「『けいおん!!』はどうしてヒットしたのか」を考えるところから今の僕が始まった
──ヒット曲に対する考え方についても聞かせてください。例えば現在のアニソンには「BPMの高速化」「音楽ジャンルの多様化」といった大きな流れがあると思いますが、その傾向に対してどんなスタンスを取っていますか?
田淵 売れるのはどんな音楽かとか、今何が流行ってるかという話はみんなしますけど、リスナーは1種類ではないですからね。売れた曲というのは、それをいいと感じる層があったというだけの話なので。
Tom-H@ck 確かにそうですね。
田淵 誰が歌うのか、どんなタイアップか付いているのかによっても変わってくるじゃないですか。だからアニソンについても、今のアニソンの雰囲気をそのまま「これが今のトレンドだ」と断定するのは間違いだと思っていて。「売れるアニソンがときどきあるよね」くらいの感覚で、僕らはいい曲を作っていくしかないんじゃないかな、と。
Tom-H@ck 才能がある人だから言えることだなっていう気もしますけどね、それは(笑)。
田淵 ここは謙遜しないで言いますけど、自分には何かしらの才能はあるとは思ってますよ。そうじゃないと、この業界では生きられないので。ただ、それが商業的にヒットするかどうかは別問題なんです。「田淵さんに提供してもらった曲がライブで人気になってます」と言われたとしても、数字的にはそんなに売れてないってこともあるから。
Tom-H@ck 外側の要因に関しては、何がどうなるかわからないですからね。
田淵 そうなんですよね。大石昌良さんが作った「ようこそジャパリパークへ」があれだけ売れたのも、もちろん曲のよさもあるけど、「けものフレンズ」というアニメが注目されていたのも大きな要因じゃないですか。スーパークリエイターを集めた映画「君の名は。」がヒットしたから「ヒットは作れる」みたいなことが言われてますけど、「その前に『シン・ゴジラ』のヒットがあったから、あれだけの人が映画館に行ったんじゃないか」みたいな推測もできますよね。
Tom-H@ck そうですね。つまり売れるかどうかを気にしてもしょうがない、と。
田淵 はい。それよりも、やっぱり自分が好きだと思うことをやったほうがいいんじゃないかな。だって、自分が好きじゃないと思っている曲が売れるのもイヤじゃないですか。
Tom-H@ck 僕はそこから始まってるところがあるんですよね。「けいおん!!」みたいな明るい音楽、それまで作ったことなかったですから。
田淵 でも、あれだけ注目されると「『けいおん!!』みたいな感じの曲をお願いします」って言われますよね。
Tom-H@ck はい。でもそれをネガティブに捉えているわけではなくて、「どうしてヒットしたのか」を考えるところから今の僕が始まった気がするんですよ。いまだに「『けいおん!!』のTom-H@ckさん」という言い方をされることがありますけど、「それだけじゃない!」とちゃぶ台をひっくり返すためにはどうしたらいいかを考えて、今の道筋に至っているというか。
田淵 なるほど。今「『けいおん!!』みたいな感じで」と言われたら、やれます?
Tom-H@ck うん、できます。それは感性ではなくて、技術的な話なので。
田淵 素晴らしい。売れた曲があるって、やっぱりすごいことだと思うんですよ。「GO! GO! MANIAC」もそうですけど、偶然できたわけではなくて、Tomさんが1から作り上げたものですから。それは歴史の1ページだし、自信を持っていいんじゃないかなと。
Tom-H@ck ありがとうございます。新しいものであっても、突き抜けたものであっても、音楽としてエネルギーがないものは広がっていかないですからね。中途半端なのが一番よくないというか。
田淵 そうですね。「これさえやっておけばいいかな」という気持ちで作られている曲が世間に多いのは事実だと思いますけど、それはやっぱり魅力的ではないので。
Tom-H@ck 何かのマネをしているとエネルギーが落ちますからね。そういう音楽がはびこるのは最悪だし、才能のある人が止めないといけないんだろうなって。
田淵 それはTaWaRaにがんばってもらいましょう!
Tom-H@ck いやいや(笑)。
田淵 会社ベースで提案できるって、すごくいいことだと思うんですよ。個人のクリエイターがそれをやろうとしても、最初の伝言ゲームでいきなり失敗しますから(笑)。1人の人間が統括して大勢の人を動かさないと、物事はひっくり返せないんじゃないかな。そういう意味でTaWaRaがやってることは今の時代に合ってると思うし、この混沌した時代に一石を投じようとしたら、Tomさんのやり方が一番いいと思います。僕も1枚噛みたいですね(笑)。「あのプロジェクト、俺もちょっと関わってんだよね」って。
Tom-H@ck ぜひ(笑)。人にどう伝えるか、どう管理するかは、すべて経営に関わることなんですよね。ただ、人間同士がやることですからね。相性もあるし、そのときの機嫌もあるから(笑)。それはバンドも同じでしょうけど。
僕が女性だったら結婚したい
──「アーティスト、バンドとしての活動」と「作家としての仕事」のバランスはどうやって取っているんですか?
