最終的には映画にしたい
──では、MYTH & ROIDの1stアルバム「eYe's」について聞かせてください。これまでにリリースされたアニメのタイアップ曲も収録されていますが、全体を通し、1つの物語を軸にしたコンセプチュアルな作品になっていますね。
Tom-H@ck シングルでは「人間の感情の最果て」を描いていたんです。例えば狂気的な愛とか、怒りとか。それらをどうやってアルバムに落とし込もうかと考えたときに、「人間の感情をテーマにした小説を書く」というアイデアが出てきて。人間が一番左右されるのは、自分自身の感情だと思うんです。小説をもとにすることで、芸術性を保ちながら人間の感情を表現したのが、今回のアルバムですね。
──小説のストーリーがアルバムの核になってるわけですね。
Tom-H@ck はい。人間の感情が宿った“虹色の目”があって、それが何百年後に化石として見つかる。考古学博士がその化石の分析を進める中で、いろいろな物語に発展していくという内容ですね。
田淵 アニメのタイアップ曲も、アルバムの1つのピースとして逆算しながら作ってたんですか?
Tom-H@ck うん、そこも考えてました。感情の最果てというテーマで楽曲を作っていれば、アニメのテーマやコンセプトにも合わせやすいというか、「この曲はこういう感情を表現しています」と言えるので。それを大きなストーリーとしてまとめたということですね。最初(1曲目)と最後(14曲目)にインスト曲が入っていて、その中で外国人の女性に英語で語りを入れてもらってるんですが、それが“虹色の目の化石”の説明になっています。
田淵 なるほど。
Tom-H@ck 以前、トレント・レズナー(Nine Inch Nails)が映画のサウンドトラックでグラミー賞を取ったんですよ。バンドのボーカリストがハリウッド映画のサントラでグラミーを取ったことがすごく衝撃的でしたし、感銘を受けました。日本人はエレクトロのような細かく構築していく音楽が得意だと思んですけど、この2曲も9割くらいアナログシンセだけで作っているんです。実はアルバムのストーリーを書籍化、映像化することも考えていたんですけど、それは2ndアルバムでやろうかなと。
田淵 映像化って、映画ですか?
Tom-H@ck そうですね。今回もいくつかMVを作って、そのクオリティもかなり高いと自負しているんですけど、最終的には映画にしたいんです。アニメーション、3D映画など方法はいろいろあるので、具体的にどうするのかは臨機応変に考えようと思ってますが。
田淵 構想がデカいですね。その第一歩に立ち会ってるわけですね、僕は。
Tom-H@ck ホントに第一歩ですけどね(笑)。 まだまだやらなくちゃいけないことはたくさんあるので。
「わかってくれるはずなのに」とリスナーにイライラするのはお門違い
──田淵さんはコンセプトアルバムを作ることに興味はありますか?
田淵 僕はそういう発想がないですね。MYTH & ROIDがやっていることはすごいと思いますけど、僕自身はリスナーが、アルバムに込めた物語を読み解けるほどのリテラシーを持っているとは思わないようにしてます。
Tom-H@ck なるほど。
田淵 それは別に悪いことではないと思うんです。音楽は聴くものなので。僕がアルバムを作るときに一番意識しているのは、曲の流れですね。いい曲が12曲くらいそろっていて、それを気持ちよく聴けることが自分にとっての優れたアルバムの条件です。聴き手のリテラシーが必要になるような要素は、あくまでもオマケみたいなものなんですよね、僕の中では。
──まず音楽として成立していることが重要である、と。
田淵 人それぞれ「こういうのがいいアルバムなんだ」という条件があると思いますけどね。MYTH & ROIDが映画を作るときも、おそらく映画単体として成立するということを意識すると思うんですよね。「アルバムを聴いていないとわからない」ではなくて。
Tom-H@ck うん、そうですね。さっき話した「eYe's」のコンセプトは制作サイドの話で、そのすべてをリスナーにわかってほしいと思ってるわけではないので。
田淵 「俺はここまで考えてやってるんだから、お客さんにもここまでわかってほしい」っていうのはよくないですよね。ちょっと話が変わりますけど、あるライターさんが「音楽記事を深く読み込むのは、そのアーティストに興味がある人の5%くらいだと思う」と言ってて。それは「深いところまでわかってもらうのはあきらめろ」ということではなくて、5%くらいわかってくれたら満足したほうがいいということだと思うんですよ。「全員がわかってくれるはずなのに」ってイライラするのはお門違いだなって、バンドを10年ぐらいやってきて思いますね。
Tom-H@ck とてもわかります。ライブのMCもそうかもしれないですね。こっちがどんなに「わかってほしい」と思って話しても、全然通じてないこともあるから(笑)。
田淵 難しいですよね。MCって、何を言うかよりも、誰が言うかが大事だったりするじゃないですか。そのへんのおじさんが「明日もがんばれ」って言っても誰も耳を傾けないけど、武道館のステージに立ってる人が「明日もがんばれ」って言えば、みんな聞くわけで。
Tom-H@ck そうですね(笑)。
──田淵さん、全然MCしないですよね。
Tom-H@ck え、そうなんですか?
