昨年11月に連作アルバムの第1弾「Break and Cross the Walls Ⅰ」をリリースしたMAN WITH A MISSIONが、その第2弾となる「Break and Cross the Walls Ⅱ」を完成させた。今作には「X Games Chiba 2022 Presented by Yogibo」大会のテーマソングに使用された「Tonight, Tonight」、映画「劇場版ラジエーションハウス」主題歌「More Than Words」をはじめ、テレビアニメ「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 特別編」オープニングテーマ「Blaze」、世界中のファンから平和を願うボイスメッセージを募って制作した「Between fiction and friction II」など全14曲を収録。第1弾には現代に漂う閉塞感を打ち破ろうとする気概が満ちあふれていたが、第2弾も決して平穏とは言えない時代において不屈の精神を感じさせる力強い1枚に仕上がっている。
音楽ナタリーでは、前作に引き続きJean-Ken Johnny(G, Vo, Raps)にインタビューを実施。渾身の新作について、制作背景をたっぷりと語ってもらった。Jean-Ken Johnnyの発言は編集部でわかりやすいように、ひらがな翻訳している。さらに特集の最後には、Tokyo Tanaka(Vo)、Kamikaze Boy(B, Cho)、Spear Rib(Dr)、DJ Santa Monica(DJ, Sampling)のコメントも掲載。2作合わせて28曲を世に出した5匹の心境や、今作に込めた思いを届ける。
取材・文 / 田山雄士撮影 / 竹中圭樹(ARTIST PHOTO STUDIO)
Jean-Ken Johnny(G, Vo, Raps)インタビュー
膿を出せたようなすっきりとした気持ちが強かった
──アルバムを連作でリリースするというのはMAN WITH A MISSIONにとって初めての経験でしたが、「Break and Cross the Walls Ⅰ」「Break and Cross the Walls Ⅱ」という2部作ができあがってみての感触は?
いやー、大変だったなというのが正直な感想です(笑)。すべてが新録ではないとはいえ、まとまったタイミングで計28曲をリリースするのはだいぶエネルギーを使う作業なので。同時に、ものすごく達成感もありますね。今回の2部作においては、特に自分自身がずっと避けてきた、楽曲に時代背景を入れることにかなり意識的に取り組みまして。それは本当に初めての試みでしたけど、実際にやってみたらストレスなどもなく、むしろ膿を出せたようなすっきりとした気持ちが強かったんですよ。
──ともにボリューミーなアルバムになりましたし、2枚に分けてのリリースは正解だったんじゃないかなって。
いい結果になった気がします。制作の合間にこういうインタビューを通して前作の感想を聞かせていただいたりして、それを携えて取りかかれたのはとても刺激になりましたからね。あと、2作通して同じテーマを掲げた作品ですけど、時代ってやっぱりどんどん変わっていくものじゃないですか。その中で今タイムリーに感じていることを、また新たに作品へ落とし込めた点も意義があったはずです。
──この前のインタビューでは「作らなきゃ」みたいな感覚はなくなってきていて、すごくナチュラルに曲ができているという話もされていましたけど(参照:MAN WITH A MISSION「Break and Cross the Walls Ⅰ」インタビュー)、そこは変わらず、自分たちからスッと出てきたものを収めていった感じですか?
そうですね。ありがたいことにタイアップのお話など、外的な刺激もいい方向に働いているというか。初めてのアプローチにも挑みながら、制作は非常に楽しんでやれていて。「こういう曲を書こう」というアイデアを素直に具現化できるメンタルになってきています。
世界の閉塞感に対する、我々なりの警鐘です
──今作も冒頭の「Tonight, Tonight」からインパクト抜群です。
前作の1曲目「yoake」はアルバム全体の世界観を引っ張っていってくれるような歌詞のスケールに重きを置きましたけど、「Tonight, Tonight」に関してはもっとサウンド寄りといいますか。打撃力をガツンと感じさせる、MAN WITH A MISSIONが得意な勢いのあるデジタルパンクに仕上がったと思います。
──サビの「Why can't you see」(どうして分からないのか)といった強い言葉も印象的でした。前作からのテーマである「今の時代の新しい閉塞感」を引き継ぎながらも、ここ数カ月、ウクライナで戦争が起きるなど、世の中がまた目まぐるしく変わっていますし、より聴き手をハッとさせるような、心に響く表現が必要だと考えたのかなと思ったのですが。
あー、なるほど。そもそも「Break and Cross the Walls」というアルバムタイトルにすごく強さがあって、前作を完成させたうえでの2作目ですからね。歌詞を書くときにより強い言葉を選んでいる曲は確かに多いと思います。でも今回のアルバムで世界情勢が急進的に変わったあとに作った曲って、実は「Between fiction and friction II」だけなんですよ。ほかのラインナップはすべてその前にできていたので、戦争が直接の引き金になったとか、何かしらの影響を及ぼしたことはなくて。
