「MUCCが3度目のメジャーデビュー。徳間ジャパンコミュニケーションズと契約発表」。今年4月1日に各メディアで報じられたそのニュースに、多くのファンが一瞬目を疑ったはずだ。
結成27年目、ベテラン中のベテランであるヴィジュアル系バンドMUCC。過去に2度メジャーレーベルと契約していたことはあったが、近年は自らが主催するレーベル・朱を拠点に活動を展開している。また年がら年中と言っていいほどライブを開催し、ツアーごとにコンセプチュアルな楽曲を発表するなど、その勢いは衰えることがない。
自分たちの思うままに活動を続ける彼らが、なぜ、今、このタイミングでメジャーレーベルとの契約を選んだのか。また再々メジャーデビュー作として、90年代の匂いとサウンドをふんだんに盛り込んだシングル「愛の唄」を世に放つ意図とは? その理由をメンバーに聞いた。
取材・文 / 森朋之
楽しく制御してもらえたら
──MUCCは2024年4月1日に3度目のメジャーデビューを発表し、大きな話題を集めました。このタイミングでメジャーレーベルと改めてタッグを組んだのはどうしてなんですか?
ミヤ(G) MUCCの活動をさらに広げていくことを考えて、一緒に音楽を作っていくチームの幅も広がるといいなと思ったのが一番の理由ですね。セルフプロデュースの期間が長かったし、一昨年から去年にかけて行った25周年の活動の中で自分たちのことを見つめ直すことができた。「MUCCと一緒にやっていきたい」という考えを持ってくれる人たちがいるならば、いろいろとアイデアを出し合って活動していけたらいいなと。
逹瑯(Vo) 以前からマネージャーとかと雑談してるときに「環境を変えるって意味でも、もう1回メジャーっていうのは全然ありだね」という話はちょくちょく出てたんですよ。いいタイミングで「一緒にやりましょう」とタッグを組んでくれるパートナーが見つかったし、今のところはすごくハッピーに進んでますね。
──発表時の逹瑯さんのコメントに「こんなめんどくさそうなバンドを受け入れてもらえるなんて!」という言葉があって、ファンの皆さんにめちゃくちゃウケてましたね(参照:MUCCが3度目のメジャーデビュー「こんなめんどくさそうなバンドを受け入れてもらえるなんて」)。
逹瑯 ありがとうございます(笑)。活動の仕方もそうですけど、俺らは思いつきで物事を進めてしまうことがあるので、一緒に仕事をするのは大変だろうなと。決まった枠組みの中で動かそうとしてもはみ出しちゃうことが多いバンドなので、そこらへんは楽しく制御してもらえたらなと思ってます。
YUKKE(B) ここ数年は自分たち主導で制作をしてましたからね。会場限定のシングルなどはコンスタントに出していたんですけど、メジャー流通というか、たくさんの人に手に取ってもらえる形でのリリースはけっこうひさしぶりな気がして。いろんな人が関わってくれて、ヴィジュアル系以外のロックシーンやお茶の間にもMUCCの音楽が届くチャンスが増えるだろうなという期待もあります。
MUCCが90年代の音楽を掘り起こしてみたら?
──ではニューシングル「愛の唄」について聞かせてください。まさにジャンルを超越したインパクトがある楽曲ですが、メジャー再デビューの一発目として、どんなイメージで制作されたのでしょうか?
ミヤ 25周年の活動中に、過去のアルバムの再現ライブなどを通して昔の作品と向き合う時間があったんです。その中で次にやってみたい新しいことも考えていたんですが、自分たちのバックボーンというか、思春期に聴いていた90年代の音楽を掘り起こしてみたら面白い音楽ができるんじゃねえか?という。
──なるほど。「愛の唄」には、Nirvanaの「Smells Like Teen Spirit」のフレーズが引用されていますね。
ミヤ あれは完全に遊びです(笑)。90年代の音楽って、自分たちがバンドを始めた頃はリアルタイムだったし、“近い感覚”があったので実はあまり取り入れてなかったんですよ。でも、それなりに経験を重ねてきたことで当時の音楽が「どういう影響のもとに作られた音楽なのか」ということも解析できるようになって。それを踏まえて作ったら面白くなるんじゃないかという思いもありましたね。
逹瑯 「愛の唄」はデモの段階から独特の空気感や湿度があって。言葉が乗っていない状態でも独特の色や匂いを感じたし、メジャーと契約して、一発目のシングルでこのクセの強い曲を出せばファンがビックリするだろうなと思いましたね。同時にMUCCとしてもしっくりくるだろうと。
YUKKE 今回のリリースに向けて自分も曲を作ったんですけど、ミヤが持ってきた「愛の唄」のデモを聴いたときに「こっちだな」と思いました。MUCCらしいダークな雰囲気もあるけど、ギターのフレーズやコーラスはすごくキャッチーで。この曲が街中やいろんな場所で響いている光景は面白いだろうなと。
──確かに。逹瑯さん、YUKKEさんも90年代の音楽はご自身のルーツになっていますか?
