過去アルバムの再現ツアー4本に先輩や後輩との対バンライブの開催、フェスやイベントへの出演、新曲のリリース……2022年から2023年にかけて、結成25周年を怒涛のように駆け抜けたMUCC。彼らのアニバーサリーイヤーを締めくくるライブ「MUCC 25th Anniversary TOUR Grand Final Bring the End to『Timeless』&『WORLD』」が、12月28日に東京・東京国際フォーラム ホールAで行われる。この公演には、MUCCの歴史を語るうえで欠かせないKen(L'Arc-en-Ciel)とSakura(gibkiy gibkiy gibkiy、Rayflower、THE MADCAP LAUGHS、ZIGZO)がゲストで登場。またライブ当日には、再録音源4曲を含むニューアルバム「Timeless」がリリースされる。
直前に迫った集大成的なライブと新作のリリースに向け、音楽ナタリーでは逹瑯(Vo)のリクエストを受けて、事務所の先輩であるHYDE(L'Arc-en-Ciel、VAMPS、THE LAST ROCKSTARS)との対談を企画。KenやSakura同様にMUCCに多大な影響を与えた人物であり、逹瑯がかねてから憧れていることを公言しているHYDE。2人のトークは、初めて会ったときに抱いたお互いの第一印象に始まり、ソロとバンドの制作手法の違い、“残された時間”に対する思いなど多岐にわたった。
取材・文 / 中野明子
「めちゃくちゃいい人」「独特なのが来たなあ」
逹瑯 事務所に入って初めて会ったときのHYDEさんの第一印象は、めちゃくちゃいい人でした。
HYDE それは猫を被ってたんだろうね(笑)。
逹瑯 いや、今もその印象は変わらないですよ。猫被ってるとか、カッコつけてるとか、そういうのがまったく感じられないくらいナチュラルで。本当に素でいい人なんだろうなと思った。だから自然と周りに人が集まってくるんでしょうね。いろんな先輩、それこそロックスターとかレジェンドをたくさん近くで見てきましたが、HYDEさんってカッコ悪いところも隠さないところがすごく魅力的で。ロックスターでありながらもどこか人間らしいというか。そういうところに親しみやすさを感じるんです。
HYDE 僕は逹瑯と初めて会ったとき、「独特なのが来たなあ」と思ったんだよね(笑)。ヴィジュアル系も多様化してるんだなと思ったし、その中でも特にMUCCの世界観は独特だった。
逹瑯 MUCCというバンド自体が変なんですよ(笑)。HYDEさんは常にアンテナを張って、自分の立ち位置を分析しながら新しい場所にどんどん踏み出していってますよね。今は特にミクスチャー界隈に興味があると思うんですが、実際にフェスとかに出たり、そっち系のバンドと絡んでみてどうですか?
HYDE そういうバンドは僕らとは系統は違うけどお客さんを含めて独特なカッコよさがあるよね。VAMPSとして活動していた頃からいろんなものを取り入れようとはしていたんだけど、今考えると視野が狭かったかなって。フェスでの在り方も僕はいまいち理解していなかったから、呼ばれたら出るって感じだったし。2018年以降、ソロに戻ってからはフットワークが軽くなって、いろんなフェスに出させてもらって「こういう世界観もあるんだな」とか「この文化は知らなかった」「これは僕にはできないけど面白いな」とかいろいろ吸収して、自分の表現の裾野を広げてるところかな。
逹瑯 自分が憧れて目指してきたアーティストって、化粧をしているバンドとか、独自の世界観がしっかり構築されている人だったんですよね。もともと作り込まれているものがカッコいいと思ってたんです。それがフェス系のアーティストって、そういう価値観をひっぺがして、極端に言うと着飾らず、シンプルに人間力で勝負している人たちが多い。だからHYDEさんがフェスシーンのカッコいい部分を取り入れたらどうなるのか、もともと持っている人間力をどう放出するのか、すごく興味があります。
HYDE 僕はあんまりヴィジュアル系だからとかミクスチャーだからとか区別はしてなくて。海外のフェスとかアーティストで考えると、そもそもボーダーがない気がするんだよね。普通のロックバンドでも化粧したりするし、もちろんしない人もいる。僕も場所によってはメイクをするし、しないときもある。とにかく自分が楽しいと思うことを自由にやって、ジャンルやシーンのボーダーを壊したい。「こうじゃないといけない」とかそういう固い考えって邪魔だと思ってて。いいところは全部吸収して、自分なりに昇華していったほうが面白いしエンタテインメントとして見たとき、もっとジャンルやシーンがぐちゃぐちゃになったほうがいいと思うんだよね。
逹瑯 ちなみにフェスと言ってもいろいろあって、商業的なものとアーティスト主催のものとそれぞれ全然毛色が違うわけで。国内で俺の知っている中で一番濃いのは山嵐が関わってる「男鹿フェス(男鹿ナマハゲロックフェスティバル)」なんですけど、HYDEさん今年出たじゃないですか。どうでした? 打ち上げを含めて。
