レコードは12inchのサイズがベスト
──最近よく聴いてるレコードについて教えていただけますか?
自分の中で7inchシングルが再ブームなんですよ。最近だとThe Outlawsっていうイギリスのバンドの「Crazy Drums」(1961年)って曲がすごかったです。「タモリ倶楽部」のオープニングテーマ(1958年発売のThe Royal Teens「Short Shorts」)の7inchもオリジナル盤を最近やっと見つけて買いました。あと高円寺のLOS APSON?が出してるYOSHIRO広石のシングル(2022年発売の「それぞれの存在~Minority Pride」)。これも最高でしたね。
──7inchの魅力ってどういうところにあると思いますか?
音圧もグッとくるし、何よりもA面とB面に1曲ずつだけ入ってるのがいいですよね。僕はジェームス・ブラウンが大好きなんですけど、JBも60年はシングルがメインで、アルバムはシングルの寄せ集めみたいな感じだったわけじゃないですか。その感じも好きですね。
──まだまだレコードはたくさん買われてるんですね。
買ってます。最近は見たことも聴いたこともないようなレコードをあえて買うようにしてます。僕、昔からの癖で、お店で試聴しないんですよ。昔ってあまり試聴できなかったじゃないですか。ジャケットを見て、クレジットを見て、勝負してましたよね。勘をフル回転させて。こないだは全部ハズレでがっかりしましたけど(笑)。
──それも「ジャケ買い」の醍醐味と思いますが、自分だったらこんなジャケットを描いてみたい、作ってみたいという希望はありますか?
妄想ジャケットはいつも作ってるんですよ。(手製の妄想ジャケットを次々見せながら)いっぱい作ってますよ。元のジャケットが嫌いで、勝手に作り変えてるやつもあります(笑)。
──こういう作業は、いつやってるんですか?
暇潰しですね(笑)。本チャンの作品がうまくできなくて、「今日はもうやりたくない」ってなったときに、妄想ジャケットを作って憂さ晴らししてる感じです。あと、テイ・トウワさんと、よく物々交換をするんですけど、テイさんがよくジャケットだけ送ってきたりするんですよ。「これになんか描いてよ」って(笑)。
──昔、遠藤賢司さんがすごく大きなジャケット(1辺が60cm)の作品を出したじゃないですか(1991年発売の「史上最長寿のロックンローラー」)。ジャケットをキャンバスに見立てた、ああいうアプローチはどうですか?
ああ、ありましたねえ(笑)。面白いけど、僕にはこの12inchのサイズがベストなんですよね。7inchもLPも絶妙なサイズですよ。
──これってまさに神様が決めたサイズ感ですよね。
これより大きくても小さくても、なんか変だし。やっぱり、このサイズが好きなんですよね。
一時期浮気したけど、やっぱりTechnicsに
──五木田さんは、ずっとTechnicsユーザーなんですよね?
はい。仕事場のターンテーブルはSL-1200 MK3、自宅ではMK2を使ってます。もちろん小中学校の頃は、兄貴が持ってた、メーカーも覚えてないようなプレイヤーでレコードを聴いてましたけどね。自分でちゃんとレコードを聴くようになってからはTechnicsです。10数年前には浮気もしましたけど。
──浮気?
ビンテージのターンテーブルにハマっちゃって。でも、なんかダメで。やっぱりTechnicsに戻りました。
──どういう流れでTechnicsユーザーになったんですか? 90年代はヒップホップDJたちの影響もあって、みんなSL-1200でレコードを聴いてましたよね。
僕も同じです。音楽好きな先輩にも「安いやつじゃなくて、ちょっと無理してでも、Technicsのプレイヤーを買ったほうがいいよ」って言われたし。実際、使いやすいですよね。デザインもこの形が自分の中で基本になっちゃってますね。SL-1200は世界に誇る名機だと思うんですよ。世界中どこに行っても置いてあるし。
──海外から日本に中古のSL-1200を探しにくる人たち、今でもいますからね。
みんな使ってますよね。
──SL1200シリーズは、五木田さんがお好きなプロレスになぞらえると、“ストロングスタイル”みたいな雰囲気もあると思うんです。
ストロングスタイルですよ、かなり。
──このアトリエを五木田さんは“道場”と呼ばれているそうですが、まさに“道場”で毎朝毎晩ストロングスタイルな音を楽しまれているわけですね。Technicsはターンテーブル界の新日本プロレスである、みたいな(笑)。
はははは。そうですね(笑)。
──ではこのあたりで、本日用意していただいたレコードを「SL-1200MK7」で聴いていただきましょう。
五木田智央がSL-1200MK7で聴きたいアナログ5タイトル
アラン・トゥーサン「The Bright Mississippi」
うわ、いいスピーカーで聴くと、全然違いますね。
──トゥーサンとしては晩年の作品で、ジョー・ヘンリーがプロデュースしています。「Southern Nights」など歌ものの印象も強い人ですけど、これはインスト作品なんですよね。
大好きですね。アラン・トゥーサンは歌い手としてより、ピアニストとして好きなんです。このアルバムはピーター・バラカンさんのラジオで知りました。いや、しかし今まで聴いてた音とは全然別モノですね。いろいろ試していいですか?
