ナタリー PowerPush - 蟲ふるう夜に
バンドに起きた“愛”という変化
大人になる瞬間なんてない
──「オトナのうた」もまた、今までの世界観では考えられないくらい自由ですね。
慎乃介 歌詞に「一晩寝たら らったったたら」だもんね。
春輝 これもレコーディングの日に書いたんでしょ?
蟻 そうそう、松隈さんもいて、じゃあ録り始めようかってときに「すいません、今から書いてもいいでしょうか?」って。
──すぐ書けたんですか?
蟻 いや、4~5時間はかかりましたね。
慎乃介 その間松隈さんは何してるの?
蟻 YouTube観てた(笑)。
──それまでは書けないくらい追い込まれてた?
蟻 ポップスを作りたかったんだけど、私の中にそんなものはなかったんですよ。書くたびに難しくなっちゃうし、考えすぎちゃって。私たちらしさを出しながら、キャッチーでいろんな人が聴ける曲にしたいと思ったら、何も出てこなくなっちゃった。
郁己 でもわかりやすいし、共感してくれる人も多いんじゃない? そんなに悩んで書いた感じもしないし。
蟻 勢いで書いちゃったのは伝わるでしょ?
春輝 俺はすっごい好きだけどね。スッと入ってきたし、ハッピーになれる気がする。
──では詞は現場で絞り出した?
蟻 そうですね、生クリームの入ってないシワシワのビニール袋を、ギュッギュッ!ってやった感じ。
──それで出てきたのが「らったったたら」だったんですね。
蟻 いや、そこは最初にあったんです。
慎乃介 えっ、そうなの?(笑)
蟻 逆に「らったったたら」があったから書けなかったんですよ。失敗した。
──歌詞にある「気付いたらオトナだ」って、みんな共感することだと思うんです。子供の頃に見ていた大人は完璧な人たちだったのに、実際自分がなってみるとダメなところばっかりで。
蟻 本当にそうなんですよね。
──それで、今皆さんが考える「大人」って、どういう存在ですか?
蟻 きっと、子供から地続きなんですよね。大人になりましたっていう瞬間はなくて。ハタチになったら次の日からすごい生き物になれると思ってたけど、そんなことはまったくない。
春輝 俺は大人になって初めて「大人にはなれないんだな」って気付きましたね。
慎乃介 いいこと言うね!
郁己 俺の中では大人の代表って両親で、やっぱりスーパーマンだったんですよ。でも自分がこの歳になると、親の大変さもわかってくるじゃないですか。スーパーマンなんかじゃなくて、いろいろ大変な思いしてがんばってたんだなって。完璧な人なんていないんだよね。
すべての「あなた」に歌っていく
──では、皆さんにいろいろな変化が訪れて完成したこのミニアルバム、世の中にどう届き、響いてほしいですか?
郁己 俺みたいな人に聴いてほしいっていうのが一番なんです。今までは一部の人に深く刺さる音楽だったかもしれないけど、今回はもっと多くの人に届くはずだから。
──俺みたいな人、というと?
郁己 弱くて、未完成な人ですね。
蟻 うんうん、でもそれが普通なんだよね。ドラムやってるところだけ見るとスーパーマンみたいだけど、朝起きれないことに悩んでるしさ。その普通でいいっていうかね。
郁己 だから、未完成な自分でも愛していいんだってことですよね。
慎乃介 俺は単純に、悩んでる人とか自信がなくて一歩が踏み出せない人とか、そういう人みんなに聴いてほしいし、ちょっとでも後押しできたらうれしいですよね。
春輝 俺は逆に、今は前に向かえている人にも共感できるところがあると思うんですよ。「俺も昔はそうだったな」「もっとがんばろう」って感じてもらえるんじゃないかなって。
蟻 そうですね、本当に遠くまで、応援歌のように響いていったらいいですね。曲の雰囲気は変わったけど、私たちが目指している芯がよりはっきりしたと思うんです。それに、いつだって誰かにとって1対1の音楽だって信じてます。だからこれからも、すべての「あなた」に歌っていく気持ちを、ずっと忘れずに持っていたいです。
わたしが愛すべきわたしへ / 蟲ふるう夜に
ホウセキミライ / 蟲ふるう夜に (MV STATIC)
収録曲
- ホウセキミライ
- わたしが愛すべきわたしへ
- フリーダム!
- 金盞花
- オトナのうた
蟲ふるう夜に(ムシフルウヨルニ)
2007年、蟻(Vo)、慎乃介(G)、郁己(Dr)の3人で前身となるバンドを結成。2008年には1stシングル「赤褐色の海」を発売し、同年のYAMAHAオーディションで準グランプリを受賞する。2008年10月9日にはバンド名を「蟲ふるう夜に」に変え、新たなスタートを切る。2012年よりベーシストとして春輝(ex. THE冠)が加入。同年8月にリリースした「蟲の音」収録曲「犬」が話題に。2013年7月にニューアルバム「蟲の声」をレンタル&配信で発表し、12月には渋谷のライブハウス2会場にて結成6周年を記念したライブイベント「MUSHIFEST 2013」を主催。2014年6月にはミニアルバム「わたしが愛すべきわたしへ」をリリースした。