MAN WITH A MISSION|ゴジラ、コング、オオカミ!三者の出会いで生まれた最強の一手

MAN WITH A MISSIONがニューシングル「INTO THE DEEP」を6月9日にリリースした。

本作には映画「モンスターバース」シリーズ最新作「ゴジラvsコング」の日本版主題歌として書き下ろされた表題曲をはじめ、長野オリンピック・スキージャンプ団体戦の知られざるストーリーを描いた映画「ヒノマルソウル 〜舞台裏の英雄たち〜」の挿入歌「Perfect Clarity」、NHK「みんなのうた」に提供された全編日本語詞の温かいナンバー「小さきものたち」などが収録されている。

音楽ナタリーではJean-Ken Johnny(G, Vo, Raps)にインタビューを行い、「ゴジラvsコング」の世界観を楽曲に落とし込むにあたって意識したポイント、それぞれの収録曲に込めた思いについて、たっぷりと語ってもらった。なお、Jean-Ken Johnnyの発言は編集部でオオカミ語から日本語に翻訳している。

取材・文 / 田山雄士

自分たちの楔になった曲

──「ゴジラvsコング」の日本版主題歌となった「INTO THE DEEP」、めちゃくちゃカッコいい仕上がりでした。ゴジラ、コング、マンウィズが合わさった映画のキービジュアルも最高ですね。

「ゴジラvsコング」キービジュアル

ありがとうございます。モンスターたちがいろいろ渋滞した感じかもしれませんけど、パンチのあるビジュアルにしていただきました。個人的には、DJ Santa Monicaさんだけがちょっと斜め向きに立っているのが謎です(笑)。

──(笑)。Jean-Kenさんはもともと「ゴジラ」シリーズに対する思い入れが強かったとか。

そうなんですよ! どのシリーズを観たのか判別できないくらいタイトル数がありますけど、けっこう観てます。特に男の子はきっと、あの大怪獣に人生で一度は興奮してるんじゃないですかね。世界中で知られているキャラクターだし。「ゴジラ」という言葉自体、すごい名前だなとずっと感じてました。だって、GOD+ZILLAで「神の怪獣」ですから。そんな多大な影響力を与えてきた日本を代表するアイコンの作品に自分たちが音楽として関われるのは、本当に心躍る光栄なことでしたね。

──新型コロナウイルスの影響で日本での劇場公開は延期になってしまいましたが、「ゴジラvsコング」の本編はもうご覧になったんですか?(※取材は5月中旬に実施)

はい。自分で言うのもなんですけど、実際に観てみて今回の映画に「INTO THE DEEP」は見事にハマってるなと思いました。それは予告編をチェックしてもらえれば、かなり伝わるんじゃないかなと。僕は予告の時点で「すごくカッコいいな」「やってやったな!」とアガれたので。もちろん、マッチするものを作りたくて書いたんですが、間違いない楽曲になったと画面で確認できたときはシンプルにうれしかったですね。

──ゴジラとコングの激闘に張り合える楽曲にはしたかったですよね。

そうですね。あと、こういったお話をいただくときはオリジナル版の楽曲がすでに存在することが多いんですよ。だから、どうしてもいろいろと比べられたり、「日本版主題歌はちょっとイメージが違うな」という意見もなくはないと思うんです。でも、今回はすべての「ゴジラ」「キングコング」ファンをうならせるものを作りたかった。敵意があるとかじゃ全然ないですよ(笑)。本国の予告編ではヒップホップの曲(クリス・クラシックの「Here We Go」)が使われていて、そっちもめちゃくちゃカッコいいんで。

──そのために意識したポイントというのは?

僕が楽曲に込めたかったのは、アクションどうのこうのよりも、このゴジラとコングという大怪獣が放つ得体の知れなさなんです。なので、攻撃的なナンバーを作りたい気持ちは前提にありつつ、無暗に蠢く生物たちのプライマルな恐怖、畏敬のようなものを表現した神秘的なナンバーにできればいいなって。劇中でもバトルシーンだけがメインじゃなくて、ゴジラとコングがなぜ実在しているのか、いったいどこからやって来たのかみたいなところも触れられていて、物語の根幹に関わる部分にもなっていたりするし。そことつながる曲にしたいなとは思いました。

──「INTO THE DEEP」=「深淵の中へ」という曲タイトルも、そのあたりからヒントを得ているんですね。

ネタバレ防止で語れませんが、なぜタイトルが「INTO THE DEEP」なのかは、映画をご覧になっていただけたらわかるはずです。観てのお楽しみですね。音楽的なことで言うなら、MAN WITH A MISSIONはロックを基調に、ポップ寄りの楽曲も作ったりと、多ジャンルにわたるスタイルが持ち味なんですけど、その中でもデジタルなロックとオーガニックなロックの融合は大きな強みだと思っていて。それを主軸として、新しい深いゾーンへ行けたらという願いがありましたね。

──確かに「INTO THE DEEP」のサウンドは、マンウィズがまた次のフェーズに移った印象を受けました。特に、伝説的な怪獣の目覚めをイメージさせる地鳴りのような低音が響くオープニングから、4つ打ちのダンサブルなビートが入ってきて、スムーズに加速していくまでの流れが絶妙で。