──どうぞ。
Yellow Magic Orchestra「Computer Game」
このUS版12inchは、もともと音がいいんですよ。アル・シュミットが音をいじっているので、日本版とはちょっとミックスが違いますけど。(聴きながら)いいですね。当時、このレコードで黒人たちがディスコで踊っていたんですよね。面白いなあ。
The Outlaws「Crazy Drums」
──60年代イギリスのマッドなプロデューサー、ジョー・ミークのプロジェクトです。
これはヤバいかもしれないな。(流れた瞬間)うおー! ヤバい。
──60年代の曲なのにテクノっぽくすら聴こえますね。上中下で音が分離してシンセのパルス音みたい。
ジョー・ミークの存在が気になりますね、僕は。このシングルを買って、「こいつら、すげえ!」と思ってLPも買ったんですけど、そっちには「Crazy Drums」みたいな曲は入ってなくて、全然違いました。
南有二とフルセイルズ「おんな占い」
これは調布のレコード屋で100円で買ったレコードです。
──1970年リリースで、ムード音楽の世界では名曲と言われているそうです。
全然知らない人たちで、タイトルだけで買ったんですけどね。ノイズだらけだったんですけど、クリーナーで丁寧に拭いたら音がクリアになりました。レコードはそういう作業も楽しいんですよね。
B.B.キング「16 Tons」
ブルースとか、こっち系のリズム&ブルースも好きで、たまに聴きますね。空間がわかる録音というか。録音したハコの鳴りが自然に感じられる。インパルスのジャズとか、きれいな音質のレコードはもちろん好きなんですけど、ちょっと過剰なエコー感が苦手。僕はこういうナチュラルな鳴りが好きなんですよね。
──狭いスタジオで、1本か2本のマイクで録音したような。
そうそう。このMK7とスピーカーで試聴して、そういう環境で録った音なんだろうなということがよくわかりました。
レコードは温もりのある音だけじゃなくて凶暴な音も出る
──改めて、今回MK7を使ってみていかがでしたか?
普段使ってるMK3も好きですけど、これはこれで慣れたらすごく使いやすいんじゃないですかね。
(Technics担当者) MK7はケーブルが着脱できるようになりましたのでそこが大きなポイントです。
そうか! それは魅力的ですね。
(Technics担当者) もともとSL-1200はケーブルの着脱ができなくて。実は故障の原因のほとんどが断線であったり、ケーブル周りだったんですね。その対策のためにケーブルが差し替えられるようになっています。
なるほど。
──あと78回転にもできるのでSP盤も聴けます。
聴けちゃうんだ。
──今回いろんなタイプのレコードで僕も感じましたけど、名機で聴くとそれぞれのレコードのポテンシャルが引き出されているのがよくわかりますね。レコードって「温もりのある音」とかよく言われますが、実際はもっといろんなタイプの音が入っているし、奥深い。そこが面白いんですよね。
単に「温もりのある音」みたいなところだけで語られると「違うよ!」って思っちゃいますね。「レコードってかなり凶暴な音も出るんだけど」みたいな(笑)。
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Technics「SL-1200MK7」
世界中のDJがプレイする現場で使われ続ける「SL-1200」シリーズの最新機種。ダイレクトドライブモーターやプラッター、シャーシなどすべてを一新しながら、トーンアームや各種操作スイッチなどの配置は「SL-1200」シリーズのレイアウトをそのまま踏襲し、これまでと変わらない操作性を実現している。ボディはブラックおよびシルバーの2色展開。
プロフィール
五木田智央(ゴキタトモオ)
1969年東京生まれ、同地を拠点に活動する画家。90年代後半に鉛筆、木炭やインクで紙に描いたドローイング作品で注目を浴び、2000年に作品集「ランジェリー・レスリング」を出版。ニューヨークでの展覧会を皮切りに、これまで国内外で多数の個展を開催している。近年では色彩豊かな作品を手がけ、抽象と具象の2分法を打ち破り、両者を継ぎ目なくつなぐことで、人々の心理を揺さぶる独自の実践を展開している。2012年にDIC川村記念美術館の「抽象と形態:何処までも顕れないもの」展に参加し、2014年同館にて個展「THE GREAT CIRCUS」、2018年4月東京オペラシティ アートギャラリーにて個展「PEEKABOO」、2021年6月には、ダラス・コンテンポラリーにて個展「Get Down」を開催する。「シャッフル鉄道唱歌」(天然文庫刊 / 2010年)、「777」(888ブックス刊 / 2015年)、「Holy Cow」(タカ・イシイギャラリー刊 / 2017年)、「PEEKABOO」(公益財団法人 東京オペラシティ文化財団刊 / 2018年)、「MOO」(タカ・イシイギャラリー刊 / 2021年)、「Diary」(888ブックス刊 / 2022年)などの作品集、展覧会カタログを出版。
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