さまざまなクリエイターに話を聞き、音楽と創作活動の分かちがたい関係を探る企画「Music & Me ~クリエイターが語る音楽と私~supported by Technics」。第2回は、さまざまな分野で活躍するアーティストの長場雄をゲストに招いてお届けする。10代でグランジロックの洗練を受けて以降、興味の赴くままに、さまざまな音楽に親しんできたという長場。そんな彼にTechnicsのターンテーブル「SL-1200」シリーズの最新モデル「SL-1200MK7」でお気に入りのレコードを聴いてもらいつつ、音楽が作品にもたらす影響や、コロナ禍以降に再燃したというレコード熱などについて語ってもらった。
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取材・文 / 村尾泰郎撮影 / 須田卓馬動画撮影 / Ubird
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Technics「SL-1200MK7」
世界中のDJがプレイする現場で使われ続ける「SL-1200」シリーズの最新機種。ダイレクトドライブモーターやプラッター、シャーシなどすべてを一新しながら、トーンアームや各種操作スイッチなどの配置は「SL-1200」シリーズのレイアウトをそのまま踏襲し、これまでと変わらない操作性を実現している。ボディはブラックおよびシルバーの2色展開。
マイケル・ジャクソンで洋楽に開眼
──長場さんは物心ついたときに、どんな音楽を聴かれていたのでしょうか?
親がThe Beatlesやボサノバを毎朝聴いていたんです。日曜の朝はだいたいボサノバが流れていましたね。
──日曜日にボサノバ、素敵な家庭ですね。音楽好きのご両親だったんですか?
どちらかというと父親が好きだったのかな。そんなにマニアックに聴いていたわけではないと思うんですけど。
──ボサノバとビートルズということは、音楽の入り口は洋楽だったんですね。
そうですね。小学4年生の頃に父親の仕事の関係でトルコに引っ越したんですけど、それまでは特に音楽を意識して聴いていなかったんです。トルコではアメリカンスクールに通っていて、アメリカ人の友達の家に遊びに行ったときに、「こんなのあるよ」って観せてくれたのがマイケル・ジャクソンの「BAD」ツアーのビデオ。その映像を観て「めちゃめちゃカッコいい!」ってびっくりしたんです(笑)。それが洋楽に興味を持つようになったきっかけでした。学校にはアメリカ人やイギリス人が多かったので、友達を通じて海外のカルチャーを吸収したんです。
──では、友達からの情報でいろんな音楽を聴くように?
小学生の頃は、音楽より映像に興味がありました。学校の先生が映画好きで、小4のときに先生やクラスの友達とデヴィッド・クローネンバーグ監督の映画「ザ・フライ」を観に行ったのを覚えています。すごくグロい映画なんですけど、みんなでキャッキャ言って喜んでた(笑)。自分で初めて買ったCDも映画絡みで、「トップガン」のサントラでした。トルコにいたときは、「トップガン」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」とかハリウッド映画をよく観ていて、中でも「トップガン」はすごく気に入って何度も観ました。それで日本に帰ってきたときにサントラのCDを買ったんですけど、そのときにCDというものがあることを初めて知りました。CDが流通し始めた時期だったのかな? 珍しかった記憶があるから。
──「トップガン」の公開は1986年。CDの販売枚数がレコードを超えた年なので、長場さんはCD第1世代と言えるかもしれませんね。アーティストのCDで初めて買ったものは?
やっぱり映画絡みなんですけど、Huey Lewis & The Newsの「Sports」です。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のサントラを買って、そこに入っていた曲を気に入って。
高1でグランジロックの洗礼を受ける
──80'sカルチャーが長場さんの原点なんですね。
だと思います。ブライアン・アダムスのコンサートにも行ったし。そのうち、だんだん自分で音楽を掘るようになるんですけど、当時テレビ神奈川の「Billboard TOP40」という番組をよく観ていて、そこで紹介される曲をよくチェックしていました。中でも一番引っかかったのが、Nirvanaの「Smells Like Teen Spirit」。それまで聴いていた音楽とは明らかに音の方向性が違ったんです。ミュージックビデオも薄暗くて、全然作り込んでいる感じがしない。そこにガツンとやられましたね。高1のときかな。
──グランジロックの洗礼を受けた?