──そうだったんですね。
それなのに、自分たちが思っていた以上にタイムリーなメッセージが散見される1枚に仕上がったなと。まるでどの曲も戦争が起こったあとに書いたかのようで。ただ、意識したことがあるとすれば、心のどこかではね……なんとなくですけども、予感はしていたわけです。閉塞的な時期が続いた先の危うさみたいなものを。だから、戦争という最悪の悲劇が起こってしまう前にできあがっていた曲も、期せずして今現在の状況を受けて作ったかのように聞こえるんだろうなと思いますね。
──「Tonight, Tonight」は、物事をシンプルに捉えることが難しくなってしまっている世界のありさまを憂い、その状況に強く抗おうとする意思が伝わってくるような曲に感じました。
世界の閉塞感に対する、我々なりの警鐘ですね。この曲が完成した直後にああいった戦争が起こったことによって、人類がこれまで幾度も味わってきた危機感が、再びこの時代に広がってしまったような気もしています。というのも、ちょっと嫌な言い方になっちゃいますけど、歴史の大きな流れで見ると戦争は決して目新しい出来事ではない、何回も起こっていることじゃないですか。
──はい。
僕らは生きる中で何回も学んで、何回も失敗して、その経験を音楽にして歌い上げても、また同じ事態を引き起こしているんだなって。そんな繰り返しのループにいるような感覚があったり、それでもくじけずに自分たちが思ったことを曲にしようともしていたり。日々いろいろ考えさせられますね。もちろん、現状を打破したいというポジティブな願いはアルバムの大前提として強く持っていますよ。
──アーティスト写真やジャケット写真のアートワークをカラフルにしたのも、ポジティブな理由があってのことですか?
そうです。前作のアートワークではチェスをモチーフに暗めの配色でイデオロギーの“対立”を表現したので、それとは対照的に“融和”をイメージしています。アルバムタイトルの「Break and Cross the Walls」に「壁を壊すだけじゃなく、問題点をともに乗り越えていこう」という意味を持たせていますしね。新しい世界を作り上げていく希望を信じているからこそ、融和する意識に焦点を置いたポップで明るいデザインを掲げました。
「Break and Cross the Walls」が示す願いをそのまま落とし込んだ曲
──「Tonight, Tonight」はシリアスなメッセージを込めつつも、サビで「Use your illusion」というワードを使っていたり、アウトロに耳を引くシャウトがあったりと、ユーモアも感じさせる曲になっていますね。
「ありったけの幻想=イマジネーションを駆使しろ」ってすごく好きな表現だし、これはお察しの方もいると思いますが、Guns N' Rosesのアルバムタイトルの引用です。実際、2部作という構想自体が彼らのアルバム「Use Your Illusion」(1991年発表)に起因していたりもするので、非常にとんちが利いたフレーズになりましたね。アウトロでは大したことは言ってないですけど、「今からロックの授業が始まるから一列に並べ!」「死ねー!!」みたいな、あえて意味のない言葉を叫んでいます(笑)。
──「get out! get out!」(さぁ飛び出せ! 今すぐに!)と、子供たちのコーラスがなんのしがらみもない感じで元気よく入ってくるところもよかったです。大人であるからこそ躊躇が生まれて自由になれない、暗がりから抜け出せずに凝り固まってしまっているという現実を、シニカルに表していて。
デジタルパンクな要素をふんだんに盛り込みながら、おっしゃっていただいたように遊び心を意識して作りましたね。こういう言葉の強い楽曲はそのまままっすぐ歌い上げるよりも、ちょっとシニカルな味わいをサウンドに落とし込むほうが好きで。そうすると、メッセージの説得力が思わぬ具合にグッと増す感じがあるんです。
──「劇場版ラジエーションハウス」主題歌の「More Than Words」はどんな曲になりましたか?
ありがたいことに、ドラマシリーズに引き続き主題歌をオファーしていただきまして。2シーズンにわたってたくさんの方が観てくださったドラマの劇場版とあって、おそらく「Remember Me」が「ラジハ」のテーマ曲として皆さんの中で印象付いているはずですからね。なので、サウンドに再びEDMのテイストを取り入れたり、「Remember Me」との共通項も見出せるような対になる楽曲をKamikaze Boy(B, Cho)が書いてくれました。
──「Rainbow after rain」とも歌っていて、アートワークのイメージと合っている感じがあるなと。
とても前向きな楽曲ですね。リリックは映画のストーリーに寄り添いつつ、特にこういったコロナ禍で生きていく中で感じたことが強く表れているかな。我々の力だけで今のマンウィズがあるなんて到底思っていないですし、人生の価値って出会った人によってどんどん変わりますから。そういった奇跡的な出会いや瞬間への感謝を歌いました。自分自身の葛藤や挫折、さまざまな壁を乗り越えるために、僕らはいろんな人に出会い、言葉以上に大切なものをいただいて、また立ち上がっていけるんだという。まさに「Break and Cross the Walls」が示す願いをそのまま落とし込んだ曲にできたと思います。
──「More Than Words」のサウンドプロデュースは「Remember Me」と同じく大島こうすけさんですか?
