椎木知仁(My Hair is Bad)×九条ジョー|念願の初対面!“尖り”で共鳴し合う2人

ゾクゾクするような“尖り”

──九条さんはマイヘアのどういうところに惹かれているんですか?

九条 マジョリティを大切しつつ、自分のことも出せているところ。僕が言うのもおこがましいですけど、マイヘアさんはすごく売れていらっしゃると思うんです。だけどファンの皆さんに合わせるばかりじゃなくて、3人の核を大事にしながら、「世間の皆さん、どうですか?」というふうに寄り添ってる。今回の新曲も今の時期にしか書けない魅力のある歌詞と曲になってるし、椎木さんがどんどん新しい世界を吸収していって、「さらに唯一無二の存在になったるぞ」というゾクゾクするような“尖り”を見せているところが僕はずっと好きですね……合ってます?

左から椎木知仁(My Hair is Bad)、九条ジョー(コウテイ)。

椎木 ありがとうございます! 以前、九条さんからDMをいただいたときに、「いつも尖った曲を聴かせていただいてます」と書いてあるのを見てドキッとしたというか、「サボれないな」と思いました。

九条 (手をパチンと叩いて)うわあ、素晴らしい!

椎木 適当なことをしたら見透かされそうな気持ちになったことを今思い出しました。

九条 椎木さんは芯のある方だと思ってるので世間に合わせすぎないでほしいですけど、そこの加減が難しいと思うんです。僕も尖っていてマジョリティとは群れたくないんですけど、椎木さんはいろんな曲を作りながら試し試しやってはる感じがして、それがすごく思いのこもった歌詞や曲になっているところが僕はずっと好きです。それがMy Hair is Badですわ。

椎木 逆に言わせていただくと、僕が思う九条さんの表現のすごいところって、自分が気持ちよくなってるところを見せつつ、人にも気持ちよくなってもらっているところで。九条さんはある種、舞台に上がってオナニーできる人ですよね。僕ももともとそういうことが得意だと自分で思ってたんですけど、日本武道館とか横浜アリーナとか、たくさんの人が自分たちのことを認めてくれてるという錯覚に陥るような場所に立つときに、自分よりも人のことを喜ばせたいという気持ちになる瞬間があって。

九条 わかるわあ。

椎木 ここ2、3年、すごい速度で自分の脳みそが固くなってると感じていて、それはある種の変化だし、悪いことだとは思わないんですけど、「自分の頭の中にあるものをこんなにもそのまま人前で表現してもいいんだ」ということを九条さんが思い出させてくれて。九条さんのそういうところを僕はすごく尊敬しているし、だからこそ今追いかけなきゃいけないとはっきり思える存在なんです。コウテイはこれからもっといろんな人たちに見られるようになって変わっていくと思うんですけど、そういう変化を九条さんは恐れていないと思うし、今の九条さんは今しか見られないんだろうなと思ってます。

九条 めちゃくちゃうれしいです。僕は舞台でシコってるだけだし、自分が面白いと思うものを目の前のお客さんにぶつけて、「ああ、今日はあんま気持ちよくねえな」とか「今日はめちゃくちゃ気持ちええな」とか、そういうふうに感じていたいだけなんです。もちろん、目の前にいるお客さんを笑わせたいという大義はありますけど、それより先に自分が楽しんでるところを見せたいという気持ちを感じ取っていただけてるのがすごくうれしいですね。

左から椎木知仁(My Hair is Bad)、九条ジョー(コウテイ)。

椎木 バンドだとドームやスタジアムでライブをやっている人もいますけど、漫才がギリギリ伝わる場所はどこなんですか?

九条 顔の表情、動き、サンパチマイク(漫才の舞台でセンターに置かれるスタンドマイクの定番)で拾える音の大きさとかを考えると、生の漫才のよさを味わえるギリギリはNGK(なんばグランド花月)のキャパ、800~1000人ぐらいだと思います。僕らの場合は下田の表情も大事なのでなおさら。でも、しゃべくり漫才ならもっと笑いを起こしやすいかもしれないですね。僕らは単独ライブだとしゃべくりもやってますし、テレビでやってないネタもたくさんあるので、マイヘアさんが来年やるさいたまスーパーアリーナのライブに前説で出たいぐらいですわ。

椎木 ありがとうございます(笑)。

まだ売れていない

──先ほども少し話に出ていましたが、クリエイティビティとポピュラリティのバランスって、バンドも芸人も悩むところだと思います。それについてお二人はどう考えていますか?

