MUCCが結成25周年を記念して行っている過去アルバムの再現ツアー「Timeless」の第3弾が、6月9日の“MUCCの日”に開幕する。
今回のツアーの軸となるのは、2008年リリースの「志恩」と2009年リリースの「球体」。エレクトロニカやテクノなどのクラブミュージックの側面を打ち出した「ファズ」、ヘヴィメタル色を全開にした「アゲハ」など、新たな音楽性に挑んでいたMUCCの意気込みが感じられる楽曲が収録されている2作だ。
ツアーを前に、音楽ナタリーではYUKKE(B)にインタビュー。一連の再現ツアーを振り返っての手応えを皮切りに、「志恩」および「球体」がリリースされた当時のこと、MUCCの未来について語ってもらった。
取材・文 / 樋口靖幸(音楽と人)
再現ツアーができることは誇り
──まずは第1弾、第2弾とやってきた「Timeless」ツアーの感想をお願いします。
アルバムの再現ツアーができることを誇りに思いますね。25年以上やってきたバンドじゃないとやれないツアーだと思うので。あと、今までも昔の曲は常にツアーでやってきたけど、ここまでガッツリとアルバム単位で振り返る機会ってないじゃないですか。その分、当時より楽しめて演奏してる自分がいるというか。
──昔の自分と比べて?
そう。この曲ってこう弾いたほうがいいなとか、こういうアプローチが正解だったんだなって、気付くことが多い。当時はうまく表現できなかったところも、今なら楽器を含めていろんなアプローチで表現できるし、曲自体の魅力をちゃんと引き出せるようになった自分がいて。25年以上やってきてようやくかよって感じだけど(笑)。
──先日野音で迎えたツアーファイナルを観ましたが、メンバー全員がすごく楽しそうで。今まで観てきたMUCCの野音で一番ハッピーな空間だったと思います(参照:MUCC、時を超え野音に響かせた艶美で芳醇な「鵬翼・極彩」の世界)。
そうですね。野音は4、5回やってるけど、たぶん一番楽しくやれたと思います。それこそ「鵬翼」とか「極彩」をリリースした頃って、まだまだ演奏するのに必死で、ライブを楽しむ余裕がなかったし。これができねえ、あれもできねえ、大変だ、リーダーに怒られる……みたいな焦りがいつもあったんですよ。でもこないだの野音はちゃんと曲と向き合えてたし、今日のライブを楽しもうとする余裕もあって。
──ツアーの手応えを感じている様子が印象的でした。ちなみにツアー第1弾、「是空」「朽木の灯」の再現ツアーも楽しめました? メンバーにとってはつらい思い出のあったアルバムだったと思いますが。
確かにあの頃の曲と向き合えば、今でも当時のことは思い出すし、重たさとかしんどさとかいろいろ抱えていた気持ちは今でも忘れないです。でも時間も経ってるし、バンドが新体制になったこともあって、俺は演奏に集中できていたと思います。むしろ個人的にはツアーの第2弾のほうがいろんなことを思い出したかな。アルバムのレコーディングで苦労したこととか。
──そうなんですか?
「鵬翼」から岡野ハジメさんというプロデューサーが入ったことで、それまで自分の手癖で弾くことが多かったフレーズに、新しい要素を取り入れることが多くなったんですよ。いろんなアプローチがあることを教えてもらったんです。でもそれを自分のものにするのが大変で、すごく苦労してた。そのことをライブ中に思い出して。でもあの頃と比べてもだいぶ弾けるようになったことにも気付くことができた。あ、ちょっとは成長できたのかなって。2、3mmぐらいだけど。
──自己評価が低いですね(笑)。
じゃあ2、3cmとか?(笑) でもここ最近、ライブ中の余裕はずいぶん出てきた気がする。今までずーっといっぱいいっぱいだったけど、やっぱり3人体制になったのが大きいのかなって思う。サポートドラムのAllenにとっては初めて叩く曲ばっかりのツアーだから、すごく大変そうだけど。
──イチから曲を覚えていくわけですからね。
そんなAllenの前で俺も「大変だ大変だ」ってテンパるわけにもいかず(笑)。そこはやっぱり3人になったことも関係してる気がします。
──特に再現ツアーを始めてからのMUCCは、メンバー1人ひとりの存在感が際立っているだけじゃなくて、3人の関係がイーブンになってるような。
ホントですか?
──バンドってボーカルとギターに目が行きがちだけど、今のMUCCは3人それぞれから目が離せないバンドになっているなと。
それは……今まで4人で背負っていたものを3人で背負うことになったからなのかな?