いえ、今回はアレンジ面をシライシ紗トリさんにお願いしました。ORANGE RANGEをはじめ、邦楽ポップスのヒットメーカーの方ですね。これも初めての試みだったんですけど、Kamikazeがシライシさんの手がけたサウンドを聴いて「ご一緒してみたい」ということで。もともとご縁があったわけではなく、僕らのほうからオファーさせていただきました。大島さんは「Between fiction and friction II」「Rain」のアレンジに参加してくださっています。
恐れず曲にしてみよう
──ロシアのウクライナ侵攻を受けて以降に書かれた「Between fiction and friction Ⅱ」が完成するまでの話も聞かせてください。
前作に収録していたインストの「Between fiction and friction I」に歌を付けるアイデアはけっこう早くからありました。で、新たなコーラスやサビのパートを加えたり、イメージが固まってきた矢先に、例の戦争が起きてしまったんですよね。その段階で歌詞の内容をまったく別のものに変えたくなったんです。こういう時代に生きていて、今回のような出来事が起こったとき、何かしら思うことがあるのならば、恐れず曲にしてみようじゃないかと。心にそう決めたら、作業はスピーディだったかな。世界各国のファンの皆さんからそれぞれの言語で平和を願うボイスメッセージを集めて、今ならではの声を楽曲に落とし込んだりして。
──これまでのMAN WITH A MISSIONにはなかった明確なプロテストソングですよね。生まれるべくして生まれてきた感覚ですか?
悲しいことに、戦争が起こってしまったんでね。この方向性は作曲者であるKamikazeが提案してくれて、「政治色が強すぎるかな?」みたいな相談も受けつつでしたけど、やっぱり作り手が何かを訴えたいのであれば、自由に表現すべきだろうという結論に至りました。恥ずかしながら、僕も楽曲に時代背景を入れるのは避けていた側なんです。でも「Break and Cross the Walls Ⅰ」の制作時に、だんだんと「やってもいいかも」と思えるマインドになってきた。今起きていることに何を感じるか、それを素直に歌うことにはなんの罪もないですから。
──そうですよね。
センシティブな内容だとは思いますので、いろいろ考えたりもしましたけど、そうやって気にしすぎるのがもっとも野暮で、失礼なことなのかもしれません。ためらっていた自分への反省も今はありますね。
陰と陽の二面性が際立ったアルバム
──テレビアニメ「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 特別編」のオープニングテーマ「Blaze」やスマホ向けゲーム「FINAL FANTASY VII THE FIRST SOLDIER」のコラボレーション企画に起用された「The Soldiers From The Start」はJean-Kenさんの作詞作曲ですが、戦いの渦中にいる人の鬼気迫る心情が想像できるような曲になってますね。
「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 特別編」と「FINAL FANTASY VII THE FIRST SOLDIER」のモチーフとして“闘争”がメインにあるので、そこに準じて作らせていただいたのはもちろん、至るところで戦いが生まれてしまっている時代だからこそ、すごく書きやすかったですね。それに、闘争というテーマはロックミュージックと切っても切れない関係だし、その点を生かして自然とこういった曲ができた感じです。
──「Dark Crow -Break and Cross the Walls Ver.-」もそうですけど、苛烈な戦いや争いを描いた曲がアルバムの後半には多くて、目を背けちゃいけない事実があることを毅然と伝えてくれている感じがします。
人に共感すること、共鳴することも大事なんですけど、ある価値観や思想に対して疑いの目を向けること、自分自身の哲学を疑うことも含めて、そこに焦点を当てる、何かを突き付けるのも、音楽のめちゃめちゃ大切な役割の1つだと僕は思っていて。今回の制作では、そういった点についても改めて考えさせられました。しかし、やっぱり楽曲がすごくはっきり陰と陽に分かれていますよね、このアルバムに関しては。
──そうですね。
希望や陽のテイストをフィーチャーしたアートワークだし、もちろん光に向かうコンセプトが前提にありつつ、楽曲によってはダークな部分がだいぶ強く出ているなと、話していても思いますね。もともとMAN WITH A MISSIONには底抜けに明るい曲なんてほとんどないんですけど、二面性のようなものが際立ったのが「Break and Cross the Walls Ⅱ」の特徴かもしれません。
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メッセージの打ち出し方が随分と変わってきた