「Music & Me ~クリエイターが語る音楽と私~」第4回|関祐介が感じるテクニクスへのシンパシー (3/3)

スパイスは自分が過ごしてきたカルチャーの中

──Technicsというオーディオブランドのカフェをデザインするうえで、音の要素はどの程度意識しましたか?

そのあたりはTechnicsのエンジニアチームに入ってもらって、残響をどう減らすか、素材は何を使うべきかを話し合いました。コンクリートのような硬い素材は音が反響するのでなるべくは使いたくないと思うんですけど、そこは僕の意図を汲み取っていただけました。

──店内にテーブルはなく、Technicsのオーディオシステムとベンチのみというシンプルな空間にしたのはなぜでしょう。

テーブルを設置するとどうしてもおしゃべりしちゃいますよね。それってシンプルに一番のノイズなんです。ただのカフェなら大事な要素ですが、Technics café KYOTOの場合は音がプライオリティのトップに来るのでベンチのみにしました。それとTechnicsさんは飲食事業の経験がないので、厨房のスペックも加味してテーブルを設けないことにしたんです。

関祐介

関祐介

──そういった状況も踏まえてデザインを構築していくんですね。東京のSniiteも入り口に大きなソファを配置するデザインになっていたので、関さんのこだわりなのかなと思っていました。

あれは空間全体のイメージと予算感をSniiteのオーナーと擦り合わせる中で生まれたアイデアなんです。予算は設計条件の1つでしかないので、僕はその条件をどういうふうに扱うかが大事だと考えています。情報のどの部分をフックにして、デザインのメインストリームに持っていくか。僕たちの仕事って造形のセンスが必要だと思われがちだけど、いろんな条件の重なりをどう処理するか、その処理能力が一番重要な気がしますね。

──なるほど。

その処理作業の際に、自分はどんな音楽を聴いてきたか、カルチャーから何を学んだのかをエッセンスとして加えると、面白いデザインが生まれる。料理みたいなものなのかな。自分が持っているスパイスを入れるだけでおいしくなったり、個性が出たりしますよね。ベタで恥ずかしいけど、そのスパイスはその人が過ごしてきたカルチャーにあるのかなって。自分で言ってて恥ずかしくなってきました(笑)。

関祐介
関祐介

関祐介

関祐介がTechnics café KYOTOの音響で楽しみたい3枚

──関さんにはTechnics café KYOTOのオーディオシステムで聴いてみたいレコードを3枚用意していただきました。ロック、パンク、ハードコアとジャンルがバラバラですが、どういうテーマで選んだのでしょう?

なんとなく自分のルーツになっている3枚を持ってきました。パンクにハマっていた頃に「LONDON NITE」(※音楽評論家・大貫憲章が企画した日本初のロックDJイベント)というイベントによく遊びに行っていて。そのイベントはロックやパンク、ロックステディ、レゲエみたいな音楽がたくさん流れていたんですね。その影響もあってレコードではバンドの演奏を聴くみたいな固定観念があるんです。

①V.A.「Violent World: A Tribute to the Misfits」

V.A.「Violent World: A Tribute to the Misfits」

V.A.「Violent World: A Tribute to the Misfits」

これはThe Misfitsのトリビュート盤で、大学1年生の頃に初めて買ったレコード。当時はトリビュートという言葉の意味をよく理解していなくて、ジャケットが一番カッコいいのを選んで買ってみたら知らないバンドがThe Misfitsの曲を歌っていて(笑)。「金返せよ」と思ったけど調べたら好きなバンドが2組くらい参加していて、なんだかんだ大学時代はよく聴いてました。

②Sedition「DEMO 1989」

Sedition「DEMO 1989」

Sedition「DEMO 1989」

これ、カッコいいんですよ。この音響でSeditionを聴けるってぜいたくですよね。ボーカルが何を歌っているのか全然わからないんだけど、こんな音楽が存在するのかって衝撃を受けたのを覚えています。Seditionは独特なアートワークも魅力的なんですよ。ああ、やっぱりめちゃめちゃカッコいいな。もう少しボリュームを上げて聴きたい(笑)。

③ROSSO「1000のタンバリン」

ROSSO「1000のタンバリン」

ROSSO「1000のタンバリン」

チバさんの音楽はTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの頃から好きで聴いていました。ROSSOのこの曲はHYSTERIC GLAMOURの20周年パーティで流れていて、めちゃくちゃカッコいいなと思ってレコードを購入しました。チバさん、亡くなりましたね。今回の取材に合わせて数日前に東京の家からレコードを持ってきたんですけど、まさかこんなタイミングに当たるとは思わなかった。やっぱりカッコいいな、チバユウスケは。この人の声は本当に唯一無二だと思います(※インタビュー当日、チバユウスケが11月26日に死去したことが発表された)。

──では最後に、Technics café KYOTOがどのような場所になっていってほしいか、聞かせてください。

夜の時間帯が楽しみですよね。ミュージックバーみたいな場所が京都には少ないので、夜の選択肢の1つになったらいいかな。あとは若者が立ち寄って、知らない人や音楽とつながってくれたら一番うれしいですね。

Technics café KYOTOの外観。

Technics café KYOTOの外観。

Technics「SC-C70MK2」

Technics「SC-C70MK2」

新開発のスピーカーユニットや音響レンズの最適化によって明瞭でスケールの大きなサウンドを堪能できるTechnicsのコンパクトステレオシステム。部屋の広さや置く場所に合わせて最適な音質に自動調整する「Space Tune Auto」機能を搭載している。アナログ音源のみならず、音楽ストリーミングサービス、ハイレゾ音源、CDなどの幅広い音楽コンテンツに対応。「Chromecast built-in」に対応しているアプリを使用してさまざまなサービスが楽しめる。

Technics café KYOTO

Technics café KYOTO

パナソニックがTechnicsサウンドの新たな体感拠点として展開するカフェ。Technics製品の中でも最上級クラス「リファレンスクラス」のオーディオ機器から流れる良質な音楽を浴びながら、こだわりのコーヒーや軽食を楽しむことができる。カフェメニューは京都の老舗ロースター・小川珈琲が監修している。


店舗情報

住所:京都府京都市中京区新町通錦小路下る小結棚町444番地 京都四条新町ビル1階
TEL:070-7817-3849
営業時間:
11:00~20:00(日~木)
11:00~22:00(金・土)
※定休日:年末年始

プロフィール

関祐介(セキユウスケ)

Yusuke Seki Studio主宰のデザイナー。sacai、Kiko Kostadinov、ANREALAGEなどグローバルブランドとの協業をはじめ、Kumu 金沢、Suba soba、Sniiteなどローカルに紐付いたホテル、レストランまで幅広く設計を行う。東京、神戸、京都の3都市に拠点を持ち、京都にはスタジオと町家「せきのや」の2軒を構え、アーティストインレジデンスのような活動にも取り組んでいる。