田淵 僕はバンドが第一だと思ってます。バンドのファンが嫌がらないように努力しなくちゃいけないし、「田淵がほかの場所で楽しそうにしてるから、ユニゾンの曲がよくない」と思われたら終わりなので。ユニゾンの曲がいい、ライブがいいというのは当たり前で「だったら、田淵が外で何かやっても目をつぶろう」という感じじゃないと長続きしないですから。
Tom-H@ck 僕はさっき言ったように、TaWaRaを総合エンタテインメント会社にするという目的があるので。9割は苦しいですけど、1割くらいはアーティストとしての理想の状況が作れたらいいなと思ってます。
田淵 社長って、やっぱり大変ですか?
Tom-H@ck うん、大変です(笑)。半分はトラブル対応ですから。「一難去ってまた一難」ではなくて、「三難去って、次は五難」みたいな。
田淵 その状況のせいで、いい曲が書けなくならないことを祈るばかりですけどね……。
Tom-H@ck それは大丈夫、心を守るバリアが自分の中にあるので。どんなことがあっても、自分のクリエイティブには関係ないっていう。
田淵 すごい。それ、すごく大事ですよね。
Tom-H@ck 健康にもめっちゃ気を使ってますから。23時くらいには布団に入って、iPadでちょっと本を読んで寝てるので。土日もできるだけ休むようにしてますね。ライブやイベントがあるときはしょうがないですけど。
田淵 いいですね。フリーランスの人は、まず休日を設定して、そこを軸にした仕事を組んだほうがいいらしいです。「休みなんかなくてもいい」という人はいつか崩れるみたいですよ。
Tom-H@ck 田淵さん、休んでます?
田淵 僕は休みが嫌いなんですよ(笑)。といっても、マンガを読んだり映画を観る時間もあるので、世に言う休日はありますけど。何もしないでグダーッとするのは怖いんですよね。
Tom-H@ck それはどういう恐怖なんですか?
田淵 「明日から曲が書けなくなるかもしれない」という怖さですね。オファーがあったときは「全然書けますよ」という態度なんですけど(笑)。ただ、追い込まれるのがイヤなので、納期よりも前に提出することが多いです。
Tom-H@ck 時間的に追い込まれるとクリエイティブに響きますからね。
田淵 そうですね。バンドのアルバムも1年くらい前から頭の中では完成していて、それを形にしていく感じなので。とにかくしっかり準備してないとダメですね。
Tom-H@ck めちゃくちゃしっかりしてますね! 僕が女性だったら結婚したい(笑)。
田淵 いやいや(笑)。
Tom-H@ck こうやって話していてもすごくエネルギーがあるし、本当に刺激になりました。今度、焼肉でもどうですか?
田淵 ぜひ! 今日はめちゃくちゃ楽しかったです。
- MYTH & ROID「eYe's」
- 2017年4月26日発売 / KADOKAWA メディアファクトリー
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初回限定盤 [CD+Blu-ray]
4320円 / ZMCZ-11076 -
通常盤 [CD]
3240円 / ZMCZ-11077
- CD収録曲
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- - A beginning -
- TRAGEDY:ETERNITY
- Paradisus-Paradoxum(TVアニメ「Re:ゼロから始める異世界生活」後期オープニングテーマ)
- STYX HELIX(TVアニメ「Re:ゼロから始める異世界生活」前期エンディングテーマ)
- 雪を聴く夜
- Tough & Alone
- ANGER/ANGER(TVアニメ「ブブキ・ブランキ」エンディングテーマ)
- theater D(TVアニメ「Re:ゼロから始める異世界生活」第14話挿入歌)
- JINGO JUNGLE -HBB Remix-
- Crazy Scary Holy Fantasy(「劇場版総集編 オーバーロード 不死者の王」テーマソング)
- L.L.L.(TVアニメ「オーバーロード」エンディングテーマ)
- sunny garden Sunday
- ─to the future days
- - An ending -
- 初回限定盤Blu-ray収録内容
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- TRAGEDY:ETERNITY Music Video
- L.L.L. Music Video
- ANGER/ANGER Music Video
- STYX HELIX Music Video
- Paradisus-Paradoxum Music Video
- JINGO JUNGLE Music Video
- MYTH & ROID(ミスアンドロイド)
- プロデューサー&コンポーザーのTom-H@ckを中心にしたクリエイターユニット。2015年8月発売の1stシングル「L.L.L」がテレビアニメ「オーバーロード」のエンディングテーマとして話題を呼んだのを皮切りに、「ブブキ・ブランキ」のエンディングテーマ「ANGER/ANGER」、「Re:ゼロから始める異世界生活」のエンディングテーマ「STYX HELIX」、同オープニングテーマ「Paradisus-Paradoxum」、「幼女戦記」のオープニングテーマ「JINGO JUNGLE」と次々にアニメソングをヒットさせる。活動当初は女性シンガーのMayuがボーカルを務めていたが、2017年4月発売の1stアルバム「eYe's」以降、複数のボーカリストを含む多ジャンルのクリエイターが参加するプロジェクトへと進化した。
- 田淵智也(タブチトモヤ)
- 1985年4月生まれ。スリーピースロックバンド・UNISON SQUARE GARDENのベーシストで、プロデュースチーム・Q-MHzのメンバー。UNISON SQUARE GARDENでは一部を除きほとんどの楽曲の作詞・作曲を手掛けており、バンドは「シュガーソングとビターステップ」などのシングルをヒットさせたほか、2015年7月には東京・日本武道館での単独公演を成功させている。Q-MHzは2016年1月にオリジナルアルバム「Q-MHz」を発表し、その後さまざまなアーティストのサウンドプロデュースで活躍している。