MUCC結成25周年企画 逹瑯×HYDE対談|表現者2人の“Timeless”な語らい (2/3)

逹瑯の太い声がうらやましい

HYDE アルバムはどれくらい時間をかけて作ったの?

逹瑯 1年半くらいですね。4曲が昔の曲の録り直しで、残り8曲が去年から今年にかけてやった過去アルバムの再現ツアーに合わせて作ったものなんです。再録したのは、再現ツアーで披露したときにいい感じだと思った曲ですね。

逹瑯(撮影:冨田味我)

逹瑯(撮影:冨田味我)

HYDE そうなんだ。僕はこのアルバムの中で特に「サイレン」が好き。いろんな表現方法をしていて。聴きながら、いろんな表現ができるボーカリストはそんなに多くないなと改めて思ったんだよね。例えば、表現を増やすために誰かの真似をしたところで、僕の声は変えられないから結局は僕の歌になるじゃない? だから自分の表現方法を増やすことになると思うんだけどね。

逹瑯 その意味、わかります。うちのリーダーはよく「この曲のイメージで作ったから、ボーカルの歌を聴いておいて」とか言うんです。それで声の出し方を分析して真似をするんですけど、結局、自分の声は変わらないんですよね(笑)。ラルクのときって歌のディレクションは作曲者からあったりしますか?

HYDE あるよ。今でも覚えているのが、大昔にKenちゃんから「The Cureのロバート・スミスみたいに歌ってほしい」と言われて、「それは無理」って思ったこと(笑)。

逹瑯 はははは。Kenさんそういうこと言いそう(笑)。

HYDE さすがに途中でKenちゃんに謝られたけど(笑)。「ごめん、HYDEはHYDEだよね」って。

逹瑯 歌と言えば、HYDEさんって口の中が広くて、口の中と頭蓋骨の響かせ方が抜群にうまいと思うんです。

HYDE そうかな?

逹瑯 声量をがっつり出しているわけじゃないんだけど、小さくは聴こえない。努力で身に付けた技術もあるでしょうけど、口腔内の響かせ方は持って生まれたものだろうし、すごいなって思いながらいつもステージを観てました。

HYDE その分析怖い!(笑) 僕は逹瑯の太い声がうらやましいよ。低音で歌えるボーカリストに憧れてたから。

逹瑯 そうなんですね……自分の声からは逃げられないので付き合っていくしかないですよね。自分しか出せない声もあるからこそ、それを生かそうとしてほかのメンバーが曲を作ってくれることもあるので。どうせ変わらないならうまく使っていくしかない。

HYDE 僕もいろいろ試行錯誤したよ。若い頃は太い声に憧れたりとか、自分にないものを出そうと努力して。でも途中であきらめるよね(笑)。それだと、自分自身の“いい声”じゃないから。

HYDE

HYDE

HYDEでも迷う

逹瑯 この機会に聞きたかったんですが、HYDEさんの歌詞ってめちゃくちゃキャッチーですよね。ここぞというところにぴったりの言葉がハマってるし。どういう感覚で書いてるのかなと思って。

HYDE 歌詞はテキトーですね。

逹瑯 え?(笑) 作詞は早いほうですか?

HYDE どうだろうな……最近は早いんじゃない? 特にソロの場合は日本語詞をあまり書かないし、英語がネイティブの人とのディスカッションがメインになるから。

逹瑯 じゃあ、ラルクで日本語詞のシングルを作るとなったら、作詞に取りかかったらどれぐらいで仕上がりますか?

HYDE 2日くらいかな。

逹瑯 え、早い!

HYDE 1日で書けるんだけどひと晩寝かせて。2日目に冷静に見直して、気になるところを訂正して歌ってみる感じかな。

逹瑯 「この曲、何について書こうかな」みたいな迷いは? 曲の色がすごく濃くて、「この景色しか浮かばんわ」というものに関しては作詞も早いと思いますが、そうじゃない曲はどうですか?

HYDE 迷うことは全然あるよ。

HYDE

HYDE

逹瑯 歌詞を書くうえでのこだわりは何かありますか?

HYDE 僕はシンプルな歌詞が好きだから、サビは全部一緒でいいじゃんくらいの気持ちで。いいことをいっぱい歌ってるアーティストはたくさんいるけど、1番、2番、3番のサビが違うとなると、一緒に歌えないし、朗読みたいになっちゃうから僕はあまり好きじゃなくて。なるべくシンプルにしたいなと普段から思ってて。それでいて深みがある歌詞だといいよね。

自分の歌が完成だと思ってない

逹瑯 HYDEさんは苦手なことないんですか?

HYDE いっぱいあるよ。逹瑯は何が苦手?

逹瑯 ファルセットは得意じゃないし、ちゃんと勉強したことがないからですけど、ミックスボイスがなんなのかいまいちわかってないというか。

逹瑯(撮影:冨田味我)

逹瑯(撮影:冨田味我)

HYDE 僕もミックスボイスはよくわからない。

逹瑯 でも自然とできてますよね?

