「Music & Me ~クリエイターが語る音楽と私~」第2回|アーティスト長場雄に聞くレコード愛 (2/2)

アイコニックな部分をいかに抽出するか

──長場さんの描く作品はシンプルな線でアーティストの特徴が見事に捉えられていて、そこに独特なタッチや温度感を感じます。アーティストを描くときに大切にしていることはありますか?

アイコニックな部分をいかに抽出するか、ということですね。「カート・コバーンだったらこの髪型だよね」とか、みんなが思い描くイメージを意識して。

長場雄

長場雄

──そのアイコニックな部分を抽出するというのも難しそうですね。

第一印象でつかめればいいんですけどね。カート・コバーンは難しくて、何度も描き直しました。

──TRUNK HOTELのイベントにはNulbarichのJQさんも参加されていましたが、長場さんが手がけたNulbarichのアルバム「Blank Envelope」のアートワークもすごく印象的で。いつもとは違った作風でインパクトがありました。

長場雄がアートワークを手がけたNulbarich「Blank Envelope」ジャケット。(提供:ビクターエンタテインメント)

長場雄がアートワークを手がけたNulbarich「Blank Envelope」ジャケット。(提供:ビクターエンタテインメント)

あれはデザイナーさんと話をして、ゴヤの絵をアレンジしたら面白いんじゃないかということになったんです。いつもはペンで描いているんですけど、あの絵は鉛筆で描いてザラッとした感じを残しました。

──Technicsの仕事もやられていましたよね?

やりましたね。大阪でイベント(「Rediscover Music EXHIBITION Technics × Yu Nagaba」)があって、そこでThe Beatles「Abbey Road」とかドナルド・フェイゲン「The Nightfly」とか、名盤のジャケットをいろいろ描いたんです。レコードが好きで集めていたので、すごく楽しい仕事でした。

「Rediscover Music EXHIBITION Technics × Yu Nagaba」用に長場が描きおろしたアートワーク。(提供:Technics)

「Rediscover Music EXHIBITION Technics × Yu Nagaba」用に長場が描きおろしたアートワーク。(提供:Technics)

──レコードのジャケットからインスパイアされたりすることもあります?

あります。昔はあまりお店で試聴ができなかったから、ジャケットから音を想像してジャケ買いしたこともありましたね。

──長場さんが好きなジャケットといえばどんなものがありますか?

Sonic Youthの「Goo」とか。ジャケットの絵を手がけたレイモンド・ペティボンがめちゃくちゃ好きなんです。Sonic Youthの作品はいいジャケットが多いですね。

──確かに。ゲルハルト・リヒターとかマイク・ケリーとか現代アートの作品を使った印象に残るアートワークが多いですね。長場さんがジャケットを手がけてみたいアーティストはいますか?

(即答で)フランク・オーシャン。大好きなんです。

──どんなところに惹かれます?

音楽が寂し気なところとか。出す出すっていって、なかなか新作を出さないところも(笑)。なんか、シャイな感じがするんですよね。そういうところも好きです。

──音楽だけではなく、人柄にも惹かれているんですね。

そうですね。

再び訪れた自分内レコードブーム

──長場さんが初めて買ったのはCDということですが、レコードを買うようになったのはいつ頃から?

高校生の頃ですね。友達がDJをやり始めたりしたこともあって、レコード店に通うようになったんです。当時、GEISHA GIRLSがCISCOの壁一面にアナログをディスプレイして、店頭ジャックみたいなことをやっていて(笑)、CDよりもレコードのほうがカッコいいな、と思っていました。

長場雄

長場雄

──それでレコードプレイヤーを買って?

いや、高校時代には買えなくて、20歳のときに買ったんです。Technicsの「SL1200-MK3」でした。それ以来、ずっと使ってます。

──どうしてTechnicsを選ばれたのでしょうか?

ほとんどのDJが使っているターンテーブルがTechnicsだったので、買うならTechnicsしかないなと思っていました。

──長場さんにとって、「SL-1200」のよさは、どんなところですか?

買ってから20年以上経つけどいまだにちゃんと動いてくれるし、すごく使いやすいんですよね。

──丈夫で便利というわけですね。20歳の頃から、ずっとレコードを聴かれてきたんですか?

1回、自分の中でレコードブームが終わって、しばらくターンテーブルを倉庫にしまっていたんですよ。パンデミックになってから、ひさしぶりにレコードでも聴こうかなと思って引っ張り出して、それからまた使うようになりました。今はオフィスにターンテーブルを設置してあります。

レコードに針を落とす長場。

レコードに針を落とす長場。

──ひさしぶりにレコードを聴いて、どんなところがいいと思いました?

やっぱり、音がいいですね。聴くときに面をひっくり返したり、ホコリを取ったり、ちょっと面倒くさい感じもいい。そういう手間を楽しんで音楽と付き合えるようになったのかもしれないです。

──それではここで「SL-1200」シリーズの最新機種、MK7で長場さんのお気に入りのレコードを聴いてもらいたいと思います。

SL-1200MK7

SL-1200MK7

長場雄がSL-1200MK7で聴きたいアナログ3タイトル

Massive Attack「Mezzanine」

Massive Attack「Mezzanine」ジャケット

Massive Attack「Mezzanine」ジャケット

(音が流れた瞬間、表情が変わる)うわあ、圧倒されますね。いいサウンドシステムでレコードを聴くとこんなに音が違うのか。オフィスだと天井からスピーカーを吊るしていて、上から音が降ってくるから、作業しているときのBGMみたいな感じなんです。でも今日は音がまっすぐ来る。何より音がクリアですね。気持ちいい(笑)。

──Massive Attackはリアルタイムで聴かれていたんですか?

