音楽ナタリー PowerPush - 特別企画 美濃隆章(toe)に聞く“ハイレゾ音源”ってどんなもの?
MY SOUND ROOTS presented by Sony's Headphones
ナタリーの記事でも目にすることが増えた“ハイレゾ音源”という言葉。CDよりも優れた音質で音楽を楽しめるというハイレゾ音源は、配信サイトも充実し、簡単に入手することができるようになった。しかし一方では、まだまだハイレゾ音源とは何かを把握していない音楽ファンも多い。
そこで今回は、“ハイレゾ音源ってどんなものなの?”という声を解消すべく、toeのギタリストでエンジニアとしても活躍する美濃隆章に改めて解説してもらった。
取材・文 / 加藤一陽
ハイレゾ音源は“CD以上の情報量”が定義
──最近ハイレゾ音源の配信が以前よりも盛り上がっているということもあって、ナタリーで改めてハイレゾについてまとめたくて。まずは“ハイレゾって?”っていうのを教えていただけますか?
ハイレゾ音源の“ハイレゾ”って、英語で“High Resolution”、つまりハイレゾ音源を日本語に直訳すると“高解像度音源”ということになりますね。
──でも、聴き手が高解像度だと感じたらどんな音源でもハイレゾ音源っていうわけでもないんですよね。
もちろんそれは違います。ハイレゾ音源と呼べるかどうかには、ある決まりがあるんです。それは一般的なオーディオCDに収録されている音源よりも“サンプリングレート”と“量子化ビット数”という2つの値が高いかどうかっていうこと。一般的なオーディオCDには、サンプリングレートが44.1kHz、量子化ビット数が16bitの音源が収録されているんだけど、これよりもスペックが高い音源が“ハイレゾ音源”って呼ばれています。96kHz / 24bitとか、48kHz / 24bitとかね。
──サンプリングレートとは?
細かい説明は省くけど、アナログの音声信号をデジタル信号に変換するときに1秒に何回サンプルを取るかっていう数値。CDの音源は44.1kHzで、1秒間に4万4100回サンプリングしているってことになっています。96kHzだと……1秒で9万6000回か。
──では、量子化ビット数というのは?
音の最大値と最小値の間を何段階で区切るか……みたいな説明がいいのかな。数値が高いほうが細かく区切れるから、よりもとの音に近く収録できるんですよね。マスの数が多いほうが、1つの形を描くときに滑らかに描ける……というイメージというか。
──そういう数値が音のよし悪しにつながるんですね。
うん。もちろん録音時のマイクとかのクオリティにも左右されますけど。ビットレートが高いと表現力は高くなるし、個人的にはサンプリングレートが高いと高域が伸びやかになって、中域の密度も濃くなるように思います。昔は録音装置やソフトのスペック的な理由で16bitで録ったりしてたけど、今はもうやろうと思わないな。あと、デジタル音源ではサンプリング周波数の半分までの周波数しか再生できないので、例えば44.1kHzだと22kHzくらいまでしか再生されないんだけど、96kHzでレコーディングしたら再生する範囲も単純に広がりますよね。
CDには44.1kHz / 16bitの音声ファイルが収納されている。このレートを超えるスペックを持つ音源をハイレゾ音源と呼ぶ。
ハイレゾ音源は音楽の“産地直送”
──ハイレゾ音源とCDの音源って、作り方に違いはあるんですか?
いや、レコーディングの工程自体は同じ。でも音楽ってレコーディング、ミックス、マスタリングっていう工程を経て商品化……つまりCDや配信音源になっていくんですね。レコーディングは楽器や歌を、Pro Toolsなどのレコーダーに録っていく作業。ミックスはレコーディングした楽器やボーカルの音量を整えたり音の配置を決めたりして、ステレオトラックにまとめてマスター音源を作る作業。マスタリングは、ミックスで作った音源の最終調整というか、どんなリスニング環境でも同じように聴けるようにしたり、アルバムの曲の音量のバランスを整えたりしている作業です。マスタリングはノイズが入り込んでいないかの確認とかもするから、品質管理みたいな機能もありますけど。
──はい。
そういう点ではハイレゾ音源もCDの音源も作り方は基本的には一緒ですけど、ハイレゾだと最終的にCDにする作業がなくなるよね。で、エンジニアって48kHz / 24bitとか96kHz / 24bitとかでレコーディングしていることが多いから、マスター音源は48kHz / 24bitとか96kHz / 24bitとかなんですね。
──ハイレゾのクオリティですね。
うん。CDの場合はそのマスター音源からCDのプレス工場に入稿するデータを作るんですけど、そこで44.1kHz / 16bitにダウンコンバートしているんです。それでもなるべくよく聴いてもらえるように、エンジニアはいろいろ微調整をしていて。
──じゃあハイレゾ音源の配信は、マスターのクオリティを下げてCDにプレスするっていう工程が省けるんですね。
ハイレゾでリリースすることを前提にしていればまたそれなりの微調整を行うので、マスタリングがなくなることはないですけど。ただ音楽をCDっていうハコに詰め込むような作業はやらなくていい。CDになっても楽曲のうま味が表現されるように調整したり、配信用とCD用でマスタリング変えたり……とかいろいろやっているんですよ。そういうのって作ったままの音とは違うものになることを前提にした作業だから、手間がかかるのにあんまりいいモノじゃない(笑)。そういう意味では面倒ですよね。
──ハイレゾ音源の配信を前提に制作していれば、“悪くすることを前提に、その中でなるべくいいものを”というストレスからは解放されるわけですね。
そうですね。ハイレゾの配信は産地直送みたいなイメージで楽曲をリリースできるっていうか。
CDが制作され、リスナーに届くまでの流れ。96kHz / 24bitでレコーディングを行っていても、CDにする時点で44.1kHz / 16bitにコンバートしなければならない。CDにプレスする際に音が変わってしまうことも。
ハイレゾ音源がリスナーに届くまでの流れ。マスター音源とレートが変わらないため、スタジオで作った音がそのまま届けられる。
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美濃隆章(ミノタカアキ)
1974年生まれ、神奈川県出身のアーティスト。popcatcher、REACHを経て、toeのギタリストとして活動中。またエンジニアとして、toeのほかクラムボン、mouse on the keys、dry river string、Spangle call Lilli line、ゲスの極み乙女。、Charaなどのレコーディング、ミックス、マスタリングでその手腕を発揮している。さらに音楽レーベルMachupicchu INDUSTRIASを主宰し、toeやmouse on the keysの音源をリリースしている。
2014年11月17日更新