「MUSIC NFT DAY 2023」特集|武田信幸(LITE)×DÉ DÉ MOUSEが語る、音楽NFTの可能性と未来 (2/3)

Fake CreatorsがNFTを選んだ理由

──Fake Creatorsは“Fake Creatorsの音楽やアートを好きになってくれたリスナーや映像 / デザインクリエイターにNFTを使用した特別な体験を届けるプロジェクト”として、楽曲をNFTでリリースする「Fake Creators NFT PROJECT」を展開していますよね。NFTを使って作品をリリースしようと提案したのは武田さんですか?

武田 そうですね。

──メンバーには武田さんからNFTについての説明があったんですか?

DÉ DÉ MOUSE 武田さんにNFTとはなんたるかを教えてもらいました。でも最初はメンバー全員の頭の上にハテナが浮かんでいる状態で(笑)。僕も2年くらい前からアート界隈でNFTが盛り上がっているという話を聞いて存在自体は知っていましたけど、まさか自分がNFTを出す側になるとは思ってなかったです。

DÉ DÉ MOUSE

DÉ DÉ MOUSE

──武田さんはなぜFake CreatorsでNFTを出してみたいと思ったのでしょう?

武田 Fake Creatorsというプロジェクト自体が、「LITEやDÉ DÉ MOUSEの活動ではできないことをやろう」というところから始まっているんです。それは楽曲だけじゃなくて、活動の仕方も含めての話で。Fake Creatorsには僕たちのほかに、ビジュアル周りを担当してくれているJACKSON kakiというクリエイターが参加しているんです。彼の映像ありきのプロジェクトでもあるので、アーティスト以外の第三者を巻き込んだクリエイティブを作っていくとなったときに、映像や画像も評価を受けてほしいと思った。それを実現するためにはNFTが一番相性がいいんじゃないかと。

──もともとミュージシャンは音源だけではなく、ビジュアルやファッション、ファンとのつながりの要素があって初めてアーティストたり得るところはありますよね。

武田 そうなんですよね。だから僕たちはFake Creatorsの活動を続けるうえで、楽曲だけでなく、いろんな側面から評価してもらいたいと思っているんです。

──DÉ DÉさんは最初の説明でハテナが浮かんだとおっしゃってましたが、そのあたりの意味合いは飲み込めました?

DÉ DÉ MOUSE はい。音楽ビジネスにおいて昔はミュージックビデオの要素ってかなり大きかったと思うんです。MVもここ10年くらいは無料で観てもらうのが当たり前になっているけど、1本作るのにはすさまじくお金がかかっているわけで。その状況を考えたときに、僕もMVの制作費用を少しでも回収して、映像作家に還元できるような仕組みがあるといいなと思っていたんです。だからFake CreatorsのNFTは、基本的にはその収益をJACKSON kakiに渡すためにやってます。お金儲けとかではなく、映像作家にちゃんとお金を渡せる仕組みを作っていきたい。

──ビジュアル表現と音楽が融合したものを、JACKSON kakiさんがマネタイズを含めて扱えるようにするということですね。

DÉ DÉ MOUSE そうですね。だから武田さんからNFTの話を聞いたときに、クリエイターさんに少しでも還元できる仕組みは素敵だし、それにはNFTが適していると思いました。

武田 Fake Creatorsのアーティスト写真はメンバーの顔がボヤけているんですけど、これは「このプロジェクトは誰が参加してもいい」と思っているからなんです。NFTがあればほかのクリエイターが参加してきたときに、収益を正当に分配できるので。

左から鈴木貴歩、武田信幸(LITE)、DÉ DÉ MOUSE。

左から鈴木貴歩、武田信幸(LITE)、DÉ DÉ MOUSE。

ファンの熱量の可視化

──NFTは楽曲に画像やグッズ、イベント参加券などさまざまな特典を付けることができますが、Fake Creatorsはどのような形で作品をリリースしたのでしょう?

武田 Fake Creatorsの1stシングル「When You Fake Sleep」は、まずは映像付きで作品を出してみようという話から、回転するGIF画像を使って限定30個でリリースしました。サブスクでの配信もあるけど、NFTには限定Tシャツやカセットテープ、LITEの特別ショーケースの参加券など特典をモリモリに付けて。NFTで作品を発表することに最初はファンから戸惑いの反応もありましたけど、100セット用意した1stアルバム「Her Footwork Figure」のNFTは早々に完売して、そのあたりからリスナーにもこのプロジェクトの意味合いや僕らの思いが伝わったのかなと実感するようになりました。

──NFTだからこそ、これまでより自由にビジュアルを含めた表現を届けられる、というのはありますよね。そういった活動スタイルを面白がってくれる人もいたんじゃないですか?