グランジ周辺の音楽はよくチェックしてました。NirvanaのすぐあとにBECKが出てきて。「Loser」って“負け犬”っていう意味なのに曲はカッコいいんですよね。「負け犬でもいいんだ!」と思いました(笑)。ローファイでザラザラした音の感触も好きで、すごく身近に感じたんです。カート・コバーンやBECKは“僕らのヒーロー”って感じがしましたね。
──長場さんはカートやBECKのポートレイトを描かれていますが、彼らのどんなところに惹かれたのでしょうか?
ネガティブなところかな(笑)。
──ヒューイ・ルイスとは正反対に(笑)。高1といえば、そういう屈折したものに惹かれやすい年頃ですもんね。
そうそう。ちょっと退廃的な感じとか。それでディスクガイド本を買ってグランジ周辺の作品をいろいろ聴きました。その後、Beastie Boysが好きになって、そこからBOREDOMSや暴力温泉芸者を聴くようになったり。ノイズも好きでメルツバウのライブにはよく行ってました。ジョン・ケージみたいなアバンギャルドな音楽やヒップホップも好きで、どんどん音楽の興味が広がっていったんです。特定のジャンルを掘り下げるというより、いろいろつまみ食いしている感じでしたね。
──今も幅広く聴かれているようですが、最近のお気に入りは?
ビヨンセの新作(「Renaissance」)とか。ビヨンセを特別好きというわけではないんですけど、今回のアルバムはよかった。ブラックカルチャーを背負っているような彼女の決意みたいなものも作中から感じられて。四つ打ちを前面に押し出したサウンドなんですけど、僕はハウスとかダンスミュージックも好きなのですごくよくできた作品だなと思いました。
──パク・ヘジンとかイェジとか韓国のアーティストもお好きだとか。
あのへんのアーティストの曲にはデトロイトテクノとかの黒いグルーヴを感じて「なんで韓国のアーティストからこんな音が生まれるんだろう?」って、すごく不思議でした。
──普段どんなふうに新しいアーティストを見つけているんですか?
仕事中ずっとSpotifyで音楽を流していて。そこで引っかかる曲があるとお気に入りにしておいて、そのアーティストのほかの曲を聴いたり、そこから派生するオススメを聴いたりするんです。
──日頃から網を張っておく?
そんな感じです(笑)。
音楽は仕事の潤滑油みたいなもの
──長場さんにとって、音楽は日々の生活になくてはならないものなんですね。
なくてはならない、と考えたことがないくらい、自然に音楽を聴いてます。
──音楽がよい仕事環境を作ってくれるんでしょうか?
音楽は仕事の潤滑油みたいなものです。何もかかってないと仕事に集中できないというか、周りが気になっちゃうんですよね。音楽をかけることで作業に集中できる。締め切り間際でめっちゃ集中しなければいけないときは、リッチー・ホゥティンのBPM高めの曲をかけたりします(笑)。
──逆に焦りませんか?(笑)
サクサク進みます。ある程度ラフが描けていれば、そこからは自動的に描いて行く工程に移るので、そういうときに聴くんです。
──作業用のプレイリストを作ったりはしないんですか?
Spotifyでいろんな音楽を聴くほうが好きですね。心のどこかで、まだ聴いたことがない音楽を求めているのかも。
──音楽に対する好奇心を今も持ち続けているんですね。これまで音楽に関係する仕事をいろいろとやられていますが、最初にやった仕事は覚えていますか?
2018年の「SUMMER SONIC」かな。出演アーティストの絵を描いて、アニメーションで動かしてもらったんです。サマソニの前に渋谷のTRUNK HOTELでイベント(「"Summer Sonic x Yu Nagaba" Special Exhibition at TRUNK HOTEL」)をやったんですけど、そのときはオフィシャルグッズとしてTシャツも作りました。
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