音楽ナタリー PowerPush - 蟲ふるう夜に
病乗り越えた先に4人が見たもの
歌詞を書かなくても自分の居場所がなくなることはない
──今回のアルバムはいつ頃から制作を?
慎乃介 いつからだっけ?
蟻 曲はコンスタントに作っていて。でもこのアルバムに向けて、というのは去年の10月くらいかな? 「それでも鳴らす」と「二十歳の朝」の原型はできていて、決め手になるものを作らないとねって話をしてたんです。そうしたら……。
郁己 慎ちゃんが。
慎乃介 すいません、倒れちゃいました。
蟻 ……というトラブルもあったんですけど、なんとか完成できました。ホッとしてます。
──収録曲について1つずつ聞いていきます。まず「君という光、僕の走る道」は慎乃介さんが初めて作詞をしたということで。
慎乃介 療養中になんとなく書いたんですよ。それでアルバム制作期間のギリギリに提出して、「これ歌ってみれば?」って蟻に渡してみたら「めっちゃいいじゃん!」って。
蟻 今まで1ミリも作詞なんてやってないんですよ。したいとも思ってなかっただろうし、ちょっとバカだから期待もしてなかった(笑)。でも歌詞が「一人で生きるのは困難で」って言葉から始まっていて、そこに本心を感じたんですよね。
慎乃介 いや、正直何も考えてなかったっすよ。
蟻 ……って自分では言うんだけどね。
慎乃介 いやいやほんとに、無意識でパッと出たものを蟻に渡しただけだよ!
──歌詞を書きたいと思ったことは本当になかったですか?
慎乃介 ない。
蟻 聞いたことないもんね。
慎乃介 だからこれを書くときに「歌詞ってどうやって書けばいいの?」って蟻に電話したんです。
蟻 あれはうれしかったですね。「どんどんやってよ」って言いました。昔だったら、歌詞を書くのは自分の居場所だと思ってたんで、その作業を誰かに取られるのはイヤだったんです。
──でも今回はイヤじゃなかった?
蟻 そうですね。だから、そんな自分にも驚いたんです。許せるんだって。歌詞を書かなくても自分の居場所がなくなることはないって、自信がついたのかな。
──自分の詞が曲になった気分はいかがですか?
慎乃介 えっ! めっちゃうれしいですよ!
郁己 シンプルだな(笑)。
慎乃介 だって、「作詞・作曲・編曲:慎乃介」って書いてあるんですよ。なんか、いっぱいやってる感じ? 初めての感覚だったしめっちゃうれしかったです。
──書くときは迷ったりはしませんでしたか?
慎乃介 いや、まったく。蟻のアドバイスもありましたし。
蟻 この前は「『自分』と『僕』って、1つの曲に両方入れたらダメなの?」って聞かれて。「自由に書けばいいじゃん」って言いました。
──春輝さんと郁己さんからから見て、慎乃介さんの歌詞はどうですか?
春輝 慎ちゃんが書くってことにまず驚いたんですよ。それで最初は正直……「バカっぽい歌詞なんだろうな」って思ってて(笑)。
慎乃介 マジか!
春輝 でも読んだら、感動しちゃって。
郁己 慎ちゃんって言葉にして口に出すのは苦手だけど、ちゃんと考えてるんですよね。だからそれを文字にすればちゃんと表現できると思ってたし、きっと向いてるんですよ。しゃべるとアレだけど。
慎乃介 アレって言うなよ!(笑)
──蟻さんは自分以外の人が書いた歌詞を歌うことに違和感はなかったですか?
蟻 いや全然。とにかくうれしかったから、すぐ自分のものになった気がするし、慎ちゃんの思いをちゃんと伝えていこうって思いました。
出羽良彰さんと松隈さんは両極端
──2曲目の「スターシーカー」は、ファンの方から本物の星をプレゼントされたことがきっかけで作られたんですよね。
蟻 そうなんです。結成7周年の記念に、ずっとライブに来てくれていたファンの方から「蟲ふるう夜に」という名前が付いた星をいただいて。うれしいプレゼントでした。それで、ちょうどそのときに観た映画とか、人から聞いた言葉とか、偶然そういうのが全部宇宙に関わることだったりして、タイトルは自然と「スターシーカー」になりましたね。
──編曲をamazarashiのサウンドプロデューサー出羽良彰さんにお願いしたのは、蟻さんがamazarashiが好きだから?
蟻 その通りです(笑)。
──どんなところが好きなんですか?
蟻 自分のことを歌ってくれてる気がするんです。曲を聴いていると、私が考えていたことや、やりたかったことを先に実現してくれてる感覚になって。もちろんそれは私が勝手にそう思っただけなんだけど。実際に出羽さんと会ってみたらイメージ通りの方で、無口なんだけど、優しくて。もっと好きになりました。
慎乃介 松隈さん(松隈ケンタ。蟲ふるう夜にのサウンドプロデュースを手がけている)とは全然タイプが違うでしょ?
蟻 そうだね、両極端かも。月と太陽みたいな感じ。だからこそ学ぶことも多くて楽しかったよ。
次のページ » ずっと子供だと思ってた妹が立派な大人になる瞬間
収録曲
- 君という光、僕の走る道
- スターシーカー
- それでも鳴らす
- 二十歳の朝
- 同じ空を見上げてた featuring GOMESS
蟲ふるう夜に(ムシフルウヨルニ)
2007年、蟻(Vo)、慎乃介(G)、郁己(Dr)の3人で前身となるバンドを結成。2008年には1stシングル「赤褐色の海」を発売し、同年のYAMAHAオーディションで準グランプリを受賞する。2008年10月9日にバンド名を「蟲ふるう夜に」に変え、新たなスタートを切る。2012年よりベーシストとして春輝(ex. THE冠)が加入。同年8月にリリースした「蟲の音」収録曲「犬」が話題に。2013年7月にニューアルバム「蟲の声」をレンタル&配信で発表し、2014年6月にはミニアルバム「わたしが愛すべきわたしへ」をリリース。2014年末に慎乃介がフィッシャー病症候群のため緊急入院するも約3カ月後に快復し、2015年4月にはミニアルバム「スターシーカー」を発表。6月4日(蟲の日)には約2年ぶりとなるワンマンライブを東京・渋谷CLUB QUATTROにて開催する。