HYDE 「男鹿フェス」の中で僕は異物だろうから、みんなどんな受け入れ方をするんだろうと興味深かったんだよね。しかも僕の出演は1日目だったんだけど、どうせなら2日目の打ち上げがヤバイって聞いてたから2日目も遊びに行きたくなって。でも現場で気まずくなったらどうしよう、PABLO(Pay money To my Pain、POLPO、RED ORCAなどで活躍するギタリスト。HYDEのライブやレコーディングに参加している)が2日目は帰っちゃうからどうしよう?と思ってて(笑)。彼が僕をこの場所に連れてきたようなもんだからさ。それで、バンドメンバーもやってくれてる山嵐の武史くんに「2日目もいたら僕にかまってくれる?」と聞いたら、「もちろん」って言うから行ってみるかと。ちょっとドキドキしながら行ったら、去年やった対バンツアー(「HYDE LIVE 2022 RUMBLE FISH」)とかほかのフェスとかで顔を合わせている人も多くて、向こうからしたら「とうとうHYDEが来たな」という感じだったみたいで、すごく優しく受け入れてくれてめちゃくちゃ楽しまさせてもらいました。ステージに立ってるときも、いろんな人からのリスペクトが感じられたし。こういうバンドの人たちって絶対ラルクとか好きじゃないだろって思ってたんだけど、案外「初めて買ったCDはラルクです」とか言ってくれる人が多くて。ラルクでやってきたことって間違ってないんだなって思った。
逹瑯 絶対に聴いてますね。
HYDE だからなのか、打ち上げは「HONEY大会」だった(笑)。延々といろんな人が順番に「HONEY」を演奏してくれて。僕が今カッコいいと思ってる子たちもラルクを聴いてくれてたんだなって実感したよね。
逹瑯が「MUCCすごいかも」と感じた瞬間
逹瑯 「HONEY」は俺も好きで、HYDEさんと一緒にセッションもしたし(参照:kyo復活にHYDE&逹瑯も歓喜!3年ぶり「JACK IN THE BOX」で稀代のコラボセッション続出)、普通にコピーしてきたんですけど、基本的にAメロとサビしかない曲ですよね? でも、シンプルだと感じたことは一度もなくて。いい曲だな、カッコいいなとしか思ってなかったんですけど、改めて曲を聴いてびっくりしたんです。
HYDE そうか。自分では気にしてなかったんだけど(笑)。
逹瑯 曲作りってラルクとソロでどういうふうに変えてるんですか?
HYDE ラルクの場合は、自分がラルクをプロデュースする気持ちで曲を書く。今、4人でこういう曲をやったらカッコいいんじゃないか、みたいな。
逹瑯 ソロのときは?
HYDE プロデューサー視点で見て、HYDEがどんなライブをやったらカッコいいか。カッコいいライブをするためにどういう曲が必要か、そういう観点で考えることが多いかな。こういう要素が必要だけど、僕は作れないから誰かにお願いしようという感じで人に依頼もするし僕1人な分、逆に手伝ってくれる全員がバンドメンバーみたいな感覚で自由にやってます。
逹瑯 ソロの場合はHYDEさんが中心にいれば、どういう手法を取っていてもいいという自由度があるんですね。
HYDE そうだね。
逹瑯 俺、2年くらい前にソロをやり始めて、改めてMUCCはすごいなと思ったんですよね。
HYDE なんで?
逹瑯 思い出す限り、自分が作った曲も、ほかのメンバーが作った曲も、形になっていく中で「なんか違うんだよな」とモヤモヤしたことが一度もないんですよ。ソロに関していうと、曲を作っていく段階で「なんかここのアレンジが違うんだよな」「自分の引き出しにない音なんだけど、どうしたらいいんだろう?」というのがけっこうあるんです。それに気付いたときに、「MUCCすごいかも」ってなった(笑)。
HYDE よっぽどメンバー同士の歯車が合うんだろうね。でもそれはわかるな。このアルバム(「Timeless」)を聴いていても見事に名曲ぞろいだし。
逹瑯 ありがとうございます。HYDEさんはどうですか? ソロをやってみて感じたラルクのすごさとか。
HYDE やっぱりラルクのメンバーは尊敬しますよ。プレイヤーとしてもそれぞれすごいし、作曲のセンスも素晴らしい。MUCCもそれぞれいろいろ活動してるでしょ? その中でよくこんなアルバム作れるよね。余裕ありすぎじゃない?
逹瑯 1人頭がおかしいワーカホリックがいるんですよ。リーダー(ミヤ)なんですけど。彼がとにかくすごい。
HYDE (笑)。「Timeless」の曲は歌の表現力がすごいね。「逹瑯はこんなにすごいボーカルだっけ?」ってちょっと思った(笑)。
逹瑯 ははは。
HYDE 技術もあるし、迫力もあるし、すごいなと感心しました。
逹瑯 ありがとうございます。
次のページ »
逹瑯の太い声がうらやましい