武田 まさにFake Creatorsを始めるときに「既存のファン以外にも作品を届けたい」と話していたんです。音楽以外の切り口としてJACKSON kakiが作るビジュアルから入ってくる人がいてもいいし、NFTホルダーの世界にも届いてほしい。結果的に僕らのことを知らない海外のユーザーが、NFTを入り口にして興味を持って作品を購入してくれることもあったのでよかったです。

武田信幸(LITE)

武田信幸(LITE)

──Fake Creatorsは昨年の「MUSIC NFT DAY」で、NFTホルダー限定のイベントを実施したんですよね?

武田 Fake CreatorsのNFTを所有しているホルダーを30人くらい集めてイベントをしました。

──そういったファン限定イベントは、ファンクラブの機能を使えば同じような企画ができると思うんです。それをNFTを使ってやる意味とはなんでしょうか?

武田 LITEはファンクラブを運営していないけど、ファンクラブって基本的に会費を支払えば誰でも入会できるので、アーティスト側からするとファンの熱量の違いが見えづらいと思うんです。でもNFTなら、例えばFake Creatorsの1stから3rdまで持っている人はブロックチェーンで確認できるし、二次流通してくれたりすると直接その熱量を感じることができる。それは今までになかったファン体験だと思います。

──アーティスト側のモチベーションにもつながっていると。

武田 特に我々を含めインディーズで活動しているバンドにとって、コアなファンの存在は重要だと思うんです。そういう人たちに支えられて活動ができている側面も大きいのに、サブスクやCDのような今のWeb2.0的な仕組みだとその熱量の違いがわからない。NFTと言われてまだよくわからないという人も多いと思うけど、アーティストとファンの新しい支え合いの関係性というか、その仕組みの名前がファンクラブからNFTに変わったくらいの認識でもいいと思うんです。

「NFT=金儲け」は間違い

──実際に作品をNFTでリリースしてみて、ファンの反応はいかがでしたか?

DÉ DÉ MOUSE 僕もLITEもキャリアが長いので、ずっと追いかけてくれているファンは、10~20代の子たちに比べると“所有したい”という欲求が強い人が多いと思うんです。「自分が好きなアーティストのCDは持っておきたい」「デジタルでもサブスクじゃなくて買ってダウンロードする」というふうに。なのでコアなファンはNFTも買ってくれている印象があります。でもNFTはまずウォレット(※インターネットに接続することで利用できる仮想通貨の保管所)を作らないといけなかったり、最初のハードルが高いんですよね。コアなファンはそのハードルも突破してくれるけど、なかなか手が出せないという人もいると思うから、武田さんとはNFTがどういうものかを指南してくれるような動画を作れたらいいなという話をしているところです。

──なるほど。逆にNFTを使ったリリース方法に否定的な意見はありました?

鈴木貴歩

鈴木貴歩

DÉ DÉ MOUSE それもあります。NFT=金儲けと勘違いしている人が本当に多いんですよ。Fake CreatorsでNFTを出したときも「まさかお前らがNFTに参入するとは思わなかった。残念だ」という内容のメッセージがいくつか届きました。特に海外では音楽は反体制のものだったりするので「金儲けのためにカウンターミュージックをやってるヤツは許さない」という意見もあって、どうしても「音楽でビジネスをやろうとするのは悪」みたいな風潮がある。自分の信じる音楽とリターンは相反するものではない、ということはもう少し広まればいいなと思います。

武田 僕は「Fake Creators NFT PROJECT」を始めるうえでステートメントを作ったんですけど、そのときにDÉ DÉさんが「金儲けのためのプロジェクトではないということがわかるようにしてほしい」と意見をくれたのを覚えています。

──レコードやCD世代の音楽リスナーが楽しんでいた行動を、NFTだとブロックチェーン技術を用いることで違った形で再現できるわけですよね。アーティストとファンのコミュニケーションや、作品を手に取るという体験が大きく変わっているわけではないと。

武田 そういうことを伝えたいんですよ。だからこそ間違った認識をいかに紐解いていくかが重要になってくるのかなと思います。