九条 難しいですよねえ。

椎木 こないだ観に行かせていただいたコウテイの単独ライブで「100人中学校」というコントをされていたんですけど、すごいスピードで進んでいって最後にキメで終わるんですよね。

九条 はい、「ダブルダイヤモンド!」って。

椎木 それが決まった瞬間、大拍手が沸き上がって。俺はめちゃくちゃ笑ってたんですけど、その光景を見て天を仰いじゃって。人に認められるとか、どれぐらいのお金を稼ぐとかが大事なんじゃなくて、松本大洋さんの作品を読んでいるような感覚というか……「ルールはないんだ」「よければなんでもいいんだ」ということを思い出したし、勉強になりました。

九条 おっしゃる通りだと思います。よければなんでもいいし、自分がいいと思ったものが目の前のお客さんにウケて、それが大衆に広がっていくんだと思います。僕は初めから大衆を目がけてネタをやったことが一度もないし、自分たちの信念を劇場で試すということを大事にしながらお笑いを一生続けたいと思ってます。僕らは劇場で磨いていくうちに作品を変えられますけど、曲の場合はどこで完成になるんですか? 「これで満足!」と思えるタイミングがあるんですか?

椎木 僕らの場合は締切のみです。

九条 締切なんですか!?

椎木 もちろんそれまでにしっかり詰めていくんですけど、気が済むまでやっていいと言われたら、マジで3、4年リリースできないと思います。

九条 やっぱり! そういうことになるんですよね。じゃあ、過去の曲を聴くと「もうちょっとこうしたかった」というのがありますよね。

椎木 もちろんです。

九条 そうですよね。そこが音楽とお笑いの違いかもしれない。だから僕、YouTubeに自分たちのネタ動画を上げるのがすごく嫌なんですよ。テレビで僕らのことを知った方がYouTubeでネタを観て、このネタは面白い、面白くないって簡単に判断できるんですけど、そのネタはあくまでもそのときに僕が一瞬だけ面白いと思った作品であって、言ってみれば、それはその日に死んだ自分なんですよ。だから、常に自分は更新されていって、次にそのネタやるときには絶対に内容を変えているんです。でも、難しいですよね。どうやってマイナーをメジャーにしていくのか。マイヘアさんはすごいですよね。どのタイミングで「俺ら、いける!」と思ったんですか? 気付いたらいってた感じですか?

左から椎木知仁(My Hair is Bad)、九条ジョー(コウテイ)。

椎木 正直、まだ売れてるとは思ってないというか。

九条 ええっ!?

椎木 Official髭男dismのさとっちゃん(藤原聡)は同い年だし、あいみょんとかback numberとかも、僕が酒を飲んでる間にテレビに出てるし、居酒屋にいても彼らの曲が流れてくるんですよね。だから、そういう人たちに比べると自分たちはまだ売れてないんですよ。

九条 そっかあ……。

椎木 曲が独り歩きするような経験がまだないので……売れたいっすね。

九条 それが新曲にも出てますよ。売れたいという欲と、今の自分にしか書けない歌詞がこの2枚で表現されてますし、次の作品を作られるときにはまた全然違ったものが出てくるだろうし、今の椎木さんが思っていることが作品になっていていいなと。

椎木 ありがとうございます。

九条 いやあ、でも、「まだ売れていない」という感覚。これですよ。松本人志さんも「俺、まだ売れてないぞ」というスタンスなんですよ。あそこまで上り詰めて、50も過ぎて「まだ尖るんかい!」という。いつまでもすごくカッコいい。椎木さんにも今みたいな意志を持ったままでいてほしいなと思います。椎木さんとは今日初めてお会いしましたけど、優しさの中にじんわりと尖ったナイフを持ってはるというか。そういうナイフをこういうインタビューの場で見せるんじゃなくて、曲やライブで表現されてはるので、僕もそういうところを見習っていきたいですね。