考えなかったよね。
──ここまで活動を続けることができた、原動力はなんだったんでしょう?
それはやっぱり歌いたい、投げかけてみたい言葉があったから。僕は10代の頃からギターを持ち、反逆の思想を描いてきた。銃を持てば戦争になるけど、ギターを持てば戦争にはならない。ギターなら社会と対峙することができる。その覚悟は僕の中に並々ならないぐらいある。音という武器に、言葉という弾丸を込めて撃ちまくり、「こうじゃないのか?」って語りかけることで仲間が欲しかった。それが僕の原動力だ。
- 長渕剛「BLACK TRAIN」
- 2017年8月16日発売 / UNIVERSAL GEAR
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初回限定盤 [CD+DVD]
4320円 / POCS-9167 -
通常盤 [CD]
3240円 / POCS-1621
- CD収録曲
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- Black Train
- 嘆きのコーヒーサイフォン
- Loser
- かあちゃんの歌
- マジヤベエ!
- ガーベラ2017
- 愛こそすべて
- 自分のために
- 誰かがこの僕を
- Can you hear me?
- 初回限定盤DVD収録内容
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- メイキング&インタビュー
公演情報
- TSUYOSHI NAGABUCHI NEW ALBUM「BLACK TRAIN」 ONE NIGHT PREMIUM LIVE AT 日本武道館
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2017年8月22日(火)東京都 日本武道館
- 長渕剛(ナガブチツヨシ)
- 1956年生まれ、鹿児島出身の男性シンガーソングライター。1978年にシングル「巡恋歌」でデビューを果たし、1980年にシングル「順子」が初のチャート1位を獲得。その名を全国に浸透させた。以後「勇次」「ろくなもんじゃねぇ」「乾杯」などのヒット曲を次々と発表。1980年代前半からは「家族ゲーム」シリーズ、「とんぼ」などテレビドラマや映画にも出演し、俳優としての活動も行う。2004年8月には桜島の荒地を開拓して作った野外会場でオールナイトライブを敢行し、7万5000人を動員。さらに2015年8月には静岡・ふもとっぱらにて10万人を動員する野外オールナイトライブ「長渕剛 10万人オールナイト・ライヴ2015 in 富士山麓」を実施し、成功を収めた。2017年8月には自身24作目となるオリジナルアルバム「BLACK TRAIN」をリリース。同月22日には本作の発売を記念したプレミアムライブを東京・日本武道館で行う。
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