逹瑯 そうですね。90年代は10代だったんですけど、当時は新しい音楽に敏感だったし、引っ張り回されてました。
YUKKE 僕の場合、90年代はちょうど本格的に音楽を聴き始めた頃なんですよ。テレビの音楽番組で流れてるJ-POPを聴くようになって、90年代後半くらいになるとベースを弾き始めて、ヴィジュアル系と呼ばれる音楽に興味を持って。「愛の唄」はその時期の音楽を思い出しながらレコーディングしました。
「お父さんとお母さん、何を聴いてるの?」
──「愛の唄」の作詞は逹瑯さんです。
逹瑯 ひさしぶりにメジャーレーベルと契約して、「次はどんな曲が来るんだろう?」と注目されているところに「愛の唄」というタイトルの曲が来たらファンがビックリするんじゃないかなと思って。リーダー(ミヤ)の中で、ウチらが高校生の頃に触れたBUCK-TICKのように「重たいサウンドだけどシンガロングできる」みたいなイメージがあったみたいなんですよ。そのことも意識しつつ、遊びをちりばめながら書いていきました。
──曲のタイトルと歌詞の内容のギャップがすごいですよね。
逹瑯 歌ってることはけっこうシンプルなんですけどね。愛情表現というか、「この人のことが好きでしょうがない」みたいなことって、本人たちは大マジだけど周りから見たらアホみたいで「気持ち悪っ」って思うことがあるじゃないですか。そのイメージから始まって、外面の感情を一皮剥いて、筋肉の線が見えてるような2人が愛し合ってるラブソングがいいなと。
YUKKE 「愛の唄」ってタイトルを見ると、ポップでさわやかな曲か壮大なバラードを想像するかもしれないけど、それをすべて裏切る曲になりましたね。歌詞の内容や言葉の使い方にも逹瑯らしさが出てるし、この曲に“メジャー1stシングル”の肩書きが付くのも面白い。
ミヤ 「タイトルを見て中に入ってみたら、すげえ面白い世界が広がっていた」みたいな感じにしたかったし、イメージ通りの曲になった手応えはありますね。「愛の唄」というタイトルだったら、アイドルが歌ってもおかしくないじゃないですか。でもMUCCがやるとこうなるという。ミュージックビデオもいい感じなんですよ。自分が歌詞を書く曲には、字面にはしなくても、その奥に表現したいものが明確にあって。MVに関しては、撮る人の切り取り方によって偏ったものになってもいいと思ってるんですけど、「愛の唄」はそれがバッチリはまった。妖しさ、危うさが表現されていて、すごく満足してます。
──楽曲制作、MVを含めて一連のクリエイションが理想的な形でリンクしたと。
ミヤ そうですね。90年代の初めはヴィジュアル系というものがまだ今ほど確立されていなくて、“謎なもの”という印象が俺の中にはあったんです。世界観はすごく暗いのに、キャッチーなメロディがあったり。歌詞に関しても「こんなことまで表現するの?」という感じで、「よくわからないけど、カッコいい」という空気を感じていたんです。「愛の唄」もそういう曲になればいいなと思っていたし、狙っていたところに行けたなと。
──素晴らしい。「愛の唄」の歌詞には「もうSEXくらいじゃ天国さえイケやしねぇ」というフレーズもありますが、これってテレビとかラジオでオンエアできるんですよね……?
逹瑯 できるんじゃないですか。俺、子供の頃にBUCK-TICKの「SEX FOR YOU」を聴いて、ものすごく衝撃を受けたんですよ。兄ちゃんが聴いてたカセットテープの中に「TABOO」(1989年リリースのBUCK-TICKの4thアルバム)があったんですけど、「こんな曲、聴いちゃいけないんじゃないか」と恥ずかしくなってしまって(笑)。その記憶があったので、「愛の唄」にも直接的なワードや表現を入れたかったんです。最近はお子さんと一緒にライブに来てくれるファンも増えてるので、その子が「お父さんとお母さん、何を聴いてるの?」と思ってくれたらいいなあと(笑)。
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不良のお兄ちゃんが聴いてそうな曲=「Violet」