田淵 「ボーカルだけがしゃべるべきだ」と思ってるんですよね。僕がしゃべるのは10年に1回くらいでいいかなと。11周年のメモリアル的なライブ(2015年7月に開催された日本武道館公演)でしゃべったから、次はその10年後ですね(笑)。
Tom-H@ck ハハハ(笑)。でも、こういう場では話してますよね?
田淵 ラジオでも取材でもしゃべってますね。ライブは音楽を聴きにくるところだと思ってるし、僕らも「明日もがんばろうぜ!」みたいなことを言うバンドではないので、そんなにMCは必要ないのかなと。ひと言もしゃべらないくらいでいいけど、まだ実力が到ってないので、ときどきボーカルがしょうもない話をしようかって、極端に言えばそんな感じなんですよ。ライブで一番意識しているのは曲の流れ、セットリストの組み方なので、それ以外の印象を与えたくないんですよね。
Tom-H@ck なるほど。OxTのライブは、2時間のうち1時間半くらいMCなんですよ。さだまさしさんのライブみたいに。
田淵 ハハハ(笑)。適材適所というか、言葉でお客さんの気持ちをつかめる人はしゃべったほうがいいと思いますけどね。怒髪天の増子(直純)さんみたいに、しゃべりがめちゃくちゃ面白い人は絶対にMCをやったほうがいいし。
Tom-H@ck まずは僕らのMCが面白いと思ってもらえてるのか、リサーチします(笑)。
- MYTH & ROID「eYe's」
- 2017年4月26日発売 / KADOKAWA メディアファクトリー
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初回限定盤 [CD+Blu-ray]
4320円 / ZMCZ-11076 -
通常盤 [CD]
3240円 / ZMCZ-11077
- CD収録曲
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- - A beginning -
- TRAGEDY:ETERNITY
- Paradisus-Paradoxum(TVアニメ「Re:ゼロから始める異世界生活」後期オープニングテーマ)
- STYX HELIX(TVアニメ「Re:ゼロから始める異世界生活」前期エンディングテーマ)
- 雪を聴く夜
- Tough & Alone
- ANGER/ANGER(TVアニメ「ブブキ・ブランキ」エンディングテーマ)
- theater D(TVアニメ「Re:ゼロから始める異世界生活」第14話挿入歌)
- JINGO JUNGLE -HBB Remix-
- Crazy Scary Holy Fantasy(「劇場版総集編 オーバーロード 不死者の王」テーマソング)
- L.L.L.(TVアニメ「オーバーロード」エンディングテーマ)
- sunny garden Sunday
- ─to the future days
- - An ending -
- 初回限定盤Blu-ray収録内容
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- TRAGEDY:ETERNITY Music Video
- L.L.L. Music Video
- ANGER/ANGER Music Video
- STYX HELIX Music Video
- Paradisus-Paradoxum Music Video
- JINGO JUNGLE Music Video
- MYTH & ROID(ミスアンドロイド)
- プロデューサー&コンポーザーのTom-H@ckを中心にしたクリエイターユニット。2015年8月発売の1stシングル「L.L.L」がテレビアニメ「オーバーロード」のエンディングテーマとして話題を呼んだのを皮切りに、「ブブキ・ブランキ」のエンディングテーマ「ANGER/ANGER」、「Re:ゼロから始める異世界生活」のエンディングテーマ「STYX HELIX」、同オープニングテーマ「Paradisus-Paradoxum」、「幼女戦記」のオープニングテーマ「JINGO JUNGLE」と次々にアニメソングをヒットさせる。活動当初は女性シンガーのMayuがボーカルを務めていたが、2017年4月発売の1stアルバム「eYe's」以降、複数のボーカリストを含む多ジャンルのクリエイターが参加するプロジェクトへと進化した。
- 田淵智也(タブチトモヤ)
- 1985年4月生まれ。スリーピースロックバンド・UNISON SQUARE GARDENのベーシストで、プロデュースチーム・Q-MHzのメンバー。UNISON SQUARE GARDENでは一部を除きほとんどの楽曲の作詞・作曲を手掛けており、バンドは「シュガーソングとビターステップ」などのシングルをヒットさせたほか、2015年7月には東京・日本武道館での単独公演を成功させている。Q-MHzは2016年1月にオリジナルアルバム「Q-MHz」を発表し、その後さまざまなアーティストのサウンドプロデュースで活躍している。