──だと思います。あと、前回のツアーでお客さんの声出しが解禁されましたが、ひさしぶりに声を聞いてどうでしたか?
最初にお客さんの声を聞いたのはCLUB CITTA'のライブだったんですけど、あまりにもひさしぶりだったんで心がゾワゾワしちゃったんです(笑)。たぶんミュージシャンなら誰でも思うことだけど、ライブって本来はお客さんの声があって成立するものなんだなというのを実感したのと、やっと「WORLD」をお客さんと一緒に歌えたことがうれしくて。もともとライブでシンガロングするのをイメージして作った曲なんで、やっとそれが実現したなと。
メンバー3人で初めてクラブに行った
──6月9日にスタートする「Timeless」第3弾は、「志恩」と「球体」の再現ツアーです。2008年から2009年にリリースされた作品ですが、当時の記憶で鮮明に残っている出来事は?
やっぱり海外ツアーかな。2カ月近くアメリカを回りました。
──2008年の「Taste Of Chaos」ツアーですね。2006年のヨーロッパ公演以降、この頃のMUCCは海外遠征を精力的に行うようになりました。
時間軸的には海外に行くようになった頃に「志恩」ができて、さらにアメリカのツアーで経験したことが「球体」になった感じですね。
──「志恩」で印象的だったのは、シングルとして先行リリースされた「ファズ」が四つ打ちのダンスチューンだったことで。
リーダー(ミヤ)がクラブでDJをやるようになったのもその頃かな? もしかしたら「カルマ」のときだったかもしれないけど、MUCCがそういうテイストも曲に取り入れるようになって。で、「空気を体感してほしい」ってリーダーに言われて、メンバー3人で初めてクラブに行ったことがあったんですよ(笑)。
──初耳です(笑)。
何かイベントをやってそうなクラブを必死に探して(笑)。そういう過程を経てレコーディングしたりしてました。
──音楽性の幅が広がっていったのと同時に、間口を広げようとしていた時期でもあったと思います。
そうですね。バンドが外の世界を意識し始めた時期だったんですよ。海外でやるのもそうだし、プロデューサーの意見を取り入れるのも、もっといろんな人に聴いてもらえるような作品作りもしたかったからで。そこは当時のレコード会社の人たちの意見も聞きながらやってましたね。
──「球体」はまさにそういうアルバムでした。
海外ツアーを経て日本に帰ってくると、今まで自分たちが無自覚でやってたことにいろいろ気付かされるんですよ。例えばMUCCのメロディがすごく独特であることとか。日本だけにいると気付かないんですよ。MUCCのメロディは日本人ならではのものだってことに、海外のバンドと一緒にやることで気付いたり。そういう自分たちの強みをもっと出していったのが「球体」ですね。
──あと、このアルバムからミヤさんがギターソロをたくさん弾くようになったのも……。
アメリカツアーの影響もあると思いますよ。その頃からですね、俺とリーダーが前に出ていって背中合わせでパフォーマンスするようになったのは。俺自身、アメリカツアーですごく度胸がついたというか。一緒にアメリカを回ってたAtreyuとかStory of the Yearとセッションをしたり、ライブの打ち上げで彼らとウェーイ!みたいなノリで盛り上がったりする感じって、それまでの自分にはあり得なかった。
──アメリカのバンドのノリに刺激を受けたと。
思いっ切り受けましたね。アメリカナイズというか……男らしさ?(笑)みたいな部分が自分の中から引き出された感じがあった。それまでのYUKKEのキャラって、もっとナヨナヨしてたと思うんですよ。前髪パッツンでピヨピヨーみたいな(笑)。
──そうですね(笑)。
そんなYUKKEのパフォーマンスがだんだん男らしくなっていった時代かな。だから……今でも海外ツアーやりたいと思いますね。
──当時はかなりしんどそうだったけど、今は大丈夫?
もちろんバス移動は過酷だし、しかもメンバーとずっと一緒じゃないですか。でも、昔より今のほうが楽しめる気がするんですよ。やっぱりそれは今バンドの空気がいいからで。みんなで楽しくいられるんじゃないかと。あと、今のMUCCのほうが昔より海外でも勝負できると思うんで、ワンマンじゃなくてフェスへの出演とかでもいいかもしれない。
──あえてほかのバンドと対バンしてみたいと。
うん。今でも海外に行けば、絶対何かを持って帰れると思うんですよ。だからこそ今やってみたいな。
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