片寄涼太、入野自由の曲を大胆アレンジ

──「CANVAS」の取材のときに「新しいことに挑戦できたり、まだ自分が変われると思えているうちは音楽を続けられる。そういう気持ちがなくなったときは辞めどきなのかもしれない」とおっしゃっていましたが、そのうえで「Last Song」を聴くと、その気持ちがより強くなってる気がしました。

「CANVAS」のときは一番ひどい状態から抜け出せていたので、そういうことが言えたんだと思います。一時期は本当にどうしていいかわからなくて、自分がちゃんと息をするために何をするべきかということばかり考えてました。

──新しいことへの挑戦という点でいうと、ベストにはGENERATIONS from EXILE TRIBEの片寄涼太さんに提供した「Possible」と入野自由さんに提供した「NOT SPECIAL」のセルフカバーも収められています。2曲ともかなり大胆なアレンジをしてますよね。

原曲のイメージを裏切るようなセルフカバーにしたいと思ったんです。「Possible」は原曲と同じく☆Taku Takahashiさんに「全然違うアレンジでお願いします」とご相談しました。「NOT SPECIAL」は歌詞がすごく好きで、自分のライブでも歌ったことがあるんですが、もっと歌声が際立つピアノ1本のアレンジにしました。

──「Possible」はBPMの高い、アッパーなダンスチューンになってますね。

そうですね。Takahashiさんに「BPMを上げてください」とお願いして。世界的に流行っていた2ステップの要素を入れつつ、もっと先のトレンドも意識しました。その結果、軽すぎない2ステップのアプローチになりました。リファレンスをそのままやるのではなく、それを踏まえたうえで新しい曲にできたと思います。

──「NOT SPECIAL」はここまでピアノバラードに振り切るんだ、という驚きがありました。

自由さんは舞台をやられていることもあって、歌のパワーが前面に出ているイメージがあったので、原曲を歌っていただく際はちょっとポエトリーな歌い方をお願いしたんです。声優さんということもあって声質が素晴らしかったので、口にしてほしい言葉をとにかく詰め込みました。ちゃんとスイートな歌詞を歌ってほしかった。ただ、サウンドはちょっとビートの効いた現代の音楽を感じさせるようなものにしました。今回は、ピアノの曲にして歌詞にさらに寄り添って、より胸がキュンとなるようにしたつもりです。

いいと思っているものが間違っていても

──ベストアルバム発売に伴うツアーを前に、どんなことを考えていますか？

もっと自分の欲求に忠実でいたいなと思います。昔はバンドのアレンジにも全然意見できずに、とにかく吸収することに必死だったんですが、ツアーに向けてバンドメンバーとすごく話し合っていて、積極的に意見を言うようになりました。少しずつ自分のできることが広がっているなって感じます。

──向井さん自身のバンドアレンジの知識が増えたというところもあるんでしょうか？

それもありますし、結局先頭に立っているのは自分なので、100%自分がいいと思って「“これがやりたい”と思うものを貫きたい」「妥協したくない」という気持ちが強くなってきたことが大きいと思います。もしかしたら自分がいいと思っているものは間違っているかもしれないけど、とりあえずそれでやってみようという。

──もともと向井さんはビジュアルやアートワークも含めてトータルプロデュースされている印象があるのですが。

もちろん自分自身が考えてやってきたことではあるんですが、多少はバランスを取っていたと思うんです。例えば、活動が長くなっていくとどうしてもルーティン化しちゃうことがあって。でもそれはゼロイチで新しいものを生み出すクリエイティブにおいてよくないことだと思ったし、作品に対して意味のないことはやるべきじゃないと思うようになりました。だから今は以前までやっていたことでも、その都度しっかりやる意味があるかどうかをスタッフさんとすり合わせています。さっきのバンドメンバーとの話もそうですが、スタッフの方たちとも深い付き合いをしていきたいので、しっかりディスカッションするようになりましたね。それが結果的にいい作品作りにつがると思うんです。

──しっかりとコミュニケーションを取ることはすごく大事ですよね。

そうですね。話し合うことで納得することもすごくありますし、「じゃあ、やりましょう」と話が前に進むこともあります。「小さなことでも話し合うことは無駄じゃないな」とすごく感じます。今回は作品全体の構成、ツアー、ツアー後のことまで全部をつなげて1から考えて、1つひとつがバラバラにならないように露出の仕方や公開する素材についてもすごく精査しました。今までは直接関わってない部分で心残りなことが多くあって。キャリアを重ねていくうちに、あとから「もうちょっとここをこだわればよかった」と悔しさを感じることもあったんです。「自分だったらもうちょっとこういうふうにできた」って。そういう経験を経て、自分の作品に関するすべてのことを自分の作品として捉えるようになりました。

──ティザー1つとっても、SNSの投稿1つとっても重要な時代になってきていますよね。

本当にそうだと思います。そうじゃないとブレちゃうんですよね。感覚の問題って共有するのがすごく難しいし、共通言語がない人もいるので、そういうところをチームですり合わせるのにとても時間がかかりました。「自分たちは何を目指していくのか」「じゃあどういうものを出していくべきなのか」「出し方のプランニングはどうするのか」みたいなところから始まって、「だったらこの素材は出すべきじゃないよね」という話をしたり。今まで詰めきれてなかったところまでしっかりと意識してやってます。ディスカッションすることによって、自分からは生まれないアイデアや、今まで知らなかったその人のよさが出てきたりして、すごく勉強になります。そのうえで、「じゃあ自分だったらどうしよう？」という新しい考えが生まれてくることもある。

──今日のお話を聞いて、向井さんの今後がすごく楽しみになりました。

ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。