音楽ナタリー PowerPush - 特別企画 美濃隆章(toe)に聞く“ハイレゾ音源”ってどんなもの?
MY SOUND ROOTS presented by Sony's Headphones
ハイレゾ音源は“感じて楽しむ”
──美濃さんはアーティスト、エンジニアとしてハイレゾ音源にメリットを感じていますか?
うん。やっぱり我々がスタジオで聴いている生々しさが再現されるっていうか。CDにすることで損なわれる部分がハイレゾ音源だと損なわれないっていう感じはありますね。レコーディングスタジオで聴くのとCDで聴くのは如実に音質が違うし。でも個人的には特別“ハイレゾ”ってことを意識したことはないんですよ。ただスタジオでいつも聴いているものに近い音源っていうか。CDはCDで別モノって感じかな。
──では、いち音楽リスナーとしてはハイレゾ音源にどんなメリットを感じていますか?
やっぱりいい音でいろいろな新譜が聴けたらうれしい。何年か前にミックスやマスタリングの現場で“音圧戦争”って言葉が流行ったり、一般的にMP3が流行ったりして、音楽って“いい音”への進化とは逆の進化をしていたと思うんですよ。でもハイレゾって、純粋にいい音を楽しもうっていう流れだから、それはいいことですよね。
──1つ疑問があって。ハイレゾ音源って、96kHzとかの音源もあるじゃないですか。再現されているのはその半分くらいだとして48kHz。でも人間が聴きとれる音って下は20Hz、上は20kHzくらいって言われていますよね? だからあんまり聴感に影響しないんじゃないかなって。
いやいや、でも全然違うんだよね。やっぱり音って響きだからか、耳ではわからなくても体で感じているところがあると思うんです。「聞こえないけど、部屋の雰囲気までなんとなくリアルに感じる」みたいな豊かさ的なものがある。透明だけど、あるのとないのじゃ違うっていう。
──体感的に違うっていう感じですか。
「MY SOUND ROOTS」でも紹介しているSONY MDR-1A。3Hz~100kHzという人の可聴帯域を超えるサウンドを再生するので、192kHz / 24bitというハイレートの音源のポテンシャルも引き出すことが可能。
うん。リバーブとかは如実にわかるかな。ハイレートだと、プラグインのリバーブでもデジタルっぽさをあまり感じなかったり。メロディとかは低レートで録っても伝わるけど、それにまとわりつく雰囲気みたいなものが全然違う、みたいな。
──ちなみに、ハイレゾで音楽を聴くことでデメリットはないんですか?
デメリットとは言わないかもしれないけど……いくらデジタル音源のスペックが高くても、アナログの部分……例えばヘッドホンアンプとか、スピーカーとかが相応のものじゃないとなとは思います。例えばこの特集でも紹介しているSONYのMDR-1Aとかは100kHzまで再生するから、192kHzで録ったものでも意味があると思うけど。こういうふうに、音源が持っているポテンシャルを発揮できる再生環境で楽しんでほしいっていうのはありますね。
ハイレゾ音源は種類がいっぱい
──ここまでを聞いていて、作り手側にはハイレゾ音源が普及するのはメリットしかないように思いました。でも、ハイレゾ配信が一般化してからずいぶん経ちますけど、圧縮音源の普及に比べてまだ浸透しきれていないなとも思っていて。ちなみに美濃さんは圧縮音源は利用していますか?
うん。携帯プレーヤーで持ち出すためにMP3に圧縮することもあるし、仕事で急いで曲を確認しなきゃいけないときとかにiTunes Storeとかでダウンロードすることもあるし。車や騒音があるところで聴いたり、料理しながら音楽を楽しむぶんにはMP3とかでも全然聴きますよ。別に音質に満足しているわけはないけど、便利は便利ですよね。
──ハイレゾ音源が圧縮音源よりも浸透していないように感じるのって、我々エンドユーザー側からすると「音質ってそんなに違うのかな?」って思っているってところもまだあるし、容量も軽いほうが便利だっていうのももちろんあるんですけど、それ以前にいろいろフォーマットがあってわけがわからないっていうのが大きいと思うんですよね。
確かにひと口に“ハイレゾ音源”っていっても、さまざまなフォーマットが混在していますからね。一般的なものだけでもWAV、AIFF、FLACとかいろいろあるし。
──それぞれ違いはあるんですか?
