音楽ナタリー PowerPush - 蟲ふるう夜に

病乗り越えた先に4人が見たもの

蟲ふるう夜にの結成7周年を記念し、2014年12月4日に行われた「MUSHIFEST 2014」。しかしその前日、慎乃介(G)がフィッシャー症候群に羅患し、当面はライブへの参加ができないことが発表された(参照:蟲ふるう夜に慎乃介、フィッシャー症候群のためライブ出演中止)。慎乃介は入院して治療に専念し、蟲ふるう夜にはサポートメンバーを迎えて活動を続けた。

それから約4カ月。復帰した慎乃介も参加したミニアルバム「スターシーカー」が4月1日に発売される。今までに経験したことのない困難を乗り越えて制作された今作には、どんな思いが込められているのか。今回は4名全員そろってインタビューを行い、この数カ月を振り返りながら新作について語ってもらった。

取材・文 / 田島太陽 撮影 / 上山陽介

慎ちゃんの居場所を作っておきたい

──慎乃介さん、元気ですか?

慎乃介(G) 元気です。すっかり。

──フィッシャー症候群とは、どういった症状だったんですか?

慎乃介(G)

慎乃介 まず熱が39度くらい出たんですよ。うわあっと思って病院に行ったら、「熱ですね」と。それはわかってるよと思ったんだけど、それ以上は何も言われずに薬だけもらって。それで治ったと思ったら、物が2つに見えたり、手足がしびれてきたりして。そこからめまいと痺れがひどくて、まっすぐ歩けなくなっちゃって。それで(2014年)11月26日のライブはフラフラの状態で出たんですけど、その2日後に入院しました。バンドの結成日でしたね。

(Vo) そうだっけ? 11月28日?

慎乃介 そうそう。

 春ちゃん(春輝)の誕生日でもあった。

春輝(B) 全然祝えなくなっちゃったよね。

郁己(Dr) 入院する前はふざけた感じで「なんかフラフラするから練習遅れるー」とか言ってたんですよ。

慎乃介 いや、ふざけてないとヤバいくらいフラフラだったんですよ。

郁己 全然気付かなかった。

慎乃介 死にそうだったけどね。

──どれくらい療養を?

慎乃介 2カ月くらいですね。治療は5日間点滴をしただけで、あとはずっとリハビリ。それでだんだんよくなったんですけど、目が快復しないのが一番つらかったですね。病院でヒマつぶしにパソコン見てても、全然焦点が合わなくて。でも入院してても、12月4日のライブは出るつもりでいたんです。気合いで大丈夫でしょって。

 それでギターを持ち歩いてたんだよね。

慎乃介 そしたら、全然弾けなかった。何を押さえてるかもわからないし、力が入らないし。

──12月4日のライブに出ないというのはどの段階で決めたんですか?

郁己(Dr)

郁己 本人はギリギリまで出るつもりだったし、俺らも希望は持ってたんですよ。

慎乃介 でもムリ、とね。最終的に決めたのは前日でしたね。

──そのときの皆さんの心境は?

春輝 「はあ……マジか」って感じ。

郁己 でも、出れないかもしれないとはずっと聞かされてたから、驚きはなかったんですよ。

春輝 イベントを中止にはできないから、やるしかないって。それだけでしたね。

 それで、キーボーディストの方にサポートをお願いしたんですね。ギタリストさんにお願いしてもよかったけど……私は蟲ふるう夜にが初めて組んだバンドだし、違う人がギターで入るのが想像つかなくて。慎ちゃんの居場所を作っておきたいとも思いましたし。

──今回のミニアルバムにも収録されている「それでも鳴らす」は、ライブ前日に歌詞を書き換えたんですよね?

 はい。ギターの人を呼びたくなかったのと同じで、慎ちゃんが戻ってきやすいようにと思って。この曲、もともとは高校の音楽室で昼休みを過ごしていたときのことを思い出して作ったんです。1人で寂しいけど、「それでも鳴らすんだ」っていう決意というか。でも、それを慎ちゃんのための曲に変えて。この日に歌うことに意味があるかなと。

「こんなんじゃ歌えない!」「リズム取れないよ!」

──あの日のライブは慎乃介さんがいないからこその、不思議な一体感があった気がします。

郁己 それはありましたね。お客さんがいつも以上に支えてくれてる感じでした。

慎乃介 俺も動画で観たんですけどヒヤヒヤしなかったんです。落ち着いて観れたっていうか、頼もしい感じ。本当にみんながひとつになってましたよね。

蟲ふるう夜に

春輝 あの日のライブは「とにかく顔を見合わせてやろう」って話をしてたんですよ。それが一体感につながったのかなと思います。

郁己 だから、立ち位置も横1列にしたんだよね。

春輝 そうそう、俺の立ち位置がセンターだったんですよ。ベースだから、今後はもうないでしょうね。あれは独特な緊張感でした。

──退院後は今まで通りの生活を送れてるんですか?

慎乃介 日常生活は問題なく。でもアルバムの制作はずっと家でやってたんですよ。

 リハビリも兼ねてね。

春輝 ひさびさに慎ちゃんのギター聴いたら、ヘッタクソだったもんなあ(笑)。おいおい大丈夫か!って。

郁己 慎ちゃんのギターで蟻が歌うはずだったのに、蟻が止まったんですよ。「こんなんじゃ歌えない!」「リズム取れないよ!」って。

──しばらく触っていないとそんなに変わりますか?

慎乃介 自分でも衝撃的でしたよ。1カ月弾いてなかったから、もう全然ダメでしたね。

ミニアルバム「スターシーカー」 / 2015年4月1日発売 / 1000円 / Project Shirofune / SFCD-10006
ミニアルバム「スターシーカー」
収録曲
  1. 君という光、僕の走る道
  2. スターシーカー
  3. それでも鳴らす
  4. 二十歳の朝
  5. 同じ空を見上げてた featuring GOMESS
ライブ情報
蟲ふるう夜に ワンマンLIVE 2015 “スターシーカー”
2015年6月4日(木)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
蟲ふるう夜に(ムシフルウヨルニ)

蟲ふるう夜に

2007年、蟻(Vo)、慎乃介(G)、郁己(Dr)の3人で前身となるバンドを結成。2008年には1stシングル「赤褐色の海」を発売し、同年のYAMAHAオーディションで準グランプリを受賞する。2008年10月9日にバンド名を「蟲ふるう夜に」に変え、新たなスタートを切る。2012年よりベーシストとして春輝(ex. THE冠)が加入。同年8月にリリースした「蟲の音」収録曲「犬」が話題に。2013年7月にニューアルバム「蟲の声」をレンタル&配信で発表し、2014年6月にはミニアルバム「わたしが愛すべきわたしへ」をリリース。2014年末に慎乃介がフィッシャー病症候群のため緊急入院するも約3カ月後に快復し、2015年4月にはミニアルバム「スターシーカー」を発表。6月4日(蟲の日)には約2年ぶりとなるワンマンライブを東京・渋谷CLUB QUATTROにて開催する。