うれしいです。ロックの熱さを詰めつつも、DJがかけるようなトラックミュージックとしてもすごく洗練された楽曲に仕上げたいと思っていたんですよ。ロックというジャンルはこの10年間でも大きく変遷を遂げていて、メインストリームで流れるロックミュージックも以前とはだいぶ異なるものになってきたんですね。そんな中、僕らがもっとも影響を受けた90年代のエッセンスを継承したうえで、2020年代に聴いたときにより洗練もされているアプローチはなんだろうって。これに関してはずっと悩みながら答えを出し続けてきましたけど、「INTO THE DEEP」ではかなり合点がいく一手を打てたんです。

──それこそ、今作のアレンジも手がけている中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES、THE SPELLBOUND)さんと初タッグを組んだ「Hey Now」のときのような?(参照:MAN WITH A MISSION「MAN WITH A "BEST" MISSION」インタビュー

そうそう。なんなら合点どころかものすごく手応えを感じる、自分たちの楔になった曲だと思いますね。ある意味、ロックバンドの未来を指し示すような。このシングルの中にも「Dark Crow」のリミックスを入れてますけど、ロックバンドがどれだけジャンルをクロスオーバーできるのかは僕らの憧れや狙いだったりするんです。今回は1つの楽曲においてうまく混ぜられた気がします。

──パーカッシブでトライバルなノリが効いたアレンジもいいですね。

さっきも話に出ましたけど、この怪獣たちがどこから生まれてきたのかという描写もあるので、生命の根源を彷彿とさせるようなサウンドの要素は絶対に必要だし、効果的だろうなと思ったんです。デモの段階で入っていた音ネタですね、あのパーカッションは。ビートの中で対比するコンガだったり、アフリカの打楽器とデジタルの4つ打ちの鼓動感がマッチして、イメージしていた理想のアレンジになりました。

──大サビのあたりでは、不協和音っぽいピアノが際立っています。

あのピアノは中野さんにご助力いただきました。序盤の流れを経て、ここで改めて畏怖と神秘を表現したかったんです。普通のきれいなメロディだと怖さがなくなっちゃうなと悩んでいたところ、「こういうの、どうかな?」と提案してくださって。単旋律なのにとても心に響く、怪しげなものを浮き立たせるような音の並びになっていて、曲全体をキュッと締めてくれています。中野さんとのやり取りでは、ピアノの音入れやビートの整理とかは多少あったけど、自分が狙って持っていったデモにすごく共感してもらえて、「そのままでも全然カッコいいですよ」と言ってもらえたのもうれしかったですね。

──映画のプロデューサーや監督も、マンウィズの楽曲に絶賛のコメントを寄せてましたね(参照:マンウィズ新曲が「ゴジラvsコング」日本版主題歌に「エグイグライカッコイイゾ」)。

いやー、ありがたいです! 海外からのそういった声も。なんだったら、ぜひ日本版主題歌以外でもガンガン使ってほしいくらいですよ(笑)。

本当のドラマ

──2曲目の「Perfect Clarity」は映画「ヒノマルソウル ~舞台裏の英雄たち~」の挿入歌ということで、こちらも書き下ろしになるんですか?

曲のアイデアは以前からありましたね。タイアップの話が決まったあと、特に歌詞が物語としっかりリンクするようなタッチに仕上がりました。静かなバラードというよりも力強いメッセージを込めたバラードになったのは、実際に本編を拝見させていただいたのが大きいかな。映画のテーマが素晴らしかったんですよ。この映画では長野オリンピックで金メダルを獲ったスキージャンパーの方々ではなく、その舞台裏のテストジャンパーたちが抱いていた心の葛藤が描かれているんです。スポットライトを浴びていない側に着目したストーリーは、僕ら自身どうしてもグッときてしまう切り口で……!

──というと?

すごくシンパシーを感じられる内容なんです。バンドマンで言ったら、自分たちが脚光を浴びるライブのステージはやっぱりきらびやかだし、そこに立っている瞬間はめっちゃまぶしく見えると思うんですけど、本当のドラマって実は泥水をすするような裏の場面で起こっている気がするんですよね。人がもがいて葛藤している場面に一番心を打たれるところがあるので、イメージを重ね合わせやすかった。映画のテーマに強く触発されて、主人公の心情をそのまま表わしたかのような歌詞に仕上がっていきました。

──絡まっていた感情がスーッとほどけていくような印象の曲でした。

主人公(田中圭が演じるスキージャンパー西方仁也)には、長野の前のリレハンメルオリンピックにおいて仲間の失敗で金メダルを逃した過去があって。そして、敗北からの雪辱を誓って日々練習に励んでいたにもかかわらず、今度は自分だけが代表落ちしてしまうんですね。言い方は悪いかもしれないですが、大きな挫折や嫉妬によってかなり汚れた心持ちにさえなったと思います。だけど、それでも彼がもう一度覚悟を決めて、すべてを取っぱらってみせたときに感じた境地というか。「Perfect Clarity」=「完全に透明な世界」とは、彼の心の中を指しているんです。

──この曲では、草間敬さんがアレンジに参加しています。

中野さんと同様、草間さんもこれまで何度かご一緒させてもらってます。THE MAD CAPSULE MARKETSやAA=などの制作に携わってこられたアレンジャーさんなので、激しいサウンドの印象が強いかもしれないんですけど、シンセサイザーの使い方が曲調を問わずものすごくうまいんですよ。冒頭のオルガンの音色然り、「Perfect Clarity」のようなバラードに対してのアプローチもさすがで、こういった美しい楽曲を草間さんと作れたのは新鮮でした。