ナタリー PowerPush - 蟲ふるう夜に

バンドに起きた“愛”という変化

バンドで作った曲で自分が救われる

──理想やプライドを持つところが違ったと。

春輝(B)

 そう。

──その感覚は皆さんありました?

春輝(B) はい、すごいわかります。

郁己 蟻が作った曲で俺たちの考えが変わるんですよ。一緒に成長させられてる感じですね。

 変わっていく時期もポイントも一緒なので、本当に通じ合えるメンバーなんですよ。

郁己 打ち込みの曲が増えてきて、俺も悩んでた時期があったんですよ。どんなに練習したって打ち込みのほうが絶対に正確だし、もう俺いなくていいんじゃないかって。そのときに「わたしが愛すべきわたしへ」ができて、吹っ切れたんです。俺も未完成だけど、自分を愛していいんだなって。バンドで作った曲で自分が救われるっていう、初めての体験でしたね。

春輝 俺もずっと自分のことが嫌いで、顔を本気で殴ったりもしてたんですよ。でもメンバーに「そのままの春ちゃんを出しなよ」って言ってもらえたことが大きくて、変われるのかもしれないって思ってる。一緒に成長できてるなっていうのはすごく感じますね。

──皆さんの持っている感覚がすごく近いんでしょうね。

郁己 そうなのかもしれない。気持ち悪いけどね(笑)。

慎乃介 蟻が変わったのって、特にこの数カ月だと思うんですよ。前はレコーディングでも「はあ……」「まじっすか」みたいな感じだったのに、今はすごく楽しそう。

春輝 「さあ歌うぞ!」みたいなポジティブな感じが伝わるよね。

郁己 生活のリズムも変わったでしょ?

 そうだね。

慎乃介 でもそれはゲームのおかげでしょ?(笑)

 あー。オンラインゲームにハマってまして、朝8時にアラームが鳴るから、夜は寝ないといけないんです。

春輝 地方へライブに行ったときに、俺が運転してる車で移動してて、みんな後ろで爆睡してたんですよ。でも朝の8時2分前くらいにすごい音のアラームが鳴って、ムクッと起きていきなりゲームやり始めて。

──その時間にしかやれないイベントが始まるんですね(笑)。

 そう、そこは絶対やっとかないといけない時間なので。そういうネクラなところは変わってないですね。

今まではものすごく考えて作り込んでいたから

──「フリーダム!」の詞についてですけど、これって蟻さんの素の言葉ですよね。

 はい、全然飾り気がないですよね。でも詞は日常的に書いているけど、何も思わない日もあるし、それが1週間続くこともあるんですよ。何もなくなって、ポカーンとしちゃって、「ああ、どうしようもないな!」って書き殴ってみんなに送りつけたんです。

慎乃介(G)

慎乃介 でも松隈さんは「めっちゃおもろいやーん」「アルバム入れちゃえばええやーん」って感じだったらしいよ(笑)。

 なぜかみんな「いいね!」って言って。それで収録することになりました。

──去年までなら作れなかった曲ですよね。

 そうですね、今まではものすごく考えて作り込んでいたから、自由になったなあって思います。

──続く「金盞花」は別れの歌です。キンセンカの花言葉がそのまま「別れの悲しみ」なんですが、それは前から知ってたんですか?

 いや、切ない花言葉を探して見つけたって感じですね。花はなんでもよくて、別れを描きたかったのが始まりです。

──花言葉を探すってことがまず、とてもガーリーな行為じゃないですか。前髪で顔を隠してた子とは思えないような。

 確かにそうですね!(笑) でも、好きなバンドが花の名前の曲を出したら、その花のことも調べたりするじゃないですか。それで風景が浮かぶこともあるだろうから、手を抜かずにちゃんと調べようと。あとは恋愛の加害者についても書きたくて。

──つまり、別れを切り出すほうの視点。

 はい。想いが届かなくてつらいっていう曲はたくさんあるじゃないですか。でも、加害者も苦しいと思うんですよ。きっと別れの言葉だって、相手のことをすごく考えて選んだものだろうし。最後だから相手が好きな色の便せんに手紙を書くけど、きっと心は冷静に「こんなときまでいい人気取りだな」とか「俺ってズルいな」とか思って落ち込んだりするんだろうなって。いくん(郁己)は思い当たるでしょ?

郁己 まあね……そうね(笑)。胸が痛くなる歌詞ですね。

 これはいくんが初めて作った曲なので、彼がつらくなる詞にしたんですよ(笑)。

ミニアルバム「わたしが愛すべきわたしへ」/ 2014年6月4日発売 / 1000円 / DQC-1280 / Project Shirofune
収録曲
  1. ホウセキミライ
  2. わたしが愛すべきわたしへ
  3. フリーダム!
  4. 金盞花
  5. オトナのうた
蟲ふるう夜に(ムシフルウヨルニ)
蟲ふるう夜に

2007年、蟻(Vo)、慎乃介(G)、郁己(Dr)の3人で前身となるバンドを結成。2008年には1stシングル「赤褐色の海」を発売し、同年のYAMAHAオーディションで準グランプリを受賞する。2008年10月9日にはバンド名を「蟲ふるう夜に」に変え、新たなスタートを切る。2012年よりベーシストとして春輝(ex. THE冠)が加入。同年8月にリリースした「蟲の音」収録曲「犬」が話題に。2013年7月にニューアルバム「蟲の声」をレンタル&配信で発表し、12月には渋谷のライブハウス2会場にて結成6周年を記念したライブイベント「MUSHIFEST 2013」を主催。2014年6月にはミニアルバム「わたしが愛すべきわたしへ」をリリースした。