HYDE ミックスボイスって裏声と地声の中間の声?

逹瑯 そうですね。ファルセットに地声を混ぜるというか。たぶんHYDEさんの高音はミックスだと思います。人のは聴いてわかるんだけど、自分ではできないんです。HYDEさん、シャウト系はどうですか?

HYDE シャウトは今練習中。歌は今でも紆余曲折してるよ。普通の声が出なくなるとか今でもあるよ。常に歌い方は研究してるかな。でもラルクの歌が一番楽かな。迷わずに歌えて。

逹瑯 昔、7DAYSのライブとかやってましたもんね。しかも最終日が一番声が出てる。

HYDE そうだね。極端な話、熱があってもラルクのときは声が出るんだよね。

逹瑯 根本の発声方法がソロとラルクで違うんでしょうね。俺、リハだと極力シャウトをしたくないんだけど、lynch.の葉月(Vo)はサウンドチェックからシャウトしてるんですよ。聞いたらリハでもやっておかないと喉の形を忘れちゃうんですって。

HYDE それはわかる気がする。

逹瑯 俺はビビって温存しているから余計ダメなのかなって……。HYDEさんは常にアップデートというか、いろんなことを試行錯誤してますよね。そういう先輩、周りにあまりいなくないですか?

HYDE それぞれすでに完成されているからじゃない? 僕は今の自分の歌が完成だと思ってないんだよね。ずっと悩んでるし、いつになったら自分の歌は完成するんだろうって考えてる。途中で元に戻ったりもするし、この何十年そういうことの繰り返し。いまだに正解がわからない。

HYDE

HYDE

常に新しい表現をせざるを得ないMUCC

逹瑯 最初はどういうことに悩んでいたんですか?

HYDE 歌そのものというより、練習をするかどうかとか。もともと練習することがカッコ悪いと思ってたの。ロックミュージシャンって練習するの?とか思ってたし、練習したら負けくらいの感じだった(笑)。だから歌番組の出演があろうが、なんだろうがまったく練習しなかったの。新曲の歌詞も覚えないし。そんな感じだから、テレビ局に行ってもボロボロだったんだよ。で、失敗したあとは後悔するんだけど、練習したくないし、しちゃダメだと思ってて(笑)。

逹瑯 それはどのくらいの時期まで?

HYDE 2000年入るぐらいまでかな?

逹瑯 えっ!?

HYDE 練習しないでレコーディングも行ってたし。

逹瑯 じゃあ、「True」(1996年12月リリースのアルバム)とかも?

HYDE してない。

逹瑯 マジで? 練習しないであの歌はすごいですね。

HYDE 練習しないで入るから、レコーディングは長引くし、歌もボロボロだった。

逹瑯 昔、Kenさんに「『True』からHYDEさんが明らかにファルセットを使うようになりましたよね」と話したことがあって。ラルクのシングル曲って、きれいなファルセットがバーンと多用されているイメージなんですよね。だから「HYDEさんがファルセットで歌うことを意識して曲を作ってたんですか?」とKenさんに聞いたら「そうだよ」と言われて。「HYDEはもともとファルセットが得意じゃなかったけど、ガンガンそういう曲を作って渡したら、しっかりレコーディング本番までに歌えるようにしてきて、HYDEはすごいなって思ったんだよね」と話してたんです。だからてっきり「True」あたりから練習していたのかなって。

逹瑯(撮影:冨田味我)

逹瑯(撮影:冨田味我)

HYDE 「winter fall」(1998年リリースのシングル)の出だしの「真白な時は風にさらわれて~」とかは最初仮歌でも歌えなかったから、レコーディングまでに歌えるようにはしたよ。それをKenさんは練習だと思ってたんじゃない?(笑) 2000年くらいからさすがにまずいと思って、レコーディングの3日前には歌詞を仕上げて、歌の練習するようになったら、プロデューサーの岡野(ハジメ)さんが「すごいレコーディングが楽になった!」って言ったの(笑)。

逹瑯 はははは。

HYDE それを聞いて練習しないとダメなんだなと。その頃からテレビ出演の前も練習して歌詞を覚えるようになったし。

逹瑯 思うんですけど、自分でこうしようと決めたタイミングじゃないと変われないですよね。「練習しなよ」と周りの人に言われても、その気がなかったら頑なにしないじゃないですか。

HYDE そうだね。練習の話じゃないけど、逹瑯の表現力はどんどん増してるよね。

逹瑯 MUCCは常に新しい表現をせざるを得ないんですよ。メンバーから自分が全然歌えない曲を持って来られることもあるし。そういうときにウチのリーダーは「感覚的にでもいいから歌えるようにしておいて」とか言うんです。「自分がカッコいいと思う曲ができちゃったんで、歌えるようにしてください」と。ボーカルに限らず、どのパートに関してもそう。二十何年そうやって無理やりもともとないはずのポケットにいろんな物を入れさせられてきた感じなんで、自然といろんな歌い方ができるようになってきた感じですね。