WAVとかAIFFは、CDでも採用されている非圧縮の音声ファイルフォーマットです。この辺りはだいたいのプレーヤーで再生できるから一般的だよね。レコーディングするときもWAVが多いし。でも、携帯プレーヤーとかで持ち歩くにはサイズが大きい。FLACとかは可逆圧縮って言われているもので、音質を保ったまま少ない容量で持ち歩けるけどMP3ほどは小さくならない。そういうふうにそれぞれに機能的なメリットやデメリットがあって、さらにその中で96kHzのものや48kHzのものが混在しているっていう。
──あと、DSDの配信も存在感を示していますよね。
DSDってWAVとかAIFFとかみたいなリニアPCM方式とは違った記録の仕方をしているから、さっき挙げたフォーマットとは別ものなんだよね。サウンドは独特。ぬるっとしているというか、何十年モノのウイスキーみたいなとろみがあるっていうか。デジタル音源なのにデジタルっぽくない。
──DSDってSACDでその音のよさが注目されましたけど、SACD自体が一般的にあまり広まらなくて。でもDSDの配信は広まっている感じがします。
やっぱり音がいい。ボリュームをいくら上げても痛くないし。この前OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUNDのレコーディングのとき、フルアナログで録ってその2ミックスをDSDレコーダーに落としたんです。いっさいPro Toolsに介さずに。それがすごくよかったですね。あと、zAkさんがレコーディングしたOOIOOの音源をKIMKEN STUDIOっていうマスタリングスタジオで聴いたんだけど、それは感動したね。すごかった。もちろんレコーディングがいいものを、KIMKEN STUDIOのシステムで聴いたからっていうのはあると思うんだけど。
──そういったさまざまなファイルフォーマットやレートの違いによって再生できる機器やソフトも変わってきます。そこが敷居の高さにつながっている気がするし、その「敷居が高いな」って思われている状況がずーっと続いているようにも感じて。
それはあるよね。iTunesだとFLACファイルに対応してないとか、DSDを聴くためにKORGのAudioGateをダウンロードしなきゃとか、携帯プレーヤーのDACのスペックはどうだったけな、とかいろいろ複雑だからね。WAVとかAACとかMP3とか一般的なファイルだったらiTunesみたいなソフトで一括で管理できるけど、フォーマットやレートが違う音源をダウンロードしちゃうとそれができなくなったり。そういうのをなんでも対応してくれるプレーヤーがあれば、もっとハイレゾ音源も浸透するかもしれません。あとは、単純にハイレゾ音源は重い(笑)。持ち歩くには重いっていうのが、相変わらず敷居の高さにつながっていると思います。
──総合すると、いろいろなフォーマットやレートに対応した大容量のプレーヤーやソフトが一般に浸透すれば、もっとハイレゾ音源が楽しんでもらえるってことですね。
そうかもしれませんね。WALKMANの最新のものとかは192kHz / 24bitまで再生するみたいだし、そういうものが広まればいいんじゃないかな。単純にそういう機材が浸透すればハイレゾのよさに気付く人も増えるわけだし。個人的にも、あまり高額じゃないハイレゾ対応のプレーヤーで、1TBくらい容量があれば欲しい(笑)。それがあればみんな普通にハイレゾを聴くと思うよ。ハイレゾバージョンが出ているのに、わざわざCD買って圧縮して……みたいなことをしなくていいし。
──ちなみに、toeは今後どういった形で音源をリリースしていこうと考えていますか?
CDじゃなくてもいいのかなって思ってます。でも個人的にはパッケージや印刷物も作品の一部だと思っているので、出すならなんらかの電子媒体になりますよね。でもパソコンを持ってない人が聴けないと不便だし……ダウンロードコードを付ければ解決するのかな?とかいろいろ考えてます。
──いずれにせよハイレゾでのリリースになりそうですか?
うん。ハイレゾ音源の音質がいいのは事実だし、作り手としてはなるべく作ったものに近いもので聴いてほしいですからね。
リニアPCM方式
フォーマット | 拡張子 | 備考 |
---|---|---|
WAV | .wavなど | Windows標準の非圧縮音声ファイル。CDに収録されているのはだいたいこちら。 |
AIFF | .aif、.aiffなど | Mac標準の非圧縮音声ファイル。WAVと同等のクオリティ。 |
FLAC | .flac、.flaなど | ハイレゾ配信によく使用される可逆圧縮ファイル。非圧縮音源と同等のクオリティで再生可能ながら、より小さい容量で保存できる。 |
WMA Lossless | .wma | マイクロソフトが開発した可逆圧縮ファイル。非圧縮音源と同等のクオリティで再生可能ながら、より小さい容量で保存できる。 |
Apple Lossless | .m4a | Appleが開発した可逆圧縮ファイル。非圧縮音源と同等のクオリティで再生可能ながら、より小さい容量で保存できる。 |
- DSD方式
- リニアPCM方式よりも高精度のAD(アナログ→デジタル)変換により高音質を実現させたファイル。DSDIFF、DSF、WSDなどのフォーマットがある。
- Sony MDR-1A
- Sony MDR-1A
- 低域から100kHzの超高域までを再生する広帯域40mmHDドライバーユニットを搭載。耳を包み込むような快適な装着感のステレオヘッドホン。
- 価格:オープンプライス
- 形式:密閉式 / ダイナミック型
- 周波数特性:3Hz~100kHz
- インピーダンス:24Ω(@1kHz)
- ドライバーユニット:40mmドーム型
- ケーブル:1.2m着脱式 / 片出し
- 重量:約225g(ケーブル除く)
- カラーバリエーション:2色(ブラック、シルバー)
- Sony XBA-A3
- Sony XBA-A3
- 新開発のHDハイブリッド3ウェイドライバーユニットを搭載。
深みのある低音から高域の余韻まで豊かな広帯域再生を実現。
- 価格:オープンプライス
- 形式:密閉ハイブリッド
- 周波数特性:3Hz~40kHz
- インピーダンス:32Ω(@1kHz)
- ドライバーユニット:16mmダイナミック×1、バランスドアーマチュア×2
- ケーブル:1.2m脱着式 / Y型
- 重量:約10g(ケーブル除く)
美濃隆章(ミノタカアキ)
1974年生まれ、神奈川県出身のアーティスト。popcatcher、REACHを経て、toeのギタリストとして活動中。またエンジニアとして、toeのほかクラムボン、mouse on the keys、dry river string、Spangle call Lilli line、ゲスの極み乙女。、Charaなどのレコーディング、ミックス、マスタリングでその手腕を発揮している。さらに音楽レーベルMachupicchu INDUSTRIASを主宰し、toeやmouse on the keysの音源をリリースしている。
2014年11月17日更新