ナタリー PowerPush - 蟲ふるう夜に
暗闇の中の光を歌うバンド
バンドを組むなら細い人とって決めてた
──専門学校でバンドを組もうと思って、なぜ今のメンバーを選ばれたんですか?
いっくんと慎乃介も闇を抱えてて、普通の人じゃないような気がしたからかな。気が合うと思ったんです。あっ、あとバンドを組むなら細い人とって決めてたんですよ。
──どうして?
なんでだろう? 太ってる人はだらしない、みたいなイメージがありまして。
──そんな理由ですか(笑)。
まあ、今はそういう偏見もないですけど(笑)。当時、いっくんは8ビートがようやく叩けるくらいのレベルだったんだけど、まあ細い人だからいいだろうと(笑)。でも彼らと出会って、音楽を始めたことで、ちゃんと毎日いろいろなことを考えたり、感じたりできるようになったんですよ。
──それが蟻さんにとって転機になったんですね。
そうですね。ずっと1人でいいと思ってたけど、メンバーと一緒にいる時間が長くなって、六畳一間に3人で寝るのも楽しいんだなって。
とにかく抜け出したいっていう意思が強かった
──バンドの方向性は、その当時に話し合って決めたんですか?
それが、まったくなかったですね。「方向性が違うから解散」とかよく聞きますけど、うちはそもそも決めてないからケンカもしない(笑)。世界観としては「暗闇の中の光 弱さの中の強さ」を描きたいという共通認識はあったけど、曲はポップでもシリアスでもいいと思ってます。
──そのテーマはどのようにして?
自分はもともと暗闇にいる存在だと思っていたし、苦しいことが多いじゃないですか、生きてると。でもそこから這い上がる、光が射す方向に手を伸ばしていく、何かをつかもうとする、という希望を忘れちゃいけないと思うんです。その感覚が3人に共通していたから、自然とこのコンセプトになりました。
──音楽を通して這い上がっていきたい?
うーん、本当はなんでもよくて、たまたま音楽だったのかもしれない。当時はよくわからなかったけど、とにかく抜け出したいっていう意思が強かったんだと思う。
──昔にいろんなことがあったけど、偶然音楽を始めたことで救われたんですね。
そうですね。音楽と、それを通してわかり合えた人たちのおかげです。
音楽のこと全然知らないし
──卒業後からデビューを目指して活動していたんですよね。
一応そうなんですけど、音楽を仕事にするっていうのがピンとこなかったんですよ。小さい頃からもの作りが大好きで、詩を書いたり絵を描いたり、アクアリウムで遊んだりしていたから、曲も同じ感覚というか。そもそも音楽のこと全然知らないし。
──あまり聴かないんですか?
はい、「好きな曲は?」って聞かれても、本当に何も出てこないくらい。整備士を目指しているときに気付いたのは、私は車が好きだけど、自分で触るのは好きじゃないってことだったんです。それと同じで、好きなことと自分でやることは違くてもいいと思います。
──じゃあ音楽を聴くことではなく、作ることが好き?
そう、作るのは大好き。自分の曲ならいっぱい聴きますからね(笑)。生きがいを感じられるのが、音楽作りなんです。
──詞を書いたりレコーディングをしたり、いろいろな段階がありますけど、一番生きがいを感じる瞬間というと?
やっぱりライブなのかな。どうなるかわからないワクワク感も楽しいし、自分から生まれた歌詞をみんなの前で歌って、聴いてくれる人が涙してくれたり、喜んでくれる瞬間を見ると、やっててよかったなって思いますね。
──では音楽以外の表現では何が好きですか?
やっぱりイラストですね。保育園の頃から絵本を作っていたくらいで。みんなが喜んでくれることがうれしかったし、小学生くらいまではこれを仕事にすることも考えてたかもしれない。
──今はどんなときに描くんですか?
無心になりたいときや腹が立ってるときかな。癒しに近い感覚ですね。あとは、歌詞を書くときも、情景をまず絵にしてみるんです。そうすると言葉が出てくるし、ぼんやりしたイメージだったものが「こういうことか」ってハッキリしてくることもあります。今は自分たちの衣装も、まず私がイラストでイメージを描かせてもらったりもしてるんです。
- レンタル&配信限定アルバム「蟲の声」 / 2013年7月17日発売 / 1800円 / PROJECT SHIROFUNE / SFCD-10004
- レンタル&配信限定アルバム「蟲の声」
収録曲
~序章~
- 蟲の声
~白の少年編~
- 白の出会い
- ふたつの旅立ち
- オオカミの森
- 変わる景色
~黒の少年編~
- 幻水の都
- 黒の出会い
- 一緒に逃げよう
- 戦争
~灰の都編~
- 灰の都
- 守るべきもの
- 別離
蟲ふるう夜に(むしふるうよるに)
2007年、蟻(Vo)、慎乃介(G)、郁己(Dr)の3人で前身となるバンドを結成。2008年には1stシングル「赤褐色の海」を発売し、同年のYAMAHAオーディションで準グランプリを受賞する。2008年10月9日にはバンド名を「蟲ふるう夜に」に変え、新たなスタートを切る。2009年に1stミニアルバム「蟲の黙示」を発売。その後、精力的にライブを重ね、2010年12月には1stフルアルバム「僕たちは今、命の上を歩いている」を発売。2012年よりベーシストとして春輝(ex. THE冠、SECOND EFFORT)が加入し、8月にアルバム「蟲の音」をリリースした。「蟲の音」がiTunes Storeロックアルバムチャートにてトップ30にランクインするなど期待の高まる中、2013年7月にニューアルバム「蟲の声」をレンタル&配信で発表した。