音楽ナタリー PowerPush - 蟲ふるう夜に
病乗り越えた先に4人が見たもの
ずっと子供だと思ってた妹が立派な大人になる瞬間
──続いて「二十歳の朝」。これはどんなきっかけで作られたんですか?
蟻 「蟻の本音をもっと知りたいよ」って松隈さんに言われたんですよ。それで、上京したてで新宿をさまよってたときのことを思い出しながら書きました。
──皆さんから見て、松隈さんがそう言った気持ちはわかります?
慎乃介 俺はわかりますね。ちょっと遠回しに言うことが多いから、俺ももっと蟻のこと知りたいと思ってたし。
郁己 (詞を読んで)「リスナーはこれが欲しいんだろ?」感が出てきた気はしました。
蟻 そんなこと思ってないよ!(笑)
──書いた詞を見て、松隈さんは何か言ってましたか?
蟻 最初はめちゃくちゃ長い詞だったんですよ。小学校ではこんなことがあり、中学ではこうで、上京して……って、全部書いたんです。それで松隈さんに渡したら「俺だったらこれで4曲書けるね」って言われたから、4分の1にしました。
慎乃介 「(中学校に)入学しました」とかは別にいらないもんね。
──そういえば12月4日のライブでは、妹さんとお母さんがライブに来てたんですよね。
蟻 そうですね、2人で一緒に来てくれてました。
──それでこの歌を「20歳になった妹に」と言って歌い始めたのがとても印象深くて。2013年のインタビュー(参照:蟲ふるう夜に「蟲の声」蟻インタビュー)では「自分はムシケラのような存在」って言ってたじゃないですか。そんな人が家族のために歌うなんて、自分でも想像できなかったんじゃないですか?
蟻 そうですね、懐かしいですね(笑)。当時は子供だったんですよ、きっと。
──妹さんとは仲良しですか?
蟻 ちょっと離れてた時期もあったけど、今はそうですね。中学生くらいまでは弟と妹と母親と住んでて、母が仕事に行っているから私が母役をやらないと、って思ってたんです。それからしばらく離れて暮らしてひさしぶりに会ったら、妹がすごい大人になってて。20歳になって手が離れて……なんか、変わりますよね。ずっと子供だと思ってた妹が立派な大人になる瞬間を見たっていうか。
慎乃介 母親の心境だね。
蟻 本当にね、ウルッと来るんだよ。自分のことだってずっと子供だと思ってたのに。
春輝 俺は末っ子だから、「姉はそんなこと思うのか」って感じ。
蟻 下の子だってお兄ちゃんやお姉ちゃんに対する意識はあると思うけど、こっちはその何倍も考えてるからね。心配だし、がんばってほしいって誰よりも思ってる。
郁己 このバンド、蟻以外みんな末っ子なんですよ。だから上の気持ちは蟻しかわからない。
引きこもりの当事者と、その姉の気持ち
──「同じ空を見上げてた」はGOMESSさんとの共作です。誰かと一緒に作詞して作ることも初めてでしたよね?
蟻 そうですね。GOMESSくんの「人間失格」っていう曲がすごい好きで、こういう詞が書けるのはすごいなと思ってて。
──こういう詞、というのは?
蟻 ……グッとくる。
慎乃介 全然わかんない(笑)。
蟻 つかまれる? ひきずり込まれる? 力技? そういうパワーがあって。それで「MUSHIFEST 2014」に出演してもらったら、GOMESSくんのお姉ちゃんが来てたんですよ。それによって、私の弟妹に対する思いと、GOMESSくんがお姉ちゃんに感じてる思いがリンクして。暗い過去があって音楽をやっているところも同じだし、今も暗い場所にいる人を救おうとするって、すごいことだよなって。
──ただ、共感する部分が多かったとしても、誰かと一緒に作るとなると大変じゃなかったですか?
蟻 それが、そうでもなかったですね。っていうかGOMESSくん、レコーディングのギリギリまで歌詞を書いてなくて、ほとんどフリースタイルみたいな感じで。私は何回も書き直しちゃうタイプだから、そのアンバランスさも面白かったですね。ただテーマだけは共有しようと思っていて、GOMESSくんが引きこもりだったのと同じように、私の弟も引きこもりだったんです。私は姉の立場として、GOMESSくんは当事者として、当時の気持ちをぶつけようって。
──ほかのメンバーの皆さんは、この共作した曲の感想は?
慎乃介 最初はウケましたよ(笑)。ラップ入れるんだ!って。全然予想してなかったから。
春輝 でもこれがラップかっていうとまた違うよね。
蟻 本人もポエトリーリーディングって言ってる。
春輝 その言葉のアツさとか勢いはやっぱり独特だし、すごいパワーですよね。
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収録曲
- 君という光、僕の走る道
- スターシーカー
- それでも鳴らす
- 二十歳の朝
- 同じ空を見上げてた featuring GOMESS
蟲ふるう夜に(ムシフルウヨルニ)
2007年、蟻(Vo)、慎乃介(G)、郁己(Dr)の3人で前身となるバンドを結成。2008年には1stシングル「赤褐色の海」を発売し、同年のYAMAHAオーディションで準グランプリを受賞する。2008年10月9日にバンド名を「蟲ふるう夜に」に変え、新たなスタートを切る。2012年よりベーシストとして春輝(ex. THE冠)が加入。同年8月にリリースした「蟲の音」収録曲「犬」が話題に。2013年7月にニューアルバム「蟲の声」をレンタル&配信で発表し、2014年6月にはミニアルバム「わたしが愛すべきわたしへ」をリリース。2014年末に慎乃介がフィッシャー病症候群のため緊急入院するも約3カ月後に快復し、2015年4月にはミニアルバム「スターシーカー」を発表。6月4日(蟲の日)には約2年ぶりとなるワンマンライブを東京・渋谷CLUB QUATTROにて開催する。