はい。トリッキーとかPortisheadとかも同時期に聴いていました。最近、ロックな気分じゃないときは、このへんのトリップホップとか、A Tribe Called Questみたいなヒップホップを聴くことが多いですね。

ジェイムス・ブレイク「James Blake」

ジェイムス・ブレイク「James Blake」ジャケット

ジェイムス・ブレイク「James Blake」ジャケット

このレコードは従兄弟にもらったんですよ。従兄弟が音楽関係の仕事をしていて、オフィスのオーディオのセッティングをしてくれたんですけど、そのときに、このレコードを置いていってくれたんです。(曲を聴いて)脳みそがシェイクされた感じ(笑)。低周波がブーンと鳴っていて、小さな音も聞こえてきますね。空間を感じる。ジェイムス・ブレイクはフジロックで観たことがあるんですけど、そのときもすごい音でした。でも、やっぱりレコードのほうがいろんな音が聞こえますね。

フランク・オーシャン「Blonde」

フランク・オーシャン「Blonde」ジャケット

フランク・オーシャン「Blonde」ジャケット

これは声がいいですね! いつもストリーミングで聴いてて、今回、初めてアナログで聴いたんですけど。

──先ほどレコードを開封されていましたが、最近買われたんですか?

このレコードはフランク・オーシャンのサイトで発売されてすぐ売り切れたやつなんです。最近、子供が生まれたんですけど、奥さんが夜中に夜泣きする子供をあやしながらケータイでネットを見たら、偶然レコードが売り出されたところで、気を利かせて買っておいてくれたんです。我が子の初めての親孝行というか(笑)。

もう1回ちゃんと音楽に向き合いたい

──MK7を使われてみていかがでした?

今使っているプレイヤーとデザインは大きく変わらないので、いつも通り使えました。これまでとどこが変わったんですか?

(Technicsスタッフ) ダイレクトドライブという方式を使っているのはこれまでと同じなんですけど、ダイレクトドライブ自体をいちから再設計しておりまして、回転の精度などが向上しています。ケーブルも着脱できるようになっているんです。

そうなんですか。ケーブルとか凝り始めると大変なことになりそう。オーディオって沼ですよね(笑)。

──いい音を体験すると沼に落ちていきそうですね(笑)。同じレコードでもいい音で聴くと印象も変わってくるし。

そうですよね。(壁にかけてある絵を指差して)この絵はまだ途中なんですけど、今回、このプレイヤーでレコードを試聴してみて、いい音で音楽を聴くと頭の中に何か出てきそうな気がしました。

長場雄

長場雄

──インスピレーションが湧いてくる?

この絵はジェイムス・ブレイクと合ってる気がするなあ(笑)。

──普段はSpotifyを流しながら作業されているそうですが、レコードを聴きながら絵を描くことで新しい刺激が得られるかもしれませんね。

ストリーミングを使うようになって、以前と比べて聴く曲数はすごく増えていると思うんですけど、1つひとつの曲に対する印象が薄い感じがして。音楽を作っている人に対して失礼な気もしているんですよね(笑)。だから最近は、1曲1曲をじっくり聴いて、もう1回ちゃんと音楽に向き合いたいと思っています。

長場雄

長場雄

Technics「SL-1200MK7」

Technics「SL-1200MK7」

世界中のDJがプレイする現場で使われ続ける「SL-1200」シリーズの最新機種。ダイレクトドライブモーターやプラッター、シャーシなどすべてを一新しながら、トーンアームや各種操作スイッチなどの配置は「SL-1200」シリーズのレイアウトをそのまま踏襲し、これまでと変わらない操作性を実現している。ボディはブラックおよびシルバーの2色展開。

プロフィール

長場雄(ナガバユウ)

アーティスト。1976年東京生まれ。幼少期に父の転勤をきっかけにトルコに移り住み、現地の画家から油彩画を教わる。東京の美術大学を卒業後、アパレル会社でTシャツのグラフィックを手がけるが、その後フリーに転向し、作家活動を本格的に開始する。当時はさまざまな作風で作品を制作していたが、2014年に一転、現在のスタイルとなる白黒のラインのみで構成された作品を発表。モチーフには自身が幼少期やその後に出会った映画、アート、音楽などが選ばれ、90年代のアメリカカルチャーからの影響を色濃く受けている。作品が雑誌「POPEYE」の表紙に採用されたことをきっかけに一躍その作風が世に知られ、それ以後は作品制作だけではなく、国内外の名だたるブランドとコラボレーションを展開。2019年にはそれまでのドローイングから支持体をキャンバスに移した個展「Express More with Less」を開催。翌年に渋谷のギャラリーSAIで開催された「The Last Supper」とともに大きな注目を集める。その後も香港、台湾での個展、中国のアートフェア「WEST BUND」への参加など、国内外で注目され続けている。